〜第十章〜 カリスマと仮面の心 【前編】
(ナレーション)
その少女は誰から見ても美しく気品が高かった。
まるでどこかの国のお姫様かと見間違うぐらいに。
あるいは、神話に出現するその魅力で人々を混乱させる美しき怪物かのように。
女性なら誰もがその見た目に嫉妬する。そんな容姿をしていた。
だが同時にその少女はとても計算高く、そして冷酷だった。
その抜群の笑顔の裏で、何人もの人間を支配していた。
そしてその少女はその学園の支配者となった。
その少女の名前は鬼頭麗子。人は彼女をこう呼ぶ。鬼女麗子。
そしてその少女は、この学園の理事長である鬼頭冷道の一人娘でもあった……
前日の衝撃的なニュースは学園でも話題となっていた。
「四鬼衆の一人が逮捕されたんだって?」
「あれ? そもそも鬼って四人だったっけ?」
「理事長はどうするんだろ? 責任問題になるんじゃないのかな?」
「麗子さんはどうするつもりなんだろ? まさか黙ってるなんてことないよね?」
「うちの学園これからどうなっていくんだろ? もうこんな状況じゃ支配とか出来ないよね」
「もう支配による統治は無理なんじゃない?」
その日麗子はカイゼルと真実を呼び出して、緊急集会を開いていた。
(麗子)
「もう知ってるわよね? 昨日剛が逮捕されたわ」
(カイゼル)「はい! 衝撃でした⦅色んな意味で⦆」
(真実)「私もびっくりしました!⦅色んな意味で⦆」
(麗子)
「そう……それでパパと話したんだけど……財前剛は今日を以って退学させることとなったわ」
「それと四鬼衆は解散することになったわ」
(カイゼルと真実)「えっ!?」
(麗子)
「もうこれ以上活動するのは無理だと思う」
「それにこれからは恐らくこの学園に警察が介入してくる」
「そうなると恐らく今までのことが暴露されることになるわ」
「だから私はしばらく海外に移住することにしたわ」
「カイゼル、真実、私達がしてきたことは世間からしたら異常な行動なのよ」
「だから必ず警察は今回の事件から私達のことを調べ始める」
「二人も早くこの学園から出た方がいいわよ」
「心配しなくても後はパパが上手くやってくれるから。それじゃーね」
それだけ言い残すと、麗子は教室から逃げる様に出て行った。
もう学園にはマスコミが殺到していた。
(カイゼル)「……どうする?」
(真実)「どうするも何も同業者にすっぱ抜かれるなんて絶対嫌よ!」
(カイゼル)「しかし何で神様は今回は隠さなかったんだろ?」
(真実)「それ! 私も気になってたの!」
(カイゼル)「……行こう! 神様の元に!」
(真実)「うん!」
二人は教室を飛び出て、マスコミに見つからない様に裏道から抜け出ていった。
― 良子の部屋 ―
財前剛の逮捕のニュースを見ながら、一人の少女と一匹の猫は会話していた。
(舞)
「本当にこれで良かったの?」
「何かとても大騒ぎになってるけど……」
(白い猫)
「……流石にとても悪い状況になったかもしれませんね……」
「でもこれが神の意思だとするなら……仕方ありません……」
(舞)「よくわかんないけどさ、それでこの後どうするの?」
(白い猫)
「……どうしましょうか……」
「もうどうすればいいのかどうしたら良かったのか私にはわからなくなってしまいました……」
白い猫は、色々悩み過ぎて頭を項垂れていた。
(舞)「……ねぇフローラさん……このところ何か変だよ? どうしたの?」
(白い猫)
「……何でしょうか……何て言うか……」
「私達が今までしてきたことって……本当にして良かったことなのでしょうか?」
(舞)「ん? ん? どういうこと?」
(白い猫)
「なんて言うか……私達みたいな異能な存在が……この世界の理に関与することがどうなのかと思いまして……」
(舞)「今更何言ってんのよ! アンタが言い出したんじゃない! 裁きを下すって!」
