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支え合い、支え愛。


「ふぅ、何とかなりましたわね」


「はい、何とかなりましたね」


 生徒会室を後にし、廊下を歩きながら話す進七郎しんしちろう円佳まるか。お互いにその表情には気疲れした様子を見せていた。


千頭せんどう会長、流石と言うべきお方でしたわ。てっきりあのエキセントリックハイテンションブギウギな性格は、進七郎さんが仰っていた”超絶クソ迷惑魔霊(マッド・デーモン)”とやらに取り憑かれていたからなのだと思い込んでいましたが……素であぁいうお方なのですわね」


「えぇ、恐ろしい方ですね。つい感情が高ぶって滅茶苦茶なことを言う時が俺にもありますが、千頭会長は感情というビッグウェーブを見事に乗りこなしていらっしゃいますからね。オリンピックでメンタルサーファー部門があったらぶっちぎりの金メダルでしょうね」


「わたくしもそう思いますわ。その場の勢いに呑まれず、確固たる自分を持って言動に臨んでいらっしゃいますわね。それを目の当たりにしてふと……”偽物”は”本物”には敵わないのかと思ってしまいましたわ」


 弱い声で呟いた円佳に対し、反射的に進七郎は「どういうことでしょうか?」と尋ねる。

 すると普段の威風堂々と凛とした顔ではなく、進七郎にとっては馴染みの深い昔の──”まるちゃん”としての顔となって話し始める。


「わたくしは進七郎さんを守れるように、また”義経院ぎきょういん円佳まるか”として相応しくあれるように、進七郎さんと別れた”あの日”以降は全身全霊で努力して来ましたの。能力、人格、言動、全てにおいて弱くて何も出来なかった自分から生まれ変わる為に。時折、エキセントリックに振る舞ったりとんでもないことを言っていたりするでしょう?」


「正直な気持ちを述べさせて頂きますと、たまにそう思わなくはないです」


「ふふっ、素直でよろしいですわ。ですが、わたくしの心の根本は、結局は気弱で泣いてばかりのわたくしが……”まるちゃん”がいるのですわ。だからその……いざという時、前の千頭会長の時みたいに……。また進七郎さんに危機が迫った時に何も出来ないんじゃないかって……不安なのですわ」


 おもむろに立ち止まり、分かりやすく肩を落とす。千頭に取り憑いた”超絶クソ迷惑魔霊(マッド・デーモン)”によって進七郎が傷ついた時のことを思い出していることもあり、身体が小刻みに震え出してもいた。


「いくら取り繕ったところで、根本は変わらないのかもしれない……わたくしは弱いままなのかもしれない……そんな考えが千頭会長を見て再燃してしまって……わたくしは……私は……!」


「大丈夫だよ、”まるちゃん”」

 

 自己嫌悪の渦に呑まれかけた円佳を、進七郎はその一言だけで救い出す。

 顔を上げた円佳の瞳には涙が浮かんでおり、それを指で優しく拭うと進七郎は続けた。


「これまでたった一人でよく頑張ったね。あんなに気弱で泣いてばかりいたまるちゃんが、10年でこんなに立派に成長してるなんて想像も出来なかった」


「そんな……私は成長なんて……」


「してる、絶対に。まるちゃんが大好きでまるちゃんを一番よく知ってる俺が保証する」


 円佳の自己否定の言葉が出るよりも先に、進七郎は己の想いを伝える。

 その際、自身が誓ったことも思い出していた。円佳を絶対に泣かせることなく、彼女を笑顔にし続けることを。


「まるちゃんはもっと自分を信じてあげても良いと思うんだ。これまで”義経院円佳”になる為にまるちゃんが積み重ねてきた全てを。それでも信じてあげられないのなら……俺が手伝うから。俺が従者として、そしてまるちゃんを好きな男として……傍で支えるから」


 夕焼けに照らされる中、進七郎は円佳を静かに抱き締めた。

 その行動は自らの熱によって起こされ、悪癖とも言える周囲のことなど考慮することなく自然とやってしまったことであった。


「あっ……ごっ、ごめんまるちゃんッ! じゃなくて円佳様ッ‼ 勝手に許可なく抱き締めてしまい申し訳ございませんでしたッ‼」


 冷静さを取り戻した進七郎は急いで従者としての自身に切り替え、土下座しようとした。だが──


「ッッッ……」


 進七郎は廊下に手を着くことさえ出来なかった。

 今度は円佳が抱きついてきたからだ。


「……ありがとう、進七郎君」


「まるちゃん……」


「私、自分一人で頑張らなきゃって、そうじゃないと強くなれないって思ってた。だけど……頼っても良いんだね、進七郎君に」


「……うん。当然だろ。俺はまるちゃんの……恋人なんだから」


「……えへへ、やっぱり進七郎君はかっこいいな。改めて、ありがとうね進七郎君。これからも、どうか不束者ですが宜しくお願いします。それと……これで約束・・は果たしたよ」


 涙が若干混じってはいたが、円佳の声に自己嫌悪の類は一切なかった。

 声、感触、体温、息遣い、鼓動。

 それら全てに温かさと優しさと、照れと緊張を感じながら、進七郎はしばらくそのまま円佳と抱き締め合っていたのだった。






 翌日。

 MGK学園は本来予定になかった異例の全校集会が行われた。

 体育館の壇上に立つのは高等部の理事長でも、生徒会長である千頭でもなく。


「──どうも親愛なるMGK学園の皆様、義経院円佳ですわ」


 高等部としては最近入学したばかりの新入生、だがその知名度において学園生の誰もが知る有名人、義経院円佳であった。


「本来は予定になかった全校集会ですが、今回はわたくしのワガママにより皆様にご足労を敷いたことをまずは謝罪させていただきます。そのうえで、こうしてご協力頂けたことに感謝申し上げます」


 深々と二度頭を下げた円佳に、自然と拍手が送られる。これも円佳の人望の厚さが為せる業であった。

 円佳はふぅと息をつくと再び凛とした顔を見せて。さらに、微笑みを織り交ぜて高らかに宣言した。


「わたくしは今ここに──グレート()マーベラス()スタンダード()部の設立を宣言しますっ!!」


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