〜第七章〜 非道の悪脳 天才故の苦悩と非情の過去 【前編】
(ナレーション)
その少女は冷血な眼をしていた。
長く綺麗な黒髪の眼鏡を掛けたその少女は、常に学年トップの成績を持つ才女だった。
だが、彼女はいつもその冷たい眼で周りにいる人間を全て見下していた。
特に頭の悪い人間には容赦しなかった。
そして、彼女の傍にはいつも鬼頭麗子がいた。
そんなこともあり、誰も彼女に近付こうとする者はいなかった。
鬼頭麗子の右腕。いつしか彼女はそう呼ばれる様になった。
そして彼女は七鬼衆となり、その頭脳を使って学園を支配していった。
彼女の名前は才加知恵。
頭の悪い人間、出来の悪い人間、学園に不要だと思う人間を、次々に学園から排除していく。
そうして付いた異名が悪脳の知恵だった……。
−良子の部屋−
良子のいる部屋で、舞と白い猫は精神上で会話をしていた。
(フローラ(精神))「才加知恵を助けてくれ……ですか……さてどうしましょうか……」
(舞(精神))
「相変わらず無策なんだな」
「そもそもその才加知恵ってどんな奴なんだ?」
(フローラ(精神))
「カイゼルさんからの情報によると学園に不能者排除法なるものを作った方だそうです」
「そして学年で最下位になったものはその法により学園から排除されるそうです」
(舞(精神))「……何かちょっとまた今までのとは違うタイプの奴だな」
(フローラ(精神))
「ええ……」
「聞いてる感じだとやってることは非道ですが」
「特に悪ということでもない様に思われます」
「それ以外では……麗子の指示で麗子に不快感を与えた男をその頭脳で追い払ったりとか」
「麗子の勉強への協力とか」
「活動としてはそんなところみたいです」
(舞(精神))
「おいおい……」
「まさかその程度で裁き下そうなんて言うんじゃ無いよな?」
「天界に住む者がそんな事情で裁き下したらそれは問題なんじゃないのか?」
(フローラ(精神))
「……そうですね……確かにその通りです」
「そして何よりも気になるのは虎次郎さんの残した言葉です」
「助けてくれとはどういうことでしょうか?」
(舞(精神))
「そうだよな」
「虎次郎と知恵の関係も気になるが」
「それよりも麗子と知恵の関係だよな」
「もし本当に虎次郎の様に奴隷として知恵が使われているなら何か理由があるはずだ」
(フローラ(精神))「そうですね……少しカイゼルさんと真実さんに聞いてみますか……」
白い猫はその場から外に飛び出して行った。
舞はその白い猫の行動に対して、少しの間呆気に取られた。
(舞(精神))「……おい! どこに行くんだ!」
(フローラ(精神))
「最近気づいたのですが……」
「毎回良子さんを気絶させるのもどうかと思いまして」
「だから私は今後異空間で作戦を練ることにしました」
「そういうことですので……それでは……」
(舞(精神))「おいおい! フローラ!」
その後、フローラからの返事は途絶えた。
(良子)「舞どうしたの?」
(舞)
「ん? ええと……何でも無いよ……」
「それよりも才加知恵ってどんな人なの?」
(良子)「知恵さんは一言で言うと、誰も実はよく知らない人って感じかな……」
(舞)「よく知らない人って?」
(良子)「知恵さんのことを詳しく知っているのが麗子さんしかいないのよ」
(舞)「どういうこと?」
(良子)
「私もよく知らないんだけど……」
「そもそも六鬼衆が出来る前から、才加知恵は鬼頭麗子と一緒にいたらしいのよ」
「そして実は六鬼衆を作るきっかけも彼女だったって言われてるの」
「でも何でそこまでして学園を支配したかったのかは、誰も知らないのよ」
「ただ、才加知恵が極端な人間嫌いで、特に無能な人間を極端に嫌っているってことは有名な話なの」
「だからいつも自分よりも劣っている他人を蔑む様な眼で見ると言われているわ」
