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アスクモアとサンドリヨンが打ち解けているとき、クラバスは厨房の料理人たちと打ち解けていた。
当初こそ、いきなり現れたクラバスに料理人たちは驚いたものだったが、クラバスの気さくな人柄であっという間に馴染んでしまったのだった。
「この香料はどこで取れるんだ?」
調理長に許可を取って棚を物色していたクラバスは、ふと棚に見かけない香料が置いてあったのを見つけた。
「ああ、それはエシィ様のお庭で栽培されてるものだそうですよ」
答えたのは、皿洗いをしている作業員。
「ああ、あの人か」
王家付き医師と自己紹介されたエスタームの顔を思い浮かべてクラバスは、相槌を打った。
「結構評判がいいので、エシィ様から買い取っているんです。と言っても、なかなか取れない貴重なものだそうですので、陛下たちが特別に召し上がるときにしか使わないのですけれど。他にもよく食材やワインを持ってきてくださるんですよ」
確かに、香料の入っている小瓶は、掌に収まるほど小さい。
クラバスは他の材料には目もくれず、ただひたすら香料や調味料が置いてある棚を物色し続けていた。
「これとかめずらしいなあ……」
クラバスが棚を物色し続けている一方で、アスクモアとサンドリヨンは踊りをいったん終えて外で風に当たっていた。ホールの窓はバルコニーに繋がっており、そこで上がった体温を冷ましているのだ。
バルコニーからは城下街を一望することが出来る。さらに視線を上げると、そこには王城の時計台が見えた。示す針は十一時四十三分。
「どちらに住んでいらっしゃるのですか?」
「残念ですが、お教えすることは……」
アスクモアが尋ねると、サンドリヨンは悲しそうに目を伏せた。少しの沈黙が訪れる。
「じゃ、じゃあ。また明日の舞踏会で会えるでしょうか?」
サンドリヨンが答えようと口を開きかけたとき、時計台の鐘が鳴り響いた。
サンドリヨンが焦って時計台を見上げると、針は十一時四十五分を指している。
「申し訳ありません、もう帰らなくては」
サンドリヨンはそう言い残すと、アスクモアの手をすり抜けてホールに駆け戻った。
アスクモアが伸ばした手は宙を掴むばかりだった。