(白い猫)
「確かにそうですよね」
「すみません……何か最近色々あって……」
(舞)「まったく……人間みたいなこと言わないでよね!」
(白い猫)「……ごめんなさい……」
白い猫は舞に向かって頭を下げた。
そんな中、急に白い猫のPCが光り出した。
(舞)「何事なの?」
(白い猫)「カイゼルさんと真実さんからの呼び出しですね」
(舞)「もうここでいいんじゃない? 良子もいないし」
(白い猫)「それもそうですね」
白い猫は慣れた手付きで、PCを操作し出した。
(白い猫)「どうしましたか?」
(カイゼル)「神様大変です! 麗子さんが海外に逃げるって言い出しました」
(真実)
「そうそう! 大変なのフローラさん! なんか四鬼衆も解散するとか言って」
「そんで報道陣も学園に押し掛けて大パニックなの! ねぇどうしたらいい?」
(カイゼル)「神様! 道を示して下さい!」
(白い猫)「えっ? どういうことですか? 一つ一つ順を追って説明して下さい」
そしてカイゼルと真実は、学園で麗子と話したことを伝えた。
(白い猫)
「……成程……わかりました……まさかこれ程の騒ぎになるとは……」
「とりあえずお二人は自分の家にいて下さい」
「また後で連絡します」
白い猫は、その後PCの蓋を閉じた。
(舞)
「人間の行動力舐めてたわね」
「でもこれで良かったんじゃない?」
「これで心置きなく鬼頭冷道……いやルシファーの元に殴り込めるでしょ?」
(白い猫)「……最初に今回の裁きを行う時に私が言った言葉覚えてますか?」
(舞)「ん? 何だっけ?」
(白い猫)
「暴虐無人な者に復讐という名の裁きを行う」
「その信念で今まで行動してきました」
「でも途中から彼らにも人間の心があり、更にそれぞれに過去や悩みがあったことがわかりました」
「だから私は鬼頭麗子も救いたいと思っています」
「おそらく彼女こそ実はあの学園の一番の被害者なんじゃないかと」
「何となくですがそう思っています」
(舞)
「はいはいわかりました!」
「じゃー鬼頭麗子にも会いに行かないとね」
「でもどうするの? 鬼女だよね? しかも冷道の娘」
「一筋縄じゃいかない相手だと思うけど」
(白い猫)
「そうですね」
「実は以前カイゼルさんと真実さんにも調べてもらったのですが、彼女が養子だってことと母親が自殺したってこと以外何も分からなかったんです」
「おそらく過去を消し去っているんだと思います」
(舞)「成程ね……ん? 養子って何? 自殺って?」
(白い猫)
「貴方は何も知らないのですね」
「養子ってのは人間が子供をある事情で作れない環境の時に、別の施設と呼ばれているところに預かっている子供から招き入れて自分の子供にすることです」
(舞)
「ん? どういうこと? なんでそんなことをわざわざするの?」
「それに子孫を残せないってのはどういう意味?」
(白い猫)
「魔族の貴方には分からないかもしれませんが、人間が子孫を残す為には一つの方法しかありません」
「雄と雌が交わることによる方法」
「ですが中にはそれでは出来ない、あるいは元々その行為では出来ない身体の方もいるというわけです」
(舞)
「つまり自分の種族の血が途絶えてしまうのを防ぐ為に、違う種族を同じ種族に無理矢理変えて、それで自分の種族を守る行為が養子ってこと?」
(白い猫)
「……少し解釈違いますが概ねあってますのでよしとします」
「次に自殺ですが、これは人間がある環境下において生きることが辛くなった時に、死を選ぶということです」
(舞)
「ん? よくわかんないんだけど」
「何でその環境に立ち向かって生を勝ち取ろうとしないの?」
「もしくはそう仕向けた奴を殺さないの?」
(白い猫)
「人間は貴方みたいに強い心を持っていません」
「むしろとても心が弱い存在です」
