〜第十一章〜 教育と支配
麗子が理事長室のドアを開けると、舞と白い猫の前に椅子に座った人物が現れた。
その人物は、若い頃青年実業家として奮闘し、そして自身の妻を亡くした事により誰も自分に逆らえない学園を築き上げた人物だった。
そしてその学園における絶対的支配者として降臨し、七人の鬼を使い学園の統治と粛清を行って来た人物でもあった。
その人物は容姿は淡麗だが、眼だけは細くとても鋭かった。
そして人間とは思えない程の異様なオーラを放っていた。
彼の名は鬼頭冷道。
麗子の父親でもあり英傑学園理事長。
そして冷道は椅子に座った状態で、舞に向かって微笑んだ。
(冷道)
「貴方が舞さんですね」
「先日は麗子がお世話になりました」
舞は急に腰を低く話掛けて来た冷道に驚いた。
だが同時に、その異様な圧力に少し押されていて、全身から嫌な汗が出ている事を感じていた。
(な……何だこの人間……)
(人間が出せる気配のそれとは違う気配を感じる……)
(やはりこいつがルシファーなのか……)
(冷道)
「さてと、長々話すのは好きじゃないので担当直入に伺います」
「舞さん、私の配下としてこの学園を治める気はありませんか?」
その冷道の言葉に舞と麗子は凍りついた。
(麗子)
「……パパ……!?」
「な……何……言ってんの……?」
(冷道)
「麗子、私の鬼達を彼女は全員倒したんだよ……」
「ならばその鬼達よりも彼女の方が優れた人物って事じゃないか」
「そしてより優れた人物なら、更にこの学園をよりよくしてくれるに決まってるじゃないか」
麗子は何も言い返せなくなっていた。
そんな中、舞が口を開いた。
(舞)
「別に私はこの学園の為に鬼を倒して来たわけじゃない!」
「他に目的があってここまで来たし……それに私1人で倒して来たわけでもないから!」
「だからアンタの配下になる気なんかこれっぽっちもないから!」
その舞の言葉を聞いて、白い猫はどことなく微笑んだ顔を見せていた。
そして冷道は舞の言葉を聞いた途端、舞の事を睨みつけ始めた。
(冷道)
「では、何の為にここまで来たんだね?」
「まさかこの私まで倒せると思ってるわけじゃないよな?」
冷道はとても低い声で舞にそう尋ねて来た。
そして冷道の周りから漂っていたオーラが舞に襲いかかって来た。
次の瞬間、急に眩い光と共に羽根の生えた女性が現れて、そのオーラを掻き消した。
(舞)「チッ! 貴様余計な真似を……」
(フローラ)
「あら? それは失礼しました」
「でもそう言っている場合でも無かったのでね……」
急に光の中から羽根の生えた女性が現れたので、麗子は一度その光景を見ているにも関わらず、戸惑っていた。
だが冷道は、特に驚きもせずに淡々と話し始めた。
(冷道)
「成程……あの方が言った通りか……」
「それで……精神に入って支配して今まで私の鬼達を潰して来たと……」
「成程成程……」
麗子は、その光景を見て自分の父親が何も驚いていない事に違和感を覚えていた。
(麗子)
「……パ……パ……?」
「何で……驚かないの……?」
(冷道)
「ああ……パパは知っていたからね……」
「さて……麗子……君にはちょっと寝ててもらうね……」
冷道はそう言うと、麗子の眼を睨み付けた。
すると次の瞬間、麗子はその場に気を失って倒れ込んだ。
(冷道)
「これ以上は麗子には知られたくないからね……」
冷道は気を失った麗子に対して、微笑みながら言葉を掛けた。
そして再度、舞とフローラの方を睨み付けた。
(冷道)
「さてと、じゃー私の精神に入ってみるがいい」
「そしてどんな手を使っても構わないから私を改心させて見てくれ」
