〜第九章〜 金の魔力【後編】
―某所―
屈強でニヤニヤした武器を持った大勢の男達数百人が、眼鏡姿のいかにも弱そうな少女とその相棒の白い猫の目の前に立っていた。
そしてその真ん中にいたのが財前剛とその側近数名。それと中国人の男だった。
だが、その少女はその男達の前で不敵に笑ってた。
「剛さんいいんですか? こんな女1人相手にこれだけ大勢で囲んで」
「これじゃーリンチかもしくは集団暴行になりますよ」
(剛)「構わねえよ! 生きるのが嫌になるぐらいの酷い目に合わせてやれ!」
(中国人の男)「ツヨシサン・・・コンナオンナダケナラウチノニンゲンナンカイラナクナイデスカ?」
(剛)「あー王さん。王さんの方は逃げた時に動いて下さい。蜂の巣にして構いませんから」
(中国人の男)「ワカリマシタ」
(剛)「オイ女! 貴様わかってんだろな? もう泣いたって許してやんねえからな!」
(舞)「……なんで人間って皆こう口煩いのかしらね……」
(剛)「オイ! 貴様! この状況わかってんのか?」
(舞)
「少なくともアンタよりは見えてるわよ!」
「だから正直がっかりもしてるのよ」
「おそらく今の私の相手になりそうなのはここにはいないからさ」
「でもまー仕方ないから相手してあげるわ」
「じゃーおいで人間の雑魚達」
「数は戦闘では無意味なことを教えてあげるから」
(剛)「何! オイ! 野郎共! やっちめぇ!」
その剛の号令で、その男達は一斉に襲い掛かった。
(白い猫)
「さて見せてもらいますよ」
「エルドラド最強と言われた魔王様の戦いってものを」
白い猫はゆっくりとその場に座って、舞を見ていた。
(舞)
「さてと」
「じゃーいくか!
「ファイア!」
舞は手から炎を出して、それを大勢の男達に向けて放った。
「えっ!? 今……えっ!?……」
屈強な男達は、急に目の前に現れた炎に戸惑い、全員動きが止まった。
次の瞬間、何人かはその炎の球の直撃を喰らった。
(白い猫)
「あっ……何てことを……」
「……そうでしたね……貴方はそういう方でしたね……」
白い猫は舞の方を見ながら、呆れた顔をしていた。
「熱い! 熱い! これ本物の炎だ! み、水だ! もしくは消火器持って来い!」
そこにいた数百人の男達は、舞が放った炎の球1発で全員がパニックとなった。
その炎の中を、舞は1人1人と凄まじいスピードで男達を薙ぎ倒していった。
「待て! まだ火が消えていない! このまじゃ何人か死んでしまう……ウゴッ! ウグッ!」
(舞)
「そんなこと知らないよ!」
「貴方達ここに殺し合いに来たんでしょ?」
「なら私に殺されることを本望と思いなさい!」
その様子を後ろで傍観していた剛達は、その目の前で起こった有り得ない光景を見て驚愕していた。
(剛)「今……手から火……出たよな……!?」
(側近1)「……見間違えかと……」
(剛)「じゃーあそこで燃えているのは何だ!?」
(側近2)「……わかりません……」
(中国人の男)「マジックデナイナラアノオンナナニカブキシコンデタ」
(剛)「あっ! 成程! さすが王さん!」
剛達はそんな見当違いな話しをしていた。
そんな中、舞の後ろで見ていた白い猫はゆっくりと立ち上がった。
(白い猫)
「やれやれ……」
「さすがに人間が焼け死ぬのは見過ごせませんね」
「それがどんな人間でもね」
白い猫は眼を光らせた。
するとその次の瞬間、男達の上空から大量の雨……ではなく滝の様な水が降ってきた。
そしてそこにいた数十人程度の人間の頭上に、その水は直撃した。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ……」
その凄まじい威力の直撃を受けた人間は、全員その場に倒れた。
(白い猫)
「あら……意図せず協力してしまいましたね……ウフフ……」
「まー水を受けたぐらいでは多分死なないでしょう」
白い猫は何かに納得した様子で、またその場に座り込んだ。
そして先程まで燃えていた火は、その水で一瞬の内に消火された。
そんな中でも舞は、とても楽しそうに1人また1人と凄まじい速さで、次々に男達を倒していった。
(剛)「……なぁ……今俺の目の前で何か変な事起こらなかったか?」
(側近1)「……ただ運よくゲリラ豪雨が降っただけではないのでしょうか?」
(剛)「……ゲリラ豪雨って……人倒せるんだっけ?」
(側近2)「……たまに……あるんじゃないでしょうか?」
(中国人の男)「メグミノアメカミガタスケテクレタ」
(剛)「あー成程! 奇跡が起きたんだ! そうだ! そうに違いない!」
