表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/20

     2

 クラバスとアスクモアが城を出た当たりの頃。ターラーはやっとのことでサンドリヨンの家に到着していた。

 噴水のある広場からサンドリヨンの家まではそう遠くない。それなのになぜこれほどまでに時間が掛かったのかと言えば、もう言うまでも無いだろう。やはり道に迷っていたのだ。

 ターラーは決して認めようとしないが。

 そもそも城から噴水までは、大通りを一直線だ。わき道も少ないのでよほどのことが無い限り迷うことは無い。ただ、それから先、住宅街がターラーにとって難関だった。

 ターラーは決して認めようとしないが。

 とにもかくにもサンドリヨンの家に辿り着いたターラーは、ノックをしようと扉のノッカーを掴んだ。

 と、不意に家の裏手から声が聞こえた。どうやら歌のようだ。

 この辺りの家は裏側に井戸があり、それを数家共同で使う。歌の主は洗濯物でも洗っているのだろう。ある種の確信を持って、ターラーは家の裏手に回りこんだ。

 そこに居たのはターラーの予想通り、やはりサンドリヨンだった。手には洗い終わった洗濯物を持って居る。先ほどまで使っていたのだろう、井戸の水に濡れた桶がそばにある。

 ターラーが来たことには気付いていないようで、相変わらず歌を歌っている。

 手に持っている洗濯物を軽く絞り、張ってある縄にかける。どうやら今縄にかけたもので洗濯物は最後だったようで、地面においてあるたらいを持ってサンドリヨンは振り返った。

「おはようございます――いえ、もうこんにちはですかね」

 ターラーが声をかけると、サンドリヨンは驚いてたらいを落とした。

「大丈夫ですか?」

「え? ああ、大丈夫ですっ。ありがとうございます」

 動揺しながらサンドリヨンはたらいを拾い上げると、乾かすために家の壁に立てかけた。

「こんにちは……あの、今日は、どうしてこちらに?」

 照れくさいのか、自分のスカートの端を弄くりながらサンドリヨンは尋ねた。

 口調の端々からターラーと会話できることに対する嬉しさがにじみ出ている。

「国に帰るものですからお別れの挨拶に、と思いまして」

「え……?」

 急なターラーの言葉に、サンドリヨンは聞き返した。

「今日でもう仕事は終わりですから」

「嘘でしょう?」

「いいえ」

「……本当、なんですか?」

 絞り出した声でサンドリヨンが確認する。

 ターラーの返答は変わらない。

「ええ、本当ですよ」

 余りの出来事にサンドリヨンは言葉を返せない。

 数拍の沈黙の後。それでは、とターラーが立ち去ろうとしたその時、

「待ってください!」

 サンドリヨンの声が掛かった。

「あの、私、ターラーさんに言い残したことがあるんです」

 ターラーがサンドリヨンを見つめる。その顔は無表情だ。

「私……ターラーさんのことが」

「しっ」

 サンドリヨンの言葉を遮って、ターラーが自らの唇に人差し指を当てる。

「そこから先は言わないほうがいいですよ」

「どうしてですか……!」

「あなたが本当に好きなのは、アスクモア君ですよ」

 言い聞かせるようにターラーは話す。

「僕が昨日少し冗談を言ったから、あなたは誤解しているだけだ」

 サンドリヨンは、催眠術にでも掛かっているようにぴくりとも動かない。

「あなたが僕を好きだなんてことは、幻想ですよ」

 ターラーが言い終わると同時に、家の表で戸が叩かれた。

「あなたの王子様が来ましたよ」

 その言葉に、弾かれた様にサンドリヨンは表に走っていく。

「僕にはもう、人に愛してもらう資格なんてありませんから」

 ターラーの呟きは、誰にも聞かれることなく空中に霧散した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者のサイトはこちら(別窓)です。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