~第一章~ 転生させられた魔王
このお話は、アニメ仕立ての展開を意識してます。
この為、ナレーションが所々についています。
ご承知下さい。
(ナレーション)
異世界エルドラド……
この世界は、人々から恐れられていた魔王デスターニャが支配していた。
勇者とその仲間達は、魔王を倒すべく魔王の城へと向かった。
そして魔王を倒したのだった……
「ま……まさか……この俺様が人間ごときに! グ……グワーー……」
「お……覚えていろ……い……いつの日か必ず俺様は蘇る……」
「その時は必ず貴様達を八つ裂きにしてくれるわーーー!!」
魔王デスターニャは最後にその言葉を残し消滅した……。
この物語はこの平和になった異世界エルドラドから始まる……
……のではなくこの敗れ去った魔王の魂から始まるのである……
ー転生界ー
ここは全ての生き物の転生を司る場所
ここでは如何なる強者も何も出来ずただ導かれるまま転生されていく……はずだった……
(衛兵)
「至急! 至急! 応援お願いします!」
「既に目標は転生界の半分を破壊し、尚もその勢いが留まることはありません!」
今まであり得ない光景がそこにはあった。
たった1つの魂が、転生界を今まさに滅ぼさんとしていた。
(魔王(魂))
「何だお前達は」
「あのクソ人間達よりも遥かに弱いではないか」
「その程度の力でこの俺様を従わそうなど片腹が痛いわ!」
「この世界丸ごと破壊してこの転生界を俺様の物にしてやる!」
魔王デスターニャは、異世界で史上最強の魔王として君臨していた。
彼の強さは、何といってもその強大な魔力だった。
異世界では勇者によりその魔力を封じられた為、敢えなく破れることとなったが、本来の彼の魔力は指1つだけでその世界を破壊出来る程の能力であった。
それ程の能力であったが為、転生界に堕ちて魂となっても、その能力は転生界を破壊するには充分な程であった。
(衛兵)
「こ、こんなの見たことがない!」
「そもそもなんで魂だけで魔法が使えるんだ!」
転生界の衛兵達が、慌てふためいていた。
(魔王(魂))
「ハーッハッハ!知りたいか?簡単なことだ!魔力の差だこれが!」
「俺様は何も言わずとも心だけで魔法が使える」
「つまり意識さえあればこのくらい造作もないことよ」
「そして俺様は召喚魔法も使えるのだ」
「さあ新生魔王軍達よこの世界を我が物にしようではないか!」
(魔物達)「オーッッッ!!!」
今まさに新生魔王軍により、転生界が崩壊されかけていた。
その時だった、天空より1人の女性の姿をした天使が舞い降りてきた。
「お止めなさい!」
(魔王(魂))「誰だ? 貴様」
(フローラ)
「私はこの転生界の守り人フローラです」
「これ以上の破壊を見逃すわけにはいきません!」
その声がした方向には、翼の生えた天使の様な女性が立っていた。
(魔王(魂))
「ふん! 貴様がこの世界のボスか! なんだか弱そうだな」
「野郎共! やっちまいな!」
(魔物達)「オオーッッッ!」
魔物達は、フローラに向かって攻撃をしかけようとした。
しかしフローラは不適な笑みを浮かべている。
(フローラ)「フッ……愚かな……この転生界において魂以外のものをこの私に差し向けるとは」
(魔王(魂))「な……何だと!」
(フローラ)「見るがいい!」
フローラは、魔物達に向けて手を翳した。
すると次の瞬間、今そこにいた魔物達は、全て魂に変えられてしまった。
(魔王(魂))「お……おのれ~!」
(フローラ)
「私はボスではありません」
「浄化を行いこの世界の秩序を守る守り人です」
「だから私はどんな存在も魂へと変換出来るのです」
