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〜最終章〜 人間の価値【後編】

 異世界エルドラド。

 そこには最強と呼ばれた魔王が存在していた。

 その者は圧倒的な魔力を持ち、またそのカリスマ性から魔族の中では崇められていた。

 だが、同時に人間に対しても無駄な殺戮をすることは一切無かった。

 だがそれは人間を恐れていたわけではない。

 彼は弱い者を攻撃する事が好きでは無かっただけだった。

 だから彼は自ら人間の土地に侵略する事は一切しなかった。

 だが、人々は彼を恐れた。

 それと同時にその土地にある財宝を人々は求めていた。

 そして人々は彼らの地に入ろうとした。

 だが、魔王軍はその人間達を最も簡単に返り討ちにした。

 困った人間達は、神に祈りを捧げる事にした。

 だが、そんな身勝手な願いを聞く神がいるはずは無かった。

 そんな人間達の下に一匹の悪魔の姿をした者が訪れた。

 そしてその人物は言う。


「これを使え……」


 その者は何故か神具である魔封じの玉を持っていた。

 そしてその者はそれを渡した直後、消え去った。

 その土地の王と呼ばれる人物は、その玉を勇者と呼ばれるその土地の強者に渡した。

 勇者は仲間達と共に、彼の地に乗り込み魔封じの玉を使った。

 すると、一切の魔法がその土地では使えなくなった。

 人間達はこの機に乗じて、一気にその土地に流れ込んだ。

 魔王は、最悪の事態を想定して自分が死んだ時に発動する結界魔法を放った。


「もし俺様が仮に万が一でも負けてもこれで大丈夫だ」


 そして魔王は勇者一行との戦いに挑んだ。

 そして……敗れ去った。

 だがその直後結界魔法は発動し、彼の地は人間を人間の土地に飛ばした後で、別の異世界へと姿を消した。

 その魔王は魔族の間で伝説となった。

 命を賭してそれでも尚、全ての魔族を救った存在。

 その名は魔王デスターニャ。


 

 その頃、デスターニャは自らの精神の中にいた。

 そしてその中でひたすら繰り返されていたのは、デミトリと呼んでいたルシファーとの出会いと精神魔法を自らの魔法とするまでの長い道のり、そしてメフィストの裏切りの一部始終、そして人間に倒されたあの日の映像だった。

 そう、人間と違いデスターニャには後ろめたい後悔の気持ちが何一つ無かった。

 全て自分で満足した結果。全て自分が起こした結果。

 そこには清々しい程に後悔は何一つ無かった。

 だが、だからこそ自らの精神から出る方法が何一つ見当たる事もなく、ただただ目の前に広がる映像を眺めていた。


(デスターニャ)

「デミトリの奴め……」

「全てわかった上でこの俺様を精神世界に閉じ込めたな……」

「流石にこの俺様でももうどうしようもないな……」

「まぁでももうどうでもいいか……」

「どうせこの世界がどうなろうと俺様には何一つ関係無いことだしな……」

「それにこのまま仮にこの身体が朽ちてしまえば俺様の魂はまた転生する事だろう」

「そしたらまた転生界でひと暴れするのも悪くないか……」

「さて……それじゃーしばし瞑想でもするとするかな」


 デスターニャは自らの精神世界の中で、目を閉じて瞑想を始めた……。

 


 だが瞑想を始めてしばらく経った頃、デスターニャはどこからか聞こえて来る声で目を覚ました。


『………帰って来て!』


(デスターニャ)

「……ん?」

「……なんか耳障りな声が聞こえて来るな……」

「……おかしいな……ここには俺様以外誰もいないはずだが……」


 デスターニャは気のせいだと思い、再び瞑想を始めた……。


『だから帰って来て!』

『あなたはこんなところで終わる人じゃない!』


 デスターニャは瞑想をやめた。


(デスターニャ)

「確かに聞こえるぞ!」

「どういう事だ?」


 そしてデスターニャはその聞こえて来る声に耳を傾けた。


『あなたがいなかったら僕はずっと同じ過ちを繰り返していた』

『あなたがいたから私は真実を求める事に逃げなくなった』

『お前のおかげで俺は過去と向き合う事が出来た』

『あなたがいたから私は新しい人生をやり直す事が出来た』

『あなたがいたから私は本来の自分を取り戻せた』


『だから帰って来て(来い)!』

『あなたは私達の救世主でしょ(だろ)!』

『あなたはこんなところで終わる人じゃない!』


 デスターニャは確かに聞こえて来るその声に驚いた。


(デスターニャ)

「これは……まさか……人間の声……」

「どういうことだ?」

「なぜ人間が俺様に呼び掛けているんだ……?」


 デスターニャは人間が取っている行動が理解出来なかった。

 そしてその行動が自らの精神世界に影響を及ぼしているその現状が理解出来なかった。

 デスターニャは、異世界エルドラドで恐怖の魔王として人間から畏怖される存在だった。

 だから人間が自分に呼び掛ける事など皆無だったのだ。


 その頃、舞の周りには麗子、カイゼル、真実、知恵、そして知恵から状況を聞いて脱獄して来た虎次郎がいた。

 そして全員がそれぞれの思いを口にして舞に呼び掛けていた。

 その全員の気持ちが奇跡を起こして、デスターニャの精神まで届いていたのだった。


(デスターニャ)

「クックック……」

「人間如きに応援されるとは俺様もいよいよ終わりなのかもな……」

「そもそもコイツらは俺様が何者かも知らない……」

「なのに何故呼び掛けれるのだ……」

「まったく人間というのは理解に苦しむな……」


 デスターニャはそう言いながら立ち上がった。


(デスターニャ)

「でもまーそこまで言われてここから出ないのも違うよな」

「そもそも俺様は魔王デスターニャ様だ!」

「俺様に不可能は無いはずだ!」

「考えろ……何も手が無いはずが無いのだから……」


 そしてデスターニャは、今までこの魔法を使って来た時の事を思い出していた。

 そしてある可能性に気付いた。


(デスターニャ)

「クックック……」

「成程な……出る為の鍵は言いたくない本音ってやつか……」


 そしてデスターニャは空に向かって大声で叫んだ。


(デスターニャ)

「俺様は異世界エルドラドの最強魔王デスターニャ」

「いずれ必ず魔王に返り咲く存在!」

「だがその前にやる事がある!」

「デミトリを……いやルシファーを倒す!」

「誰の為でも無い! この俺様が後悔しない為だ!」

「俺様の前で俺様以外が好き勝手やるなど絶対に許さない!」

「何故なら俺様こそ最強だからだ!」


 魔王がその言葉を言った直後、魔王の精神世界は光に包まれた。

 そして、舞は意識を取り戻した。

 その様子を見て、麗子は泣きながら舞に抱き付いた。


(麗子)「舞! 良かった! 本当に良かったよー!」


 舞は麗子の態度に少し困惑していた。

 

