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第三捕手のみっちゃん  作者: 房一鳳凰
第三章 覚醒編
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第70話 大炎上

 バッティング絶好調のまま土曜日、わたしの登板の日を迎えた。今週は4試合で9安打10打点。ハマスタでホームランが出ないのは相変わらずだけど、こんなにヒットが打てたらホームランはいらない。来週は東京ドーム、神宮と敵地続きだからそこで打てたらいい。


「みっちゃん、すっかり大スターだね!独占取材も難しくなりそうだわ……」


 狂スポの賀瀬さんがしみじみと語る。シーズン開幕から賀瀬さんはこれまでと違ってわたし関連の記事でふざけることはなくなって、真面目な内容ばかりだった。


「変な真似するより正統派のほうが読者の受けもよかった。私も応援しているから、ナイスピッチングを期待しているわ」


「ありがとうございます。負けたらまたボロクソに書いちゃってください」



 去年は最下位だったコアラーズは今年もスタートでやや出遅れていた。成長や覚醒に期待するという理由で野手の補強は一切なし、結局貧打で負ける試合が多いみたい。


「コアラーズといえば外人……いや、日本人扱いだったかな?とにかく外国出身の育成選手に凄いのがいるって噂だわ。夏までには支配下登録されると……知ってた?」


「そういえば外国人捕手もいましたよね、コアラーズは。要注意なんでしょうけど二軍の情報までなかなか調べられないんで……」


 いままでと違って今年は暇な時間がない。充実しているという証ではある、でも基礎がおろそかにならないようにしたい。


「まあ外国人枠の関係で上がってこないかもしれないし、まずは目の前の相手に集中ね。私のほうから話をしておいて何だけど……」


「いえ、またお話聞かせてください」


 わたしがダメ選手だったときから相手にしてくれたのが狂スポと賀瀬さんだ。皆は嫌っているけれど、これからも優先して取材に応じようと思っている。




 8 荒川

 4 石河

 5 ロメック

 3 奈村

 7 佐々野

 9 関

 6 大和

 2 木谷

 1 太刀川



 わたしの先発用のオーダーになった。みやこは8番に下がり、中軸に一発があるバッターを置く。ロメックについては今日が最終試験という声もあった。練習の動きや打球は上向いているぶん、これで結果が出ないともうお手上げだ。


「みち、調子は?」


「この間よりもいいよ。長い回を投げたいね」  



 ロメックの心配をする余裕があるほど今日のピッチングには自信があった。あの強力打線、ゴーレムズを八回無失点に抑えたとき以上に万全な状態で先発のマウンドに立つ。体調はいいし緊張も適度に………打線が湿っているコアラーズ相手なら楽勝と思ったのが悪かったのか、自分ではわからない体の硬さがあったのか……。醜態としか言えない立ち上がりになった。




『打った―――!!ビッシの一打は右中間!ランナー2人が次々にホームイン!』


「……ちょ、ちょっと甘く入っちゃったかな…」



『これは入ったか―――っ!二年目の野尾!名古屋のファン待望の初ホームラン!甲子園のスターがとうとう素質開花――――――っ!!』


「…………あれ………」



 直球も変化球も、決め球の全力投球すら打たれてしまった。あまりにポンポン打たれて球数はそうでもないほどにテンポよく炎上、なんと初回5失点!試合をぶち壊した。


「みっちゃん……疲れが残っていた?」

「どこか痛いならすぐに言って!」


 わたしにも原因がわからない。体の不調じゃない。癖がバレたとかサインが盗まれたとか、そんな感じでもない。


「ずっと先発を続けるなら立ち上がりで一気にやられる日もある。今後の糧になるように二回からは投げてほしい」


「………はい」


 

 二回表のマウンドでわたしは思い出していた。どんな好投手でもシーズンを通して投げるといいところなく滅多打ちに遭うこともあると。もう一つ、ブルペンでは絶好調だったのにいざ試合となるとピリっとせず、打たれた理由がわからないとか調子が良すぎてダメだったとか、そんなコメントを残す投手たちがいたことを………。わたしは今日がそれだったんだ。