剛達はまた見当違いの会話を後ろの方でしていた。
そんな中で、舞とフローラは精神上で会話を始めていた。
(舞(精神))「おい! フローラ! 俺様の楽しみを奪うんじゃねぇ!」
(フローラ(精神))「あらごめんなさい……それで周りのはどうしますか?」
(舞(精神))「そっちも心配ねぇよ! お前はただ寝てろ!」
(フローラ(精神))
「そうはいきません! ちゃんと見てないと貴方人間殺しそうなので」
「あくまでもこれは悪い人間達への裁きで許していることをお忘れなく」
「それをいきなり火を放つなんて……まったく貴方という方は……」
(舞(精神))
「うるさい! これは戦闘だぞ!」
「魔法禁止なんてルールは戦闘には最初から無いわ!」
「元々なんでもありだ!」
「とにかく俺様の楽しみを邪魔するな!」
(フローラ(精神))「はいはい……」
舞はその間も次々に男達を倒していった。
男達は二つの有り得ない出来事にパニックになっていた。
そして為す術無く、次々と舞に倒されていった。
剛が気付いた時には、その屈強な男達は全員その場に倒れていた。
そしてその男達の屍の上を、舞は長い髪をなびかせながら、ゆっくりと剛の方に向かって歩いて来ていた。
(舞)
「ねぇ……雑魚過ぎない?」
「貴方達戦闘したこと本当にあるの?」
舞はその男達の屍の上から、剛にそう問い掛けた。
剛はその眼の前の光景が信じれなくて、軽いパニックを起こしていた。
(剛)「えっ!? もう全員倒されたの? あんなにいたのに!?」
剛はその眼の前の光景が信じれなくて、軽いパニックを起こしていた。
そんな剛の様子を見ていた中国人の男は、意を決した様子で口を開いた。
(中国人の男)
「……シカタアリマセンネ……」
「ヤレ!」
中国人の男がそう言った次の瞬間、舞に向かって無数の銃弾が何発も何処かから飛んで来た。
だがそんな中でも、舞は冷静に微笑んで呟いた。
(舞)「……遅すぎるわよ……」
そして舞は中国人の男の目の前で、その無数の銃弾を凄まじい速度で全て交わし続けた。
(中国人の男)「……アレ? ナゼアタラナイ?」
中国人の男は、自分の目の前で起こっていることが信じれなかった。
(舞)
「何? こんなんで私を倒せると思ってたの?」
「ハァ……人間ってどこまで浅はかなんだろね」
舞は銃弾を避けながらそんなことを呟いた。
そしてその後で、少し微笑んだ。
(舞)
「おそらく次が最後ね」
「じゃー人間達に面白いの見せてあげようかな」
舞は急に銃弾を避けるのを止めて、その場で仁王立ちした。
そして次の瞬間、飛んだ来た銃弾全てを眼にも止まらない速さで、拳で弾いた。
そして全ての銃弾を弾いた後で、中国人の男を舞は睨み付けた。
(舞)
「生物としての格が違うのよ!」
「貴方達とこの私ではね!」
(中国人の男)「ア……アメージング……」
中国人の男は腰が抜けてその場にしゃがみこんだ。
その舞の様子を見て、白い猫は違和感を感じていた。
(フローラ(精神))「……なんか……舞さん強くなってませんか?」
(舞(精神))
「強くなったんじゃねぇよ! 元々強いんだよ俺様は!」
「ただ何ていうかこの間のメフィストとの戦闘の後から身体能力だけ元に戻った感じなんだよな」
(フローラ(精神))
「成程……抑制が解かれたのかもしれませんね」
「それか魔の力が戻ったか」
「いずれにしろ力と魔力は戻らなくて本当に良かったです」
「それが戻ってたなら多分ここにいた人間は皆殺しとなってたでしょうね」
(舞(精神))
「まーそういうこったな……それが良かったことかはわからんが……」
舞とフローラは、精神上でそんな会話をしていた。
(剛)「おい! 王さん! しっかりしろ!」
(中国人の男)「ツヨシサン……コノオンナアクマネ……ニゲルシカナイネ」
(側近1)「剛さん! 逃げましょう!」
(剛)「逃げる? ……この俺様が? あんな女にか?」
(側近2)「わかりませんが……あの女は人間では無いです! それだけは断言出来ます!」
(剛)「人間じゃないなら何だって言うんだ? わけわからんこと言うんじゃねぇ!」
剛達は、全員パニックに陥っていた。
(舞)
「逃げる?」
「貴方達から戦闘仕掛けといてそれは無いわよね?」
舞は少し深呼吸して、「フレキ」と呟いた。
次の瞬間、舞の周りから雷が放射線状に伸びていき、その雷はその建物全てを埋め尽くした。
更に、フローラが放った能力で辺り一面水浸しとなっていた為、隠れていた中国人の銃を持った男達も、そこに倒れている男達も、剛も側近も中国人の男も、全員漏れなく感電した。