(舞)「そうなんだ……私でもそんな目で他の人を見たことないのに……」
(良子)「舞は優しいんだからそんなことするわけないでしょ! もう何言ってんのよ!」
(舞)
「ああ……えっとー……うん……そうだったね……」
「……ちょっと私出て来るわね」
(良子)「うん! わかった! 行ってらっしゃい!」
舞は良子の家を出て行った。
―路上―
(舞)
「しかし謎の女だよね才加知恵……」
「フローラさんも今回ばかりは何も思いつかないんじゃないのかなぁ」
舞はそんな独り言を言いながら、一人で路上を歩いていた。
そんな舞の後ろから二人の老人が声を掛けて来た。
(老人A)「もしもしお嬢さん、何かお困りかのぉ……」
(舞)「……いえいえ何も困ってませんよ」
(老人A)「そうか……まー貴方は元魔王だから困ることなんか何も無いのかのお」
その老人の言葉を聞いて、舞は戦闘体制を取った。
(舞)「何で私の正体を知ってるの? アンタ達何者なの?」
(老人B)
「フォッホッホ……」
「……やめときなされ……今の貴方じゃ私達には叶いませんよ……」
(舞)「その話し方……アンタ達もしかしてフローラと同じ天界の方なの?」
(老人A)
「如何にも……人間の姿に化けてはおるが私達は天界の者です」
「ただフローラのいる転生界とは違います」
「私達は神様直属の天使です」
(舞)「天使ですって!?」
(老人B)「そうです……私はガブリエルと申します」
(老人A)「私はラファエルと申します」
(舞)「それで……天使の方々が一体私に何の用があるの?」
(ガブリエル)
「……ではちょっと場所を変えましょうか……」
次の瞬間、舞とその老人二人は光に包まれてその場から消え去った。
次に舞が目を開けた時、そこは異空間だった。
そして舞の目の前にはさっきまでの老人の姿は無く、そこには天使の姿をした者が並んで立っていた。
(舞)「ここはどこだ? ん? 言葉が戻っている!?」
(ガブリエル)
「この異空間は貴方がいた異世界に近い環境ですからね」
「おそらくフローラの力が届かなくなったのでしょう」
(舞)
「そうか……まー何でもいい!」
「それで俺様に何の用があるんだ?」
(ラファエル)
「単刀直入に言います」
「我らの裏切り者であるルシファーを倒す為の手助けを貴方にお願いします」
(舞)
「ん? そいつは誰だ?」
「何かどこかで聞いたことはある名前の様な気もするが……」
(ガブリエル)
「貴方は知らないと思いますよ……」
「なにせ元天使なので……」
(ラファエル)
「そうです……こともあろうに我等の主である神に反旗を翻した元天使です」
「我々七大天使で消滅させたと思っていたのですが……」
「どうやらその者がこの世界にいるということらしいのです」
(ガブリエル)
「だから我々はこの世界に潜んでいるルシファーを探す為に貴方達を利用することにしました」
(舞)
「ん? ちょ……ちょっと待ってくれ!」
「今の言葉はどういう意味だ?」
(ラファエル)
「……貴方達をこの世界に転生させたのは我々です」
「我々がルシファーを探す為に貴方方をこの世界に転生させました」
その言葉を聞いて舞は怒りを抑えることが出来なかった。
(舞)「貴様達か! この俺様をこんな身体にしたのは! 許せん!」
舞はラファエルに殴りかかろうとした。
だが、ガブリエルが眼を見開いた瞬間、舞は動けなくなってしまった。
(舞)「クソッ! 貴様! 何をした!」
(ガブリエル)
「何もしてませんよ」
「ただ天使の結界を張っただけです」
「人間の身体で天使に歯向かえると思っていたんですか?」
舞は何とか動こうとしたが、全く動くことは出来なかった。
そして舞は足掻くことを諦めることにした。
すると身体が動ける様になった。
(ラファエル)
