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整備された道を、一台の馬車が進んでいた。
むき出しの、けれども石などを取り除いている地面は、傾いた太陽によって赤く照らし出されている。
「とりあえず。これにて一件落着、だな」
そう言って息をついたのはクラバスだ。
サンドリヨンがアスクモアの求婚を受けたあとが、なかなか大変だったのだ。本来ならばクラバスとターラーは国に帰り、後日結婚式を取り計らう神父が派遣される予定だった。しかし、アスクモアがどうしてもクラバスとアスクモアに式を進めてもらいたい、と言って聞かなかった。そのため教皇に許可を貰う早馬を飛ばし、なんとか今日中に結婚式を無事に終えたのだった。
「今回はかなり疲れましたね」
「まあな、でもアスたちも喜んでたし、よかったじゃねえか」
「そうですね」
式の進行はターラーもクラバスも専門ではなかったが、知識が無かったわけではない。冷や汗をかきながらも式を終わらせた時に、ターラーとクラバスはアスクモアとサンドリヨンから満面の笑みで「ありがとう」と言われた。それだけで、ターラーとクラバスの疲労感はどうでも良くなっていた。
何はともあれ、馬車はターラーとクラバスの祖国に向かっている。座り方は相変わらず進行方向にクラバスが背を向け、その正面に座っているのはターラーだ。
ガタガタと体を揺らす振動も、疲れた体には妙に心地良く、ターラーとクラバスを眠りに誘う。国に着くまで少し眠ろうかとターラーが目をつぶった直後に、ふとクラバスが口を開いた。
「そういや、サディちゃんに愛称付けたのって一体誰だったんだろ。知ってるか?」
「それは、僕ですよ」
「は?」
予想外の回答に、思わずクラバスが気の抜けた相槌を打つ。
クラバスの反応に、ターラーは閉じていた瞼を開けると、再び言葉を繰り返した。
「だから、サンドリヨンと言う名前を縮めてサディにしたのは僕です」
「お前かよ……」
ため息混じりにターラーが呟く。
ターラーが最悪のタイミングで愛称を付けなければ、クラバスも気まずい雰囲気を感じる必要も無かったのだが。
「何かいけませんでしたか?」
全く何も分かっていない状態のターラーが、心配そうに聞く。
文句を言う気も起きなくて、クラバスは「いや、なんでもない」と答えた。代わりに次の言葉に力を入れる。
「それよりも、だ」
「はい?」
「オレ、今回かっこいいところ無かったなー」
語尾を延ばし冗談めかして言ってはいるが、どうやら本当にショックを受けているようだ。
その様子にターラーがくすくすと笑う。
「いいじゃないですか。君がかっこいい時なんてほとんどないんですから」
「ちょ、それひでー」
「そう言いながらも、君は気にしないでしょう?」
「まあな」
もしかすると毒になるかもしれない会話が冗談で済むのも、親しい間柄故だ。
「かっこよさと言ったら、お互いひどい顔ですね」
「確かに、オレらのかっこいい顔が台無しだ」
未だターラーには剣での切り傷が、クラバスには殴られた頬に痣が残っている。
互いの顔のおかしさに改めて気付いたのか、ターラーとクラバスがほぼ同時に笑い出す。ただ、クラバスは頬の痣が痛むのか、いまいち笑いきれていない。
その様子にターラーは余計におかしさを感じ、さらにくすくすと笑い出した。
整備された道を、一台の馬車が進んでいく。
続編「狼と狼の物語 -間-」は
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です。
10/02/09 章題・本文修正