(男達)「うぎゃーーーーーーーー!」
そして断末魔を叫びながら、全員その場に倒れ込んだ。
(舞)
「あっちゃ〜……」
「もうフローラさんのせいだからね!」
「もう終わっちゃったじゃんか!」
舞は白い猫の方を向いて怒った。
(白い猫)
「まーそういうこともありますよ……」
白い猫はバツが悪そうな顔を見せた。
(白い猫)
「さてと……それでは移動しましょうか」
(舞)
「はーい」
「しかしこの世界の人間って恐ろしく弱いね」
「元の世界の人間の方がもっと強かったと思うけど」
「虎次郎が例外だったってことなんだね」
(白い猫)
「そんなもんですよ」
「おそらくこの世界の人間は貴方の言うとおり戦闘はしたことないんでしょうね」
「さてそれじゃー行きますよ」
次の瞬間、剛を引き摺りながら連れて来た舞と、椅子に縛られた財前剛介と共に、白い猫はその場から消え去った。
― ??? ―
剛はその場所で、気絶したまま横たわっていた。
そして今、意識を取り戻して起き上がったところだった。
(剛)
「……ん? ここはどこだ?」
「何で俺はこんなところにいるんだ?」
「確か俺は王さんと……」
剛は自分の現状が全く理解出来ないでいた。
(舞)「ここは財前剛介のビルの屋上よ」
まだ意識が朦朧としている剛に向かって、舞が答えた。
そして、その傍には白い猫もいた。
(剛)
「お前か! 俺をこんなところまで連れて来たのは!」
「一体どういうつもりなんだ?」
(舞)「……用があるのは私じゃなくてね……」
そう言いながら、舞はある方向を指差した。
剛が舞が指指した方向を見ると、そこには椅子に座ったまま縛られた財前剛介がいた。
そして財前剛介は気を失っていた。
剛は、財前剛介に駆け寄った。
(剛)「爺ちゃん! 爺ちゃん!」
剛は気絶していた財前剛介を激しく揺さぶった。
すると、財前剛介は意識を取り戻した。
(財前剛介)
「ん……ここは……どこじゃ……?」
「剛! 剛じゃないか! お前が何でここにいるんじゃ!?」
(剛)
「爺ちゃん! 良かった。意識取り戻したんだね」
「それがさ俺も何が何だかわからなくてさ……」
「俺もさっき意識取り戻したばっかりなんだよ」
そんな事態が何もわからない二人に対して、舞が話し出した。
(舞)
「今何でここにいるか、はもうどうでもよくない?」
「それより財前剛介さん、何か話しあるんじゃないの?」
その舞の言葉を聞いて、財前剛介は少し神妙な面持ちになって、剛に向かって語り始めた。
(財前剛介)
「……そうじゃな……こんな機会は滅多に無いな……」
「剛よ……儂は経営者としてお前に色々経営者のイロハを教えて来た」
「そしてその中には法に触れる様な悪いことも教えて来た」
「じゃが儂はそれらは全て会社を大きくする為の必要悪だと思っておるのじゃ」
「しかしお前はそれが全てになってはおらんか?」
「会社はお前の道具では無い!」
「会社はあくまで経営を行い利益を埋む場所であり、汚い金を製造させる所では無い!」
「そんなことをしていては長期間利益を埋むこと等出来るわけもない!」
「そしてそれがわからんのならお前は経営者失格じゃ!」
「じゃから儂はお前に屈する気も無ければお前にこの椅子を譲る気も無い!」
「もう一回経営者として自分の会社で一から出直して来い!」
財前剛介は、強い口調でそう剛に言い切った。
その言葉を聞いた剛は、項垂れた様子でその場に頭を垂れた。
(剛)「そうか……爺ちゃんの考えはよくわかった……」
剛は財前剛介の元までゆっくりと歩いていった。
そして財前剛介を抱き締めて呟いた。
(剛)「ゴメンよ……爺ちゃん……」
【ドスッ!】
次の瞬間、鈍い音と共に財前剛介の胸から血が滴り落ちた。
剛は、隠し持っていたナイフで財前剛介の胸を突き刺したのだった。
(財前剛介)「うっ! ……つ……つよし……おま……どうして……!?」
財前剛介はその言葉を言った後、ゆっくりとその場に倒れ込んだ。
その財前剛介を見ながら、剛は大笑いした。
(剛)
「最初からこうしてたら良かったんだよね」
「ゴメンね爺ちゃん」
「色々手間取らせて」
「大丈夫! この件も金で闇に葬るし、アンタ亡き後も俺がちゃんと稼ぐから心配しないであの世で見ていなよ!」
「アンタより俺の方が金に愛されてんだからさ!」
その一瞬の光景を見ていた舞は、とても驚いていた。
(舞)
「……成程……これがメフィストが言っていたことね……」
「確かに私達魔族でも実の家族を自分の為に殺すなんてことはしない」
