表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/17

〜第八章〜 魔界の秩序と人間世界の法律 【後編】

―フローラが作った異空間―

 転生界の守り人フローラと、高等悪魔メフィスト(高裁判士)との戦いの火蓋が切られた。


(判士)

「出でよ地獄の業火!」

「ヘルファイア!」


 判士のその叫び声と共に、判士の眼の前には超特大の燃え盛る炎の球が現れた。

 そしてその炎の球はフローラ目掛けて飛んで来た。

 フローラはその直撃を受けた。


(判士)「まだまだ行くぞ! 喰らえ!」


 判士は同じサイズの炎の玉を何個も呼び寄せて、それを全てフローラにぶつけた。


(フローラ)「……愚かな……」


 フローラはその炎の中から、まるで何も無かったかの様に炎を消し去った。


(フローラ)

「この程度の能力でこの私に勝てると?」

「これでも転生界の守り人ですよ」


(判士)

「……中々やるな……」

「じゃーこれならどうだ!」

「闇より出し深淵の暗闇よ我が眼の前の敵を打ち滅ぼせ!」

「ダークセイバー!」


 判士がそう言うと、判士の眼の前に黒く尖った無数の針が現れ、それらが一斉にフローラに襲いかかった。


(フローラ)「……無駄ですよ……」


 フローラは持っていた錫杖を、自らの眼の前に出した。

 するとその錫杖から光の壁が現れ、判士が放ったその針を全て防いだ。


(フローラ)「今度はこちらの番です」


 フローラは錫杖を前に翳した。

 次の瞬間、その錫杖から無数の光の矢が放たれた。


(判士)「ダークシールド!」

 

 判士は黒い壁を自らの前に作り出した。

 そしてその無数の光の矢を防いだ。


(フローラ)「……中々やりますね……それではこれでどうでしょうか?」


 フローラは持っていた錫杖を地面に向けた。

 次の瞬間、判士の眼の前の地面が一気に盛り上がり、雪崩の様に判士に襲いかかった。


 判士は成す術もなくその雪崩に飲み込まれて姿が見えなくなった。

 だが、次の瞬間その土の中が割れて黒いオーラを纏った判士が姿を現した。


(判士)「はぁはぁ……今のは危なかったぜ!」


(フローラ)「……ほぅ……今のでも駄目ですか……わかりました……」


 フローラは錫杖を天に向けた。

 次の瞬間、超特大の雷が判士の頭上に落ちた。


(判士)「グワァァァァァ!」

 判士は叫び声と共に黒焦げとなり、その場に倒れた。


(フローラ)「……流石にやり過ぎましたかね……」


 フローラは殺してしまったのでは無いかと少し反省した。

 だが、判士はその黒焦げになったまま起き上がって来た。


(フローラ)

「……おや……死んでませんでしたか……それは良かったです……」

「しかし貴方には勝ち目はありませんよ」

「まだ私は本気を出していませんので」


(判士)

「……強いな……ここまで能力に差があるとは思わなかったぞ……」

「……仕方ない……奥の手を使うか……」


 判士は、舞と真実とカイゼルの入った球体を自らの前に置いた。


(フローラ)

「……!?」

「何のつもりですか?」


(判士)

「クックック」

「この球体はな……ちょっとした衝撃で内部で大爆発を起こす様になっていてな」

「だからもし貴様が俺様に攻撃しようとしてこの球体に傷でも付けたら」

「その瞬間この球体内部で大爆発が起こるということだ」

「まーおそらく人間なら生きていることなど出来ないだろうな」

「だが安心しろ」

「傷つけない限りこの玉が割れることは有り得ない」

「傷つけない限りな」

「クックック……この意味がわかるよな?」


(フローラ)

「……成程……さすがは悪魔ってところですね」

「いいでしょう……」


 フローラは持っていた錫杖を地面に置いた。


(フローラ)

「どうぞ好きにして下さい」

「どうせ貴方の魔力では私は倒せないでしょうけどね」


(判士)「ほざいてな!」


 判士はそう言うと炎の玉を何発もフローラに向けて放った。

 フローラはそれを微動だにせずに全て受け止めた。


(フローラ)「……この程度ですか?」 

(判士)「まだまだ!」


 判士は手から自らの魔力で黒い球を何個も作り出して、それをフローラに投げつけ出した。

 フローラはそれを微動だにせずに受け止め続けている。


(フローラ)「……これは少し効きますね……」

(判士)「まだまだ行くぜ! 耐え切れるなら耐え切ってみせろ!」


 判士は手を休めることなく、その黒い球を投げ続けた。


 その二人の様子を気絶した振りをしながら見ていた者がいた。舞だ。


(舞)

