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円佳とのファーストインプレッション~借金は2億6千万円、好感度は0ポイント~


「……さて、では話をしましょうか」


(マズい……非常にマズい)


 張り詰めた空気に、正座をしている進七郎は生唾を飲み込んだ。

 何せ進七郎はやらかしてしまったのだ。今日から自分が仕えることになる主人の……よりにもよって着替え中を見てしまったのだから。


武藏むさし進七郎しんしちろうさん?」


 言葉を聞き逃させないよう、わざわざしっかり区切って話す目の前の少女。穏やかな笑みを浮かべているものの、言葉の節々には()()()()()()()ことに対する怒りが籠っている。

 水色に近い白色の髪は腰近くまで伸びており、入学した高校の制服なのか白を基調とした学生服に身を包む彼女は、進七郎にはまさに女神のように見えていた。

 最も今は人間に対して天罰を下さんとしているようで、進七郎は冷や汗をだらだらと流して、今この場に臨んでいたのだった。


「まずは自己紹介からですわね。わたくしは今回あなたを”従者”として買い取った完全無欠のオールパーフェクトお嬢様、義経ぎきょういん円佳まるかですわ」


「は、はい。俺は円佳まるかお嬢様にお仕えすることとなりました武藏むさし進七郎と申します」


「……今、なんと言いましたか?」


「えっ?『俺は円佳まるかお嬢様にお仕えすることとなりました武藏むさし進七郎と申します』と申し上げましたが」


「不敬ですわ‼」


「ッッッ!?」


「このわたくし義経院円佳に仕えるんですのよ? となればそれは生涯における最高の栄誉! 末代まで渡って語り継ぐべき誉れなのですわよ! つ・ま・り! あなたは『お仕えすることになりました』ではなく『お仕えさせて頂く栄誉と幸甚こうじんを噛み締めながら、身命を賭してあなた様をお守りすることを誓います』と言うべきなのですわ!」


「な、なんとッ……!」


「さぁ、今一度高らかに言いなさい!」


「は、はいッ! お仕えさせて頂く栄誉と幸甚こうじんを噛み締めながら、身命を賭してあなた様をお守りすることを誓いますッ‼」


「その意気や良し! ですが最初からそう言っておかなければならないのですわよっ! わたくしに仕えることは至上の喜び、それをしかと胸に刻みつけておきなさいっ!」


(うぐ……しまった。またしても俺は円佳お嬢様の機嫌を損ねてしまった……)


 進七郎は返事をしながらも、心の中で自らの失態を悔やんでいた。

 着替え中を見てしまったこと、そして今も言葉選びや心掛けを誤ったこと。流石に鈍感な進七郎でも気づいていた。自分に対しての円佳の好感度が、限りなく0に近いことを。

 

「では自己紹介も程々に、ここからは契約内容の話でもしましょうか」


「契約内容、ですか?」


「えぇ。あなたは借金苦のせいで自らの父親である進六郎しんろくろうさんに売られてしまった哀れな男子高校生でしたわね?」


「はい。仰る通りです」


「で・す・が! それは違いますわ!」


「ど、どういうことなのですかッ!?」


「良いですか進七郎さん。わたくし達は法治国家である日本の国民ですわ。そんな日本において借金の担保として人身を売買する……そんなことが許されると思ってますの?」


「いいえ! シンプルに考えても違法ですッ!」


「その通り、圧倒的に違法(イッッリィィィガル)なのですわっ! ですので、あなたの立場は従者と言えども表向きはアルバイトなのですわ! 決して外では従者とは名乗らずアルバイトと名乗りなさい! ですが、心にはいつもわたくしの従者であるということは覚えておいてなさい!」


「な、なるほどですっ! しかと承知致しました!」


「良い返事ですわ。では続いて、肝心な借金額についてですわ。ちなみに進六郎さんとは借金のことについて話し合ったりしたことはありましたか?」


「多少はありましたが、具体的な額までは……申し訳ございません」


「結構。では進六郎さんに代わってわたくしが教えましょう。あなた方のこさえた借金額は……2億6千万円ですわ」


「2億6千万円ッ……!? 2億6千万ジンバブエドルではなくてですかッ!?」


「えぇ。れっきとした日本円で、2億6千万円ですわ」


「そ、そんな……」


 無礼であるとは分かっていたが、進七郎はガックリと項垂れずにはいられなかった。

 2億6千万円は、将来サラリーマンとして働こうと思っていた進七郎には絶望的な額であった。サラリーマンの生涯年収は大企業を除けば多くても2億5千万円ほど。

 つまり進七郎はこれから、心身を尽くして、定年まで円佳に仕えたとしても!

 借金完済はならない!! その事実に進七郎は心が折られかけてかけていた!


「だとしても……それでも俺は……あの圧倒的クソ親父の責任を……尻拭いをしなければ……!」


 しかし項垂れていた顔を上げて、目の前にいる円佳を見つめる進七郎。その目には再び強き意志の炎が宿っていた。


「あんな圧倒的クソ親父でも、俺の父であることに変わりはありません! 親の尻拭いをするのが子というもの! どんなことでも喜んでさせて頂きます! 俺の全て、身も心も尽くしてお守り致します! ですからどうか……よろしくお願い致しますッ‼」


 熱き咆哮を上げた後、進七郎は部屋中に衝撃音が響くほどの土下座をした。

 円佳はと言えば、真顔で無言のまま進七郎を見つめ続けていた。果たして次に何を口にするのか、進七郎は心して待っていた……が。


「顔を上げなさい、進七郎さん」


「……はい」


「その決意と誓い、決して忘れないように。そして……私の方こそ、よろしくお願いしますですわ」


 次に顔を上げた時に見たのは、間違いなく女神と呼べる優しい笑顔を浮かべる円佳だったのだった。

 


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