〜第八章〜 魔界の秩序と人間世界の法律 【前編】
(ナレーション)
英傑学園で法の力で学園を支配している男がいる。
見た目はどこにでもいる普通の少年。
だが何故か、その少年は赤い眼をしていた。
そして、その赤い眼で人を見下すその姿は、人間というよりはもはや悪魔そのものの姿だった。
齢17歳にして司法試験に合格した秀才中の秀才。
ただ知恵とは違い、その男は努力をする人間ではなかった。
そして何故か真面目に勉強をしていることもない。
そして秀才だが、その知識は非常に特化していたので、学園では優秀では無い分類だった。
それどころか授業にすらあまり姿を現すことも無い。
だが何故か七鬼衆の集まりには姿を現している。
そして誰もが、彼は頭の切れる人物だというのはわかっていた。
その頭の回転の鋭さを鬼頭冷道もわかっており、彼に学園運営のサポートをお願いしていた。
そして、その男には七鬼衆ですら誰も逆らおうとしなかった。
それは言うなれば、人間の持つ本能で感じていたのかもしれない。
この男にだけは逆らっては駄目だと。
そして、その男は粛々とこの学園に仇なす者を法の名の元に処罰していく。
だが何故かその後その者がどうなったかは、七鬼衆の誰も知らなかった。
ただ一言、いつもの様に彼は七鬼衆に向けて言う。
「ゴミを処分してきた」と。
彼の名は高裁判士。
七鬼衆の中でもとても不気味な存在。
別名悪裁の判士……。
―学園内 元七鬼衆(現五鬼衆)の集会―
鬼頭麗子はここ数日妙な違和感を感じていた。
その違和感を確認する為に、五鬼衆を集めていたのだった。
(麗子)
⦅何だろ……何か忘れている様なこの感覚⦆
⦅……この間私に挨拶をして去った子……⦆
⦅本当は私あの子の事知っている……でも誰かが思い出せない……⦆
(財前剛)「……さん……麗子さん!」
財前剛の呼び掛けに、麗子はハッとして我に返った。
(財前剛)
「麗子さんどうしたんですか?」
「全員集めたのに何か急に考え事始めたりして」
(麗子)
「あ〜ごめんね」
「ちょっと考え事してただけだから」
(財前剛)
「麗子さんにしては珍しいですね」
「もし何か困った事があるのであれば、いつでもこの財前剛に相談して下さい」
(麗子)
「あ〜ありがとね」
「さて……それで今日集まってもらったのは、皆んなに確認したいことが出来たからなの」
「……今から私とても変なこと言うけど……心して聞いてね……」
その麗子の言葉にそこにいた全員が注目した。
(麗子)
「……私達、本当にこの人数だったっけ?」
「……なんて言うか、何かこう最近になって物足りないというかなんというか」
「そこにいたはずのものがいなくなった様な」
「上手く言えないけど、何か喪失感? みたいなものをここ最近ずっと感じてるの」
「でもパパに聞いてもそれは気のせいだとしか言わないし」
「おかしな事言ってるのはよくわかる!」
「でもどうしてもずっと妙な違和感が心にあって、それが気になって気になってしょうがないのよ!」
(財前剛)
「麗子さん、それは理事長の言う通りです」
「俺が麗子さんの元に仕えてから、今までずっとこの五人でこの学園の支配をしてきたじゃないですか」
「麗子さん、お疲れなんじゃ無いんですか?」
「一度仕事からも学園からも解放されて、海外に旅行とか行ってリフレッシュしてきたらどうですか?」
(カイゼル)
「そ……そうですよ」
「麗子さん色々頑張り過ぎてるところもあるし」
「たまには休暇を取って下さい」
⦅絶対神様の仕業だー⦆
⦅今度は何したんだろ?⦆
⦅また後で聞かないと……⦆
(真実)
「剛さんとカイゼルの言う通りです」
「休みましょう! ね! ね!」
⦅うわ〜……麗子さん気付いたのかな〜?⦆
⦅でも鬼女なんて言われてるから、そういう仲間意識みたいなのは無いと思ってたからちょっと意外……⦆
⦅しかし……フローラさん二人の記憶操作は流石にやり過ぎじゃないのかな〜……⦆
⦅このまま何もバレなきゃいいけど……⦆