⦅まったく……あいつどういうつもりだ?⦆

⦅流石にこのままじゃヤバいんじゃねえのか?⦆

⦅……ったく……あんな奴に助けて欲しいなんか言った覚えはこっちは一度も無いってのに⦆

⦅あんのお節介野郎が!⦆


 舞は心の中でブツクサ呟きながら、自身の身体の回復に集中していた。

 そして今完全に近い状態まで回復したところだった。


 舞はこの時を待っていたかの様に、フローラに向かって球の中から叫んだ。


(舞)

「おい! フローラ!」

「俺様目掛けて高速で光の矢を放て!」

「メフィストも止めれないぐらいのやつをだ!」


 その舞の声に、黒い球に撃たれ続けながらフローラが反応した。


(フローラ)

「……その声は……舞さん!?」

「生きていたんですか?」

「てっきり死んだものかと……」

「しかし……そんなことして大丈夫なんですか?」


(舞)

「貴様は俺様の心配をする立場か?」

「俺様を誰だと思ってる?」

「いいからやれ!」


(フローラ)

「……わかりました」

「どうなっても知りませんよ」


 フローラは、黒い球に撃たれている状態で右手を前に突き出した。

 そして舞が入っている球を目掛けて、音速の光の矢を一本放った。

 その光の矢が舞のいる球体を貫いた次の瞬間。

 舞が入っていた球体は大爆発を起こした。


(判士)

「クックック」

「自ら死を選んだか?」

「呆気ない最後だったな」


判士は高笑いをしながら、その爆発を眺めていた。



「……フレキ!」


(判士)

「ん? 何だ今の声は?」

「ん? 身体が……痺れている!?」


 その爆発の中から、判士はフレキの魔法を喰らった。

 フレキの魔法は、判士には数秒間の体が痺れている程度の効果しか無かったが、これで充分だった。

 その数秒の間で素早く判士の手元から、真実とカイゼルの入った球を取り上げて、フローラの側まで瞬時に移動した。

 そのフレキの魔法を使い、判士から球を取り上げたのは舞だった。

 舞は爆発の中生きていたのだ。 


(判士)

「き……貴様―――!」

「なぜ……なぜ生きている!?」

「人間には到底耐えられない魔力を詰め込んだ球だぞ!」


(舞)

「相変わらず詰めが甘いんだよ貴様は!」

「あれだけの長い時間俺様が球の中にいて何も球に細工していないのかと思ったのか?」

「随分見くびられたものだな……まーお陰で助かったわけだがな」

「お前がもし途中で俺様の動きに気付いてたりしたらこの作戦も無に期すところだったしな」


(判士)「細工だと?」


(舞)

「お前同じ魔族だろ?」

「魔力への干渉をまさか俺様が出来ないとでも思ったのか?」


(判士)「……まさか貴様……吸ったのか!?」


(舞)

「その通りよ!」

「だからお陰で貴様の爆発にも耐えれたってわけだ」

「それに一時的だが魔力も多少はマシになった気がするぜ!」

「ありがとよ!」


(フローラ)「……まったく貴方と言う方は……」


(舞)

「そうそう一応感謝しておくぜ!」

「フローラ! よく俺様が出るまで耐えたな!」


(フローラ)「……別に私だけでも何も問題無かったですが……」


(舞)

「チッ! 貴様は!」

「……まあいい……」

「とにかくそういう訳だから貴様はもう引っ込んでいろ!」

「コイツは俺様がさっき奪った魔力で倒すからよ!」


(フローラ)

「……そういう訳にはいきません」

「ここまでやられた分はやり返さないと」


(舞)

「……貴様最近人間みたいだな」

「まあいいやなら好きにしな!」


(判士)

「ごちゃごちゃとうるさいんだよ!」

「二人まとめて俺様の魔法で沈めてやるよ!」


 判士は、超特大の黒い球を眼の前に出した。


(判士)

「これが俺様の最強魔法のダークホールだ!」

「貴様達この世から消し去ってやるからな!」


 判士は、その黒い球を舞とフローラに向けて放った。


(舞)「やれるもんなら」

(フローラ)「やってみて下さい!」


 舞は両手を前にして集中し始めた。

 そしてファイアを出すと、更にそこに自らの魔力を注入していく。

 するとその炎は青く燃え上がり出した。


 その間に、フローラは地面に置いた錫杖を手に持つと、錫杖を地面に突き刺しその前で祈りを捧げ出した。

 すると錫杖の前に超特大の光の矢が現れた。


(舞とフローラ)