「魔王デスターニャ……我々の頼みを聞いてくれませんか?」
「勿論それ相応の見返りは用意します」
(舞)「見返りだと?」
(ラファエル)
「そうです……例えば貴方を元の世界の魔王に戻すとか……」
(ガブリエル)「ラファエル正気ですか? それは生に対する冒涜ですよ!」
(ラファエル)
「ガブリエル……そこは何も問題はありません」
「本来デスターニャの世界と我等天界は全く別の世界」
「そこで何が起ころうともそれはまた別の世界の問題です」
「それよりも我々は自分の世界の問題を解決しないといけません」
「ルシファーがなぜこの世界にいるのか」
「そして何をしようとしているのか」
「そしてどこにいるのか」
「現状では何もわかりませんが」
「ルシファーを抹殺するということは神のご意志です」
「ならば我々はそのご意志に則って行動するのみです」
(舞)「ん? どういうことだ?」
(ガブリエル)
「我々天使は人間には本来見えない存在」
「それは人間の姿をしていてもです」
「つまり我々にはこれ以上の調べる術が何も無いのです」
「せめてルシファーが自らの姿にでもなれば我々も探知出来るのですが」
(ラファエル)
「ええ……ルシファーは我々に探知出来ない様にこの世界全体に結界を張っています」
「そしてその結界はこの世界に存在する巨大な核爆弾と同等の破壊力を持っています」
「つまりその結界を破壊した瞬間……この世界は一瞬で無くなります」
(ガブリエル)
「……なので我々天使はこれ以上どうしようも出来ないのです」
「だから貴方に希望を託すことにしました」
(ラファエル)「そういう事です……ご理解頂けましたか?」
(舞)
「理解も出来たし条件も悪くないから協力はしてもいいが」
「俺様は今フローラと一緒にこの世界の人間を裁いている途中で……」
舞が次の言葉を言おうとしたのをガブリエルは遮って話し出した。
(ガブリエル)「我々は鬼頭冷道がルシファーではないかと考えています」
(舞)「鬼頭冷道が?」
(ラファエル)
「ええ……彼は数年前に突然人が変わったかの様に英傑学園の支配を始めました」
「そして同時期にその娘である鬼頭麗子もその手助けをする様になったのです」
(舞)
「……ちょ……ちょっと待ってくれ!」
「つまりどういうことだ?」
(ガブリエル)
「鬼頭冷道はルシファーに精神を乗っ取られています」
「そして鬼頭麗子はその冷道に操られているというのが我々の予想です」
(ラファエル)
「ええ……だから我々は貴方のマインドオペレーションの能力に細工をすることにしました」
「この細工した能力なら人間の精神の中に入ってその人間の本心を引っ張り出す事が出来ます」
「そしてそれはたとえ精神を操られていてもその支配から解放出来るということと同意味となります」
「我々はこの能力ならルシファーの精神支配から鬼頭冷道も解放出来ると信じています」
(舞)
「……まさか能力まで貴様達に細工されていたとはな……」
「ん? ってことは……ま……まさか……」
(ガブリエル)
「貴方の想像通りです」
「我々が貴方の能力を抑えました」
「全ては我々の証明の為にね」
(舞)
「な……なんてことしやがるんだ!」
「……ってことはまさか……俺様はこの世界でももっと能力が高い魔法が本来なら使えるってことか?」
(ラファエル)「ええ……本来の貴方はこの世界でも魔王に君臨出来るぐらいの能力は持ってます」
(ガブリエル)「だからそんな能力で暴れられたら困るから我々で能力を抑えさせてもらいました」
(舞)
「ちょ……ちょっと待ってくれ!」
「ならそのまま普通に転生していたら俺様は次は何になっていたんだ?」
(ラファエル)
「貴方の次の転生先は貴方のいた異世界にそびえる森です」
「そしてその森は妖しの森と呼ばれ人々を恐怖に陥れる予定でした」
(舞)