(高裁判士)「……クックック……」
高裁判士の急な笑い声に一同は驚いた。
判士の笑い声を聞いたのは全員初めてだったからだ。
(カイゼルと真実)⦅判士さんが……笑った!?⦆
(財前剛)
「こ……こら判士!」
「麗子さんの前でそんな笑い方するなんて無礼だぞ!」
(麗子)
「剛……いいわ……問題ない……」
「判士……何か言いたそうね……」
(高裁判士)
「……いや失礼」
「麗子さん、さすがですね」
「ここにいるただのバカとスパイの二人とは全然嗅覚が違います」
「恐れ入りました」
(カイゼルと真実)⦅バ……バレてる!? ……何で……!?⦆
(麗子)
「……どういう意味?」
「うちにはスパイなんていないわよ……バカは……」
(財前剛)
「バカって誰の事だ判士!」
「てめえ最近調子乗りすぎじゃねえか?」
そう言いながら、財前剛は高裁判士の胸ぐらを掴んだ。
だがその手を判士は逆に掴み、最も簡単にその腕を逆に捻った。
(財前剛)「痛てててて」
(判士)「僕に触れないで貰えないかな……人間の分際で……」
その様子にその場が凍りついた。
(麗子)「判士! その手を放しなさい!」
その麗子の言葉を聞いて、判士は捻っていた財前剛の腕を振り払った。
(判士)
「失礼しました」
「ただ私は身にかかる火の粉をただ振り払っただけです」
「つまりこれは正当防衛の範囲内なのでご容赦下さい」
「……それでさて本題に入りますね」
「率直に言うと、私はその今麗子さんが感じている違和感の正体を知っています」
「でもその正体をここで説明しても、おそらく麗子さんには伝わらないと思います」
「なのでこの私がその麗子さんの違和感自体を消し去ってきます」
(麗子)「判士? 何を言ってるの?」
(判士)「……今はそれだけしか言えません……それでは……」
判士はその場を去った。
(財前剛)「てめえこら! まだ俺の話しは終わってない……ぞ……?」
そう言いながら財前剛は判士の後を追いかけて行ったが、すでにそこに判士の姿は無かった。
(財前剛)
⦅アイツ……どこに行ったんだ?⦆
⦅この廊下はしばらく曲がり角もない直線のはずだぞ⦆
⦅そしてどこかの部屋に入る音すらしなかった⦆
⦅どういうことだ? アイツ姿でも消せるのか?⦆
⦅……そんなわけないよな……⦆
(麗子)
⦅高裁判士……相変わらず不気味な男ね⦆
⦅でもアイツが言って出来なかったことは一つも無い⦆
⦅パパが推薦して来た唯一の五鬼衆⦆
⦅全てが謎に包まれた男……⦆
⦅どうやって私のこの違和感を消し去るつもりか⦆
⦅お手並拝見ね……⦆
「ちょっと会が荒れたわね」
「じゃー今日はこれでもう散会としましょう」
(カイゼルと真実)⦅た……助かった〜……⦆
残された四人は、散り散りにその場を後にした。
―良子の部屋―
今日も一人と一匹は精神上で会話をしていた。
(舞(精神))
「これで残りは三人だな」
「終幕がだいぶ見えて来たな」
(フローラ(精神))「まーようやくここまで来たという感じですね」
(舞(精神))
「残ってんのは鬼女と金王と悪裁か」
「この悪裁ってのは何だ?」
「人間が人間を裁くってことなのか?」
「こんなガキが人を裁くのか?」
「他の奴らをどうするか決めるのは俺様みたいな魔王と呼ばれる存在だけだぞ?」
「どういうことだ?」
(フローラ(精神))
「……この国には法というものが存在しています」
「そしてその法と呼ばれるものはこの世界に何個か存在します」
「そしてそれは場所によっても異なります」
「ただその法の下にこの世界の住人は皆行動を決められています」
「そうして秩序を守っていると言うわけでしょう」
(舞(精神))
「相変わらずよくわからんなこの世界は」
「俺様の世界の人間共ですらそんなまどろっこしいものは無かったはずだぞ」
「……いやあったか……」
「でもそれはそれぞれの国の国王が決めていたものだったはず」
「国王が絶対君主で国王が全てを決める」