「行くぜ(行きますわよ!)」

「ダークファイアー!(シャイニングアロー!)」


 舞は青い炎を、フローラはその特大の光の矢を判士に向けて放った。

 その青い炎は、判士に向かう途中で光の矢に絡み合い、二つの能力が合体した形で、判士が放った黒い球に向かっていった。

 そしてそれは黒い球を貫き、判士の方に目掛けて飛んで行った。


 (判士)「バ……バカな……こんなことが……グオーッッッッッッ!」


 判士はその直撃を受けて、その場に倒れた。


 舞とフローラが倒れた判士を見ると、そこには悪魔の姿ではなく人間の姿に戻った判士が横たわっていた。

 舞とフローラはその倒れた判士の側まで近づいていった。


(判士)「……そうか……俺様は……また貴様に敗けたのか……」


(舞)「まあ今回は俺様ってよりはコイツの力も借りてだからどうかってとこだがな」


(判士)

「クックック」

「悪魔が勝ち方拘るのか?」

「だから貴様は人間に侵略されるなんて間抜けなことを許してしまうんだよ」

「魔王なら人間の方を蹂躙するぐらいして欲しかった」

「俺様が反旗を翻したのはそれが理由だ」

「……まぁ……もうどうでもいいことだがな」


(フローラ)

「そんなことより何でまだ悪魔の意識のままなんですか?」

「この者の本来の精神は一体どこにいったんですか?」

「悪魔の身が滅んだということは意識も元の人間に戻るはずです」

「まさか貴方が精神を乗っ取ったんですか?」


(判士)

「クックック」

「天界の者が何も知らないんだな」

「……いいだろう……特別に教えてやるよ」

「この身体の元の持ち主はな……もうこの世界で生きることを望んでないんだよ」

「だからもうこの身体に出て来ることはないと思うぜ」


(舞)

「……そうか……確かに何か変だと思ったんだ」

「……成程……」

「……貴様……この持ち主と結んだんだな……血の契約を」


(判士)「……ああ……その通りだ……」


(フローラ)「何ですかそれは?」


(舞)

「悪魔召喚の中でも禁呪と言われている契約だ」

「そしてエルドラドの人間共が一度も成功しなかった契約でもある」


(フローラ)「どう言うことですか?」


(舞)

「本来悪魔との契約は成功報酬で行うもので一般的な成功報酬は魂や寿命が多いんだがな」

「血の契約は悪魔と同等の交渉を行い魂を差し出さない代わりにその全てを差し出すというものなんだよ」


(判士)

「クックック」

「その通り……あの日俺はこの身体の持ち主と血の契約をした」

「いやむしろさせられたと言った方が正しいか」

「初めてだったなあんな感覚は」

「俺は初めて人間を尊敬したよ」

「こんなにも自らの願いの為に自分を犠牲に出来るんだと」

「それも欲望の為ではなく復讐の為だけに」

「あんな人間は今まで見たことが無かった」


(フローラ)「どういう意味ですか?」


(舞)

「そう言えば血の契約には一つだけルールがあったな」

「その持ち主の望むことを必ず叶えないといけないというルールがな……」


(フローラ)

「……!?」

「ま……まさか……!?」


(判士)

「そうだ……俺様は自分の意思で殺しはしていない」

「そういう契約だったからな」

「つまり全ての殺しはこの身体の持ち主の意思だ」

「クックック」

「これがどういうことを意味しているかわかるよな?」


(フローラ)

「……ええ……私達は一度この方の精神に入らないといけないってことですね」


(舞)

「確かにこのままじゃなんか釈然としないな」

「よし行くか!」


(判士)

「クックック」

「地獄の窯の蓋を開けるか」

「まあ俺様もそろそろ解放して欲しかったかったところだし」

「見てくればいいさ」

「そしたら人間が如何に醜い生き物かよくわかるだろうさ」


 その判士の言葉に、二人は軽く頷いた。


(舞とフローラ)「マインドオペレーション!」


 そして、舞とフローラは光の中に消えていった。



―判士の精神―

 判士の精神は、今までのどんな精神とも異なり、黒一色だった。

 そしてその世界で、フローラは自分の気分が少し悪くなって来ているのを感じていた。


(フローラ)「……何ですかここ……気持ち悪いです……」


(舞)