(舞)

「何で貴様が泣いているんだ?」

「もうわかってるんだろ?」

「俺様は貴様の妹って存在では無いんだぞ……」


(麗子)

「……そんな事はわかってる……」

「でもそれでも……あなたは私の恩人に違いないから……」


 舞は麗子の言葉の意味がわからなかった。

 ただ何となく感謝はされていると思い、悪い気はしなかった。

 そして舞が周りを見渡すと、そこにはカイゼル、真実、虎次郎、知恵が同じ様に泣いていたのが見えた。

 その光景に更に舞は戸惑っていた。


 その直後、神々しい光に包まれて羽の生えた人間の様な存在が舞の目の前に現れた。


『た……大変です……』

『天界が……天界が……崩壊しかけています!』

『助けて下さい!』


 舞は最初その者の言葉の意味がわからなかった。


(舞)

「……誰かと間違えていないか?」   

「俺様は天界とは関係ないぞ」


『天界を崩壊させているのはルシファー様とフローラ様です!』


 舞はその言葉を聞いてとても驚いた。

 そしてその天界の者の胸ぐらを掴んだ。


(舞)

「貴様! 何を言ってんだ?」

「そんなバカな事があるはずないだろ!」


『それが本当なんです……とにかく一緒に来て下さい……』


 そして天界の者が舞を連れて行こうとしたその時だった。


(麗子)

「待って!」

「フローラさんがおかしくなった原因、私知ってる」


 そして麗子は意識が朦朧としながら自分が見た光景を、舞と天界の者に伝えた。

 そして麗子は更に自らの過去の記憶と【秘密の部屋】の事も話した。


(舞)

「成程……【闇堕ちの玉】だなそれは……」

「だとするならルシファーの魔法の謎も解けた……」

「そしてその破り方もな!」

「とりあえず【秘密の部屋】まで案内してくれ」

「……いや……それはいい……なぜかわからんが俺様はその部屋の行き方がわかっている……なんか変な感覚だが……」


 そして舞は自分の感覚で【秘密の部屋】に辿り着いた。

 その部屋の真ん中には魔法陣が書かれていた。

 そしてその周りに七本の白い柱が立っていた。

 そしてその魔法陣の空中に黒い球が浮いていた。


(舞)

「……やはりか……」

「デミトリめ……こんな方法を思い付くとは……」

「ただこの方法なら……【闇堕ちの玉】の効果を無効にすることも出来るかもな……」


『それはどういう意味ですか?』


(舞)

「説明は当事者全員集めてからだ!」

「まずはこの部屋に関係する人間全てを呼ぶ!」


『正気ですか?』

『この部屋は人間にはとても耐えれないと思いますよ?』


(舞)

「大丈夫だ」

「それにこれはアイツらにしか出来ない事だからな」


 そして舞は理事長室に戻り、人間達を連れて【秘密の部屋】に入った。

 

(カイゼル)「こ……こんなものが現代に存在するんですか!?」

(真実)「私……以前この部屋に来てる……」

(虎次郎)「何か禍々しい気を感じるなこの部屋」

(知恵)「……本当……でも何か懐かしく感じるのは何でだろ……」

(麗子)「この部屋……あの日見たあの部屋……」


(舞)「さてと……後残り二人だな……」


 するとその直後天界の者は二人の人間を連れて来た。


『言われた通り連れて来ましたけど……』

『1人死体だし1人意識朦朧としてますがどうするんですか?』


(舞)「その柱とその柱の後ろにそいつらはそのまま置いてくれ」


 麗子達はその二人を見てとても驚いた。


(麗子)

「えっ!?」

「……行方不明の判士とそれにもう一人は現在服役中の剛!?」

「一体何をしようとしてるの!?」


 麗子達は舞の考えがわからずざわざわし始めた。

 そんな中、舞が口を開いた。


(舞)

「説明は後だ!」

「とりあえず貴様らは俺様が指示した通りに柱の後ろにそれぞれ立ってくれ!」


 麗子達は困惑しながら舞の指示通りにそれぞれ柱の後ろに立った。


(舞)

「よしっ!」

「じゃー始めるぞ!」


 そして舞は詠唱を始めた。

 するとその柱から黒い光が立ち上り始めた。

 そしてその柱の中には鏡の様に、それぞれが立ったところのその人物が映し出された。


「これは……どういうこと(だ)?」

「何で……私(僕)(俺)が柱に映し出されてるの(んだ)?」


 意識のある人間達は一様に困惑していた。


(舞)

「この魔法陣は言うなればただの増幅と抽出をするだけで実は一番重要なのはその柱の方だ」

「この機構は【エネルギー抽出機構】って言われるもので本来はそれぞれの柱に属性のあるエネルギーを立てることで真ん中に置いたものにそのエネルギーを移していくものだ」

「例えば真ん中に剣を置いて柱に炎のエネルギーを立てればその剣は炎の属性を持った剣となる」

「だがこの機構には弱点があってな、それぞれの柱のエネルギーが無くなったり、もしくは柱が壊れたりしたらその抽出は行われなくなるんだ」


(麗子)「それと私達と何の関係が?」


(舞)

「……ずっと疑問だった……」

「何故ルシファーがこの学園にこだわり続けていたのか……」

「そしてなぜこれ程の人間達を必要としていたのか……」

「その謎がようやく解けた」

「本来【闇堕ちの玉】の効果はただ攻撃をする気を起こせなくさせるものでそのエネルギーは闇の力」

「この為、闇の力がどれだけ大きくてもより巨大な光の力の前では無力となる」

「だがルシファーはそのエネルギーを掛け合わせることと、そのエネルギー自体を見直すことで闇だけでは辿り着けない、自死を促す程の膨大な負のエネルギーを抽出することに成功した」


(知恵)「つまりどういうこと?」


(舞)

「まだわかんないのか?」

「この柱は言うなればお前達自身そのものだ!」

「お前達が数多の人間共にした仕打ちとその時に出た負のエネルギーをルシファーは抽出したんだよ!」


 全員が舞の言葉を聞いて絶句した。


(舞)