「それが出来たら君達の勝ちだ」
「だがもし出来なかったら、君達は私の精神からは二度と出られない」
「さて、どうするね?」
冷道からの不気味な提案にフローラは困惑していた。
そして何か違和感を感じていた。
(舞)
「おいフローラ!」
「何を怖気付いているんだ?」
「単に俺様の事舐めてるだけだろ?」
「上等じゃねえか! 行くぞ!」
(フローラ)
「ちょ……ちょっと……待って下さい……」
「何かがおかしいです……何かが……」
(舞)
「あーうるせぇなぁ!」
「どうせ行くしか無いんだろ?」
「なら行ってから何とかすりゃいいじゃねぇか!」
「今までもそうして来ただろ?」
(フローラ)
「……それはそうですが……わかりました……」
フローラは渋々、舞が出して来た手を繋いだ。
(二人)「マインドオペレーション!」
その声と共に、辺り一面を眩しい光が覆い始めた……。
(フローラ)「な……何ですかこの精神は……」
フローラはただただ驚いていた。
冷道の精神の中は学校の教室そのものだった。
そして精神の中にいるはずなのに、なぜかその教室にはモヤがかかって顔の全く見えない先生が一人と、同じくモヤがかかって顔の全く見えない生徒が数人いた。
フローラはその異様な光景にただただ驚くしか出来なかった。
(舞)
「確かに……一人の精神の中に他の者の精神が混在することはあり得ない」
「とするならば……おそらくこの形そのものこそが冷道の精神なんじゃないのか?」
舞は冷静にその精神を分析していた。
確かに舞の言う通り、そこはただ授業が行われているだけの光景という解釈も出来る場所だった。
だからそこにいた人物は全員顔が全く見えなかったのだと。
舞はそう確信していた。
そして同時に舞は別の異変を感じていた。
(おかしい……)
(確か天使共の話だとこんな展開にはならないはずだ……)
(どういうことだ……?)
舞はガブリエル達から聞いた展開と違う状況に少し困惑した顔を見せていた。
そんな二人の頭上から声が聞こえて来た。
『……先生が存在し……生徒が先生に従う……』
『これこそが学校のあるべき姿だ……』
『この絶対的主従関係においてのみ……生徒間での問題全てが解決される……』
『なのに現実はどうだ……』
『今や先生という存在は敬われる存在とは程遠い存在となってしまった……』
『だから……学校は何も問題を解決出来ない……』
『そして学校の主権は先生から生徒へと移ってしまった……』
『誰がこんな世界にしたというのだ……』
『誰がこんな世界を望んだと……』
『一部の生徒が好き放題出来る学校は最早学校とは呼べない……』
『だから私は英傑学園を作る事にしたんだ……』
『この学園から私は統制の取れた人物のみを社会に生み出す……』
『この学園では私以外誰にも好き勝手させない……』
『私が絶対的権力者だ……』
『私に逆らう者は全て排除する……』
『これこそが真の教育であり私が求める世界だ……』
その声の人物はとても静かに淡々と語っていた。
だが、その言葉一つ一つが持つ異様なオーラに二人は気圧されていた。
(フローラ)
「クッ! ……重い……まるで一つ一つの言葉が身体の上からのしかかって来る様です……」
「これが……教育者の言葉……」
「愛すべき者を失った悲しき教育者の言葉……」
フローラは元々のオーラののしかかって来る圧と、冷道自身が持つ言葉の力に押されて片膝を付いていた。
だが舞は、冷道のオーラに押し潰されそうになりながらも、その眼は凛として前を見つめていた。
そしてそのオーラを無理矢理弾き飛ばすと、舞は不敵に笑った。
(舞)
「効かんな」
「そして貴様の言葉も俺様には全く響かない」