「そうか?」

「俺様は何か心地が良いがな」

「何て言うか悪に満ちているという精神だな」


 次の瞬間、どこからともなく不気味な声が聞こえてきた。


「……死ね……何もかも……消えろ……こんな世界……無くなってしまった方がいい……」

 

 そしてその声は周りに反響して、途切れる事なく聞こえ続けていた。


(フローラ)

「この不気味な声は何ですか?」

「頭が……おかしくなりそうです……」


(舞)

「成程……悪意の精神ってわけか……通りで心地いい訳だ」

「だが!」


 舞はその声に向けて話し掛けた。


(舞)

「貴様が本物の判士か?」

「この悪意は最早悪魔そのものだぞ!」

「人間でここまでの悪意を持てるのは凄いことだぞ貴様!」


 舞がその言葉を言った後、その嫌な声は急にピタッと止まった。


「凄い……何が……何も凄くない……何も……」


 次の瞬間、舞の目の前に一人の小学生高学年ぐらいの男の子が現れた。


(小学生の判士)

「……だって僕が凄かったら……あんなことにはならなかった」

「パパもママも……助けれた……僕一人の力だけで……」


 そして小学生の判士は語り出した。


(小学生の判士)

「僕のパパは凄腕の弁護士だったんだ」

「何件もの事件を無罪に導いたとても凄腕の弁護士だったんだ」

「だからパパは嵌められたんだ……パパに弁護をさせない為に……」


「あの日も何てことない日だった」

「そんな日に僕の耳に飛び込んで来た担任からの言葉」

「パパが痴漢で捕まった」

「僕は全然信じていなかった」

「何かの間違いだと」

「ママもパパのこと信じていた」

「だからすぐに証人も見つかるしすぐ帰って来るって僕に言ってた……」


「でもパパは帰って来なかった」

「何日経っても月が変わっても季節が変わっても」

「ママにパパはいつ帰って来るの?って聞いてもママはそのうち帰って来るとだけしか言わなくなった」


「そして数年後届いた訃報」

「パパが留置所で自殺した……」

「ママはその日からもうママじゃなかった」

「もう何もする気が起きないってだからほっといて欲しいって」

「そして数日後……ママも自殺した」


「僕はパパの配慮でママと一緒にパパの実家にいた」

「でもパパが死んでからはママがその家に帰って来る事はもう無かった」


「だから僕は決意したんだ!」

「パパの事件をもう一度調べようって」

「お爺ちゃんやお婆ちゃんにも協力して貰って探偵も雇って」

「そして知ったんだ真実を!」


「僕の思ってた通りパパは嵌められていた」

「そしてその嵌めた人物は政界の大物だった」

「パパはその人がセクハラで訴えていた人の弁護士だった」

「そしてその人はパパを失脚させて仕舞えばこの裁判に勝てるって考えた」

「だから何人もの色んな職業の人間を雇ってパパの冤罪事件を仕組んだんだ!」


「あの日パパの周りにいた人物は全員その金で雇われた人だったんだ!」

「痴漢冤罪を仕掛けた女子高生も含めてさ!」

「だから当然パパの痴漢冤罪の証言なんかする訳ない」

「むしろパパが本当に痴漢した様な証言しかしないんだよ!」


「こんな裁判勝てる訳ないだろ!」

「おそらく頭のいいパパはそれに気付いていた」

「だから自らの命で終幕にしたんだ!」

「これ以上長引いたらもう家族に迷惑しか掛けないから!」

「全てを知った時僕は驚愕したよ!」

「そして決めたんだ!」


 その言葉を言った後で、小学生の判士は大きくなって中学生の姿になった。


(中学生の判士)

