5・他人の魂、入れたら何見える?
刑事が俺を見据えている。まるで俺が犯人だとでもいうような厳しい目で。
「どうだ、お前さんはやっちゃくれねえか。女の子一人助けるためだ!」
「待って、いきなり彼を動揺させないで。そんな言い方で心が乱れたらできることもできなくなる」
明美姉さんは刑事を脇へ突き飛ばすように退けると、俺を見た。
「いきなりでごめんなさい。こんな言い方をするつもりじゃなかった。本当はもっと機会をみて……。くそ」
「いいです、言ってください」
「嫌ならいやと言って。いい?君には魂に好かれる稀有な才能がある。君ならもしかしたら、死んだ人間の魂を一時的にその体に入れることができるかもしれない。
もちろん危険よ。やったことがないからまだ何がおこるかわからない。でも私は魂を見ることができるから、もし相手が危険だと判断したらとり餅で引き剥がすこともできるわ。
お願い、よく考えて。あの刑事はああいういい方をしたけど、人を助けるために命を危険にさらすことを強制できない。だから君が自分で決めて」
「いいです。やります」
「ちょっと」
明美姉さんは俺がなんの考えもなしに言ったと思っているんだろう。でも違う。俺のようなハンパものが、俺にしかできない方法で人助けができるならむしろありがたいくらいだ。
「おお、やってくれるか。さあ、明美、早く!」
刑事はそうと決まれば急かすように言ってくる。
明美姉さんはとり餅棒をバイクのケースからとりだすと、いつも持ち歩いている保温ケースの餅をつけた。そして真剣な顔でブルーシートの中に入り、俺に遺体の横に立つようにいう。
「よし、まだあいつの魂はここにあるわ。うごかないでね。いくわよ、いい」
明美姉さんは素早く棒を繰り出すと、一撃で捉えたようだった。そしてその棒の先を、俺の体に向かって突き出してくる。
うううっと一瞬背筋が凍るような違和感があって身を震わせる。なんとも言えない気持ち悪さが全身を包む。命令と動きがほんのちょっとずれるような、ゲームでひどいレイテンシーがあるときのワンテンポ遅れた肉体感覚。
こめかみに痛みがはしり、うぐっと呻いて目を閉じたまぶたの裏に、映像が浮かんできた。
これは
階段を駆け上っている。必死になって階段を上って、窓を見つけその隙間からでる。向こうにある非常階段にわたろうとしているようだ。しかしビルの壁面にうまく足が掛からずそのまま。
!!!!!
ものすごいショックが走って体が震える。俺は硬直して白目を向いているようだ。
明美姉さんがとめようとする声と、刑事がもう少しまて、と必死に言っている。
俺は、死んだのか。
俺は運転をしているようだ。運転。運転。いろいろな場所で止まっている。
そしてどこかの部屋。巨大な冷蔵庫だ。
中には、そう。縛り上げた女の子。
ゆっくりと、このまま冷やしてゆくようすを中に設置したカメラで写している。
そして外にでると、頑丈な倉庫の扉を閉める。建物はよく見えないが、扉はものすごく頑丈だ。そして複雑な錠をかける。
また運転。運転。
いろいろな会社の受付で、すんなりと中へ通される。
そのなかで。なにか聞き覚えのあるおとだ。
うう。
頭が。