「お前も期待外れだったのか―――っ!!」

「早く横須賀に送りなさ―――い!」

「レズレイプしてやるわぁ―――――!!」



 これじゃわたしと交代で敗戦処理に回ったリッチのほうがまだいいじゃないか。二回で50球を投げて8失点、エラーは絡まない純粋な自責点だった。


「………また明日から敗戦ロングかぁ」


 試合の最初から投げるとよくない投手だと判断されたかもしれない。ため息をついて沈んでいると、新浦監督と皆藤コーチが近づいてきた。みやこもすぐそばにいた。



「………交代………ですよね」


「みっちゃんが交代したければそうする。でもアタイたちのプランは別にある。明日から、ではなく今日から敗戦処理のロングリリーフ………どう?」


 すでに試合は終わった。だったら少しでも明日にダメージを残さないようにするのもロングリリーフの役割だ。わたしが続投すれば自分の失態の責任を自分で負うことができる。投げていいと言われたならぜひお願いしたかった。


「これはいわゆる『晒し投げ』じゃあない。ここで降りたら次回に悪いイメージが残るから、少しでも本来のピッチングを取り戻してほしいという私たちの願いなんだ」


「みち、私も今日は失敗した。今からでも二人で修正したい。コーチの言う通り、次回の登板で確実に勝てるようにもう少し頑張りましょう」



 皆の言ったことをまとめると、来週も先発のチャンスはあるから、捨ててもいいゲームになった今日のうちに何が悪かったかを見つけるために続投だ。こんな内容でも次回が、そして今日すぐにピッチングを直す機会がもらえた。監督たちには感謝しかない。何としても改善点を見つけよう。




「うお―――――――――っ!!」


『三回も続投の太刀川、この回はいい感じです!』


 やっぱりわたしは自分が一番下だと認めないといけなかった。コアラーズを甘く見ていたせいで吼えながら投げてもそれは見た目だけ、魂が乗っていないボールになっていた。


『外角低めのスライダーで平を打ち取りました!』


 前回の先発登板は当日に急遽変更だった。事前に登板日が決まっていたのはこれが初めてで、余計な気負いがあったのかもしれない。細かいコントロールが雑になっていた気がする。8点リードされてようやくいつもの調子が戻ってきた。


『ストライク!別人のような三者凡退でした』


 最近の活躍の勢い任せでどうにかなるほどプロは甘くない。丁寧に、慎重に、それでいて自信を持って投げる。さっきまでのことも含めて、ぜんぶわかっているつもりだったけれどできていなかったんだなあ。経験不足、まだまだ成長の余地ありということにしておこう。



「素晴らしい!すぐに立ち直ってみせたか!」


「……ありがとうございます」


「今週は勝った日も負けた日も中継ぎをたくさん使ってしまった。いけるところまで頼むよ」


 あと1点取られたら交代だろう。そこまでは精一杯投げよう。ペース配分なんて余計なことは考えず、一人一人のバッターを全力で。



『木谷も続きました!大和、木谷と連打でノーアウト一、二塁!バッターは9番の太刀川です。普通なら代打、もしくは送りバントでしょうが…』


『昨日まで4番にいましたからね。それに序盤とはいえ8点差、バントはないでしょう』


 犠打、進塁打のサインが多い新浦監督からも自由に打っていいと言われている。ダブルプレーだけはダメだ。いまはランナーを出し続けることが大事だ。



『コアラーズの八木は今シーズン1勝1敗、今日はいきなりの大量援護に余裕の投球でしたが初めてのピンチです。8番に木谷、9番に太刀川が入り気の休まらない打線になっています』


 いくら点差があるとはいえ個人記録のこともあるし1点くらいならいいや、チームはともかくピッチャー本人はそうは思わないはず。リリーフが安定しているコアラーズだから、わたしと同じように八木も出し惜しみはしてこない。


(追い込まれるまでは狙いを決めないと………)


 初球を叩くのが一番いい。ラメセス前監督が推奨していたファーストストライク打ちの作戦は使われなくなってもわたしのなかには生きている。いつも早打ちはまずいけれど状況によっては打者有利のうちに勝負を決めたほうがいい。


(よし、ここは………)


 その球種、コース以外はどんなボールだろうが振らない。大和さんとみやこは来た球にうまく反応した。わたしはあえて絞ろう、完璧なヒットを打つために。



「…………」


 八木が二度もサインを拒否した。そうまでして投げたいボールがわたしの狙い球なら………。


『やや時間がかかりましたが八木が首を縦に振りました』


 