「コイツらみんな殺してやる!」

「それも法の範囲外で!」

「法にすら守らせずにこの世から葬るってね!」


「でも僕には法律に関する知識はあってもそれを実行する術は思い付かなかった」

「そんな時に昔から好きでよく見ていた西洋の本をふと開いてみたんだ」

「そして僕は一つの可能性を見出した」


「もし自分じゃなく……いや人間じゃなく悪魔だったら……今僕が思っていることを実行出来るんじゃないかってね」


「その日から僕はそういう悪魔の記述が書かれた西洋の本を読み漁ったよ」

「そして色々試す上で迷惑になるのはわかってたからお爺ちゃんとお婆ちゃんには一人暮らしがしたいって言って近くに家を借りて貰ったんだ」

「そして僕はその日から色んな悪魔の記述が書かれた本を何冊も何冊も購入した。

「そしてそこに書いていた魔法陣を何度も試したよ」

「そしたらそのうち実際に悪魔を召喚出来る様になって来たんだ」

「でもその悪魔に僕の望みをぶつけたら悪魔はこう言って来た」


『そんな面倒なことをして何になるんだ?』

『魂くれるならそんな面倒な事しないで全員すぐに殺してやる』


「でも僕はそんな悪魔を探しているわけではなかった」

「僕が探していたのは僕のプランを確実に実行する悪魔だったからね」

「だからそんな悪魔は事前に購入していた悪魔退治用アイテムで追い払ってやったよ」

「そして身も心もやつれて学校にも行かなくなったある日」

「僕は運命の出会いを果たしたんだ!」


 その言葉の直後、判士の精神世界が大きく歪み出した。

 そして二人の目の前には、中学生の判士の回想の場面が映し出されたのだった。



【中学生の判士の回想】

(判士)

「これで駄目ならもう……」

「いや大丈夫! 今回こそ大丈夫!」


 判士はそう言いながら自らの部屋に魔法陣を描いた。

 そして悪魔呼び出しの呪文を唱え出した。

 次の瞬間その部屋にあった蝋燭は全て消えて辺りが一面真っ暗になった。

 そしてその魔法陣の中から悪魔が現れた。


(悪魔)

「我を呼び出したのは貴様か!」

「この高等悪魔であるメフィスト様を呼び出すと言うことはどういうことかわかっているんだろうな?」


(判士)

「で……出た……」

「今まで以上の威圧感!」

「本物の悪魔だ!」


(悪魔)

「しかし呼び出された以上仕方ない……」

「人間よ……貴様の願いは何でも叶えてやろう」

「但し貴様の魂と引き換えでな」

「欲深い人間よ……貴様の願いは何だ?」


 その威圧的な悪魔を眼の前にしても判士は動じずに自らの書いた紙をその悪魔に見せた。

 悪魔はその紙を見ながら少し戸惑った。

 その紙には殺して欲しい相手と、それを殺す年月日と、更にその死因までが丁寧に箇条書きで書いてあった。

 そしてその数は二十名以上いた。

 そして最後にそれ以外の相手は殺さない事との記述と、お爺ちゃんとお婆ちゃんの記憶から僕の記憶を抜く事と書いてあった。


(悪魔)

「貴様……本気なのか?」

「なぜこんなことをする?」

「なぜこんな手間な事をする?」


(判士)

「一気に皆殺しにしても僕の気は治らない」

「だってそしたら話題になってしまうだろ?」

「それに事件性を感じた警察が確実に僕を容疑者にするだろう」

「僕はそれが許せない!」

「僕は日常を奪われた!」

「だから日常の中何気ない中で全員殺したい!」

「だから僕と血の契約をしてくれないか?」


(悪魔)

「血の契約だと!?」

「貴様その意味がわかって言っているのか?」


(判士)

「もちろんわかってる!」

「僕はこの世界にはもう何の未練も無いから!」

「だからこそ君を呼び出したんだ!」


(悪魔)

「成程……」

「まー口では何とでも言えるからな」

「そこまで言うなら貴様の覚悟を俺様に見せてみろ」


(判士)「わかった」


 判士は側にあったナイフを、躊躇いもなく自らの腹に突き刺した。


(判士)「……こ……これで……信じて……もら……え……」


 判士はそのまま血を流しながら、その場に倒れ込んだ。


(悪魔)「これは……成程……本気ってわけか……」


 悪魔は指をパチンと鳴らした。

 次の瞬間、判士に刺さっていたナイフは抜けて血も止まった。


(判士)「こ……これは!?」


 判士は突然の出来事にとても驚いた。


(悪魔)

「ふん! 勝手に死なれちゃ困るんだよ!」

「しかし……貴様の本気は見せてもらったぞ……」


(判士)

「……ああ……僕は本気だ!」

「その為に君を召喚したんだからね」


(悪魔)

「クックック……成程……」

「貴様の様な人間は何百年生きてきたが初めて見たわ」

「……いいだろう……血の契約を結んでやる!」

「そして貴様の希望は全てそのまま叶えると約束しよう!」


(判士)「ありがとう……じゃー契約成立だ……後は僕のことを好きにしてくれ……」


(悪魔)「わかった……」


 悪魔は判士の腹に指をズブリと入れた。

 そして怪しげな呪文を唱え出した。

 次の瞬間悪魔は姿を消した。

 そしてそこには赤い眼をした判士が立っていた。


(判士)