「だからこれはお前達にしか出来ない!」

「俺様が貴様らをそれぞれの柱のエネルギーに干渉出来る様にしといた」

「貴様らは自分自身ともう一度向き合い、そして打ち勝て!」

「そしたらその柱は消滅するだろう」

「じゃー俺様はあのバカを正気にさせに行く!」

「こっちは任せたぞ! 人間共!」


 そして舞が天界の者と旅立とうとした瞬間、麗子は舞に尋ねた。


(麗子)「貴方は……一体誰なの?」


 舞は麗子の方に振り向くと、微笑みながら答えた。


(舞)「俺様は異世界エルドラドの最強魔王デスターニャ様だ!」


 その直後、舞は天界の者と共に姿を消した。

 そして残された者達に対して、柱がそれぞれ問い掛け始めた。


『汝……今の自分のままで本当にいいと思っているのか?』


 次の瞬間、そこにいた全員がそれぞれの柱の中に吸い込まれていったのだった……。



『本当にあの人間達で大丈夫なんですか?』


天界に向かう途中で天界の者は舞に尋ねた。


(舞)

「アイツらなら大丈夫……」

「アイツらは過去の自分と決別して来た強い奴らだ」

「今では頼もしい俺様の僕達だよ」


 舞は嬉しそうにそう答えた。


(舞)

「それよりわかってるのか?」

「俺様はこの姿のままでは確実に勝てないぞ」


『その点は大丈夫です』

『天界に着いたら私の能力で元の魔王の姿に戻して差し上げます……』


(舞)「……貴様……ただの天使ではないな……」


『そんな事はありません……』

『私はただの四大天使の一人です』

『ガブリエルとラファエルより少しだけ位が上なだけです……』

『さて……そろそろ着きますよ……』


 舞とその天使は天界に辿り着いた。

 舞は天界の状況を見て驚愕した。

 そこには圧倒的強さと【闇堕ちの玉】を携えて次々に天使を消滅させていくルシファーと、ありとあらゆる天使の攻撃を跳ね返す防壁を張り続けている黒い羽根を携えたフローラの姿があった。


(舞)

「チッ! あのバカ……」

「あんな簡単に操られやがって……」

「おい! さっきの約束……」


 舞がそう言いながら振り返ると、そこには先程の天使とは全然違うとても大きな女神の様な天使が立っていた。

 そして、その側には消滅したはずのガブリエルとラファエルともう一人見た事が無い天使が立っていた。


『ミカエル様! 正気ですか?』

『こんな奴に我々の味方をさせるのですか?』

『私は反対です!』


 ガブリエルとラファエルはミカエルと呼ばれているその天使に猛抗議していた。


『お黙りなさい!』

『これは神のご意志です……』

『それに貴方方二人が極秘に行った事も神は知っております……』


 ミカエルの叱責を聞いてガブリエルとラファエルは何も言えなくなっていた。

 そしてミカエルは舞を元の魔王デスターニャの姿に戻した。


(デスターニャ)

「……勘違いしない様に言っておくぞ」

「俺は貴様らの味方などする気はない!」

「ルシファーの奴をぶっ殺してフローラのバカを正気にするだけだ!」

「だから邪魔するなら遠慮なく殺すからそのつもりでいろよ!」


 デスターニャはそう言うと瞬間移動でルシファーの前まで飛んで行った。


(ルシファー)

「これはこれは魔王様」

「よく我が魔法から外に出て来たな」


(デスターニャ)

「クックック……人間が起こす奇跡ってやつを貴様は信じるか?」

「そして貴様はその奇跡ってやつに必ず負ける! 必ずな!」

「その奇跡が起こるまで俺様が貴様の相手をしてやろう!」

「光栄に思うんだな!」


(ルシファー)

「チッ! ただの魔王風情が調子に乗るなよ!」

「俺様は堕天使ルシファー様だぞ!」


 そしてデスターニャとルシファーの一騎打ちが始まった。



 一方、人間界ではそれぞれが柱の中の世界に対峙していたのだった……。



【カイゼル編】

(カイゼル)「何だここ……何か懐かしい様な……」


 カイゼルは何も無いその空間に妙な懐かしさを感じていた。

 そんなカイゼルにどこからともなく不気味な声が聞こえて来た。


『他人のことを覗き見するのは楽しかったんじゃないか?』

『そして他人を自分の意のままに操るのは楽しかったんじゃないのか?』

『まだ今なら引き返せるぞ……』

『お前は何者だ?』


 カイゼルはその声に対して、目を瞑って下を向きながら答えた。


(カイゼル)

「……確かに楽しかった……」

「何も持っていなかった僕の唯一とも言える武器だったし、今でも僕に勝てるハッカーはこの世にはいないって思ってる……」


 そして次の瞬間、目を見開いて空に向かってしっかりとした口調で答えた。


(カイゼル)

「だけどどんなに優秀な能力でも、他人を傷つける為に使うのは間違ってる!」

「今更だけど僕はそのことに気付いたんだ」

「だからもう僕はこの自分の能力を悪用なんかしない!」

「僕が何者かって?」

「僕の名前はカイゼル」

「微笑みのホワイトハッカーカイゼルだ!」


 次の瞬間、カイゼルは元いた柱の前に戻って来ていた。

 そしてカイゼルの目の前にあった柱は粉々に砕け散ったのだった……。



【真実編】

(真実)「この雰囲気……これってもしかして……」


 真実はその場の雰囲気に懐かしさと同時に後悔の感覚を感じていた。

 そんな真実に対して不気味な声が聞こえて来た。


『真実なんか追い掛けて何になる?』

『誰を傷つけても誰もが注目する記事を書くことが記者の誉れではないのか?』

『たとえそれが偽りであろうとも』

『真実だから誰も傷付かないなんて事も無いだろう』

『それならば何故真実を追い求める必要がある?』

『お前は何者だ?』


 真実はその言葉を聞くと、持っていたカメラを携えてその何も無い空間を撮った。


(真実)

「真実はこの目が見たものの中にしかない……」

「そして真実こそ誰もが追い求めるもの」

「私は過ちを過去に犯した……」

「それは自分が真実に辿り着けなかったから……いや自分が真実を知ろうとしなかったから……」

「もし真実がどんなに酷くても、真実を捻じ曲げた捏造の方が皆んな喜ぶとしても、私はもうこの目が写したもの以外記事にするつもりはない!」

「私の名前は真実」

「真実追求者の真実よ!」


 そして真実はその空間に対して写真を撮りまくった。

 すると次の瞬間、真実は元いた柱の前に戻って来ていた。

 そして真実の目の前にあった柱は写真で切り取られたかの様に、消滅したのだった……。



【虎次郎編】

(虎次郎)「何か随分血の匂いがするところだな……」


 虎次郎はまるで戦場の空気が漂う中にいた。

 そんな虎次郎に不気味な声が聞こえて来た。


『暴力の何が悪い?』

『力こそ正義』

『力さえあれば何をしてもいいのではないか?』

『今更暴力を否定するというのか?』

『散々好き勝手に自らの暴力で弱き者を何人も何人も倒して来たのではないのか?』

『お前は一体何者だ?』


 虎次郎はその声に対して、その場で胡座をかいて呟く様に答えた。 


(虎次郎)