「そして魂にさえなってしまえばどんな存在も本来無力……のはずですが……どうやら貴方は例外のようですね……」
「仕方ありません……私が直接転生させてあげましょう……」
その言葉を聞いて、魔王の魂は怒り狂いだした。
(魔王(魂))
「お……お……お……おのれ~!!」
「そんなにこの魔王デスターニャ様と一戦殺り合いたいんだな!」
「後悔するなよ!!」
魔王は天から巨大な隕石を呼び出した。
(魔王(魂))「これで貴様なんぞ潰してくれるわ!」
巨大な隕石が、フローラに向かって放たれた。
(フローラ)「やれやれですね」
しかしフローラは、それを簡単に掻き消した。
(魔王(魂))「だったらこれはどうだー!」
魔王がそう叫ぶと、魔王の魂の背後から無数の剣が飛び出した。
(魔王(魂))「この数消せるものなら消してみやがれ~!」
無数の剣が、フローラに襲いかかってきた。
(フローラ)「……愚かな……消すことと浄化は全然別物なのに……」
フローラがそう言っている間に、その剣はフローラに突き刺さった。
その光景を見て魔王はニヤリと笑った。
しかし次の瞬間、その剣がゆっくりと光となり消えていった。
(魔王(魂))「な……なんだと!?」
(フローラ)
「浄化は全てを消す……それはその存在さえも」
「つまり貴方のどんな驚愕な魔法も私には無効というわけです」
「わかったのならこれ以上暴れるのはやめて大人しく転生されなさい……」
(魔王(魂))「だ……黙れ! 何が転生だ! 俺様は魔王デスターニャ様だ! 何にもならん!」
魔王は怒り狂った。
(フローラ)「と言ってももう貴方には何も打つ手ないでしょう」
フローラは微笑んだ。
誰がどう見ても、もう魔王には打つ手は無いと思われていた。
しかし急に魔王は笑い出した。
(魔王(魂))
「フフフ……ハーッハッハー……」
「わかってないのは貴様の方だ!」
「本当に恐ろしい魔法は地獄の業火でも世界を崩壊させる程の地震でもない!」
「精神への攻撃だ!」
「これが出来れば俺様はクソ勇者相手でも負けなかったんだー!」
「見よ! 我が最強の魔法! マインドオペレーション!!」
辺り一面が、黒い光りに包まれた。
(フローラ)⦅これが魔法!? 特にこの光に攻撃性は感じれないが……⦆
その次の瞬間、フローラの頭の中に不気味な声が響いてきた。
(???)「フフフ」
(フローラ(精神))「こ……これは一体……なぜ貴方の声が私の頭に直接聞こえて来るのですか!?」
(???)「もうお前は何も出来ない……この身体も心も俺様の思うがままよ」
魔王がフローラの頭の中で呟いた。
(フローラ(精神))
「な……何!?」
「か……身体が……う……動かない!?」
(魔王(精神))
「ハーッハッハ……どんな気分だ? 守り人さんよ! 身体を支配された気分は!」
「どれ……この身体を使ってこの世界を支配しようとするかな」
(フローラ(精神))「や……やめなさい!」
(魔王(精神))「ハーッハッハ!」
フローラは、魔王の操り人形となってしまっていた。
そして、これ以上何も出来ないと悟ったフローラは、覚悟を決めた。
(フローラ(精神))
「……仕方ない……奥の手を使いましょう」
「貴方と同じとは思いたくないですが私にも頭だけで使える秘術があります」
「ただこの秘術を使うと私自身も転生させられてしまう為あまり使いたくないのですが……」
「そんなことも言ってられない様です……」
フローラは呪文の詠唱を頭の中で始めた。
(我守り人を辞さんとするその御心を今解き放ちたまえ~! そして悪しきものを次の転生へと導きたまえ~!)