「……次は森だったんだ……どっちが良かったんだそれは……」
「ん? 待てよ……貴様達が俺様の能力を抑えていたということは……」
(ラファエル)
「ええ……我々なら貴方の能力を戻すことも可能ということです」
「なのでもし我々の願いを聞き受けてくれるなら……もう少しだけ貴方の能力を戻すことを約束します」
(舞)「……もう少しってどれくらいだ?」
(ガブリエル)「貴方が暴走しても人間が止めれるくらいですね……」
(ラファエル)「ええそれぐらいですね……どうでしょうか?」
(舞)
「フン! 俺様にとって引き受けない以外の選択肢などはないわ!」
「いいぜ! 要は鬼頭冷道を殺せばいいんだな?」
(ラファエル)「少し違います……鬼頭冷道をそのまま殺してもルシファーは殺せません」
(舞)「どういうことだ?」
(ラファエル)
「まずは鬼頭冷道の中で操っていると思われるルシファーを表に引っ張り出して下さい」
「そして貴方にはそこまでのお手伝いをお願いしたいと思っています」
(舞)「……引っ張り出すとはどういうことだ?」
(ラファエル)
「マインドオペレーションの能力は通常は精神に入るだけの効果しかありません」
「しかし二つの精神が潜む身体に使った時は違います」
「その時はその者の精神を乗っ取っていた方がその本体から引きずり出されます」
「もし鬼頭冷道の中にルシファーが潜んでいるなら……」
「その魔法を鬼頭冷道が受けた時にルシファーが貴方の目の前に姿を現すでしょう」
「後は我々がそのルシファーの気を察知して直ぐ貴方の元に駆けつけます」
「そしてルシファーを消滅させます」
(舞)
「成程……しかし貴様達の力なら俺様などに頼らなくても自らの力でどうとでも出来るのでは無いのか?」
(ガブリエル)
「それが出来るなら貴方には頼みません」
「我々はこの世界の人間に干渉すること自体を禁じられています」
「それはこの世界における秩序を壊すことになるからです」
(舞)「成程な……天使様にも色々な事情があるということか」
(ガブリエル)「まーそんなところです」
(舞)「わかったぜ! それで俺様はまず何をすればいいんだ?」
(ガブリエル)
「……貴方は今まで通り七鬼衆を成敗していって下さい」
「そうすればいずれ鬼頭冷道に辿り着けます」
(ラファエル)
「鬼頭冷道はとても危険察知能力が高い人間」
「一人で学園から出ることは皆無です」
「更に自らが誰かに接触することもほとんどありません」
「ただ娘の麗子にだけは気を許していことがわかっています」
「その鬼頭麗子はご存知の通り七鬼衆のリーダーです」
「つまり貴方とフローラで七鬼衆を成敗していったその先にいる存在です」
「まずは鬼頭麗子まで辿り着いて下さい」
(舞)
「わかったぜ!」
「貴様達の手下になるのは少し気に食わないが俺様の能力を戻してくれるなら話しは別だ!」
「貴様達の願いを聞いてやる」
「だから早く俺様の能力を戻してくれ!」
(ラファエル)「ありがとうございます……それでは……」
ラファエルとガブリエルは長い詠唱を始めた。
そしてその詠唱が終わった後、舞は自分の中に今まで以上の能力が備わったことを感じていた。
(舞)「おお……なんか能力が前より強くなったのを感じるぞ!」
(ラファエル)
「これで貴方の能力は飛躍的にレベルが上がりました」
「それでは一つずつ説明します」
「まずライターの魔法はランクアップして掌から炎が出る様になりました」
「そして更にその炎は投げることも出来る様になりました」
「これがファイヤーの魔法です」
ラファエルのその説明の通りに舞が魔法を唱えると、舞の掌に火の玉が出た。
そして舞がそれを投げる動作をすると、その掌から放たれた火の玉は勢いよく真っ直ぐ飛んでいった。
(舞)「おお! これは中々いいぞ! 少しだけだが魔王の頃の魔法に近づいたぞ!」