「クックック」

「何かよくわからんがまあこれもまた運命か」

「……さてと……」


 判士は、まず自分の祖父と祖母に会いに行き、自分の記憶だけを抜き去った。

 そして同時に、自分の言う事を聞く様に催眠を掛けた。


(判士)

「クックック」

「これでいい」

「さて少しこの世界を散歩してみるか」


 判士は街中を歩き出した。


(判士)

「何だこの世界は」

「街自体は何か変にキラキラしているが」

「あちらこちらに悪意が飛び回っているな」

「人間の街ってよりは悪魔の街に近い気もするぞ」


「ん? 今誰かに呼ばれた? 気のせいか……」


(判士の小学校時代の友達)

「判士! やっぱり判士じゃんか!」

「何? 何か眼赤いけど大丈夫か?」


(判士)

⦅何だこの馴れ馴れしい人間は!⦆

⦅殺してしまうか!⦆

⦅……いやそれはダメだ……契約違反になるからな⦆

⦅仕方ない……ここは退散しよう……⦆


 判士はその男の子を睨みつけて走り出した。


(判士の小学校時代の友達)「おい判士! どこ行くんだ? あれ?」


 その男の子は判士の後を追いかけたが、判士は既にそこにはいなくなっていた。


(判士)「まったく……殺せないとは中々不憫な世界だな……」


 それから数日後、判士が部屋でくつろいでいるとインターホンが鳴り、誰かが中に入ってくるのがわかった。


(判士)「何か人間の気配がするな……チッ! 面倒だし消えるか!」


 判士はその部屋から瞬間移動した。


(市の職員1)「判士さーんいますか? しかしこの家何か寒くないですか?」

(市の職員2)「確かにとても寒いですね」

(判士の小学校時代の友達)「とにかく中に入ってみましょう」


 そして三人は判士の部屋まで入って来た。

 判士の部屋に入った三人は驚愕した。

 そこには血で描かれた魔法陣があった上に、辺り一面が血だらけで、更にその周辺には物が殆どなく蝋燭が何本も立っていた。


(市の職員1)

「な、何だこの部屋は!」

「臭いも酷いし何より寒すぎる!」

「冷房もかかっていないのに、それにそもそも今は春だぞ、こんなに部屋が寒いわけ……」


 そうこうしている内に、一緒にいた職員と判士の小学校時代の友達は気絶した。


(市の職員1)

「お、おい! しっかりしろ!」

「ダ、ダメだ! 意識を失っている。ひとまず出直そう!」


 市の職員は、二人を抱えながらその部屋を出て行った。

 その様子を判士は遠くから眺めていた。


(判士)

「……面倒だな……殺したい……」

「いやダメだ……」

「とりあえずここはもう出るか」

「そうだ! コイツの実家の方に行こう!」

「もうあの家は最早我が支配下にあると同じだし」


 その翌日、市の職員が警察官数人を連れて、判士の家を訪れた。


(警察官1)「本当にこの家で血まみれの部屋を見たんですか?」

(市の職員1)「本当ですって! 鍵もホラ……ん? 締まってる……?」

(警察官2)「締まってるなら入れないですね」

(市の職員1)「待って下さい! 鍵なら大家さんに借りて来ました」

 

 そして家の鍵を開けて、三人はその家の中に入った。


(市の職員1)「あれ? 何か家の感じが違う。前来た時こんな感じだったかな?」

(警察官2)「それでどの部屋が血まみれの部屋なんですか?」

(市の職員1)「あの部屋です!」


 職員は部屋を指差した。

 そして警察官はそのドアを勢いよく開けた。

 しかしそこには普通の何もない部屋があるだけだった。


(市の職員1)「あれ?あれ?」

(警察官1)「何も無い部屋ですね」

(警察官2)「どこが血まみれなんですか?」

(警察官1)「幻でも見たんじゃないんですか? とにかく何もないならこれで」


 二人の警察官は、その家から去って行った。


(市の職員1)「待って、待って下さい! 確かにこの眼で!」


 職員が何を言ってももう誰も聞いてくれなかった。

 それどころか一緒に行った職員も何も見ていないしもうこの件には関わりたくないと言って来た。


 (市の職員1)「何かがおかしい……何かが……」

 (判士)「貴様……鬱陶しいな……」


 その職員の目の前に判士が現れた。

 そして判士はその職員に対して睨みつけた。

 次の瞬間職員は気を失った。

 そして倒れる際に頭を強く打ってしまった。


(判士)