「……確かにな……」

「今更だよな……」


 そして自らの拳を見つめながら話し始めた。


(虎次郎)

「この拳で……何人も沈めて来た……」

「中には明らかに自分より弱かった奴もいる……」

「それでも容赦なくこの拳で全て制圧して来た……」

「その事を今更許されようなんて思ってはいねぇよ」 

 そして虎次郎は静かに目を瞑ると目を見開き答えた。


(虎次郎)

「だがな! もうこれからは俺は暴力は振るわねぇ!」

「俺は愛する者を守る時以外、もうこの拳は振るわねぇって決めたんだ!」

「こんな俺を何年も待ってくれた人がいる!」

「もうその人を悲しませることなんかしたくねぇ!」

「俺の名は虎次郎」

「愛護人の虎次郎だ!」


 そして虎次郎は地面に向かって思いっきり拳を振り下ろした。

 すると次の瞬間、虎次郎は元の柱の前に戻って来ていた。

 そして目の前にあった柱は、何かとても大きな力で殴られたかの様に真ん中に穴が空き、そこから音を立てて崩れていったのだった……。



【知恵編】

(知恵)「何ここ……何か凄く嫌な感じ……」


 知恵は物凄く嫌な気分になる様なところに立っていた。

 そんな知恵に対して、どこからともなく不気味な声が聞こえて来た。


『自分よりも頭の悪い人間を見下して何が悪い?』

『そもそも勉強していないのが悪いんじゃないか?』

『もっと死に物狂いで勉強さえすれば誰も馬鹿になんかしない』

『それをただ怠って何の知識も持たない者を蔑んで何が悪い?』

『この世の中は頭のいい人間だけで回している』

『それを今更否定するのか?』

『お前は一体何者だ?』


 その言葉を聞いて知恵は気付いた。


(知恵)

(……なんでこの場所が嫌な気持ちに感じたかわかった)

(ここは多くの人を虐げていた時の私の心そのもの……)

(今更ながら思う……なんて醜い考えだったんだろう……)


 そして知恵は意を決したかの様にその声に対して答えた。


(知恵)

「確かにこの世の中は頭のいい人間だけで回しているのかもしれない……」

「そして無能な人間程コマの様に使われたり、虐げられたりしている現実もある……」

「でもだからと言って頭がいい人間が自分以外を虐げるのは間違っている!」

「そんな事してもそこから生まれるのはただの憎しみと後悔しかない!」

「勉強は本来もっと楽しいもの……そして学ぶという事は本来もっと素晴らしいもの」

「ただ人を見返したいとかそんな動機で勉強しても、心は成長しない!」

「大事なのは何の為に勉強するか」

「そしてその勉強で得た知識をこれから先どう活かすか」

「知識は人を虐げる為に使うんじゃなくて、人を助ける為にこそ使うもの!」

「私はもう間違わない!」

「私の名前は知恵」

「愛脳の知恵よ」


 知恵は凛とした顔で、ただ笑顔を見せながらそう答えた。

 次の瞬間、知恵は元いた柱の前に戻って来ていた。

 そして知恵の目の前にあった柱は、まるで刃物で斬られたかの様に真っ二つとなり、そして消滅したのだった……。



【判士編】

(判士)

「これは夢……?」

「何で僕はここにいるんだ?」


 判士は自分が何故そこにいるのか理解出来なかった。

 そんな判士に対して、不気味な声が聞こえて来た。


『法は全てを司るもの』

『そして法は法を操るもののみを祝福する』

『いつの時代もそう』

『法は法を知らない者を救わない』

『そして法は必ずしも絶対ではない』

『時に法は悪人に味方する事もある』

『だから法で裁けない者は自ら裁くしかない』

『それは至極当然の論理だ』

『お前は一体何者だ?』


 判士はその問い掛けに答える事が出来なかった。


(判士)

(……何も言い返せない……)

(僕は法に背いた人間だから……)

(いや……そもそも人間すら捨てた人間……)

(そんな僕がこの問い掛けに答えれるわけがない……)

(……でも……)


 判士は意識の奥深くである人物に言われた言葉を思い出していた。

 そして判士は恐る恐る口を開いた。


(判士)

「……わからない……」

「でもある人が僕の復讐を素晴らしい事の様に褒めてくれた」

「その時気づいたんだ」

「僕がしたことは何も素晴らしいことでは無かった」

「それどころかパパもママも喜ぶ様な事でも無かった」

「もし僕が生きている間にそれに気づいていたら……また違った結末だったのかもしれない……」

「人は復讐に駆られちゃいけない」

「そしてその私的復讐を防ぐ為に法は存在する」

「悪魔になって法を無視した僕だからこそ今ならはっきりとわかる」

「人間なら……法の中で全てを行うべきだと」

「そして法こそ弱い者の味方であるべきだと」

「僕の名は判士」

「正裁の判士だ」


 次の瞬間、判士の遺体は元いた柱の前に戻って来ていた。

 その判士の遺体は心無しか最初に比べて満足そうな顔を浮かべていた様にも見えた。

 そして判士の目の前にあった柱はまるで何かで燃やされたかの様に黒く焼け落ちたのだった……。



【剛編】

 剛は未だ意識が朦朧としたままだった。

 そんな剛に対して、不気味な声が聞こえて来た。


『金こそ全て』

『この世にお金で買えない物など何も無い』

『お金は自然に湧き出て来るものだ』

『お金は持っている者のところに自然に集まるものだ』

『だからどんなに豪遊しても何も問題ないし自分の為に好きなだけお金を使う事は当然だ』

『それの何がいけないというのだ?』

『お前は何者だ?』


 その不気味な声は剛の心を激しく揺さぶった。


(剛)

(……違う……)

(もしそれが事実なら俺はこんなに苦しむ事も無かった……)

(そして……過ちを犯す事も無かった……)

(金は……そう金は……)


 そして剛は意識を取り戻してその場に立ち上がり、空に向けて叫んだ。


(剛)

「金が湯水の様に湧き出ると感じるのはただの錯覚だ!」

「金はあくまで頑張った人間の功績の結果で得るものでしかない!」

「だから何も頑張らない人間はその金を手にする資格が最初から無い!」

「大事なのは金の価値を見失わない事」

「そして自分の器を知る事だ!」

「俺の名は剛」

「いつの日か財前グループの社長になり、財前グループを更なる高みに押し上げる男!」

「それまで俺は何者でも無い!」

「ただの財前剛だ!」


 そう言い切った剛の顔はとても爽やかな表情をしていた。

 次の瞬間、剛は元いた柱の前に戻っていた。

 そして剛の目の前でその柱は眩い金色の光を放った後、跡形も無く消え去ったのだった……。



【麗子編】

(麗子)「この感覚……間違いない……」


 麗子はその場所の感覚をなぜか理解していた。

 そんな麗子に対して不気味な声が響いて来た。


『何をしても許される存在』

『そして誰もが羨む存在』

『それは圧倒的美しさとそれに似合う環境により成り立つもの』

『そしてそれは選ばれし存在』

『だからこそ自分以外をどう扱おうがそれは何の問題もない』

『そして選ばれし存在であるのなら常に期待に応えないといけない』

『それこそが選ばれし者の宿命』

『常に本音を偽り続け常にその存在を演じること』

『たとえ苦しくてもそれを続けれた者が唯一選ばれし存在として君臨し続ける』

『その存在を否定するのか?』

『お前は何者だ?』


 麗子はその問い掛けに対して微笑みながら答えた。


(麗子)