「だからそんな目の見えない法とかってものではなかったと思ったがな」
(フローラ(精神))
「おそらく世界が違ったり国が違ったりすると統治方法はそれぞれ異なっていくのかもしれませんね」
「……ところで貴方のところでは貴方はどうやって国の統制を取っていたのですか?」
(舞(精神))
「知れたことよ!」
「反逆者は殺す!」
「人間は皆殺し! もしくは奴隷としてこき使う!」
(フローラ(精神))「……恐ろしく簡単ですね……」
(舞(精神))
「簡単だがこれで充分だったぞ!」
「魔族は腹も空かないし寝ればすぐ元気になる」
「土地も無限にあったし同族からは何か奪う必要もないから後は基本自由だな」
「喧嘩になればどちらかが殺し合えば良かっただけだしそれを咎める必要も無いしな」
「やりたいなら好きにすればいい!」
「ただあまりにも行き過ぎたことをした時だけ俺様が粛清をしていく!」
「そんな感じだったかな」
「まー魔族同士は基本仲は良かったからな」
「助け合いなんか当たり前だったし」
「色んな種族や色んな考えがあってもお互いがお互いを尊重してたし」
「それでも納得いかなかったらその当事者同士かその一派で殺し合いをするだけだし」
「そんなもんじゃないのか?」
「お前のとこもそうだったんじゃないのか?」
(フローラ(精神))
「転生界はもっと簡単です」
「何故ならそもそもの個が存在しないから」
「私達はただ与えられた仕事を全うしてただけです」
「特にそれに何かを考えたこともありませんし」
「異論を唱えるものもいませんでした」
「天界はまた違うとかは聞いたことありますが」
「とにかく転生界は良くも悪くも何も無い世界だったのでしょうね」
(舞(精神))
「成程な」
「個だらけの魔界と個が全く存在しない転生界か」
「どちらもこの世界には存在しない世界なのかもな」
(フローラ(精神))
「確かにそうかもしれませんね」
「ところで貴方はその秩序でどれだけの魔族を従えていたんですか?」
(舞(精神))
「何人従えていたかは数えたことは一度もないな」
「戦士だけなら全部で100万の軍勢がいたと思うが」
「その家族とか戦士以外はおそらくその10倍はいたのかな」
「ただ俺様が死んでその後魔界がどうなったのかは俺様も知らないが」
(フローラ(精神))
「初めて貴方を少しだけ尊敬出来ました」
「人間を殺していたことだけを除いてね」
(舞(精神))
「ふん! 貴様に尊敬されても嬉しくも無いわ!」
「そもそも俺様は人間を殺した事を後悔などしてはおらぬわ!」
「ただ歯向かって来るバカ共を返り討ちにしたまでだ!」
(フローラ(精神))「……それはどういう意味ですか?」
(舞(精神))
「貴様何も知らないのか?」
「異世界エルドラドは我が魔族と人間とが分断して暮らす世界なんだよ」
「そうして幾千年互いが交わることもなかったんだよ」
「それをある時人間が破って我が魔族の領土まで来る様になったんだよ!」
「それを返り討ちにしたのがこの俺様だったわけだ!」
「そして俺様はその時からずっと何百年とこの争いを指揮していただけだ!」
「そういえばその時の俺様の配下には人間が暮らす方に攻め入る事を提案して来た馬鹿共もいたな」
「だが俺様はそれだけはしなかった!」
「それは特に攻める必要も無かったからだ!」
「それに人間の暮らす側では魔力が弱くなることも知っていたからな」
「ところが人間共はどこかから神が作った神具を手に入れてきた!」
「その神具には魔族が持つ魔力を制限させる効果があったんだ」
「そしてそれを手に意気揚々と攻めてきた勇者達によってこの俺様は敗れたってわけだ」
(フローラ(精神))
「……そうだったんですね……」
「まさかそういう事情だとは思いませんでした」
「しかしそうなると魔界は今頃……」
(舞(精神))
「あーそれは大丈夫だ!」
「その神具は一定期間しか効果が無いからな!」
「それに俺様は魔族を守る為に禁じ手も使ったからな!」