「それでも皆、自分の環境下で生きようとしています」
「ですが、中にはその環境に耐え切れなくなり、死を選ぶという人が実際にいます」
「特にこの世界ではそういう人が大勢いるようです」
(舞)
「……本当よくわかんないね人間って」
「折角生きてるんだから自分の思い通りに生きればいいのにね」
(白い猫)
「もしかしたらそう出来ないのがこの世界なのかもしれません」
「目に見えない力……私達が経験したことも無い様なとても怖い力」
「この世界の人間はその力にいつの間にか支配されているのかもしれません」
「そして、それはありとあらゆる言葉に変わり、人間を常に傷つける」
「言うなればそれはずっと見えない毒を浴びている様な、あるいは特定条件で発動する見えない大量の矢をずっと向けられている状況の様な」
「そんな世界がこの世界なのかもしれません」
(舞)
「……怖いねこの世界」
「初めて自分が魔族で良かったって思ったよ」
「魔族にはそんな攻撃は一切ないから」
(白い猫)
「ええ怖いです」
「まだ誰もその力を使いこなせていないから脅威はありませんが、もしこれを使いこなせる人間がいたら、その人は神を超える力の持ち主になるかもしれませんね」
(舞)
「確かにどんな魔法よりも効くかもね」
「精神そのものを完全に攻撃して人に死を選ばせるなんて」
「それは即死魔法が効かない奴にも効くってことだから」
「つまり言うなればそれは完全な即死魔法」
「どんな魔法使いも辿り着けない最強魔法と言えるかもしれないわね」
「ただそんな目に見えないモノなんて掌握も習得も出来ないけどね」
(白い猫)
「そうですね」
「さて話を元に戻しましょうか」
「つまり……ん? ってことは……いや……でもそれは……」
白い猫は急にブツブツ言いながら何かを考え始めた。
(舞)「ん? どうしたの?」
(白い猫)
「……いえ……」
「もしかしたら麗子さんのこと救える方法見つかったかもしれないです」
(舞)「えっ? そうなの? じゃー早く麗子の元に行きましょうよ」
(白い猫)
「それはちょっと待って下さい」
「ちょっと確認したいことがあるので」
(舞)「確認したいことって?」
舞がその質問を投げ掛けると同時に、白い猫はPCを開きカイゼルと真実に指示を送った。
(カイゼル)「わかりました。調べておきます」
(真実)「こっちも大丈夫よ。ちょっとパパの会社で調べてみるね」
(白い猫)「2人ともよろしくお願い致します」
そして白い猫はPCの蓋を閉じた。
(白い猫)「さて行きますか」
(舞)「行くってどこに?」
舞がその言葉を言い終わるかどうかぐらいで、白い猫は光り出した。
そして一人と一匹はその場から消え去った。
― 某所 ―
(舞)「ここはどこ?」
(白い猫)「麗子さんが昔いた施設です」
(舞)「ふーん……それで何でこんなところに来たの?」
(白い猫)「その説明はまた後で……それじゃー入りますよ」
次の瞬間、舞の指輪が一瞬光った。
(舞(精神))「おい! 入るってそういう意味か! 貴様! フローラ!」
(フローラ(精神))
「ウフフ……わかってたでしょ?」
「さて……それじゃー行きましょう」
そして舞はその施設の中に入って行った。
(施設長)「麗子ちゃん? あー覚えているわよ。ちょっと待っててね」
その施設の職員は、古いアルバムを持って来た。
そのアルバムの中の麗子は今とは違いあんまり笑ってはいなかった。
どことなく寂しそうな、でもそれが素顔なんだと誰もがわかる、そんな顔をしていた。
(施設長)
「ここに来たのは確か今から13年ぐらい前だったかしらね」
「麗子ちゃんはシングルファザーで父親と二人だけで住んでいたんだけどね、その父親が自殺してしまって、それで警察から児童相談所に連絡が行き、そこからうちに連絡があって、うちに来たのよ」