「私はその存在自体を否定はしない」

「もしその存在になりたい、その存在でい続けたい気持ちがあるならそれもそれでいいと思う」

「大事なのは自分がどうありたいかだけ」

「他人じゃない!」

「カリスマもアイドルもただの総称」

「最も大事なのは自分の気持ちとその為の頑張りだけ」

「その結果どう呼ばれるかはただの他人の評価」

「私はもう一切自分を偽る事はしない!」

「そして私は私の意思で私の道をただ生きていくわ!」

「私の名前は麗子」

「鬼頭冷道の娘にして英傑学園を正しく導く存在」


 麗子は笑顔を見せながら言い切った。

 その直後、麗子は元いた柱の前に戻って来ていた。

 そして麗子の目の前にあった柱は、砂の様に粉となって消え去ったのだった……。



 その頃、天界ではデスターニャとルシファーの激しい魔法合戦が繰り広げられていたのだった……。


(デスターニャ)

「唸れ地獄の業火よ!」

「ケルベロスフレイム!」


 デスターニャは地獄の番犬ケルベロスを召喚し、そのケルベロスがそれぞれ巨大な炎を吐き、それが一つに重なってルシファーに襲いかかった。


(ルシファー)

「天界の炎よ! 我の手に集まれ」

「ホーリーフレイム」


 ルシファーは白い炎の塊を右手に出現させると、それをデスターニャが放った炎の塊にぶつけた。


 それぞれの炎は相殺されて消滅した。


(デスターニャ)「さすがだなデミトリ! いや今はルシファーか」

(ルシファー)「貴様もなデスターニャ」


 二つの存在の魔力と能力は互角だった。


(ミカエル)

「やはりあの者は只者では無かったですね」

「あれがエルドラド最強の魔王デスターニャの本気」

「ルシファーは堕天使として今や我々四大天使に匹敵する程の能力の持ち主ですが」

「それと互角」

「あの者がルシファーを抑え始めてからルシファーもおかしな魔法が使えなくなりました」


(ガブリエル)

「確かに……」

「まさかミカエル様はここまでの展開を予想していたのですか?」


(ミカエル)

「……私でもここまでは読めなかったです……」

「でもこれもまた神のご意志なのでしょうね……」


(ラファエル)

「はい」

「……ただ……」


(ミカエル)

「ええ……」

「それでもまだ……劣勢です……」

「フローラがあの者の味方である以上……我々の攻撃は何もルシファーに届く事はないでしょうね……」


 三体の四大天使はフローラの方を見ていた。

 フローラは依然強大な防壁でルシファーを天使達の攻撃から守っていた。

 その次の瞬間だった。


「うっ……!」

 その言葉と共に、急にフローラの様子がおかしくなった。

 そしてフローラはその場に倒れた。

 そして同時にルシファーを守っていた防壁は消滅した。


(デスターニャ)(……やったな人間共……)


 デスターニャは心の奥でそう呟いた。


(デスターニャ)

「ルシファー! お前の野望もこれで終わりだ!」

「直にフローラは元に戻る」

「そうすれば貴様を守ってくれる者はいなくなりここにいる天使共に消滅させられるだろうな」


 デスターニャは不適な笑みを浮かべていた。


(ルシファー)

「バ……バカな……」

「あの人間達が全員自らの精神に立ち向かって勝ったと言うのか!」

「そんな事……あり得ない!」


 ルシファーは起こり得ない状況に困惑していた。

 だが次の瞬間、懐の自分の玉を見ると誰にもわからない様に不気味な笑みを一瞬浮かべた。


(ミカエル)

「今がチャンスです!」

「ここでルシファーを消滅させます」


 この機を待っていた四大天使達は、ミカエルの合図で一斉にルシファーに襲いかかった。

 そんな中でルシファーがデスターニャに尋ねた。


(ルシファー)

「……ところでデスターニャ」

「貴様は何人をその柱に向かわせた?」


(デスターニャ)

「何を訳わからないことを」

「柱が全部で七本だったから七人に決まってるだろ?」


(ルシファー)

「そうか……七人か……」

「それなら俺様の勝ちだ」


 そしてルシファーは懐から玉を取り出して、向かって来る四大天使に向けて叫んだ。


(ルシファー)「残念だったな! スーサイド!」


 するとその玉から黒い光が放たれ、襲いかかって来たミカエルとガブリエルとラファエルはその光の直撃を喰らって消滅した。

 デスターニャは目の前で起こった光景が信じれなかった。


(デスターニャ)

「馬鹿な!」

「結界魔法は柱が壊れたらその力を失うんじゃないのか!?」

「何で貴様はまだその魔法が使えるんだ?」


(ルシファー)

「クックック……」

「貴様は肝心な柱を見落としていたんだ……」

「そもそも魔法陣は七角形では存在しない」

「正しく能力を発揮するなら八角形が原則」


(デスターニャ)

「バカな!」

「俺様が見た時は……」

「ま……まさか……!?」


(ルシファー)

「その通り!」

「貴様は幻影を見たんだよ!」



 その頃、人間界では柱を消滅させた人間達が柱の中より戻って来ていた。


(カイゼル)「これで全て終わったんですよね」

(真実)「そうだと思うけど……」

(虎次郎)「ならなんでまだこの玉浮いているんだ?」

(知恵)「確かに……何か変な気がする……」


(麗子)「でも舞からはこの先の事何も聞いていないよ?」


 そこにいた全員がその場の柱が壊れた以外何も変わっていない状況に困惑していた。

 すると急に剛が口を開いた。


(剛)

「この形……そもそもおかしくないか?」

「何ていうか……無理矢理形を削ったみたいな……」


 そして剛はゆっくりとその不自然に削られた頂点の部分に向かって歩いて行った。

 その時だった。


「バチバチバチ!」


 剛は見えない何かでその場所から弾け飛んだ。


(剛)「……なんだこれ……?」

 