(フローラ(精神))「禁じ手とは……?」
(舞(精神))
「クックック」
「死後効果が発動する魔法って知ってるか?」
「結界魔法ってやつなんだがな」
「俺様は神具発動後に危険を察知してこれを自らの身体に仕込んでおいたのよ!」
「自分が死んだ後に魔界そのものを別の世界に飛ばす為にな!」
「だから俺様が死んだ後おそらくは勇者達は強制的に人間の暮らす方に戻されておるわ」
「そしてもう一度バカな人間共が俺様の国を侵略しようとしても」
「そこにはもうその国自体が存在しなくなっているってことよ」
「死んでなお俺様の凄さを今頃アイツらは感じているだろうな」
「ワッハッハッハッハ」
(フローラ(精神))「それなら今頃は……」
(舞(精神))「ああ……どこかの異世界で我が魔族は生きていると信じている!」
(フローラ(精神))「……改めて貴方のことを凄いと思いました……」
(舞(精神))
「ふん! ちょっと語り過ぎたな!」
「それで次はどうすんだ?」
(フローラ(精神))「さてどうしましょうか?」
(舞(精神))
「また無策か!」
「まったく……じゃーとっとと情報収集して来いよ!」
(フローラ(精神))
「わかりました」
「ところで良子さん最近見かけなくないですか?」
(舞(精神))
「良子? あーここの主か」
「確か何かやることあるから数日留守にするとか何とか言ってたぞ」
「その間は自由にこの家を使っていいとよ」
「あのメスは本当に気の利くいい奴だ!」
(フローラ(精神))
「……貴方は何もそのことに疑問を抱かないんですね」
「あの方は貴方と同じ高校生ですよ」
「学校を休んでまでやること……一体何でしょうか……」
(舞(精神))
「あんなメスのことはどうでもいい!」
「俺様達にはやることがある!」
「いいから貴様は早く情報収集して来い」
(フローラ(精神))「はいはい……」
一匹の白い猫は、舞に追い払われる様な形で外に飛び出して行った。
その白い猫が外に出たのを見て、舞も外に出て行った。
―とある路地―
舞はいつもの様に時間を潰す為だけに道を歩いていた。
そんな舞の目の前に急に男が現れた。
(舞)
「何? 私に何か様ですか?」
「ん? 確かアナタは……」
(???)「クックック……」
その男は不気味に笑った。
そしてその男は、指をパチンと鳴らした。
次の瞬間、舞とその男はその場から消え去った。
―???―
(舞)
「……ここは……どこ?」
「……この感じ……まさか……ここは異空間!?」
戸惑っている舞の前に先程の男が現れた。
(舞)
「……アナタは確か……高裁判士……」
「何でアナタがこんな力を?」
(判士)「クックック……会いたかったぜー……魔王デスターニャさんよ!」
その判士の言葉に驚いた舞は、距離を取って臨戦態勢を取った。
(舞)
「誰? アナタ……天界の者じゃないわね」
「私と同じ魔族の匂いがする」
「それにその眼……どこかで見たことがあるわ」
(判士)
「クックック……アーハッハッハ!」
「どこかで見たことあるか」
「そりゃそうだろな!」
「唯一魔族で貴様を後一歩のところまで追い詰めたのがこの俺様だからな!」
(舞)「まさか……アナタ……メフィストなの?」
(判士)
「クックック……」
「如何にも……貴様の汚い策略で殺された元魔王軍参謀長のメフィスト様よ!」
「しかし滑稽だな」
「あの魔界最強と言われた貴様が今やそんなメスになってしまってるとはな」
「今の貴様には負ける気など微塵も感じぬわ!」
(舞)
「うるさいわね!」
「これでも喰らいなさい!」
「ファイア!」
舞は火の玉を判士に向けて放った。
だが、判士はその火の玉を右手一つで掻き消した。
(判士)
「ホウ……これはこれは……」
「まだそんな身体でそんな魔法が放てるんだな」
「さすが魔王様と言ったところか」
「だが悲しいかな」
「貴様の魔力はこんなものじゃなかったはずだが」
「……そうか……力が制御されているんだな」