「当時からとても可愛かったんだけど、来た当初はとても暗い子だったわね。まーそれは無理もないんだけどね」
「でも、うちで暮らす内に段々明るさを取り戻していったわ」
「そしてその頃には既に誰もが認める美少女になってたわ」
「近所でももう凄い人気者。皆んなが可愛い可愛いって言ってたのをよく覚えているわ」
「そんなある日だったわね。当時駆け出しの青年実業家とその妻がこの施設に来たのは」
「その妻が子供が出来ない身体だったらしくて、養子を探しに来ていたのよ」
「そしてその青年実業家が引き取りたいと言って来たのが、当時8歳の麗子ちゃんだったのよ」
「私達は当時よく分からないその青年実業家に麗子ちゃんを引き渡すのは反対だった」
「だからお断りしたのよ」
「でもその青年実業家はそれから何日も妻と一緒に施設を訪ねて来る様になった」
「そしてその麗子ちゃんへの接し方は二人共とても優しかった」
「その姿にね、私達は心を打たれたのよ」
「今までもその可愛さで麗子ちゃんの養子を申し出た人達はいたけど、皆んなその可愛さ目当てで、だからこちらから断ったらその日からはもう来なかった」
「でもあの二人は何日も麗子ちゃんを訪ねて来てた」
「だからこの二人には麗子ちゃんを託せるって思って、養子に出すことを職員全員で決めたのよ」
その言葉を聞いて舞はとても驚いた。
そして舞は施設長に一礼して施設を出た。
その次の瞬間、舞の指輪が一瞬光った。
舞は施設を出て歩き出した。
そしてその傍には一匹の白い猫が一緒に歩いていた。
(舞)「……さっきの話……どう思う?」
(白い猫)
「……率直に言うと驚きました」
「おそらくその青年実業家が鬼頭冷道さんなんでしょうが……」
(舞)「うん……それは間違いないと思う……でも……」
(白い猫)
「ええ……もし冷道さんがルシファーなら、そんなことをするメリットって何だったんでしょうか?」
「……何か色々私達は大きな勘違いをしている様な気がします……」
(舞)「うん……それにあの鬼頭冷道が優しかったってのはとても引っ掛かるわ」
(白い猫)
「それについてはおそらくあの二人が今情報を集めてくれています」
「鬼頭冷道がいつから変わったのか」
「それと麗子さんのお母様の自殺は何か関係があるのか」
「……とりあえず戻りましょう」
白い猫は急に光りを放ち出した。
そしてその光の中に、一人と一匹は消えていった。
― 良子の家 ―
白い猫はカイゼルと真実と話し合っていた。
(白い猫)「成程……わかりました……お二人ともありがとうございました」
(カイゼル)「これぐらい動作も無いことですよ神様」
(真実)「そうだよ。いつでも頼っていいからね」
白い猫はそっとPCを閉じた。
ー ??? ー
黒い影が、よくわからない機械の前で呟いていた。
「全く……剛の奴……これだから人間は……まあいい……もう全て揃ったに等しい……後は……」
そして、その黒い影はその場から消え失せた……
― 英傑学園理事長室 ―
(冷道)
「全く! 剛の奴ドジ踏みやがって! 後始末をする身にもなってみろってんだ!」
「しかし麗子には任せろと言ったがどうする? このままじゃ何もかもバレてしまうぞ……」
(???)「お困りですか?」
(冷道)「誰だ!」
(???)「誰だとはこの私に向かって言ってるんですね……クックック」
その謎の存在はそれだけ言うと消え去った。
そしてそれと同時に冷道は気を失った。
その直後、目を覚ました冷道は様子が変わっていた。
(冷道)「……フフフ……そうだ私にはあの方の力がある……この力を使えば……」
ー神東町 とある病院ー
義彦はいつもの様にその病院で作業をしていた。
そんな義彦の背後から黒い影が近寄って来ていた。
(義彦)「あれ? 何で君がここにいるの?」