(ガブリエル)
「そしてエレクトロの魔法もレベルアップしました」
「これにより掌からエレキと同等の電気を自分が望むままにいくらでも使える様になりました」
「これがフレキの魔法です」
ガブリエルの説明の通りに舞が魔法を唱えると、舞は自分の掌の中に目には見えないが確かにごく微量の電気がずっと流れていることを感じた。
(舞)
「これはどうなんだ……?」
「こんなの役に立つのか……?」
(ラファエル)
「そして貴方の肉体における方の力もレベルアップしました」
「これでこの世界での同じ年齢の男性の平均値まで力が上がったと思います」
(舞)
「ああ! それは俺様も感じていた!」
「力が今まで以上に湧いてくる!」
「これなら多少の人間ならこの力だけでぶっ倒せそうだ!」
(ガブリエル)
「そしてマインドオペレーションもレベルアップさせておきました」
「今後は対象者の精神に貴方が影響を及ぼす事が出来るようになります」
「これで中々本心を見せない者であってもこの魔法の前では本心を晒すしか出来なくなりました」
(舞)
「……なんかよくわからんな」
「そんなことよりまだこの魔法はフローラのクソの力が無いと使えないのか?」
(ラファエル)
「ええ……そういう風にしています」
「そうしないと我々の細工も発動しませんので」
(ガブリエル)
「聖なる存在と悪の存在が交わる時に初めて対象者の精神の中に入り込むことの出来る魔法」
「それがこのマインドオペレーションですので」
(舞)
「フン! 前に誰かに聞いた様な言葉をそのまま言いおって!」
「まあ良いわ! この程度で許してやろう!」
(ラファエル)
「最後に一つ……我々と接触したことはフローラには内緒にしておいて下さい」
(ガブリエル)
「我々はいつでも貴方のことを見ていますので……お忘れなく……」
その直後、ガブリエルは強い光を放った。
舞が次に眼を開けた時、舞は元の路地に戻っていた。
そして舞の目の前から、ラファエルとガブリエルは消えていたのだった。
(舞)
「……なんかよくわかんないけど、能力を少しだけ強化してもらったし、これからはもう少しだけ頑張るかな……」
「しかしルシファーか……なーんかどこかで聞いたことある気がするんだけどなー……」
舞はそんなことを呟きながら、また路地を歩いていった。
―異空間結界―
舞がラファエルとガブリエルと会っていた頃、フローラは自ら作った結界の中にいた。
そしてそこで、カイゼルと真実とネット通信で会話をしていたのだった。
(カイゼル)
「もう神様〜 今度は一体何をしたんですか?」
「何かこう誰かの存在消された様な感覚なんですけど〜」
(真実)「そうそうそれ! 私もそれ感じてた! 一体何をしたの?」
(フローラ)
「……事情はいえないですが……ちょっと皆さんの記憶を操作しました」
「そしてそのせいでお二人の記憶にも影響が出たんだと思います」
(カイゼル)「ま〜それが神様の奇跡なら……僕は何も言いません」
(真実)「そうだね……って何でカイゼルまでいるの? いつフローラ様に仕えたのよ?」
(カイゼル)
「真実さん、僕の方が先ですから」
「それにフローラ様ではなくて神様ですよ」
「失礼ですよ真実さん!」
(真実)「何よー! 相変わらず生意気ね!」
(フローラ)
「まあまあお二人とも」
「喧嘩させる為に呼んだわけではありませんから」
「落ち着いて下さい」
(カイゼル)「それが神様のご意志なら僕は従います」
(真実)「はいはい! 私も私も!」
(フローラ)
「お二人に聞きたいのは才加知恵のことです」
「何かご存知では無いですか?」
(カイゼル)
「……知恵さんのことは僕も以前調べたことがあります」
「知恵さんはちょっと僕達とは毛色が違う気がしたので」
「調べたところ知恵さんは小さい頃いじめられっ子でした」