「これはこれは滑稽滑稽」
(舞)
「うるさいわね!」
「アンタだって似た様なもんじゃないの?」
「この世界じゃ魔族は力を制御されるんだからさ!」
(判士)
「確かにそうだ」
「だがそれは状況により異なる」
「貴様と俺とでは状況が大きく異なるからな!」
「その証拠を見せてやろう!」
「出でよ業火よ!」
判士がそう言うと、判士の上空から超特大の火球が降りてきた。
そして藩士はその火球を右手一本で支えた。
(判士)「エクスプロム!」
次の瞬間、判士の右手から超特大の火球が、舞に向けて放たれた。
(舞)
「そ……そんな……」
「キャーーーーーーッ……」
舞は炎に包まれた。
そして舞は叫び声と共に、その場に倒れてしまった。
(判士)
「おいおいもうお終いか?」
「これが魔界最強の魔王なのか?」
「弱い弱すぎる!」
「クックック……アーハッハッハッハッハ……」
判士は倒れた舞を見ながら高笑いをした。
だが、笑うのをピタリとやめた。
瀕死の状態で、フラフラになりながらも舞が立ち上がったからだ。
(舞)「……ハァ……ハァ……ハァ……」
(判士)
「これはこれはさすが魔王様と言った感じかな?」
「人間にはおよそ耐えれない程の高熱の火球を喰らってなお立ち上がるとは」
「んーご立派ご立派」
判士は舞のその姿を見て、拍手をした。
(舞)
「な……なんでよ……」
「なんで……アンタが……この世界でそんな魔法が使えるの?」
「教えなさい!」
(判士)
「……いいだろう教えてやろう!」
「それはな俺様が転生ではなく召喚で呼び出されたからだよ!」
「悪魔召喚でな!」
(舞)
「……な……何ですって!?」
「一体誰が? ……どうやって?」
(判士)
「……これ以上はもう教えれないな」
「さてこのままお前にトドメをさしてもいいが」
「俺様も今は雇われの身でな」
「まずは任務を行わないといけなくてな」
(舞)「雇われの身って……一体どういうことよ!」
(判士)
「クックック……いいだろうそれだけは教えてやろう」
「俺様は今ある人物に支えている」
「そしてそのお方こそお前達が探している人物」
「そう! 我が主はルシファー様だよ!」
(舞)
「……!?」
「な……何で?」
「なんで魔族のアナタが……?」
(判士)
「支えるに値する程の力の持ち主だからだよ」
「あの方の力は本当に別格だ!」
「もしかしたら魔王時代の貴様でも勝てないかもな!」
「それでルシファー様からの命で貴様達を殺して来いってことで俺様が動くことになったんだよ!」
「だから知ってんだよ!」
「貴様が天界の奴とつるんでることもな!」
「しかもそれで七鬼衆を壊滅させようとしてることもな!」
「しかし滑稽だったな」
「記憶の操作ってやつか?」
「人間共がおかしくなっていくのは本当に滑稽だったよ」
「しかしこの俺様にはそんな魔法が効くわけがない」
「だから本当ならその場で全部暴露してやってもよかったんだが」
「それじゃー味気ないからな」
「だから口裏だけは合わせてやったが」
「ルシファー様から勅命を受けた以上もうそうも言ってられないからな」
「だから俺様が直々に出向いてやったってわけだ!」
「だからほら! お前の相方ここに呼べよ!」
「助けてー! ってさ!」
「そしたらまとめて始末してやるからよ!」
(舞)
「……な……成程ね」
「相変わらず……最低な奴で……良かったわ……」
「あ……アンタ誰に向かって……言ってるの」
「……私は……魔王デスターニャよ!」
「死んでも……誰かの力を……借りるなんてことは……しない!」
舞は今にも倒れそうな身体を起こして、判士を睨み付けた。
(判士)
「ハァ……」
「そんなボロボロの身体で何を言うかと思ったら」
「……まーいいや……どうせお前の相方がどこにいるかも知ってるし」
「しかしお前の相方は天界の者か」
「ちょっと俺様とは相性が悪いな」
「うーん……」
「そうだ! 貴様を利用させてもらうとしようか!」