「なぜかわかるか?」
「貴様と俺様の思想が同じだからだ」
「貴様が呼ぶそれは教育なんてものではない」
「それはただの支配だ!」
「貴様はただ支配がしたかっただけだ」
「そして自分の意のままに人を操りたかっただけ」
「そしてそれを統制などと言う戯言で隠していただけだ」
「だが俺様は違う!」
「俺様は貴様が言う統制をあえて我が軍の指揮を取る為に取っていた」
「統制が取れた軍団は強いからな」
「だから俺様にはわかるんだよ」
「貴様は口では何だかんだ言いながらも結局強い軍団を作りたかっただけなんだってな!」
舞のその言葉の後、冷道の精神は揺れ始めた。
そして、二人の目の前で見えていた授業の風景は消滅し、その中から椅子に座って項垂れている冷道らしき人物が現れた。
そしてその人物は急に二人を睨み付けた。
(冷道)
「違う……」
「違う違う違う!」
「私は支配がしたかったわけではない!」
「私は真の教育の場を取り戻したかっただけだ!」
「生徒間で上も下も無い」
「誰も差別もされない!」
「私が作りたかったのはそんな学校だ!」
「そうすれば……陽菜は死なずに死んだ……」
「学校さえまともだったなら……陽菜は死なずに済んだはずなんだ!」
冷道は力強く二人に言い放った。
そして二人にまた冷道の力強いオーラが襲い掛かって来た。
だが、舞はそれに屈する事なくただ前を見つめていた。
そしてフローラも、今回はそのオーラに屈する事なくただ前を見つめていたのだった。
(フローラ)
「……本当に……そうでしょうか……?」
「本当は貴方自身もわかっているはずです……」
「この学園がしていることこそが最愛の人を失った方法であると」
「でも貴方は最愛の人を失った悲しみから目を逸らす事しかしたくなかった……」
「そして同時にもう最愛の人を失いたくないからこの学園を作った」
「でも貴方がしている事は……その当時理事長の娘さんがしていた事を麗子さんにさせているだけです!」」
「逆らう者を排除することと自分が気に入らない者を虐める事は全く同じです!」
「そしてそんなものは教育とは言いません!」
「教育とは異なる考えを持つ者達を誰も差別せずにその考えを自重しつつかつ誰も悲しむ者が出ない様に擦り合わせる事が出来る思想だと私は思っています」
「そして貴方なら……いや辛い思いをした貴方だからこそそういう学園を作れるんじゃないんですか?」
そのフローラの言葉を聞いた瞬間、冷道は涙を流し始めた。
そして次の瞬間、辺り一面が眩しい光に覆われ始めた……。
舞とフローラは元の場所に戻って来ていた。
そして二人の目の前には椅子に座って項垂れたままになった冷道がいた。
(冷道)「私が……間違っていたと言うのか……」
(舞)「貴様が間違いと思ってるならそうなんだろ」
(フローラ)
「貴方が何をどう思うかは個人の自由です」
「でもその貴方の考えを自分の学園の生徒にまで強要するのは違います」
「教育者なら正すものは正す必要があるのかもしれません……」
「ただ正す事を強制する事はまた違います」
「強制するのではなく擦り合わせる事」
「そして互いの主観を尊重しつつ共存していくこと」
「それこそが貴方が本当に作りたかった世界だと私は思います」
「そして自らの過ちに気付いた貴方ならばその世界の実現も可能だと私は思います」
冷道はただフローラの話を黙って聞いていた。
そして一筋の涙を流していた。
(冷道)「……私の……負けだ……」
冷道は消えそうなか細い声でそう呟く様に言った。
舞は、その状況に違和感しか感じていなかった。
(舞)(ん? ん? ん? これで本当に終わりなのか……?)