 右投手の八木がプレートのやや右寄りに立っていた。そして二塁ランナーを目で牽制してから投球動作に入った。



『第1球、投げましたっ!』


「これだ―――――――――っ!!」



 内角にストレート、わたしの読み通りだった。しかもストライク寄り。迷わずフルスイングした。


『いい当たりだ!レフトスタンド一直線!!』



 ポール際、しかも弾道低め。フェアか、ファールか。フェアだとしたら入るかどうか。打球をのんびり見ている場合じゃない、バットを捨てて一塁に走った。でも打球が速かったから完全に目を離す前にわかった。



『入りました!三塁塁審の腕がぐるぐると回った!太刀川、初球打ちはスリーランになりました!8ー3、自身の大量失点の一部を取り返しました』



 ついにハマスタで初めてホームランが打てた。淡々と一周して、先にホームで待っていた大和さんとハイタッチ、みやこは人目も気にせず抱きついてきたからわたしも抱き返した。こんな状況じゃなければ喜べたんだけど………。


『しかしまだ5点差、八木の様子は変わりません』


 去年もあったな。とにかくどんどん走者を出して追いつくぞ、ってときにわたしがホームランを打ったせいで流れが止まったことが。相手のピッチャーが立ち直ったり、交代で逃げられたりして反撃ムードが萎んだ。今日もそのパターンかな?





「よしっ!!」


 四回表、ピッチャーゴロでこの回を終わらせた。2イニング連続で三者凡退、点差が開いたときにありがちな雑なバッティングにはまだなっていない、真剣なコアラーズ打線を抑えた。自分のため、チームのためにも長いイニングを投げないと。


「試合はほぼ決まった………でも無価値な負けを内容の濃い、今後に活かせる負けにすることはできる。ボール球に手を出さないで、相手を消耗させる粘りを見せてほしい!」


 円陣を組んで皆で声を出した。八木を早い回で降ろせば相手の使う中継ぎの人数が増える。ヒヤリとする場面を作ればセットアッパーや抑えが急いで肩を用意して出てくるかもしれない。これが明日の試合にどう影響するか……それを確かめるためにも『明日に繋がる負け方』をしないといけない。




『こ、これは――――――っ!?センター小島、諦めて見送るだけ!入りました!一死満塁から8番の木谷、なんと満塁ホームラ―――ン!これで8ー7!大変な試合になりました―――っ!!』



 バックスクリーンへの最高の一打。みやこがやってくれた。


『今日は勝って当たり前、その余裕が災いしたか?名古屋コアラーズの先発八木、四回途中7失点でKO!太刀川より先にマウンドを去る結果になってしまいました!』



 ブラックスターズベンチが一気に明るく、そして賑やかになった。みやこを迎えるとき、わたしもさっきのお返しに抱きついてあげたら顔が緩んでいた。家では珍しくなくなったみやこの感情豊かな表情、試合中に見ることができるのは貴重だ。



(だったら………もっと喜ばせてあげよう!)


 二者連続、そして2打席連続となるホームランで一気に同点だ。やる気に燃えたわたしは鼻息荒く打席に向かった。




「ストライク!バッターアウト」



 調子に乗ったらダメなのはバッティングも同じだった。代わったピッチャー相手にあっさりと三振した。ただ、まだ追う立場ではあるけれど、この試合はもうもらったなという確信があった。

 関 (横浜ブラックスターズ外野手)


 打、走、守の全てに秀でた若手外野手。左投左打。まだ作品中でセリフもないが、スタメン表に名前が載る機会が増えてくる。スタメンだけでなく代打代走守備要員と出番は多い。


 元になった選手……2021年、ようやくブレークの兆しを見せつつあるあの選手。これまでも一軍のゲームにちょくちょく出場していたが、二軍の帝王になりそうな感じもした。前監督時代は左の代打と外野手が飽和していたこと、代走や守備固めのための選手を置かなかったことで出番が少なかったため、チャンスを得たと同時に結果が出せなければ終了という勝負の時を迎えた。




 コアラーズの外国人育成選手


 現時点では賀瀬記者からその存在を聞かされているだけの存在。前回やはり少しだけ触れられた『ミルルトの強盗を捕まえた選手』同様、元ネタは野球ではないキャラクターになることを予定しています。それらの選手は後半戦あたりで、みっちゃんへの刺客として立ちはだかるでしょう。

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