次の瞬間、大きな地響きと共に魔法陣が姿を変え始めた。

 そして剛が弾け飛んだ場所から、白い大きな柱が姿を現した。

 

(麗子)「これは……どういうこと……?」


麗子は新しく現れた柱の方までゆっくりと歩いて行った。

そしてその柱の中を見た麗子はとても驚いた。


(麗子)「ま……まさか……この柱って……!?」


 そんな麗子の後ろから声が聞こえた。


「……やはりか……」

「元々私が全ての元凶だから仕方ないな……」


 麗子達はその声のした方を振り返った。

 するとそこには鬼頭冷道が壁に寄り掛かって立っていた。

 麗子は、鬼頭冷道の姿を見るなり鬼頭冷道の元まで駆け寄った。


(麗子)「パパ! 大丈夫なの?」


(冷道)

「……ああ……大丈夫だ……」

「どうやら長い間悪夢の中にいた気分だ……」

「だが……それでもこれまで自分がしてきた事から私は逃げるつもりはない」

「麗子、私をその柱の前まで連れて行ってくれ」


 麗子は冷道に言われるがまま、冷道に肩を貸す形で冷道を柱の前まで連れて行った。


(冷道)

「麗子……ありがとう」

「しばらく離れていなさい」


(麗子)

「パパ……わかってるの?」

「この柱はその……なんて言うか……」


 すると冷道は微笑みながら麗子に向かって言った。


(冷道)

「ああわかっている……」

「私はこの機会を待っていたのかもしれない……」

「自らと向き合う機会を……」


 そんな冷道に向かって柱は尋ねた。


『罪深き者よ……今更何を悔やむ?』


 そして冷道はその柱の中に吸い込まれたのだった……。



【冷道編】

(冷道)「やはり君が出て来るか……」


 柱に吸い込まれた冷道の目の前にはかつての妻の陽菜の姿をした者が立っていた。

 そしてその者が不気味な声で冷道に向かって話し始めた。


『教育者……それは生徒を正しく導く者……』

『そして正しく導くという事は時に多少の犠牲を伴うこともある……』

『それ程世の中とは単純ではない』

『強き心の者が弱き心の者を踏み躙ることもある……』

『ならば悪しき心の持つ者……劣等生のある者を最初から排除する事は至極当然の事……』

『教育者とは正しき者を守る存在なのだから……』

『そして同時に自らの意思や思考を反映出来る存在なのだから』

『その思想で今までやって来たのではないのか?』

『愛する者を守る為……そして愛する者が平穏無事で過ごせる為に今まで頑張って来たのではないのか?』

『まさかそれを今更否定するというのか?』

『お前は何者だ?』


 冷道は陽菜の姿をした者の問い掛けに力強く答えた。


(冷道)

「違う!」

「それは教育なんかじゃなくただの支配だ!」

「もちろんこの世の中にはどうしようもない考えを持った人もいる」

「そして他人の事など何とも思わない人ももちろんいる」

「だがその考えを違っていると指摘さえ出来れば……」

「いやそれよりも自らの意思で誰しもが意見を言い合えれば誰も悲しむ事はない!」

「個人は個人、だから思想や考え方は合わなくて当然」

「だがその合わない同士が対等に言い合えて、そこに第三者の無駄な同調さえ無ければ誰も悲しむこともないだろう」

「大事なのはお互いの考えを尊重すること」

「そして意見が合わない時は、暴力や集団的行動で自分の意思を押し付けるのではなく、あくまで一対一の論争でお互い話し合うこと」

「誰も差別しない! 誰も排除しない!」

「それこそが真の教育だ!」


『そんな夢物語みたいなことが本当に出来ると思っているのか?』

『そんな事言ってる間にまた愛する者を失ったらどうするんだ?』


「……確かに夢物語かもしれない……」

「そんな事が出来ないから今も世界のどこかで悲しむ人はたくさんいる」

「だがそれでもせめて私の学園ではその夢物語を実現したい!」

「それこそが今までの私の罪滅ぼしになるとも思っている」

「今まで本当に多くの人を傷つけ悲しませて来た」

「私は今まで自分が行った教育を今は本当に後悔している」

「そしてそれに多くの子供達や自らの娘を巻き込んでしまった事もだ」

「だからこれからは自らの過ちを反省し、学園の運営方針を見直す事にする」

「私は英傑学園理事長鬼頭冷道」

「これから誰もが平等に過ごせる学園を運営する者だ!」


 その冷道の言葉を聞いて、陽菜の姿をした者が本当の陽菜の声で微笑みながら答えた。


『……それでこそ私が愛した人です……』

『これからのあなたが作る学園を私も楽しみにしていますね……』


 そう言いながらその者は消滅した。


(冷道)「陽菜……見ていてくれ……」


 冷道は一筋の涙を流して空を見た。

 その直後、冷道は元いた柱の前に戻って来ていた。

 麗子は柱の近くで冷道が戻って来るのを待っていた。


(麗子)「パパ! 大丈夫だった?」

(冷道)「ああ……ようやく陽菜にも許してもらえたよ……」

(麗子)「ママに会ったの?」


(冷道)

「……多分な……いや違うな……実はママはずっと私の近くにいたんだ」 

「ただ私は今までママの事を見る事から逃げていたんだと思う……」

「でも……ようやく向き合えたよ……」

「そしてこれで……悪夢ももう終わる……」


 冷道がそう言うと冷道の目の前に会った柱は、まるで何も無かったかの様に消え去った。

 するとその直後、下に書いていた魔法陣も消滅し、真ん中で浮いていた球も下に落ちて消え去ったのだった……。



 その頃、天界ではデスターニャとルシファーが依然激しい魔法合戦をしていた。


(デスターニャ)

「我が声に耳を傾けろ」

「出よ! ダークドラゴン」


デスターニャは巨大な漆黒の竜を召喚した。


(デスターニャ)「喰らえ! ダークフレア!」


 デスターニャの声と共に、漆黒の竜は黒い炎をルシファーに向けて吐き出した。


(ルシファー)

「チッ! 小賢しいわ!」


 ルシファーは目の前に巨大な光の壁を作り出した。

 その光の壁は黒い炎を受け止めて、その直後消滅した。


(デスターニャ)「貴様中々やるな」


 デスターニャはニヤリと微笑んだ。

 その様子を見て、ルシファーはデスターニャに尋ねた。


(ルシファー)

「デスターニャよ」

「そもそも貴様は何の為に今戦っているのだ?」

「もう天使共は皆んな抵抗を諦めたぞ」

「なぜだ?」


 ルシファーの言う通り、周りにいる大勢の天使達は四大天使が消滅した事で、戦う気力を無くしてただその場に浮遊していた。


(デスターニャ)