判士は右手から丸い透明な球体を出した。
そしてそれを舞にぶつけた。
すると、激しい光と共に、舞はその球体に閉じ込められてしまった。
(舞)
「こ、これは何?」
「だ……出してよ! 出して!」
舞はその球体を瀕死の身体に力を入れて叩いたが、球体からはガンガンと音がするだけで、その球体にはヒビ一つ入らなかった。
(判士)
「クックック……ムダムダ……今の貴様の力では絶対にその球体は割れないよ」
「さてと……それじゃー向かうとするか」
藩士は球体に閉じ込めた舞と共に、姿を消した。
―その数分前の異空間―
フローラはカイゼルと真実と共に、ネット上で会話をしていた。
(フローラ)「高裁判士について聞いていいですか?」
(カイゼル)
「判士さんですか……情報だけだとそこまで難しくはないんですが」
「ただあの人の過去は少し謎なことが多くて……」
(フローラ)「どういうことですか?」
(カイゼル)「……今情報送りますんで、ちょっと見てもらえますか?」
カイゼルはフローラにその情報を送った。
(カイゼル)
「高裁判士。英傑学園二年。幼少期より天才と呼ばれていた」
「父親は元敏腕弁護士で、幾つもの無罪判決を勝ち取った人物」
「しかしその父親は判士が中学二年の時に、冤罪事件に巻き込まれ、その後自殺」
「母親もその冤罪事件の影響で自殺」
「そして判士は、それ以降中学校を中退して、大卒試験を受けて見事合格」
「その後更に国家試験を受けて合格」
「そしてその優秀さを英傑学園理事長の鬼頭冷道氏が気に入り、特待生として学園に迎え入れる」
「内容だけをそのまま見たら、とても秀才の頑張り屋さんが両親の自殺後に更に勉強を頑張って、父親の意思を継ぐ形で国家試験を受けたと言われているのですが……」
(真実)
「カイゼル! ここから先はゴシップになるから私の担当よ!」
「実は、判士さんには嘘か本当かわからない不気味な話と証言があるの」
「判士さんが通っていた中学校の人が言ってたんだけど、昔の判士さんは普通の黒い眼をしていたのよ」
「でもその両親が死んで、学校に来なくなった判士さんを偶然街で見掛けた人が声を掛けた時、その眼は今と同じく真っ赤になっていたんだって」
「それでその人を威嚇する様に見た後で、逃げる様に走っていったらしいわ」
「その人もその後を追い掛けたんだけど、何故か急に姿を消した様にいなくなったんだって」
「それで後日、その人が何人か市の職員を連れて判士さんの自宅を尋ねたらしいんだけど、その家は鍵が開いていて、入口からは不気味な冷気を感じたらしいわ」
「そして更に部屋の方に進むと、その部屋には物が殆ど無く、部屋の中には蝋燭が何本も立っていて、でもその蝋燭からロウは垂れていなくて、何人かその場で気絶したらしいのよ」
「それで気絶した職員を外に運んだ後で、判士さんの部屋に行ったんだけど、そこには血で書かれた魔法陣があったんだって」
「しかも壁一面は血飛沫が飛び散っていて、その異質さにその場にいた人達は急いでその家を出たらしいわ」
「そしてここからが本当に嘘か本当かわからない驚愕の話しなんだけど、翌日その職員が警察も連れてその家に乗り込もうとしたんだけど、今度は鍵が掛かっていたんだって」
「その鍵を鍵屋に頼んで開けてもらって中に入ったら、そこは何の変哲も無い普通の部屋だったんだって」
「だから警察も不信感を抱いて、もうそれ以上その職員が何を言っても聞く耳持たなかったんだって」
「そしてそれから数日後……その職員は変死体で発見された……らしいわ」
(カイゼル)
「……真実が言った通りです」
「とにかくヤバい人なんです判士さんは!」
「五鬼衆の中でも誰も彼に逆らったことはないです」
(真実)
「そうそう!」
「そんでね、もう一つ実は驚くべき話があってね」
「判士さんがどこに住んでいるかは誰も知らないのよ」
「私も何度か後を付けたこともあるんだけど、何故か学園の外での判士さんを見れたことは一度も無いの」