「おいおい……脅しのつもりだったんだが」

「……まーこれは俺様のせいではないから契約違反にはならないだろう……」


 判士はその場から消え去った。

 その翌日その職員の死亡が報じられた。


(判士)

「しかしこの世界は何か色々と厄介だな」

「法律? ってのが多いな」

「まー俺様には全く関係ないが……暇潰しに覚えてみるのもまた面白いかもな」


 それから数日後、そしてまた数日後、また数日後……。


(判士)

「一人目が政治家のコイツを心臓発作ね」

「二人目が元女子高生のコイツを……不良? の集団を操って拉致して襲わせてボロボロにした後で殺害ね」

「……こんなことして何かなるのか?」

「三人目が会社員のコイツを列車に飛び込ませて殺すと」

「四人目がこのOLに強風で飛ばされた看板を当てて即死させると」

「五人目が……あーもう煩わし過ぎるぞ!」


 判士は、血まみれの紙のメモに書かれた年月日に従い、指示を次々に遂行していった。

 そして年月が経過し、判士は英傑学園に入学したのだった……。



(フローラ)「うわあああああああああああ」


 判士の全てを知ったフローラは発狂した。


(フローラ)

「醜い……人間はこうも醜い者なんですか?」

「自らを守る為に一人の家庭を壊すことが平気で出来るものなんですか?」

「そしてお金の為にそれに加担することが平気で出来るモノなんですか?」

「私には判士さんがしたことを責めることはできません」

「だって判士さんはむしろ被害者じゃないですか」

「何も悪いことしてなく真っ当に生きた人間が何故ここまでの目に合わないといけないのか」

「私にはわかりません」


(舞)

「……確かにな……」

「だが貴様は天界の者だろ?」

「それでも裁きはしないといけないんじゃないか?」

「それに俺様の考えは貴様とはちょっと違うな」

 

 舞は、中学生の判士に向けて拍手をし始めた。


(舞)

「貴様……面白い面白いぞ!」

「ここまでの悪意を持ち! 且つ! それを平気で行う為に我が身すら犠牲に出来るその心構え!」

「人間にして置くには実に惜しい!」

「どうだ? 魔族になる気はないか?」

「貴様ならいい魔族になれると思うぞ!」

「メフィストなんかとは比べものにもならないくらいの本物の悪魔にな!」


(フローラ)

「……?」

「……舞さん?」

「……何……言ってるんですか……?」


 フローラは訳のわからない事を言い出した舞に、とても困惑していた。


(中学生の判士)

「……違う!」

「僕のしたことはそんな風に言われていいことなんかじゃない!」

「それに……結局何も心は晴れなかった」

「だからもうどうでも良かった」

「もうメフィストのままで生きればそれでいいと思った」


「でも今認められてしまった……僕自身も認められたくないことを……」

「……わかった……もう終わりにしよう……」


 その言葉を中学生の判士が言った後、舞とフローラは精神世界から外に追い出された。



―フローラが作り出した異空間―

 舞とフローラの目の前には、判士が横たわっていた。

 判士はもう何も喋らなくなっていた。

 そしてその判士の頭の上には、メフィストが今にも消えそうに佇んでいた。


(メフィスト)

「クックック」

「契約終了させたか」


 その言葉の後で、メフィストは倒れている判士の方を見た。


(メフィスト)

「……判士……今までありがとうな」

「それなりに貴様の身体での出来事は楽しかったぞ」


 そしてその後で、メフィストは舞とフローラの方を見た。


(メフィスト)

「さて俺様はもうこの世界から消滅するだろう」

「魂が消滅したからな」

「もう俺様がここに存在することは出来ないからな」


(フローラ)「待って下さい! 貴方は誰の指示で私を襲ったのですか?」


(メフィスト)

「その質問には答えれないな」

「その代わりいいことを教えてやろう」

「貴様達は何か勘違いしているみたいだが記憶の制御を行っていたのは貴様達だけではない」

「俺様もだ」

「そして俺様がいなくなったことでその制御が無くなる」

「これで何がどうなるかは俺様にもわからんが」

「とにかく残された者達の記憶に影響が出るとだけ言っておこう」


(フローラ)「な……何ですって!? それはどういう意味ですか?」


(メフィスト)

「だから俺様にもわからんって言っただろ!」

「そんなことより……」

「魔王デスターニャよ……俺様はこの身体で生活している内にこの世で最も恐ろしい存在は俺達魔族では無いことに気付いてしまった」

「お前もその内その本当の意味を知るだろう」

「財前剛……アイツは人間でありながら俺達悪魔なんか足元にも及ばないぐらいの悪の存在だ」

「力も能力も無いただの人間……正直捻り潰すのは容易い人間……」

「だがコイツの非道さにだけは俺様は勝てないと思わされた」

「せいぜい気をつけるんだな」

 