だが次の瞬間、二人の後ろのドアが大きく開いた。
そしてそこにはなんと、神東町にいるはずの義彦が立っていた。
だが義彦は、誰かに操られているかの様に意識がない状態で、その場でフラフラしていた。
(舞)「ん? 何故貴様がここにいる?」
次の瞬間、義彦は持っていたナイフで椅子に座っている冷道に襲い掛かって来た。
だが舞はその義彦の動きをすぐに察知し、『フレキ』の魔法を義彦にかけた。
そして『フレキ』の魔法を喰らった義彦はナイフを落とし、その場に倒れた。
(舞)
「一体何だったんだコイツ……」
「まるで何かに操られていたみたいだったが……」
その次の瞬間、舞は言い様の無い程の強烈な光のオーラをドアの方から感じた。
そしてその光のオーラを受けた冷道は椅子に座ったまま気を失った。
(舞)
「な……何だ……この強烈な力は……」
「そ……そこにいるのは誰だ!」
するとその舞の呼び掛けに応じる様に、その人物が現れた。
何とその人物は良子だった。
(舞)「な……何で……人間の貴様が……これ程の力を……?」
舞はその状況に困惑していた。
すると良子はそんな舞に向かって微笑んだ。
(良子)
「ありゃりゃ……本当に全員救っちゃうなんてね……」
「所詮これが人間の限界なんだね……」
「まーでも結構楽しめたし……目的も果たしたし……もういらなかったから丁度良かったんだけどね……」
(舞)「ん? 貴様……何を言ってんだ……?」
舞は良子の言葉の意味が全くわからなかった。
だが次の瞬間、舞の横を光の矢が通過し、その光の矢が良子を貫いた。
舞は一瞬何が起こったのかわからず、ゆっくりと後ろを振り返った。
するとそこには錫杖を前に立てた状態で良子を睨み付けているフローラがいた。
(舞)「お……おい……フローラ……どういうつもりだ?」
(フローラ)
「舞さん! よく見て下さい!」
フローラに言われるがまま、舞は良子の方を見た。
すると良子は光の矢に貫かれたにも関わらず、微動だにしていなかった。
舞はその状況に困惑していた。
(フローラ)「舞さん! あの人がルシファーです!」
(舞)
「はっ?」
「貴様……何を言ってんだ?」
(フローラ)
「実はずっと引っ掛かってた事があったんです」
「あの人だけなんですよ」
「私が白い猫の姿の時に声を出しても一切取り乱さなかったのは!」
舞はフローラの言葉を聞いて、ようやく現在の状況を理解し、良子に対して臨戦態勢を取った。
その直後、矢に貫かれたまま良子は顔を上げ始めた。
すると次の瞬間、良子の胸を貫いていた光の矢が跡形も無く消え去った。
そして同時に、良子の背中から黒い翼が姿を現した。
(良子)
「やれやれ……やはり貴様は要注意だったな……」
「さすがは転生界の守り人と言ったところか……」
「その通りだ!」
「この俺様がルシファー様よ!」
そう言いながら、良子は不気味に微笑んだ……。
次の瞬間、空から二つの物体が猛スピードで学園の天井をぶち抜いて、良子を目掛けて襲い掛かって来た。
だが良子は、その二つの物体の攻撃を自らのオーラで受け止めた。
その二つの物体の正体は、本来の姿になったラファエルとガブリエルだった。
そしてラファエルとガブリエルは聖剣を携えてルシファーに襲い掛かっていたのだった。
(ラファエル)「見つけましたよ! ルシファー!」
(ガブリエル)「貴方には我々が裁きを下します!」
(良子)
「……チッ!」
「貴様達天使共もしつこいな!」
良子は自らのオーラの力でラファエルとガブリエルを弾いた。
(良子)
「まあいい……」
「丁度いい機会だ……貴様達天使共に見せてやる!」
そして良子は、懐から悍ましい色をした玉を取り出した。
(良子)
「喰らえ天使共!」
「スーサイド!」
良子がそう叫ぶと、大きな玉から黒い光がガブリエルとラファエルに向けて放たれた。
ガブリエルとラファエルは共に光の壁を目の前に出して、その黒い光を防ごうとした。
(良子)「無駄だ!」
だが、黒い光はその壁をすり抜けてガブリエルとラファエルに直撃した。
すると次の瞬間、ガブリエルとラファエルは跡形も無く消え去った。