「本当に急に消えたみたいな感じで、忽然といなくなってるのよ」
「五鬼衆の集まりの時だって、気付いたらそこにいる! みたいな」
「何て言うか、本当に人間離れし過ぎていて怖すぎるのよ!」
(カイゼル)
「そう言えば誰かが以前言ってました」
「『アイツには逆らうな』って」
「その人はとても屈強な身体をしていたんですが、何故か判士さんにだけは怯えている感じでした」
「その人が言ってたんです」
「アイツは悪魔だって」
(フローラ)
⦅おそらくそれは虎次郎さんのことなのでしょうね⦆
⦅……あの虎次郎さんが怯えていた?⦆
⦅舞さんと対峙した時もそんなこと無かったし⦆
⦅むしろ強者には向かっていくあの人が?⦆
(カイゼル)
「更にもう一つ、不気味過ぎる話しがありまして……」
「判士さんは子供の頃から悪魔に興味があったみたいで、世界中のそういう悪魔に関する記述読み漁っていたみたいです」
「それで部屋にもそういう本がたくさんあったらしいんですが、その本が……」
(真実)
「そうそう! 小学校時代の友達とかにも見せてたその悪魔に関する本だけが」
(カイゼルと真実)「全部部屋から無くなってたんですって(らしいわ)」
(フローラ)
「……どういうことですか?」
「その本だけが無くなったのはいつの話しですか?」
(カイゼル)「一緒にその血まみれの部屋を目撃した人の話しによると」
(真実)「もうその時には本が無くて」
(カイゼル)「更にその後、部屋に入った人によると」
(真実)「その部屋にも本は無かったらしいわ」
(フローラ)
「謎が多過ぎますね」
「その魔法陣の写真とかって無いですか?」
(カイゼル)
「……ちょっと待って下さい」
「一時期確かネットでも話題になった部屋なので……多分……どこかには残っているかと……」
「あっ! あったあった! これですこれ!」
カイゼルはその時の部屋の写真を送った。
その凄惨な部屋に真実は目を背けた。
だがフローラはその写真の真実に気付き、驚愕していた。
(フローラ)
「こ……これは……まさか……」
「これただの悪魔召喚の魔法陣じゃありませんよ!」
(カイゼルと真実)「どういうことですか?」
(フローラ)
「悪魔契約と言うのは言わば自らの望みの代わりに何かを差し出すもののことです」
「通常だと寿命だったり酷いものだと命を要求したりします」
「でもこの魔法陣はそれとは違います」
「これは先に代償を見せることでより凶悪な悪魔を召喚する時に使う魔法陣です」
「そう……先に代償を見せて……」
「ま……まさか!」
「カイゼルさん! その冤罪事件の関係者ってその後どうなったかわかりますか?」
(カイゼル)
「ちょっと待って下さい……」
「えっと〜……あっこれかな……」
「……えっ……どういうことだ?」
「……全員……死亡……!?」
(真実)
「ちょっとカイゼル嘘言わないでよ!」
「そんな関係者ばっかり死んでいたら大きなニュースになってないとおかしいでしょ?」
(カイゼル)
「……それがならないんですよ」
「法則が全く無いタイミングで死んでいるから」
(真実)「どういうこと?」
(カイゼル)
「通常の連続殺人って、その近辺で一日に何人かまとめて殺したりするか、とても短い周期で殺したりする、もしくは離れたところに移動して殺すとか、とにかく何らかの法則があって始めて連続と位置付けれます」
「そしてそれも殺人と思しき状況においてのみです」
「それを踏まえた上で、これを見てもらえますか?」
カイゼルは、関係者全員の死亡内容を記載しているデータを二人に送った。
(カイゼル)
「時期も場所もバラバラ」
「しかもほとんどの死因が、心臓麻痺で外傷なしで遺書も無し」
「誰がこれを見てこれが連続殺人だと思えるでしょうか」
「この症状なら特に不思議なことでも何でもないです」
「そしてこの症状の場合、遺体に対して解剖を行って毒物も薬物も出なかったら、それはもうただの病死として片付けられます」