次の瞬間、辺り一面に神々しい程の光が降り注いだ。
その刹那、空間に亀裂が入った。
そして次の瞬間、その空間は魔王の魂とフローラを吸い込み出した。
(魔王(魂))
「ぐ……ぐわ~! 俺様が俺様で無くなっていく~!」
「や……やめろ~!」
(フローラ)「皆様……私はこの悪しき魂を道連れに転生します」
(衛兵)「フ……フローラさま~!」
(フローラ)「後のことは頼みましたよ」
フローラはその光に包まれだした。
そしてみるみるうちに魂に変わっていった。
(フローラ(魂))「さあ共にいきましょう……新たなる人生へ……」
(魔王(魂))「お……おのれ~! このままで済むと思うなよ~!」
魔王はそう言うとフローラに向かって突進した。
そしてそのまま引っ付き激しく揺れ出した。
(フローラ(魂))「な……何をするのです!?」
(魔王(魂))
「う……うるさい! これ以上貴様の思い通りになんかさせてたまるか!」
「足掻けるなら少しでも足掻く!」
「絶対貴様の思い通りの転生なんかしてたまるか~!」
(フローラ(魂))
「お……おやめなさい!」
「 このままだと別の世界に転生するかもしれませんよ!」
「 それでもよいのですか?」
(魔王(魂))
「構わぬわ!」
「 少なくとも貴様が考えていた転生にはならないはずだからな!」
空間は、魔王の魂が激しく揺れたことで歪みを生み出していた。
そしてその歪みは、空間が消えるまで続いたのだった……
ー神東町ー
ここはとある町の病院。
(医者)
「もうこの子はこのまま目を覚まさないのかもしれない」
「でもその方がこの子にとっては幸せか」
医者はベッドで呼吸器をつけて横たわる少女に向けて呟いた。
少女は植物状態だった。
そしてその身体には全身包帯が巻かれていたのだった。
(医者)
「この世には神も仏もいないのか」
「この子には何の罪もないのになぜここまでの仕打ちを受けなければいけなかったのか」
「私が医者でなく神であればこの子を救えたはずだ」
「神よ! 今この光景を見ているなら今すぐこの子を救いたまえ!」
そう医者が叫んだ次の瞬間だった。
急に電灯が点滅し、部屋が揺れ始めた。
医者は、突然起こった出来事に恐怖を感じ、その場から動けなくなった。
そして、しばらくその状態が続いた後、急に少女の身体が光り出した。
(医者)「ま、眩しい~~~!」
医者は余りにも眩しい光りに手で眼を覆った。
その直後、急に心電図のモニターが警告信号を発し出した。
更に少女の身体が激しく揺れ出した。
(医者)「う……うわ~! 一体何が起こってるんだ~!?」
医者はもうパニックになって、その場から動けなくなっていた。
(少女)「これでどうだ!」
少女が病院のベッドから勢いよく叫びながら目を覚ました。
その少女はさっきまでそのベッドで確かに横たわっていた、あの植物状態の少女であった。
(医者)「き……奇跡だ~! 奇跡が起こったぞ~!」
医者は感激のあまり、その場で走り回って叫んだ。
(医者)「神様。あなたの力なのですね。ありがとうございます」
医者は急にお祈りを捧げ出した。
その姿を見た少女は、笑いながら話し出した。
(少女)「神様? 何を言っている? 俺様は魔王だぞ」
(医者)
「あ~やっぱり脳機能には障害が出たか」
「自分が誰かわからなくなってしまっている」
「でもまーそれも無理もないか」
「再び意識を取り戻しただけでも奇跡なのだから」
医者は、突然おかしなことを口走りだした少女に対して、憐れみにも似た言葉をかけた。
(少女)「しかしなんなんだこの身体は!? あちこちがんじがらめで全然動けないではないか!」
(医者)
「今の君の身体は32ヶ所も骨折し、あちこち切り刻まれていて外傷も酷い」
「だから仕方ないのだよ」
「さあもう少し横になりなさい」
(少女)
「骨折? 外傷? あ~つまりなんかわからんがとても酷いダメージを受けているということだな」
「なるほど……ではこうしよう」
少女は頭の中で回復魔法を唱え始めた。
するとゆっくりと傷が塞がりだし、折れた骨がゆっくりと繋がりだした。
(少女)
「うーん……やっぱり身体が違うとこんなものか……」
「全回復魔法を唱えたのだが……ただの低レベルな回復にしかなっていないな……」