「それが平気で出来るのがこの世界の人間ってことなのね」
そんなことを言っていた舞は、ふと横から異常なまでの殺気を感じた。
舞がその殺気の方を見ると、そこにはいつもの様な和かな顔をしながら、錫杖を強く握りしめ過ぎて、手から血が流れ落ちているフローラが立っていた。
舞はその異様な光景に、恐怖を感じていた。
(フローラ)
「……あの人間の精神を壊しに行きます」
「それであの人間はもうどうなったとしても構いません!」
舞はそのフローラの言葉に衝撃を受けていた。
確かにそこには怒りに震えているフローラがいた。
だが舞は自分がその姿に恐怖を感じていることを悟られたくなかったので、「わかった」とだけ言った。
そして二人は手を繋いだ。
(舞とフローラ)「マインドオペレーション!」
その言葉と共に、二人は光の中に消えていった。
剛の精神は、辺り一面がお金で埋まっている場所だった。
(舞)「何だここは!? 紙切れだらけで埋まっているぞ? 何だこれ?」
(フローラ)「紙切れじゃなくてこれがお金と呼ばれるものですよ」
(舞)「よくわからんが……ここも以前の誰かの精神みたいに偽物ってことか?」
(フローラ)
「さぁ……でもそれも今回はどうでもいいことです……」
「とりあえずこの目障りなもの全て焼きますか?」
フローラのその異常な提案を聞いて、舞は戸惑った。
(舞)「い……いいのか?」
(フローラ)「嫌なんですか?」
(舞)「嫌では無いが……」
(フローラ)「ではやって下さい」
(舞)「……わかった……」
舞はフローラのその態度に何か違和感を感じ、戸惑いながらもファイヤーの魔法を唱えて、その精神で漂っていたお金を次々に燃やし始めた。
そして辺り一面がその燃えるお金で埋め尽くされた時、急に舞とフローラの前に小学生の剛が現れた。
その剛は何か言いたそうにしていたが、何も言って来なかった。
(舞)
「ようやく出て来たか……」
「こら人間! 言いたいことあるから出て来たんだろ? 言いたいことあるならちゃんと言え!」
その舞の言葉を聞いて、口を噤んでいたその小学生の剛が重たい口を開いた。
(小学生の剛)「……ぼ……僕の……存在意義を……壊さないで!」
その言葉を聞いて、フローラは即座に怪訝な反応を見せた。
(フローラ)「存在意義? こんなものが? こんなものの為に実の祖父を手に掛けたのに?」
その姿はいつものフローラらしくなかった。
舞はそこにも違和感を感じていた。
(舞)
「おいフローラ! 邪魔するな!」
「それで人間! 貴様は何を知っている? それを見せろ!」
その舞の言葉に、小学生の剛は小さく頷いた。
すると次の瞬間、精神世界が歪み出して、その周りで燃えていた金は全て消え去った。
そして小学生の剛が全てを語り出した。
(小学生の剛)
「僕が生まれた時から僕の家はお金持ちだった」
「だから僕は今まで何不自由なく生活して来れた」
「でもお金持ちだからって僕は甘やかされては来なかった」
「パパが厳しかったから」
「だからパパは僕にお小遣いをくれたこともなかった」
「でもその代わり必要なものは何でも買ってもらえた」
「そんなパパはいつも口癖の様に僕に言ってたんだ」
『私達はただ恵まれて来ただけだから決して無駄遣いをしてはいけない! だから必要以上なものは買わないし無駄に優雅な生活もしない! 剛もそういう大人になるんだよ』
「パパは芯のある立派な人だった……」
「だからそんなパパは度々爺ちゃんと衝突していたよ」
「金こそが全てでお金があれば何でも買えると考えていた爺ちゃんをパパは真っ向から否定していたからね……」
【回想】
(財前剛介)
「なぜお前にはわからんのだ正一よ!」
「この金はこの会社の為に絶対に必要だ!」
(財前正一)
「父さんは勘違いばっかりしている!」
「そうやって金をばら撒いていたってこの会社の為になんかならない!」
「もっと有意義に使うべきだ!」
「昔の貴方ならそうやって使ってた!」
(財前剛介)
「ええい黙れ!」
「経営は甘っちょろい思想だけじゃ回らないんだよ!」
「お前もそろそろわかれよそれぐらい!」
(財前正一)
「今の貴方は金の魔力に取り憑かれているだけだ!」
「早く目を覚まして下さい!」
【回想終わり】
(小学生の剛)
「昔っから爺ちゃんが家に来ては揉めてたかな」
「でも爺ちゃんは僕には激甘でお小遣いくれたり何でも買ってくれたりしてた」
「そしてそんな爺ちゃんのことをいつもパパは怒ってた」
「僕はそんなパパを誇りに思ってた」