 メフィストはその言葉だけを残して、消え去った。



―英傑学園教室―


(麗子)「……そう言えば知恵と虎次郎どこに行ったの? ん? あれ?」


 麗子は自らの記憶の異変に気付いた。


(麗子)

「そ、そうよ……知恵と虎次郎がいない! 何か変だと思った!」

「今すぐ皆んな集めて集会しないと!」


 そんな麗子の様子を黒い影が見ていた。


「メフィストめしくじったか……仕方無い……」


その黒い影は、何かを唱え出した。


(麗子)

「……あれ? あれ? 誰だっけ?」

「私、誰探してたんだっけ?」

「……何か……変だ私……」



―フローラが作り出した異空間―

 メフィストが消え去ってカイゼルと真実が閉じ込められていた球も消えた。

 フローラは二人に向けて何かを唱えた。次の瞬間二人はその場から姿を消した。


(フローラ)

「二人は元いた場所に戻しときました」

「もちろんここでの記憶は消してね」


(舞)

「そうか……」

「ところでコイツはどうする?」

「また記憶操作でもするか?」


 舞は横たわっている判士を指差した。


(フローラ)

「さっきメフィストが言っていたでしょ」

「多分もう記憶操作は無駄です」

「それにこの人はそれを望んでいない」

「そんな気がします」

「なので後で面倒になるかもしれませんがここに置いておきましょう」

「ここなら誰も来ないですし」

「ここは人間世界とは異なる異空間なので言うならば時が止まった空間です」

「なので何の変化も無くこのまま置いとけますから」

「何か面倒になって来たらその時考えることにしましょう」


(舞)「……そうか……まー下手なところにも置けないしな……」


(フローラ)「その通りです……ところで……」


 フローラは舞に向けて手を伸ばした。


(フローラ)「成程……天使と会ったからですか」


(舞)

「……!?」

「貴様! 今何をした!」


(フローラ)

「貴方の記憶を見させてもらいました」

「まー最初からこうすべきでしたね」

「私の前で隠し事など本当に出来ると思ったんですか?」


(舞)

「チッ!」

「……で……どうすんだ? 全て見たんだろ?」


(フローラ)

「ええ……ルシファー……ですか……」

「転生界でもその名は聞いたことあります」

「しかし何故あの者が人間界に……もし本当にこの世界にいるならこの世界から排除しないといけませんね」

「そしてそれを天使が導いたのであれば」

「それは私の使命と言えるでしょうね」


(舞)

「まーそっちはそう言うと思ったよ」

「それより貴様大丈夫か?」


(フローラ)「大丈夫というのは?」


(舞)

「段々貴様の人間に対する感情が変化していることを俺様が気付いていないとでも?」

「最近の貴様は俺様でも思わない様なことを平気で思っているぞ」

「もしかして人間の汚い部分に心がやられてきていないか?」


(フローラ)

「あら? 貴方に心配される様になってしまいましたか」

「これではどちらが悪魔かわかりませんね……ウフフフフ」

「大丈夫ですよ」

「私は転生界の守り人です」

「そんなに柔ではありませんよ」


(舞)「……そうか……ならいいんだが……」


(フローラ)

「確かにこの裁きをしながら思うことは今あります」

「最初はとにかくただ舞さんの無念を晴らしたい一心でやって来ました」

「しかし実際に皆さんと対峙して……皆んな色んな事情があってその結果悪に染まってしまったことがよくわかりました」

「だから剛さん麗子さんそして冷道さんも私の手で救いたいと思っています」

「おそらく判士さんが望んでいたのは誰も悪に染まっていない世界だったと思いますから」


(舞)「……そうか……帰るぞ……」

(フローラ)「はい……今日は疲れました……ゆっくり休むとしましょう……」


(ナレーション)

 こうして高裁判士は全てから解放されて天に召されたのだった。

 そして舞とフローラは、それぞれ思うことがありながらも、前に進むことを決めたのだった。

 ただ舞はメフィストの最後の言葉が気になっていた。

 悪魔が恐れた人間……財前剛とは何者か……


 〜第九章〜 金の魔力 【前編】

 へ続く


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面白いと思っていただけましたら、下の【☆☆☆☆☆】からポイント評価をしてくださると嬉しいです!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