2・明美姉さんの秘密と俺の過去
俺がどうしてこんな仕事をしているかというと、普通の救急としては無能だからだ。
俺はもともとレスキュー隊に憧れていた。消防士としてほとんどドベで入官した俺は、訓練の最中に自分には才能がないと気づいた。周りに迷惑をかけてばかりで、もしかしたら命を救えないどころか、仲間や救助者の命を危険に晒してしまうかもしれない。
そう思った俺は退職願いを出したのだが、どういうわけか隊長に引き止められ、そうしてここへ配属されたのだ。
明美姉さんが俺のことを消防署で見かけて気に入ったらしい。
その理由は初日に分かった。
「君はいろんな魂に好かれるね」
挨拶もそこそこに明美姉さんが言った。ポカンとした俺の後ろを指差して、ひいふうみと数えるのがどうにも不気味だ。
「あの、何かみえますか?」
「ああ、猫が二十五匹ばかり」
「はあ!?」
「一匹大きいのがいる、三毛猫というのかな、鼻の頭がハートみたいに黒くなったやつ」
「あ。それは昔飼ってたジャンガです」
俺がアンガールズのネタからつけた名前だ。妙に手足が細長く目つきが悪いのでそうつけた。
明美姉さんの見立てによると、どうやら俺は魂を安心させる才能があるらしい。
裏救急では応急処置や現場処理の能力よりも、いかにショック状態の魂を落ち着かせ早く肉体に戻せるか、が重要とのことだ。人によっては近づくだけで弱った魂を殺す人間もいる。
そしてどういうわけかそれは救急やレスキュー、警察などのプロ意識の高い人間に多い。彼らの発する強烈な生命エネルギーは弱った魂にとっては劇薬なのだ。
なので俺みたいなハンパな人間が役に立つ、とそう言われたその時は嬉しくもなんともなかったが、今は俺みたいなハンパものでも人の役に立てるのがうれしい。
「ぷはー」
仕事終わりに明美姉さんと飲みに来た。
救急とはいえ明美姉さんしかできない仕事なので、彼女がオフは時は自然に俺も休みになる。
それでも3日連続仮眠で過ごした連勤明けだ。自分にしかできない仕事なので、彼女は週に一度三十六時間の休みをとるが、平日は3連勤2回を12時間の休みでつなぐという恐ろしいスケジュールで働いている。
ビールを飲んで油揚げをつまむ明美姉さん。
最初は油揚げや揚げ出し豆腐ばかり頼む彼女を疑問に思ったものだ。
「はあ〜〜〜〜あたしの中の小太郎もよろこんでるよ」
とコンコンと満足そうに笑う。
そう、彼女は狐憑きなのだ。どうやら神社の娘らしいが、親とは絶縁して詳しくは語ろうとしない。
ナルトと読んだとき自分のことかと思って涙がでた、と言っていたが。
ともかくそのせいで明美姉さんは油揚げが大好きで、魂を見ることができる。
そうして俺は彼女に誘われて、この不思議な仕事をしているのだ。