修羅道 プロローグ
皆がいる座で、我はこれが最期になる可能性を考慮し、腕をめくり152代目の刺繍を見せつける。
「我はこれより修羅道へ入る。何人たりとも、邪魔は許さん」
部下どもへ宣言し、我が部屋へと赴く。振り返る際、部下どもは悲痛そうな顔を浮かべていたが問題あるまい。
身体が熱い。これは、炎に焼かれているのか?
修羅道へ入り、我の体感が狂っていることに気付く。
部屋に存在する鏡を覗くも、そこにはただ我の身体が映るのみ。
(そうか。……これが修羅道か。噂には聞いていたが、実感するのは初めてよな)
扉越しに息を飲む声が聞こえる。こいつは我の2番弟子だな。なに、気配で分かる。
コンコンッ
「お師匠さまっ。この扉を開けても宜しいですか?」
「ならぬ。お主は聞いておらなかったのか?我は修羅道へ入ると言ったであろう」
戸惑い項垂れておる2番弟子の顔が思い浮かぶ。それでもなお、決心したのか我に意見する。
「でも、お師匠さまっ!我が流派に伝わる秘伝書だと、修羅道へ入って戻ってこれた者は1割もいないって聞いて」
確かに、修羅道へ入って戻って来た者は初代を含め10人だけだ。だが、代々この刺繍を受け継ぐ者は皆修羅道へ挑戦する。
「安心せぇ。万が一……否、億が一そうなった場合も考え後継者も決めておる。故に、我が戻らなくとも問題はない」
こやつとの問答も十分と感じた我は、扉越しにまだ説得しようとする2番弟子を気にすることを辞めた。
より我の身体熱く、体内で暴れるエネルギーが加速する。
修羅道の段階が深くなったのだ。
我々の流派に代々伝わる究極奥義、阿修羅。
初代が生きていた時代の伝説の悪鬼を基に考案された技だという。
そも、人では足りない膂力、尋常でない精神力。それを補い、ただの鬼よりも何段階も上の伝説の悪鬼の力を我が物とし使いこなす技。
だが、そこに至るまでは簡単ではない。
先代達の記述により、修羅道は大まかに5段階あることが分かっている。
1段階、炎に身を焦がす。
2段階、氷点下にて心身を凍らす。
3段階、風が体内を暴れ狂う。
4段階、雷にて体内を焦がす。
5段階、炎氷風雷にて精神、肉体を苛む。
これはある種の呪いだという説もある。この刺繍には、時期が来ると修羅道へ入りたくなるよう思考を誘導される、というモノらしい。
ふんっ、ばがばかしい。その思考こそ、軟弱者の証よ。
僅かに頬が緩み笑っていたことに、鏡を見て気付く。久々だ、この感情。我がまた強くなる可能性を秘めているのだから。これは、命を懸けた鍛錬に近いのだが……
「そうか。我はこの試練を楽しんどるのか」
修羅道は、まだ始まったばかり……