舞とフローラは共に今目の前で起きた事が理解出来なくて、その場で呆然としていた。
(フローラ)
「ど……どういうことです?」
「何故……お二方が消えたのですか!?」
良子は不気味に微笑んでフローラの問い掛けに答えた。
(良子)
「クックック……」
「何故かって? 簡単だよ天使共は自ら消滅したんだよ」
「自責の念に耐えれなくなってな! ハッハッハ……」
フローラは良子の言っている意味が全くわからなかった。
(舞)
「消えた事もそうだが……」
「そもそも貴様のその魔法は何だ?」
「スーサイド何て聞いた事も無い魔法だぞ」
(良子)
「聞いた事なくて当然さ」
「この魔法は俺がこの世界で作り上げた俺様のオリジナルの魔法だからな」
「この魔法こそ誰が相手でも必ず殺せる……いや消滅させれる即死精神魔法だ!」
良子は二人に向かって高らかに笑った。
(舞)
「ちょっと待て!」
「何故貴様が精神魔法を使えるんだ?」
「精神魔法はそもそも悪の要素が無いと使えない魔法だぞ!」
「貴様は腐っても天使では無いのか?」
(良子)
「違うな……俺様は正確には堕天使……」
「天使でありながら闇に落ちた天使だ……」
「しかし貴様も言う様になったな……」
「そもそも貴様こそ誰に精神魔法を習ったのかもう忘れたんだな……」
次の瞬間、良子は黒い光の中に包まれた。
そしてその黒い光の中から、悪魔の様な姿をした者が姿を現した。
舞はその姿を見た途端、急に震え出した。
(舞)
「ま……まさか……」
「アンタなのか! デミトリ!」
「アンタがルシファーだったのか!」
(デミトリ)
「クックック……」
「貴様と会った時はそういう名前だったな……」
(フローラ)「……知り合いだったんですか?」
(舞)
「知り合いなんてもんじゃない!」
「デミトリはこの俺様に精神魔法を教えた悪魔だ!」
(フローラ)「えっ!? それってどういう事ですか!?」
(デミトリ)
「デスターニャ……貴様は色々喋り過ぎだ……」
「そもそも貴様にはもう用は無い!」
「貴様は自分の得意とする魔法の中で永久に彷徨うがいい」
「マインドクロージャー!」
デミトリはその言葉と共に右手を舞に向けた。
その直後、舞はその場に気を失って倒れた。
(フローラ)「な……何をしたんです!?」
(デミトリ)
「……奴がこれ以上ここにいると邪魔にしかならんからな……」
「だから精神の檻に閉じ込める事にした」
「奴は今頃精神の中で過去と戦っている事だろうよ」
(フローラ)「そ……そんな………」
デミトリは落胆しているフローラを見ながら高笑いをしていた。
フローラはそんなデミトリを睨み付けると、錫杖を自分の目の前に置き、そして地面に突き刺した。
(デミトリ)
「……何の真似だ?」
「天使共の能力も効かなかった俺様に貴様が勝てると思っているのか?」
(フローラ)
「天使様の力がどんなものかは知りませんが」
「私は転生界の守り人です」
「そして今は貴方を倒せる唯一の者です!」
フローラは錫杖から巨大な光の矢をデミトリに向かって放った。
(デミトリ)「成程……」
デミトリはフローラが放った光の矢を両手で受け止めた。
そしてその光の矢を両手で握り潰した。
すると次の瞬間、巨大な光の矢は破壊されていき、そして消滅した。
(フローラ)「クッ!」
(デミトリ)
「まったく……」
「だが……やはり俺様の眼に狂いは無かったな……」
デミトリはそう言った後、黒い光と共に良子の姿に戻った。
そして静かにフローラに語りかけ始めた。
(良子)
「フローラとか言ったな……」
「貴様はこの人間界に何か思うところがあるのではないか?」
(フローラ)「な……何を言って……」
(良子)
「人間の魂しか見た事が無かった貴様は人間が本当はどんな生き物か知らなかった……」
「だがこの世界に転送した事で色々と知ってしまった……」
「この世には魔族以上の悪の人間が存在すると……」
「そしてその者達がいる限り正しい人間が救われない事を」
フローラは良子の言葉に何も言い返せず、錫杖を目の前に構えたまま、その場に立ち尽くしていた。
(良子)
「実は俺様も同じ事を感じている……」