「最初に言っただろ」

「俺様は別にこいつらの為に戦っているわけでは無い!」

「俺様は貴様をぶち殺したいから戦っているだけだ!」


 そのデスターニャの言葉を聞いて、ルシファーは深く溜息を吐いた。


(ルシファー)

「そんな事して何になる?」

「もし仮にだ……貴様が俺様を倒したとしよう」

「その後……お前はどうするつもりだ?」


(デスターニャ)「そんな事はその時考えればいい話だろ?」


(ルシファー)

「デスターニャ……だから貴様は駄目なのだ」

「一度冷静に考えてみろ」

「この俺様を倒したとしても貴様には何の意味もないだろ?」


(デスターニャ)

「そんなことは無い!」

「貴様を倒したら元の魔王に戻れると言われたぞ」


(ルシファー)

「……身体も無いのにか?」

「それとも別の身体でか?」

「そもそもその約束は本当に守ってくれるのか?」

「貴様の様な存在は天界からしたらどうでもいい存在だぞ?」


(デスターニャ)「……」

(ルシファー)

「それよりデスターニャよ」

「この俺様と手を組まないか?」

「貴様の魔力はこのまま失うには惜しい力だ」

「もし、神を倒せたなら貴様には異世界エルドラドをもう一度支配させてやろう」

「そこで貴様は貴様が望むままの世界をもう一度作ればいい」

「どうだ?」

「貴様にとっても悪い話ではないと思わないか?」


 ルシファーの言葉を聞くと、デスターニャはニヤリと微笑んだ。


(デスターニャ)「……確かにそれも悪くは無いな……」


 だがその直後、デスターニャはルシファーのことを睨みつけて言い放った。


(デスターニャ)

「だが今の俺は何の価値も無い存在にしか思っていなかった人間共のおかげで今こうして貴様の前にいる!」

「だから俺様は貴様を倒さないとそいつらに示しがつかない!」


 ルシファーは再び深く溜息をついた。

 そしてその直後、デスターニャを睨み付けながら言い放った。


(ルシファー)

「チッ!」

「人間に長く転生していて考え方まで人間になってしまった様だな」

「ならばもう貴様にも用は無い!」

「次の俺様の魔法で消し去ってくれよう!」


 その時だった、デスターニャは一つの気配を感じ取っていた。

 そして、誰にも聞こえない声で呟いた。


(デスターニャ)(……やったな人間共……上出来だ……)


 そしてデスターニャは不気味に笑い出した。


(デスターニャ)

「クックック……」

「なぁルシファー……何も貴様は感じないのか?」


(ルシファー)「何を言ってるんだ?」


 その直後、ルシファーの懐に入っていた漆黒の球が急に割れて消え去ったのだった。


(ルシファー)

「な……何が起こった!?」

「ま……まさか……!?」


(デスターニャ)

「そのまさかだよ」

「貴様は人間を舐め過ぎた」

「そして俺達を舐め過ぎた」

「だから貴様は俺達の次の攻撃で負ける! 必ずな!」


 そう言い切ったデスターニャの後ろには羽根の生えた女性が立っていた。

 そう、今まで何度も人間を導いて来たその者が長い長い眠りから覚めて、いつもの様に錫杖を持って立っていた。


(フローラ)

「……申し訳ありません……」

「どうやら長い事意識を眠らされていたみたいです……」

「でももう大丈夫です」


(デスターニャ)

「……本当困った奴だ」

「だが貴様を救ったのは俺様では無く人間だ」

「つまり貴様が今までして来た事は間違いじゃ無かったって事だ」

「だからこの戦いが終わったら……いやそれは無理か……」

「とにかく貴様は人間達に感謝しろ!」

「そして次の一撃に貴様の全ての力を込めるんだな!」


(フローラ)「……わかりました」


(ルシファー)

「何をごちゃごちゃと」

「貴様達みたいなものが二匹になろうがこのルシファーの敵では無いわ!」


(フローラ)「そうですか……それでは……」


 フローラはそう言うと詠唱を始めた。


(フローラ)

「我、転生界の守り人の名において命じます」

「消滅せし天界の魂を全てこの場に呼び戻し給」


 すると、消滅したはずのミカエルとガブリエルとラファエルがその場に姿を現した。


(ミカエル)

「こ……これはどういう事ですか!?」

「一体何が起こってるんですか!?」


(フローラ)

「ミカエル様」

「説明や私への罰はまた後にして下さい」

「まずはあの者を倒すのに力を貸して下さい!」


(ミカエル)

「わ……わかりました……」

「それではガブリエル……ラファエル……参りましょう……」


(ガブリエル&ラファエル)「……ご命令の通りに……」


 ミカエル達が蘇ったのを見て、周りで意気消沈していた衛兵も覇気を取り戻し、ルシファーに向けて刃を向け始めた。

そんな様子を見ながら、フローラはルシファーを睨み付けて言い放った。


(フローラ)

「これでもう貴方に勝ち目はありません」

「大人しく消滅されなさい」


 その様子を見てルシファーは激怒した。


(ルシファー)

「ふざけんなよ!」

「雑魚共が! まとめて相手してやるよ!」


 ルシファーはそう言うと、巨大な悪魔の様な姿に変身した。

 そして腕も6本になり、増えた腕には巨大な4本の刀を手に握っていた。


(ルシファー)

「この俺様こそ最強!」

「最強の堕天使だ!」


 そんなルシファーを見ながらデスターニャは深く溜息を吐いた。

 そして誰にも聞こえないぐらいの声で独り言を話し始めた。


(デスターニャ)

「その姿のどこが天使だか……」

「しかし相変わらずフローラの奴の能力はデタラメだな……」

「さてそれじゃー悪魔退治始めるか」


 そしてデスターニャは自分の魔力を最大限まで手に集め始めた。

 同じタイミングでフローラも持っていた錫杖を前にして祈りを捧げ始めた。

 そして同じタイミングで衛兵と四大天使達はそれぞれの武器を手にルシファーに一斉に襲い掛かった。


(デスターニャ)

「さらばだルシファー!」

「漆黒の炎に焼かれて消え失せるがいい!」

「ダークフレア!」


(フローラ)

「これで終わりです」

「セイントセイバー!」

 

 デスターニャはその言葉と共に手から漆黒の獄炎をルシファーに向けて放った。

 フローラはその言葉と共に錫杖から巨大な剣をルシファーに向けて放った。

 そしてフローラから放たれた巨大な剣にデスターニャが放った炎はまとわりついて、一直線にルシファー目掛けて飛んで行った。

 そしてその剣はルシファーの胸を貫いた。

 そして同時にミカエルとガブリエルとラファエルの剣も、衛兵達の武器もそれぞれルシファーを貫いたのだった。


(ルシファー)「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 ルシファーは断末魔をあげた。


(ルシファー)

