第1話 新たな任務
更新は遅いですが、楽しんでいただけると嬉しいです。
世界には、<フィーリングス>という秘密結社がある。
彼らはひとつの国に所属せず、様々な依頼を受けては必ず達成するらしい。
――――そんな、<フィーリングス>の本部にて
「仕事、お疲れさま~悲哀、赫怒」
能天気そうな笑顔で片手を挙げながら私と隣の相棒のコードネームを呼ぶ男は、<フィーリングス>のリーダー、コードネームは信頼。
私は帰ってきたという実感が湧いてきて、普段より割増で笑顔を見せて返す。
「ほんとですよ、今回はすごく疲れましたっ! リーダー、褒めてください!」
「そっかそっか~頑張ったねぇ、偉いぞ~!」
「えへへ~」
そうやって撫でて貰っていると、厳しい声が後ろから入ってくる。
「報告書を提出し終わってようやく任務終了よ、悲哀。リーダーも。赫怒も、見ていないで止めなさい」
「あ、期待さん! ごめんなさい、えぇっと、これです」
「ごめんごめん。はい、報告書、受け取りました」
「楽しそうやったし、邪魔したらあかんかなって」
<フィーリングス>副リーダーの女性、期待さん。
相変わらず大人っぽくて綺麗な人だ。
彼女の注意に、私は慌てて報告書を出し、リーダーは謝罪し、相棒は独特の似非訛り口調で反省の色のない返事をする。
「まったく……まあいいでしょう。それより、2人に話があるの」
「「話??」」
呆れから一転、真剣な声色になった期待さんに、相棒と2人で声を揃えて疑問を返す。
「そ。新しい任務の話なんだけどね……悲哀が入ってから今まで、赫怒と組んでやってきたよね?」
期待さんの言葉を引き継いで言うリーダーに、意図を図りかねながらも首肯する。
相棒――赫怒とは、初任務からずっと一緒だった。
「悲哀が入ってもう1年以上。……そろそろ、単独任務を任せようと思ってね」
「何で?」
私が驚くより早く、相棒が低い声で問う。だいぶ怖い。目が笑ってない笑みなのが尚更。
背後にうっすらと炎も現れてるし。
「そう怒んないでよ。悲哀しか出来ないワケがあるんだ」
「私にしか?」
よく分からないが、相棒は落ち着いたから良かった。
……私にしか出来ないって何でだろう?
「シエロヒンメル王国の王女さんが『精霊に愛される者』だったらしいんだよね」
現代において、人間は属性魔法と呼ばれる魔法しか使えない。
かつて、世界に四種の種族が居た頃の戦争にて、人間は精霊に頼らない属性魔法を発明し、種族間戦争に勝利した。
それが四種族を愛していた精霊の怒りを買い、人間は精霊魔法が使えなくなったのだという。
だが、極々稀に精霊に愛され、精霊魔法を使える者が生まれてくる。
それが、精霊に愛される者。
「へぇ、御伽噺じゃなかったんですね」
「数百年ぶりらしいよ」
「実感が湧かない数字です……」
「で、その王女さんが任務と何の関係があるん?」
「うん、今から説明するね。というわけで、期待」
結局、期待さん任せですか。
まあ、わかりやすいし、いいんだけど。
「はい。先程説明したシエロヒンメル王国第三王女が『精霊に愛される者』だということが判明し、国内外問わず様々な組織、人物が動き出したわ。……動き出した者達の中には王女の命を狙う者も当然居る。そこで<フィーリングス>に、王女を秘密裏に護衛してほしいと依頼が来たの。聞けば、王女は今年13歳、王国では学院に入学する年齢ね。……ねえ悲哀? あなた、歳は幾つだったかしら?」
……ああ、なんとなく話が見えてきた。
「……12ですけど、今年で13になります」
「ええ、王女と同い年。あなたが学院に入れば、学院内で王女の護衛が出来るわね?」
なるほど、相棒は出来ないわけだ。
相棒、2つ上だからね、確か。
「でも、私学校なんて行ったことないですよ」
理由に納得も理解もしたけど、行きたくないし。
「勉強なら私が教えるわ」
「そうではなくて……そもそも、属性の適正1個ですよ?」
「問題ないわよ。あなたにはそれを補って余りある技量があるもの」
「……誰か、教師として入れば」
「学友のほうが近づきやすいと思うわ。行きたがる人もいないでしょうし」
くっ……!
助けを求めてリーダーを見る。
にこにこしてるだけ! しかも若干嬉しそう!
相棒なら……!
「あ、赫怒には王女の命を狙っている組織の調査にあたって貰うわよ。もしかしたら悲哀のことを陰ながら助ける……なんてことができるかもしれないわね?」
おぉーい! ちょっとかっこいいかも、みたいな顔しないで!
「それに、王女の行く予定の学院、制服が可愛いことで有名――――」
「悲哀! 頑張ってきてな!」
「赫怒の裏切り者ぉー!!」
「やって、可愛ええ恰好した君、見てみたいやん?」
「見なくていい! どうでもいい! ばーかばーか!」
「ま、まあまあ落ち着いてよ」
リーダーの言葉に掴んでいた相棒の胸倉を離す。
「任務関係無しに、学校に行くことは悪いことじゃないと思うんだ。僕は悲哀が、この任務を通して、成長してほしいと思ってる。……どうかな?」
うぅ~……そんな言い方されたら、断れないじゃないか。
それに、そもそも私は<フィーリングス>に恩がある。
それを返せるなら、なんだってやりたいのだ。
「…………わかりました。悲哀、これより王女護衛の任務につきます」