「そしてその知恵さんをいつも金剛寺虎次郎という方が守っていたんです」
「……あれ? 金剛寺虎次郎……?」
「どっかで聞いた様な……いやむしろいつも近くにいた様な……」
(真実)
「そうそう! 私も知恵さんのこと気になって追ったことあるよ」
「そしたら中学校時代に麗子さんと既に知り合ってたんだって」
「それでしかも麗子さんの勧めで今の学校に進学したんだって」
「本当なら知恵さんならもっと学力の高い有名な学校にも行けるのにね」
「でねここからが不思議なんだけど」
「知恵さんは麗子さんと出会ってから人が変わった……いや秀才になったって言われているの」
「でも誰も二人の間に何があったかについては知らないのよ」
「そして知恵さんは、この学園に来た時には既に麗子さんの右腕になっていた」
「そしてその直後、金剛寺虎次郎なる男が麗子のボディーガードになったらしいのよ」
「そしてその三人で始めたのが、今の七鬼衆? 六鬼衆? の元となった、英傑学園を支配する三鬼衆って組織だったと言われているそうよ」
(カイゼル)
「真実さん……それ僕が言うつもりだったのに……」
「とにかく神様、知恵さんとやり合うつもりなら気をつけて下さい」
「あの人は僕なんかじゃ太刀打ち出来ないくらいの女性です」
(真実)
「本当そう!」
「知恵さんは一筋縄ではいかない人です」
「そして先程伝えた通り、誰も彼女の本心を聞いたことはありません」
「もし、本心を聞くことが出来たらそれはとんでもないスクープになるので、その際は必ず教えて下さいね」
(フローラ)
「わかりました」
「お二人共ありがとうございました」
フローラは回線を切った。
(フローラ)「……成程……やはりあの方にも詳しく話しを聞かないといけないみたいですね」
フローラは自ら作り出した異空間を閉じて、元の白い猫の姿に戻り、路地を歩き出した。
―???―
(???)「誰だ!」
(???)「私です……フローラです」
白い猫が、ある人物の元に現れた。
その白い猫が現れたのは、警察署の独房だった。
そしてそこにいたのは、この間自首をしたばかりの虎次郎だった。
(虎次郎)
「なんだアンタか」
「どうやってここまで侵入した?」
「そこに何人か警官がいたと思ったが……」
(白い猫)「こちらにいた方々には少々眠ってもらいました」
(虎次郎)
「……成程……」
「そしてわざわざ俺のところに来たということは……聞きたいのは知恵のことか」
(白い猫)
「ええ……」
「実は貴方とお会いした時から1つ気になっていた事があります」
「貴方は本当はとても頭の切れる方だとお見受けしました」
「なのに貴方はその頭を七鬼衆の為に使うことは無かった」
「そこで気付いたのです」
「もしかして理由があって使わなかったのではないか」
「鬼頭麗子がそのことに気付くと知恵さんにとって不利なことがあったから」
「違いますか?」
(虎次郎)
「……ほぼほぼアンタの思ってる通りだよ……さすがだな……」
「俺と知恵は実は幼馴染なんだ」
「昔の知恵は、今みたいな頭のキレる冷酷な女性ではなかった」
「何も出来なくてドジで頭も気も弱い女の子」
「だからいじめのターゲットにもなりやすかった」
「そんな知恵をいつもいじめっ子達から守っていたのが、この俺だ」
「言うなれば俺はそんな知恵を守りたいが為に、色んな武道を習っていたのかもしれない」
「そして俺はいつしか知恵のボディーガードみたいになってた」
「その頃の俺は、知恵から貰える『いつも守ってくれてありがとう』って言葉を聞く為だけに毎日頑張ってた」
「そしてそんな俺の力もあって、知恵へのイジメも気付けば減っていってたんだ」
「そんな日々が俺の事件で一気に崩れ去った」
「皮肉なことに、今度は俺のせいで知恵がイジメられる様になった」