義彦はその言葉を言い終わるぐらいで、その場に気絶した。
「クックック……さてこれで役者は揃った……」
その言葉を残し、黒い影は義彦と共にその場から消え去った……
― 良子の家 ―
白い猫は舞にカイゼルと真実から聞いたことを伝えた。
(舞)
「……えっ? それ本当なの!?」
「でももしそうなら、冷道がルシファーである可能性はとても低いんじゃないの?」
「どういうこと?」
(白い猫)
「……わかりません」
「おそらく本人に直接聞いた方がいいのかもしれないですね」
(舞)「そっかー……」
その言葉の直後、舞の頭に急に痛みが走り出した。
(舞)「痛い! 痛い痛い!」
(白い猫)「ど、どうしたんですか!?」
白い猫は、急に疼くまりだした舞の事を心配していた。
そして舞はその場に倒れた。
― ??? ―
謎の場所で意識を取り戻したデスターニャは、魔王の頃の姿に戻っていた。
(デスターニャ)「ここはどこだ? あれ? 何で俺様は元の格好に?」
『ここは私の精神の中です』
デスターニャが振り向くと、そこにはとても可愛い女性が立っていた。
そしてその姿をデスターニャはどこかで見た記憶があった。
『時間が無いので手短に話します。義彦さんを助けて下さい。お願いします。』
『あの人はただ操られているだけです……そして……』
その次の言葉を言おうとした瞬間、その女性は眩しい光の中に消えていった。
― 良子の家 ―
(舞)「待って!貴方は……?」
舞はその言葉と共に目を覚ました。
(白い猫)
「舞さん! しっかりして下さい! 一体どうしたんですか?」
(舞)
「わかんない……何が起こったかわかんないけど……」
「多分私自分の精神の中に今一瞬入った」
「いや私だけど私じゃなくて元の持ち主の……」
(白い猫)「えっ? そんな能力なんか聞いたことないですよ?」
(舞)
「私だって聞いたことないわよ!」
「でも何か言ってた……でも思い出せない……」
⦅それにあの姿……何だこの拭えない違和感は……⦆
(白い猫)
「おそらく元の持ち主にとても強い思いがあって、それで一時的に貴方の中に現れたのだと思われます」
「ただもしそうなら……元の持ち主の魂はまだ貴方の中で生きているってことですね」
(舞)
「……おそらくそうね」
「そしてもしそうなら……全てが終わったら私は消えた方がいいんだよね」
(白い猫)「ええ……でもいいんですか?」
(舞)
「いいも何ももうこの世界にはうんざりだから!」
「消えるならもう消えてもいいや!」
「それにここには優秀な転生界の守り人もいるわけだし」
「エルドラドに戻れるならもう何に転生しても私はいいよ」
(白い猫)
「ウフフ……そうですか」
「じゃーその件は後で考えましょう……でもその前に……」
(舞)「ええ……行きましょう……鬼の仮面を剥ぎ取りに!」
そして、一人と一匹はその場から消え去った。
― とある飛行場 ―
麗子は搭乗手続きを済まし、キャリーケースを持って待機所でのんびりしている。
(麗子)
「この国ともしばらくお別れか」
「色々あったはずだけど……何でかなぁ……色々思い出せないや」
「何か色々大切な思い出もあったはずなんだけどなぁ……」
麗子は寂しそうに呟いていた。
そんな麗子の前に、突然一人の少女と一匹の猫が現れた。
(麗子)「なっ! 何なのアンタ達! 今どこから現れたの?」
そんな戸惑う麗子の手を握ると、無言のままその一人の少女と一匹の猫は麗子を連れて消え去った。
そしてその場には麗子のキャリーバッグだけ残された。
その周りにいた人達は、自分達の目の前で今起こったことが理解出来ずにパニックとなった。
「人攫い! いや神隠しだ! 少女が急に消えた!」
「とにかく警察! 警察に連絡だ!」
― 舞の家 ―
その家は電気も通っていなく暗い家だった。
そんな家の中に二人の少女と一匹の猫がいた。