「お……覚えていろ……」

「この世が……この界が間違った方向に傾いた時……俺様は必ず蘇る! 必ずな!」


 そしてルシファーは最後にそう言い残して消滅した……。



―英傑学園―

 そこは優秀な人間が集う学園。

 そしてそこにはとても優秀で更にあまりの美しさからカリスマと呼ばれる若き理事長がいた。

 彼女の名前は鬼頭麗子。

 そしてその側には学園の全てを管理する右腕と呼ばれる男がいた。

 若くして国からホワイトハッカーに任命され、更に学園の安全の為に努めるその男は金髪で笑顔が素敵な男だった。

 彼の名はオリバーカイゼル。

 そしてもう一人。

 若い理事長の側に立ち、献身的にサポートする優秀な秘書がそこにいた。

 彼は元々医者をしていたが、今はある人に頼まれて学園の経理その他雑務や、麗子のスケジュールの管理までを熟すマネージャーも兼務していた。

 彼の名は田村義彦。



(麗子)「……しかしあの事件からもう大分経ったんだね」


(カイゼル)

「……はい……でも僕にはまだ信じれません……」

「何と言うか長い長い悪夢の中にいた様なそんな感じです……」


(麗子)

「悪夢……か……」

「でも確かに夢の様な出来事を私達は経験した」

「……でもなぜかその記憶だけが無い……」


(義彦)

「……そうだね……」

「でもあの日全てが始まった……それだけは間違いない……そしてこの学園が生まれ変わったのもあの日からだから……」



 あの日……。

 麗子達が気付いた時には全員が理事長室にいた。

 そしてその場にいた全員に向けて鬼頭冷道は告げた。

 

「私は今まで間違っていた……」

「だから私は理事長の座を退き、警察に出頭する事にする……」

「麗子、これからはお前がこの学園を守ってくれ」

「そして義彦君、君には麗子のサポートをお願いしたい」

「私に対して思う事もあるかもしれないが、私からの最後の願いだと思って聞いてもらえないだろうか……」


 そして鬼頭冷道は警察に出頭する為に、その場を後にした。

 そして今度は金剛寺虎次郎が麗子に話し掛けた。


「俺は罪を償ってまたやり直す事にする」

「だから麗子、お前とはこれでお別れだ」

「大丈夫、今のお前なら新しい英傑学園を作れる」


 その後、才加知恵が麗子に話し掛けた。


「私はこの学園を出て、虎次郎に付いていく事にするわ」

「やっとわかったの」

「自分が一番大切なもの」

「もう手放したく無いから」

「だから麗子、今までありがとう」

「色々あったけど……私は麗子の事親友だって思ってるから」

「じゃー麗子が作った学園、陰ながら応援しているね」


 そして虎次郎と知恵はその場から出て行った。

 その後、財前剛が麗子に話し掛けた。


「今の俺じゃ麗子さんの側には相応しくない……」

「だからこれから俺も本当の意味でこれから罪を償う事にするよ」

「そしてその後、必死で頑張って財前グループの総帥まで上り詰めるから」

「そしたら麗子さんの事迎えに来るよ」

「だからそれまでさよなら……」


 そして財前剛はその場から出て行った。

 その後、曲見真実が麗子に話し掛けた。


「麗子さん、私も今のままじゃ何の力にもなれない」

「それに私、自分のやりたい事も見つけたから」

「だから私、この学園を出て世界に行くことにしたから」

「今までありがとうございました」

「麗子さんなら素敵な学園を作れるって私信じてますから」

「それではしばらくの間お別れです」

「今まで色々ありがとうございました」

「カイゼル、あんたはしっかり麗子さん支えるんだよ」


 そして曲見真実はその場から出て行った。

 その後、オリバーカイゼルが麗子に話し掛けた。


「全員行ってしまいましたね……」

「まー僕はどこも行く宛も無いですし」

「こんな僕で良かったら麗子さんの右腕にでもして下さい……」



 そしてその日から麗子が理事長となった新態勢がスタートした。

 麗子が掲げた学園の基本方針は以下の通りだった。


【個々を認め合い、誰も排除しない】

【意見が合わない時は当事者のみで徹底的に話し合い、誰もそれには加担しない】

【出来ない者を蔑まない、むしろ出来ない者には手を差し伸べる】


 そしてその日以降、英傑学園は全国でも珍しい多様性を全面的に認めた学園として、また学生でありながら理事長へと就任したカリスマの存在によって日々話題となっていた。

そして気付いたら入学希望者が溢れ返る有名進学校へと変貌したのだった……。



 その頃、路地を歩く少女と白い一匹の猫は、歩きながら精神上で会話をしていた。


「……つまり神の力って奴で俺とお前の記憶は全て無かった事にしたと」

「そして更に判士の学園での記憶も一切消し去り更に死体も丁寧に埋葬したと」


「まーそうなりますね」

「さすがは神様です……絶妙な裁きをしたと思います」


「成程な……」

「……そんなことよりも何で俺様と貴様はまたこの姿なんだ?」


「それはこれが神様からの罰だからです……」

「我々のせいで天界は滅茶苦茶になったのは事実ですからね……」


「我々というか貴様のせいだけどな!」


「アハハ……それは本当にごめんなさいとしか言えません」


「しかし……この姿で後100年間人間を救えだと!?」

「神様ってのはイカれてんのか?」


「イカれてなどはいませんよ」

「現にまだこの世界には我々が知らないだけで悪意に満ちたものは存在していると思います」

「それを正しく導く為の切り札として我々は期待されているんだと思いますよ」


「悪意な……純粋な悪よりも厄介な人間が持つ不安定な感情か……」

「しかし……だとしても能力も元の状態に戻されたし……こんな身体で何が出来るんだ?」


「今更何を言ってるんですか?」

「そんな身体だからこそ出来る事もあるのはよくわかっているでしょ?」

「我々はただ与えられた使命を全うするだけです」


「フン! 指名か!」

「それでこれからどこに行くんだ?」


「……さあどこに行きましょうか?」


「貴様! 相変わらず無策か!」


「ウフフ……そうですね」

「まー神様が導いてくれますよ」

「とりあえずこれからもよろしくお願いしますね 魔王様」


「フン!」




(ナレーション)

 かくして元魔王と元転生界の守り人の裁きはひとまず完遂したのだった。

 だが、この世の中に悪意がある限り二者は必ず現れる。

 まだ二者の裁きは始まったばかりなのだから……。

 

                  —The End...... —

この物語はこれで完結します。

ただ、これで終わりではありません。

このお話は最初から最後まで読んだ時に、1つの違和感に気づく様に作っています。

もしその違和感に気付いた方がいれば連絡下さい。

その反響が大きかった時に、その事をスピンオフ作品として作成する事にします。

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