「パパはお金持ちであることを自慢したり自分も無駄にお金を使ったりはしない人だった」
「だから僕もパパを見習ってお金持ちであることを鼻にかけるなんてことはしなかった」
「だからかはわからないけどその時の僕の周りには絶えず友達がいた」
「今思えばあの頃が一番楽しかった……」
「そして僕が小学校四年生の夏休みの時にその生活が一変した」
「その日僕はパパとママと三人で車に乗って旅行に出掛けていたんだ」
「だけど急に対向車線から車がはみ出して来て……僕の車はその車と正面衝突した……」
「そして僕が病院で意識を取り戻した時……パパとママはもう死んでいたんだ……」
「僕は最初意味がわからなかった……」
「そんな僕を爺ちゃんは泣きながら抱き締めた……」
「そして僕に爺ちゃんは言ったんだ」
「『これからは二人で生きて行こう』って……」
「そこで始めて僕は一人生き残されたことに気付いたんだ」
「そしてその日から僕は爺ちゃんと一緒に暮らすことになった……」
「そんな環境になった僕に対して友達もクラスの皆も変わらず接してくれたよ」
「僕はその環境にとても感謝していたのを今でも覚えている」
「あの頃は学校だけが僕の気持ちを紛らわしてくれていた場所となっていたんだ……」
「そんなある日……事故を起こした少年の裁判が行われることとなった」
「爺ちゃんは裁判が始まる前に僕に向かって『必ず罪を償わせる』と誓ってくれた」
「でもその時の僕は罪を償って欲しいなんて思っていなかった」
「ただパパとママを返して欲しかった……それだけだった……」
「でも僕のそんな気持ちを無視して裁判は進行していった」
「爺ちゃんは優秀な弁護士を雇って裁判を優位に進めていた」
「そしてその裁判は有罪となり加害少年は過失運転致死傷罪となり懲役5年の罰金100万円となった」
「初犯だったこともあり更に19歳という年齢が考慮され執行猶予もついた」
「そして僕達への賠償金として1000万と慰謝料1億が決定された」
「普通に考えたら完璧な勝利」
「でも僕は何も嬉しくなかった」
「だからあの日爺ちゃんに言ったんだ……」
【回想】
(剛)
「お金なんかいらない!」
「そんなことよりパパとママを生き返らせてよ!」
「爺ちゃんなら出来るだろ!」
(財前剛介)
「剛よ……残念じゃがそれだけはどれだけお金があっても不可能なのじゃ……わかってくれ……」
(剛)
「なら事故を起こした奴を殺してくれよ!」
「爺ちゃんならそれくらい出来るだろ!」
(財前剛介)
「それに何の意味がある?」
「事故を起こした奴を殺しても何にもならん」
「それにそんなことは正一も望んではいない!」
「剛よよく聞け」
「もうこの現実は変わらない! パパとママが死んだという現実だけはな!」
「じゃから残された者はこの事実を受け止め、そして生きていかねばならん!」
「そしてこの裁判で得たお金はパパとママが今まで生きて来た証でもあるのじゃ」
「じゃから残された者はここで得たお金を大切に使わないといかん!」
「そしてここで得たお金は全てお前のものじゃから、お前が自分で考えて使いたい時に使うんじゃ」
「その時が来るまで、儂の方で管理しておくことにするからの……」
【回想終わり】
(小学生の剛)
「……そして僕は納得しないまま大金を得ることとなった」
「でもその時の僕はこのお金には手を付けないでおこうと誓っていた」
「このお金がパパとママが生きて来た証であるなら残さないといけないと思ったから」
「そして裁判が終わった頃には、僕は中学生になろうとしていた」
「そしてその頃から爺ちゃんは僕に経営のことを教える様になっていた」
「経営のことを教えている間の爺ちゃんは時に厳しく時に優しかったかな」
「爺ちゃんは僕を後継者にしたかったみたいだったから色々真剣に教えてくれたよ」
その言葉の後で、剛の精神は小学校の姿から中学校の姿に変わった。
(中学生の剛)
「中学校一年の時に同じクラスに外資系の企業の幹部を父親に持つ奴と一緒になった」
「そいつはとても感じの悪い奴だった」
「そしてソイツはお金を皆んなにばら撒いていた」
「そして皆んなに命令していた」
「その姿はまるで奴隷に指示を出す王様の様な姿だった」
「僕はその行為があまりにも許せなくて注意したんだ」
「するとソイツは金を握って僕に向かってこう言って来た」
『コイツを殴った奴に1万やる! 誰かいないか?』
「僕は最初意味がわからなかった」
「そんな奴いるわけ無いだろうって」
「でも僕のその願いは粉々に粉砕された」
「何人もが名乗りを上げて次々に僕を殴り出した」