「何故全ての人間を神が救う必要がある?」
「いやそもそも何故天界はそういう人間に裁きを下さない?」
「悪魔とか魔族とは無条件で戦った事もあるのにだ」
「俺様はいつもその疑問が消えなかった……」
「だから俺様は全ての界を統一して全てに裁きを下せる様にしたかった……」
「だが天界はそれを許さなかった……」
「全ての界は神の指示無しには干渉しない」
「だから俺様は神に反旗を翻した……」
「だが強大な神の軍団によりこの俺様は敗北を喫した……」
「だが俺様はボロボロになりながらも消滅からは逃げ切った……」
「そしてしばらく魔界で身を隠した後にこの界に辿り着いた」
「そしてこの眼で人間の悍ましさを再認識した俺様は同時にこの悍ましさを利用する方法を思い付いた」
「その結晶がこの玉だ!」
良子は懐からガブリエルとラファエルを消滅させた悍ましい色をした玉を取り出し、フローラに見せ付けた。
(フローラ)「その玉は……一体何なんですか?」
(良子)
「これは人間の持つ負の感情全てを集めて詰め込んだ魔法の玉だ」
「そしてここから放たれる精神魔法は受けた者の心を破壊する」
「つまりこの玉から攻撃を受けた者は人間の持つありとあらゆる負の感情に心が押し潰されてしまう」
「そしてその心に耐えきれなくなり自ら消滅を選ぶというわけだ」
「まー人間の言葉で言うなら……心が潰されてしまって自殺を選ぶという感情だな」
(フローラ)
「そうですか……」
「それで私も消滅させようと……そういう事ですね……」
(良子)
「違うな……」
「貴様はおそらくこの魔法を喰らった途端俺様と同じになるだろうな……」
(フローラ)
「そんな訳ありません!」
「それこそもしそうなったなら私は喜んで自害します!」
(良子)「なら……試してみるか……」
良子はフローラの前に玉を構えた。
(良子)「ダイドウィズエビル!」
良子のその言葉と共に悍ましい色の玉から何本もの黒い線が放射線状に放たれた。
そしてその線はフローラを覆い尽くした。
そしてその中心にいたフローラに人間の悍ましい部分が一気に流れ込んで来た。
(フローラ)「頭が……頭が……ウワーーー……」
フローラはその状況に耐えれなくなり、錫杖を力無く落とすとその場に倒れ込んだ。
そして黒い線はフローラの身体の中に入り込んでいった。
(良子)「ん? まさか本当に死んだのか?」
良子が倒れ込んだフローラを覗き込んだ。
するとフローラは急に立ち上がった。
(フローラ)「ウウウウウ……ウワーーーー!」
フローラは雄叫びを空に向かって上げた。
すると次の瞬間、フローラの白い羽根がみるみる内に黒く染まっていった。
(良子)「クックック……やはり思った通りだったな……」
良子は不気味な声で大笑いし始めた。
そしてフローラに向かって尋ねた。
(良子)「貴様は何者だ?」
(フローラ)
「……我はフローラ……転生界の守り人……」
「そして人間の粛清を行い……悪しき者を消滅させる者なり……」
(良子)
「クックック……そうかそうか……」
「それじゃー俺様と同じだな」
「じゃーまずは天界を滅ぼしに行こうか」
「そうすれば貴様は誰にも邪魔されずに人間の粛清を行えるだろう」
フローラは小さく頷いた。
そして良子とフローラはその場から消えたのだった……。
それからしばらくした後、麗子は目を覚ました。
そしてその後で冷道も意識を取り戻した。
そして義彦も正常な状態となって意識を取り戻した。
そして目覚めた三人は、本当の記憶を思い出していた。
そして全く同じ時間に、カイゼル、真実、虎次郎、知恵、剛も本当の記憶を思い出していたのだった……。
(ナレーション)
ルシファーの魔法により、フローラは闇に堕ちてしまった……
そして舞はルシファーによって精神の中に閉じ込められてしまった……
このままルシファーの思惑通りになってしまうのだろうか?
そしてそんな中、全てを思い出した者達はどうするのか?
〜最終章〜 人間の価値【前編】
へ続く
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