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走れメロス 二次創作

作者: 太郎犬

youtube視聴中、メロスがもし打算的な男だったらというお話があり、それを基に制作してみました。拙い文章からわかると思いますが、本人ではないです。

温かい目で見てやってください。

メロスは狡猾な男であった。

「お前は帰ってこない。私は知っているのだ、この世に約束を守る人間などいないということを」

「いいえ、私は必ずや戻ってきます。山三つ越えた私の村で妹の結婚式を挙げて、7日後の日没までに。もし私が遅れたら友のセリヌンティウスを煮るなり焼くなりするがいいさ」

そうしてセリヌンティウスに目をやると、彼も私を見ていた。しばらく見つめあった後、お互いに頷きメロスは城を出た。  

 人気のない道まで出たメロスは高笑いし、笑いすぎて呼吸困難に陥った。 ああ、なんて阿呆な奴らなのだろう。王もセリヌンティウスも。私の村は山超えて一つ、往復するのに二日とかからない。どうしたって遅れることなんてないのだ。ゆっくりと歩き、結婚を祝う、たらふく祝いの酒を楽しんだらまたゆっくりと帰るだけだ。そうして、戻ってきた私に阿呆な王は感激し、土地を与えることだろう。もしかすると私を臣下としておくかもしれない。メロスは喜びの舞を踊りながら村へと戻った。 村に戻ったメロスは、盛大に結婚式を行い、美酒に酔い、げろを吐いた。ひどい二日酔いになったが、酔いを冷ます時間はたんとあった。そうして5日目の朝、シクラスへ戻るために村を出た。  メロスはシクラスから戻った道とは違う道を辿っていくことにした。ディオニスが山賊を雇い、妨害をしてくることを考えたのだ。また、この迂回路は2日と半日かかり、城に着くころにはちょうど最終日の日没前になる。刻限間際に現れたほうが演出として良いだろうとも思った。そうして、難なく日没前に城に着いた。 玄関前でメロスは水筒を頭から浴び、息を吐き切ったところで止めて、全速力で階段を駆け上がった。途中、酸欠で意識が飛びそうになったが紙一重のところで王室前に躍り出た。両手を膝につき頭を垂れ、全身から異常と言える量の汗を吹き出し、肩で呼吸をするメロスを衛兵は心配そうに見た。近寄る衛兵に手の平を突き立て制止させた。その様子はさながら勇者であった。最も、本当に苦しかったのである。乱した息のまま扉を開け、振り絞るように叫んだ。

「メロスは戻ったぞ」



 メロスが城を出発した後の出来事である。

「あんな馬鹿と友になったのがお主の人生の誤りじゃのう」

「そうではありますが、王よ、あなたも馬鹿です」セリヌンティウスは恐れず、目を見て言った。「もう怖いものはないか。まぁ何とでも言い給え」王座に座るディオニスはケタケタと笑った。

セリヌンティウスはまた目を見て、そして穏やかな口調で言った。

「いいえ王よ、冗談でも強がりでもありません。メロスは馬鹿正直な男ではなく、打算的な男なのです。その証拠にメロスの故郷は山一つ越えた隣、4日もあれば結婚式を挙げて帰ってこれるはずなのです」

「では我もお主もメロスに騙されたということなのか」ディオニスは憤怒し王座から立ち上がった。そしてセリヌンティウスの元まで降りて顔を近づけ睨んだ。「いやさては、我を騙そうとしているのではないだろうな」「可笑しいだろう?もし、お前の言うとおりだとして、お前に何のメリットがあるのだ。友情とやらを見せつけたいのならなおの事、それは黙っておいたほうが良いことのはずだろう?」

「ええ、友ならね」セリヌンティウスは微笑を浮かべている。

「友じゃない?今更そんな嘘をついたところで、逃がしてやろうなんて言わないぞ」ディオニスは王座に戻りながら言った。

「別に逃げようなんて思ってまいせん。少なくとも僕は友とは思ってないのですよ。

メロスは昔から、僕が病弱で抵抗できないことを良いことに、扱き使ってくるような奴なんです」

「ではなぜ、ここに来たのだ。友でもなく憎んですらいるのに」

セリヌンティウスはふぅと短い息を吐き、言った。

「近頃、持病がだんだんと悪くなってきているのです。加えて詐欺にも遭いまして一文無しに。医者に行く金も、家族に残す金もなく、妻は子を連れて出て往きました。」

「金も、人も、健康も、何にも得ることのできない人生でした。何にも得られず、与えられず。それなら利用されようと、利用されれば私は誰かのために存在したことになるでしょう?上辺だけでも、そう思えると、落ち着いて死を待っていられるのです。」

瞬間強く頬を打たれ、前を向きなおすとディオニスは泣いていた。


 メロスは困惑した。一体、何がどうなっているのかと。城を出るときには縛られていたセリヌンティウスが、今は王と紅茶を楽しんでいる。二人はメロスに目をやり、ああ来たのか、という表情をし、一言も発さず向き直った。談笑する声が響き、紅茶の温かく良い香りが王室を包んでいる。メロスは足音を立てて進み、二人の前にいきり立った。

「メロスは戻った!」そう叫んだ。

ディオニスはメロスを煩わしそうに見て言った。「ああ、もう帰ってよいぞ」


メロスはぽつねんと立ち尽くした。体に付けた水が体温を奪っていき、穏やかで温かい空気の王室はひどく酸素が少ないのか目の前が暗くなっていく。おかしい、何かがあったのだ。

頭の中でディオニスやセリヌンティウスとの会話や表情、仕草が思い起こされ、ぐるぐると渦を巻く。いや、何があったのか、なかったのかは問題ではないのだ。もっと根源的な何かを解決せねばならぬのだ。

メロスの体は酷く冷え、喉が震えた。

「セリヌンティウス、私を殴れ。私は大きな間違いをしていたようだ、お前が俺を殴ってくれなければ私は、」

「もういいんだよ」セリヌンティウスが遮った。そうして茶碗を手に取り、口を湿らせ、ディオニスのほうを見たまま微笑んで言った。

「他人を殴ったら罪に問われるだろう?」

「その通りだ、これからわしの臣下になる者が犯罪を犯してはならぬのだよ」ディオニスは答えた。


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