「そしてその中には僕の小学校時代からの友達もいた……」
「全員が僕を殴り終わった後でソイツは僕を見ながらこう言ったよ」
『金の無い奴がこの俺に指図すんじゃねえよ!』
「その日から毎日そのイベントは続いたよ」
「そしてその話しを聞きつけた不良達が次々に僕を殴りに来ていた」
「ソイツは僕が殴られる姿を見ながらずっと笑ってたよ」
「そしてその日以降そのイベントは無くなりその不良達だけから延々に殴られる毎日が続いた」
「そして不良達はいつしかソイツの兵隊みたいになっていった」
「それでも僕は耐えていた」
「ソイツと同じになるのだけは嫌だったから」
「それにいつか誰かが助けてくれると信じていたから」
「でもそんな僕の願いも虚しく誰も助けくれない日々が続いた……」
「そんなある日小学校時代の友達から電話が掛かって来た」
「その友達は別の中学校に行った奴だった」
「僕は気付いたら全てを話してしまっていた」
「そして全てを聞いた友達は僕に向かって言ったんだ」
『なんで耐える必要があるんだ? だって誰も助けてくれないんだろ?』
『でもそれはそうだよ! だって誰も傷付きたくないもん! 僕だって多分助けれないよ!』
『でも君にはこの状況を覆す力があるじゃないか?』
『とりあえず一度その力を持っている人を頼ってみたらどうかな?』
『状況を覆す力があるのにそれを使わないのは愚か者がすることだよ!』
「何の偶然かその最後の言葉はよく爺ちゃんが言っていた言葉に似てたんだ」
「だから僕は爺ちゃんに全てを話すことにしたんだ」
【回想】
(財前剛介)
「……状況はよくわかった」
「今までその状況でよく耐えて来た」
「……じゃが剛よ、お前は優し過ぎるのじゃ」
「じゃからその内誰かが助けてくれると思ってしまっておるが、それは大きな間違いじゃ……」
「人間は本来は裏切る生き物であり、そして本来は誰も助けない生き物なのじゃ」
「そして人間が誰かを助ける時は、決まって何らかの利がそこには働いておる時なのじゃ」
「つまりその利が無い場合、人は人を助けない……それが現実なのじゃよ」
その言葉を聞いて、僕は如何に自分が今まで甘かったかを痛感したよ。
そして同時に、何かが自分の中で壊れる音が聞こえたんだ。
そして僕は、気付いたら自分でも信じれない言葉を言っていたんだ……
(剛)
「アイツらに同じ思いを味合わせたい!」
「本当の金の力がどれ程凄いものかを思い知らせたい!」
「だから爺ちゃん! 協力してくれ!」
(財前剛介)
「そうか……こういう展開は想像しなかったがそこまで思っているなら……」
そう言った後で、爺ちゃんは僕の目の前に1000万円を置いたんだ。
(財前剛介)
「これはあの時預かった金のほんの一部だ」
「この金でこの問題を解決しなさい」
「だが今からお前がやろうとしていることは、お前のパパの教えを裏切る行為にもなりかねない」
「だから儂はこのお金の使い方の強要はしない」
「お前が儂の様な人生を選ぶのか、それとも正一の様な人生を選ぶのか」
「どちらの方法を選ぶかは剛、お前が決めるんじゃ」
今思えば、爺ちゃんはあのお金で弁護士とか雇ったり監視カメラ買ったりして、とにかく証拠を集めて親にでも見せろと言いたかったのかもしれない。
そしてそういう方法のことをパパの人生と言いたかったんだろう。
でもその時の僕はそこまでの考えにはならなかった……
そして僕は悪魔となった。
そのお金をその当時僕のいたところで最強と言われていた暴走族の総長に渡したんだ。
そしてソイツらの写真を見せて言ったんだ……
【回想】
(剛)
「……このお金でコイツらをボコボコにして拉致して僕の目の前に連れて来てくれ!」
(総長)
「……はぁ? これだけの大金俺に渡してやって欲しいことはそれだけなのか?」
(剛)「はい……それだけです……ダメですか?」
(総長)「……だってお前……まあいい……わかったよ……」
そして総長はその翌日、僕の目の前にソイツら全員をボコボコにした状態で連れてきたんだ……
(総長)「ほいよ! ご注文の品届けたぜ! で、どうすんだコイツら」
(剛)「……こうします……」
僕は持っていた金属バットで、ソイツらを滅多打ちにした。
許して下さいと懇願して来ても……何度も何度も……気絶するまで……ただ殴り続けた……
(剛)「これが……これが本当の金の力だ! 舐めてんじゃねえぞ!」
気付いたら僕の口からはその言葉が出ていた。
(総長)
「アーハッハッハッハ!」
「気に入ったぜお前!」
「俺達に頼んできたその度胸も今見せた狂気もその気前の良さもな!」