「そしてそのイジメは今までの報復もあり、前以上に酷いものとなった」
「でもその頃の俺は知恵の側にいることが出来なくなっていた」
「鬼頭冷道がその事件を無かったことにする条件として提示してきたのが、俺に地下闘技場の選手として戦うことだったからだ」
「そしてその選手になる為の特訓が始まり、俺は学校をしばらく休まないといけなくなった」
「そうして知恵と段々疎遠になってた時に、鬼頭冷道から麗子のボディーガードを頼まれたんだ」
「だから俺は麗子にお願いしたんだ」
「『ボディーガードをやる代わりに才加知恵をイジメから守って欲しい』って」
「麗子はその時既に何人も従えるクラスのボスみたいな存在だったから」
「麗子は少し困惑しながらも、『わかった』って言ってくれたよ」
「それから知恵のイジメは無くなったって風の噂で聞いて、俺は心底安心していた」
「そんなある日、鬼頭冷道からこの学園への入学を推薦されたんだ」
「名目は学園内での麗子のボディーガードだったけど、知恵も一緒の学園に来ると麗子から聞いていたから、久しぶりに知恵に会えると思い、俺は喜んでいたよ」
「だがこの学園で久しぶりに知恵を見て俺は驚愕した」
「そこには昔の優しかった眼が、嘘の様に細く鋭く冷酷な目付きとなっていて、秀才の様に麗子に紹介されていた一人の女性がいた」
「昔のイジメられっ子だった知恵はそこにはもういなかったんだ」
「どんなにイジメられても誰の悪口も言わなかった」
「そんな知恵が目の前で平気で人を蔑む様な言葉を吐いていた」
「俺は頭がおかしくなりそうだったよ」
「だから知恵を呼び出して聞いたんだ」
「『一体今まで何があったんだ?』『何がお前をそこまで変えたんだ?』って」
「そしたら、『もう私は以前の私じゃない。今後は気安く私に話しかけないで』って強い口調で言われたよ」
「俺はもうそれ以上何も聞けなかった」
「でも知恵が望むなら俺はそれでもいいと思ったよ」
「だから知恵が三鬼衆の提案をした時にも何も言わなかった」
「知恵が望むならそれに従うだけだと思ったからな」
「でも……アンタ達に出会って、そしてあの事件の真実を聞いて、俺のその時の選択は間違いだったって気付いたんだ」
「もう遅いかもしれない! もしかしたら今の状況を知恵は望んでいるのかもしれない! だけど俺は!」
虎次郎は白い猫に向かって、頭を深々と下げた。
(虎次郎)
「頼む! 知恵を! 知恵を救ってくれ!」
「これはアンタ達にしか出来ない! 頼む!」
(白い猫)
「色々話してくれてありがとうございます」
「わかりました」
「必ず……必ず知恵さんを救うことをお約束します」
(虎次郎)「ありがとう……本当にありがとう……」
虎次郎は何度も何度も白い猫に頭を下げた。
―路地―
独房から歩いて来た白い猫は、路地を歩いていた。
そして逆の方から、舞が何かを考えながら歩いていた。
そしてそのまま二人は路地の中央で相対した。
(舞)「どう? 今回の作戦は決まった?」
(白い猫)
「……はい……」
「ただこの方法で救う事になるかどうかはわかりません」
「もしかしたら苦しめるだけになるかもしれません」
(舞)「まーいいけど……どうせ私は言われた通りにやるだけだからね」
(白い猫)「……貴方の方こそ……何かあったのですか?」
(舞)「ん? いや……何も……無いよ……」
⦅危ねえ! さすがコイツ鋭いな!⦆
(白い猫)「まーいいですけど……それじゃー行きますか……」
(舞)「うん!」
そして一人と一匹は、そのまま一緒に路地を歩いて行ったのだった……。
(ナレーション)
舞とフローラは別々の思いを抱えながら、才加知恵との戦いに向かうのだった。
才加知恵の過去に一体何があったのか?
そしてフローラは何をしようとしているのか?
〜第七章〜 非道の悪脳 天才故の苦悩と非情の過去 【後編】
へ続く