「たまたまその関係者だっただけ、たまたまその人物が死んだだけ、たまたま運が悪かっただけ」
「偶然にしてはあまりにも出来過ぎてますが、この事件の立証は絶対不可能です!」
(真実)
「成程ね……」
「確かに記者もマスコミも、病死が何件起こってもニュースにはしないわね」
「もしニュースにするとしたら、何かそれなりの物証かあるいは動機が明確にある場合」
「そもそも警察がそれを事件にするかどうかね」
「事件性も無いものを記事に書いても誰も興味持たないし、下手したらガセネタのリスクもある記事は、誰も書かないわね」
(フローラ)
「……成程……おそらくほとんど間違いないですね……」
「高裁判士はおそらく悪魔に身を委ねる契約をしたんだと思われます」
「それも高等悪魔と契約しています」
「高等悪魔なら人間を病死に見せかけて殺すことなんて簡単ですから」
(カイゼルと真実)「えっ!? 判士さんが悪魔!? ま……まさか……そんな訳……」
(???)「……何だ……気付いてしまったんだな……なら仕方ないな……」
フローラは確かに、結界の外から不気味なその声を聞いた。
(フローラ)
「誰です! この異空間の結界に話しかけてくるなんて普通の人間には出来ないはず!」
(???)「何を今更……俺様が高等悪魔だから……だろ?」
(フローラ)「ま……まさか……貴方が……」
(???)「そう!」
その言葉と共にその不気味な男は、透明な球体を手にしたまま、異空間の結界内に侵入してきた。
(判士)「超高等悪魔のメフィスト様よ!」
その結界内に侵入してきたその不気味なものは、もう人間の姿をしていなかった。
赤い眼に禍々しい爪をして、口は裂け鋭い牙を生やしていて、更に翼を生やしていた。
そして、その不気味なものが持っていた透明な球体にフローラは気付いた。
(フローラ)「ま……まさか……その球体の中にいるのは……舞さん?」
(判士)「そうか! 貴様があの方の言っていた目障りな天界の者か!」
(カイゼル)
「ほ……本物……の……あ……悪魔……!?」
「ネ……ネットに……は……配信……しないと……」
(真実)
「マ……ジ……これマジなの……!?」
「カ……カメラカメラ!」
「特大スクープよ!」
(判士)「……あーなんかうるさい奴らがいるな……」
判士は指をパチンと鳴らした。
すると次の瞬間、フローラの目の前にパソコンを持っていないカイゼルと、カメラの無い真実が姿を現した。
(カイゼル)「えっ!? ……ここどこ? ……あれ?……何で僕……あれ? あれ? あれ?」
(真実)「あれ? アタシ……さっきまで……部屋にいた……はず……だけど……? 何で……?」
(判士)「あ〜! うるさいうるさい! 人間は本当にうるさい! 少し黙ってろ!」
判士はまた指をパチンと鳴らした。
すると次の瞬間、カイゼルと真実は透明な球体に閉じ込められた。
そしてその中で気を失った。
(フローラ)「カイゼルさん! 真実さん!」
(判士)
「これでゆっくり話しが出来るな」
「さてそれでは貴様が死ぬ前に聞いておこうか」
「貴様は何者だ? 何で魔王と手を組んでいる? 何故我々の邪魔をする?」
(フローラ)
「私は転生界の守り人フローラです」
「舞さんの過去の出来事を聞いて魔王さんと手を組んで貴方方七鬼衆を改心させているだけです」
(判士)「……何だ……そんな目的か……ならあの方の思い過ごしか……」
(フローラ)「……どういうことですか?」
(判士)
「これから死ぬ貴様にそんなこと話して何になる?」
「俺様に勝ったら全て教えてやるよ!」
(フローラ)
「……身の程知らずですね……」
「いいでしょう……何もかも喋ってもらいますからね!」
そう言いながら、フローラは臨戦態勢を取った。
そんなフローラを見て、判士は不気味な笑みを浮かべていた。
(ナレーション)
こうして転生界の守り人フローラと高等悪魔メフィストとの戦いが始まったのだった……。
〜第八章〜 魔界の秩序と人間世界の法律 【後編】
へ続く