「こんな働きであんな大金貰ったんじゃ俺の名が廃る」
「そうだ! 俺達がこれからはお前の友達になってやるよ!」
「俺達は絶対裏切らない! もし誰か裏切ったら俺がソイツを粛清する!」
「剛と俺はこれからは兄弟だ! いいな! お前ら!」
(暴走族一同)「ヘイ! 総長!」
【回想終わり】
(中学生の剛)
「そして僕は総長と固い握手をしたよ」
「そしてその後でその結果を爺ちゃんに報告した」
「そして爺ちゃんにお願いしたんだ」
『もっと僕に金の使い方を教えてくれ』
「その日以降爺ちゃんは僕に金持ちの遊びの全てを教えてくれた」
「毎晩毎晩お酒こそ飲めなかったけどそういう場所に一通り連れて行ってくれた」
「そこで改めて爺ちゃんの凄さとお金の凄さを目の当たりにしたんだ」
「そして僕は爺ちゃんに預けていたお金を全て貰う事にした」
「そしてそのお金で派手に遊ぶ様になっていったんだ……」
「僕はもうその頃にはほとんど学校にも行かないいわゆる不良と呼ばれる存在になっていた」
「そしてそんな僕の周りにはもう昔の友達は誰も近寄らなくなっていた」
「僕は毎日総長と族の仲間といつも連んで悪さばっかりしていた」
「そしてそんな生活を続けていたらその内周りから金王と呼ばれるようになっていた……」
「そう言えば僕を殴ってた不良と指示出していた金持ちは学校を転校したって後で聞いたかな」
「これが僕の全てだよ」
剛は自分の過去の全てを、舞とフローラに話した。
(舞)
「……何かごちゃごちゃとよくわからんが」
「それで結局お前はどうしたかったんだ?」
(中学生の剛)
「……わからない……もしパパが生きていたら……多分怒られるんだろね」
「でもいないから……だからわかんない……」
「ただ一つ確実なのは……あの事故さえ無ければ僕は違う人生を歩んでいたと思う」
「それだけは間違いないかな……」
中学生の剛の言葉を聞いて、次の言葉を言おうとした舞は、隣のフローラの異様な殺気を感じた。
(フローラ)
「……それで許される……と?」
「貴方の人生には同情の余地はありますがそれでも貴方がしたことは許されることではありません」
「貴方がしたことはただ命を奪っただけではありません」
「貴方の事を真剣に考えていた人のその気持ちを貴方は踏み躙ったのです」
「だから貴方はその罰を受けなければなりません……」
フローラは中学生の剛に錫杖を向けた。
すると次の瞬間、その錫杖から光の矢が中学生の剛に向けて放たれた。
だが次の瞬間、その中学生の剛の眼の前まで舞は移動して、その光の矢を弾いた。
(フローラ)
「……何をしているのですか?」
「そこをどいて下さい」
(舞)
「何をしているかだぁ!」
「貴様こそ何してんだ!」
(フローラ)「私はこの者の精神を壊そうとしているだけです」
(舞)
「それはどういう意味かわかって言ってんだろな?」
「コイツがコイツで無くなるってことだぞ!」
(フローラ)「構いません! こんな人間どうせもう改めもしません!」
(舞)
「フローラ! 目を覚ませ!」
「正直こんな人間がどうなろうが俺様は気にもしないが」
「それでも貴様がコイツに罰を与えるのは違うぞ!」
「コイツがこの先どうするか……それはコイツ自身が決めなきゃいけないんじゃ無いのか?」
「そしてそれを導くのが貴様のやる事だろうが! 違うか! フローラ!」
その舞の言葉を聞いて、フローラは我に還った。
(フローラ)
「……確かに貴方の言う通りです」
「私がどうかしていました」
「ごめんなさい」
(舞)「わかればいいんだよわかれば」
舞は正気に戻ったフローラを見て胸を撫で下ろした。
そしてその後で、中学生の剛の目を見ながら話し出した。
(舞)
「それで貴様は本当に悔やんでいるのか?」
「貴様の話を聞いても俺様には貴様は今の人生を楽しんでいる様に思ったぞ」
舞の言葉を聞いて、中学生の剛は怒り出した。
(中学生の剛)
「楽しかったわけないだろ!」
「別に望んだわけじゃない!」
「たまたま……そう……たまたまそうなっただけだ!」
(舞)
「たまたま……ね……」
「じゃー聞くが貴様はその総長とその後どうなった?」
その舞の問い掛けを聞くと、剛は急に笑い出した。
(中学生の剛)
「アッハッハ!」
「そういえばそんなのもいたね」
「アイツとは今はもう連んでいない」
「僕はアイツに愛想尽かされたんだ」
「もう付いていけない! 俺が好きだったお前はもういないってさ」
「本当意味不明だったよ!」
「だから俺が刑務所にぶち込んでやったんだ!」