(麗子)
「……ここはどこ?」
「ってかーアンタ達何者なの?」
麗子は急に訳わからないところに連れて来られて困惑していた。
だが同時に舞も、麗子の顔を見て何か言い様の無い違和感を感じていた。
(舞)「えっ? あれ? どっかで貴方の顔見た様な……」
(白い猫)「……まったく……貴方もおかしくなったんですか?」
麗子は急に話し出した白い猫を見て、とても驚愕した。
(麗子)
「……!?」
「今……この猫……喋らなかった……!?」
(舞)
「ちょっとフローラさん、だから急に話さないでって言ってるじゃんか……」
舞は白い猫を嗜めた。
(舞)
「でもなんかその反応久しぶりだね」
「最近変なのとばっか相手してたからね」
「そしてこの場所も懐かしいね」
「そうは思いませんか? 麗子さん」
(麗子)「何を言ってるの? こんな場所……あれ? ここってまさか……」
(舞)「そうよ! 貴方達が私を殺した場所よ! 思い出した!」
(麗子)「えっ? 私そんなことしてない……いや……した? ……私が? ……何で……?」
麗子は自分のしたことを覚えている様な覚えていない様な感じだった。
(舞)「今更しらばっくれる気?」
(麗子)「違う! 本当に! 違う! ……いや違わない……」
(舞)「アンタ……クズだね……」
そう言いながら舞は麗子に殴りかかろうとした。
だがその拳を、急に光と共に現れた羽の生えた女性が止めた。
(舞)「おいフローラ……なぜ止めた?」
(フローラ)
「まったく貴方という方は……何をしようとしているのですか?」
「まさかこんな弱そうな方をその拳で殴ろうとしてたんじゃ無いですよね?」
「流石にそれを見逃す事は私はしませんから」
「しかし話し聞いてよくわかりました」
「何か恐らくこの方だけ記憶操作がおかしくなってますね」
(舞)「そうなのか? 嘘ついてるだけじゃないのか? このメスが」
麗子は急に現れた女性とその少女の姿を、ただ茫然と見ていた。
麗子は目の前の急な展開に付いていけずにただ戸惑っていた。
(麗子)
「えっ? えっ? 口調変わった?」
「いやそれよりも……ほ、本物の……て、天使!? でも今……どこから現れたの!?」
「……そ……そんなことより……た……助け……呼ばなきゃ……」
そして麗子は携帯電話に手を伸ばし、誰かに連絡をしようとした。
だが、携帯電話は圏外となっていて使えなかった。
(麗子)「あれ? あれ? どういうこと? 何で? 何で? 何で?」
麗子は今の自分の状況にどんどん困惑し、それと共に恐怖が増していることを感じていた。
そして麗子は、もう震えながら携帯電話を必死でいじる事しか出来なくなっていた。
(舞)
「おいおい……これがラスボスか?」
「もっと堂々として欲しいもんだけどなー」
「他の奴らはもっと堂々としてたぞ」
(フローラ)
「むしろこれがこの方の本性です」
「カリスマ……アイドル……これらはいずれも偶像です」
「つまり周りがいて初めて輝く存在」
「一人だけでは輝けない……そういう存在なのです……」
(麗子)「クソッ! クソッ! 何で? 何でよー!」
(フローラ)
「無駄ですよ麗子さん」
「それでは裁きの時間に入りましょう」
天使の様な姿の女性のその言葉に、麗子は畏れ慄いた。
(フローラ)
「大丈夫……私が貴方の心も救って差し上げます」
「それでは行きますよ舞さん」
(舞)「わかったぜ! 行くぞ!」
(フローラ)「はい!」
二人は手を繋ぎ出した。
(二人)「マインドオペレーション!」
その声と共に、辺り一面を眩しい光が覆い始めていた……。
(ナレーション)
こうして舞とフローラは麗子の精神に入り込むのだった。
果たして麗子の過去とは?
そして謎の存在の不気味な行動の意味とは?
〜第十章〜 カリスマと仮面の心 【後編】
へ続く