「仕方ない……もう少し時間をかけるか」
(医者)
「な……何を言ってるんだ君は!」
「君の身体は全治6ヶ月もかかる程のとんでもない重症なんだぞ!」
「ここに運びこまれた時だって生存確率10%の正に生きるか死ぬかの瀬戸際だったんだぞ!」
(少女)
「なるほど……そして貴様が俺様を助けたと……」
「わかったわかった!」
「それではこの世界を支配した暁には貴様に魔王軍の幹部の座を渡してやろう」
(医者)
「魔王軍? 幹部? やれやれ……想定以上に脳に障害が出ているなこれは」
「精神科医も呼ばないといけないかもな」
医者は訳の分からないことばかり言う少女に対して憐れんだ。
(少女)
「しかし転生というのは生まれてくる魂に宿ると聞いてたが……」
「まーそこは俺様の能力が強いから生きた人間へと転生出来たのだろう……」
「まー結果オーライだ! まずはこの身体を使って手始めにこの街を攻めるとするか!」
「いでよ! 我が僕達!」
少女はそう言いながら手を空へ掲げ上げた。
しかし何も起こらなかった……
(少女)
「……ん? なぜだ?……魂の時でさえ呼べたはずたが……」
「まだそこまで魔力が戻ってないというのか……」
少女は困惑しながら呟いた。
その時、少女の頭の中に声が聞こえだした。
「無駄ですよ」
(少女)「だ……誰だ!」
少女は、急に聞こえだした頭の声に困惑しながら叫んだ。
「……私のことを忘れましたか?」
「 あなたのせいで転生しないといけなくなった転生界の守り人のフローラです」
(少女)「フローラだと!? 貴様近くにいるのか! 姿を見せろ!」
(医者)「今度は幻を見ているのか……脳の専門医も呼ばないとダメかもな」
医者は急に空に向かって喋りだした少女を憐れんだ。
「私は別の場所から貴方の精神に直接語りかけています」
「ただ私はそのうち貴方の前に現れることになることでしょう」
「それはさておき……まずは貴方の今の状況について説明しておきます」
「まず……ここはエルドラドではありません……別の異世界です……」
「だから貴方の魔王軍は呼ぶことは出来ません」
「そしてこの世界では人間は魔法が使えないことになっています」
「しかし貴方の場合は……どうやら例外のようですね……」
「理由はわかりませんが……どうやらいくつかの魔法は使えるようです」
「ただ……それもこの世界の世界観までといったところでしょう……」
(少女)
「異世界だと!? 魔法のない世界なんかこの世に存在するのか!?」
少女はひどく困惑している。
「そもそも予定では貴方にはエルドラドの村民の赤子へと転生してもらうつもりでしたが……」
「貴方の無茶が原因でどうやら2人共違う異世界に飛ばされたみたいですね」
「さて……長々と話してしまいましたがこれもまた運命です」
「それではまた……」
(少女)
「お……おい待てよ!」
「まだ聞きたいことが山程あるぞ!」
「貴様戻って来ーい!」
少女は大声で叫んだ。
だが、その声は虚しく空に響くだけだった。
少女は叫びすぎて少し疲れてしまった。
(医者)
「落ち着いたかね」
「さて、そろそろ眠りなさい」
「君の生還を待っていた私の姪には私から連絡しておくから」
医者は睡眠成分の入った麻酔薬を少女に投与した。
(少女)「な……貴様……な……何を……し……」
少女は急に眠たくなってしまいベッドに横たわった。
(???)「上手くいきましたね」
(???)「しかし本気でこんな転生させて大丈夫ですか?」「バレたら色々問題ですよ!?」
(???)
「バレることはありません」
「それにその時はフローラの責任にすればいいだけのことです」
「彼女の方が先に罪を侵したのですから……」
遥か上空で2つの影はそんな会話をしていたのだった……。
(ナレーション)
少女はなぜ入院していたのか?
魔王が少女に転生してしまったのはなぜか?
そしてフローラはどこにいるのか?
この後、魔王は少女に起こった恐ろしい出来事を知ることとなる
しかしそれは次のお話……
~第二章~ 絶望の淵に落とされた舞という名の少女
へ続く
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