「洗いざらいの悪事バラしてさ!」
「そして俺は新しい総長になったんだよ!」
(舞)「……成程な……よくわかったぜ……クックック……」
(中学生の剛)「何がわかったって?」
(舞)
「いや貴様が悪だってことがよくわかったって言ったんだよ」
「そうか……なら改心何かしなそうだよな?」
「成程な……メフィストが言っていた本当の意味が今わかったよ」
次の瞬間、舞はファイヤーの魔法を剛にぶつけた。
フローラは急に起こした舞の不可解な行動を、理解出来なかった。
(フローラ)
「……? ……舞さん?」
「何を……してるんですか?」
(舞)
「フローラ! 貴様の感覚はもしかしたら合ってたのかもな!」
「メフィストが言いたかったのは本体じゃない! 精神の方だ!」
「つまりコイツの精神はもうここには無い!」
「コイツの精神はすでに金に乗っ取られているんだよ!」
「だからコイツを燃やして金の魔力から解放してやるんだ!」
舞のその言葉通りに、中学生の剛はその炎の中で形をどんどん変えていく。
そして札束に変化し、そのまま燃えて消えていった。
するとその消えた中から、小学生の頃の剛が姿を現した。
『……僕を解放してくれて……ありがとう……』
その言葉と共に辺り一面が光に包まれて、舞とフローラは財前ビル屋上まで戻ってきた。
―財前ビル屋上―
舞と白い猫の前には、生き絶えた老人とその傍で放心状態の男がいた。
(舞)
「しかしまさかお金に精神を乗っ取られる人間がいるなんてね」
「もしフローラさんがあのままアイツ殺してたら」
「私達あの精神に閉じ込められてたわよ」
(白い猫)「……? それはどういう意味ですか?」
(舞)
「メフィストが言いたかったのは精神のことよ」
「アイツは金に精神を乗っ取られているからもう精神なんて存在していない」
「それは魔族ではあり得ないこと」
「それがわかっていたからメフィストはアイツを畏怖していたのよ」
(白い猫)「……成程……しかし現実にそんなこと起こるもんなんですか?」
(舞)
「多分それは私達じゃ絶対わかんない感覚だと思う」
「でも人間には起こるんじゃない?」
「何かこの世界だとお金がある奴が一番偉いみたいな感覚があるみたいだからさ」
(白い猫)「それが……金の魔力……ですか……」
(舞)
「……どうやらそうみたいね」
「そして財前剛はその魔力に勝てなかった」
「それはその器じゃなかったから」
「魔力は器があってこそ、その魔力を使える程の力があってこそ、初めて自分のものになるもの」
「最後に現れた小学生の姿が財前剛の器だったなら、あの器じゃーあれだけの魔力は支え切れないわよ」
「だから魔力に精神を乗っ取られちゃったんじゃないかなー」
(白い猫)
「そういうものなんですね……」
「……」
「それじゃー帰りましょうか」
(舞)「ちょ、ちょっと待って! このままにしていくの?」
(白い猫)「はい……何か問題でも?」
(舞)「だってこのままにしていくと人間達にバレるんじゃないの?」
(フローラ)
「バレるも何も人間が起こした行動にまで関与する事は神に背く行為となってしまいますので」
(舞)「そうなんだ……でも大丈夫なの?」
(フローラ)
「大丈夫かどうかはわかりません……」
「ただだからと言って関与も出来ません」
「もちろん記憶の操作も出来ません」
「その結果どうなろうと……それはもう神の意思なので従う他ありません……」
(舞)「そう……なんだ……じゃー……帰ろうか……」
舞はフローラの言葉に納得していない様子だった。
そしてその後、一人の少女と一匹の猫はその場から消え去った。
それからしばらくして警備員数人が屋上に駆け付けた。
警備員達はそこの光景を見て絶句した。
「総帥! 総帥! ダメだ……死んでる……」
「……これは……どういうことだ……?」
「……わかりません……でもこの状況って……剛社長が総帥を刺したってことじゃないんですか?」
「と……とにかく……警察に連絡だ!」
警備員達は、その状況に慌てふためきながら警察に通報した。
その翌日、衝撃的なニュースが世間に流れた。
『財前グループ総帥財前剛介殺害の罪で財前剛を現行犯逮捕……』
(ナレーション)
金の魔力に精神まで壊された財前剛。
そんな人間の姿に何か思うことがある舞とフローラだった。
これで残すは後一人。
だがまだこの時舞とフローラは気付いていなかった。
麗子という人間が一体どういう人間かということを。
そして麗子の本性を……
〜第十章〜 カリスマと仮面の心 【前編】
へ続く




