参考記録
人類は今日新たなステージに進もうとしている。
100メートル走で50年以上破られていない0秒9の壁を突破できるかもしれないのだ。
今から200年前、人類はこれまでの記録を7秒以上縮めることに成功する。
記録を更新した選手の名前はルイス・アルカット、事故で身体の80%以上を失ったが、人工の四肢や臓器で一命を取り留めた人間だ。
当時の映像を見たことがあるが、現在から見れば何故こんなにも人々が湧き上がっているかわからないが、当時にしてみればものすごいインパクトを残したらしい踵と足の裏から噴出するジェット、スタートからゴールまで6歩でいくストライド、そして早過ぎた追いつけていないカメラ。
そして、走り終わったとのインタビューが何より衝撃的だった。
「5割程の力しか出せませんでした。」
日本でも流行語大賞を受賞したその言葉は当時冗談だと思われていたが、現実は本心からの言葉だっだことは翌日の400メートル走りで実証される。
前日のインタビューから天狗になっていると思われ、全世界からバッシングされる中レースは始まった。
始まった瞬間起こったのは思わぬ惨状だった。
一歩走るごとに起こる抉れるフィールド、飛ばされないように必死に地面に這い蹲る対戦相手、そして昨日よりも何倍も早いスピード。
レースが終わった後直ぐにIPCとIOCそして国際ロボット協会の競技が始まった。
「アレはヒトかロボットか」
その一言から始まった 会議は連日連夜行われていた。そして出した結論は
"脳と脳以外の体組織が10%以上残っている場合人類と認めるということWHOの見解を尊重し、今回の記録を正式にWRと認める"
と言ったものだった。
そこから幾多もの波乱があり、ルールも明確化してきた『体組織の10倍を超えるの機械部位をつけるのは禁止である』『競技場は十分な強度を保ち、競技者と観客の間は十分に離すこと』
そして。競技としても成熟して来た今記録に挑戦するのはあの伝説を残した超人ルイス・アルカットだった。
200歳を超えた今でも身体の改良を重ねいたが、長らくスランプに陥っていた、あの大会以来患って来たマスコミ嫌いが10年前から悪化して碌にやりとりもできなくなっていたがそのお陰か記録は良くなって来た。
今回も「自信がある」と一言しか無かったがどこか自信に満ち溢れた表情だった。
迎えた大会、全世界が注目する中ルイス・アルカットは100メートル0秒00012という驚異的な記録を叩き出した。
しかし、試合後行われた身体チェックにより衝撃的な事実が判明した、セラミック製の頭蓋骨を開けた瞬間その部屋に腐敗臭が充満した。
ルイス・アルカットは10年前に機械の故障で脳に栄養が行かず、WHO的に言うならば死んでいたのだ。
それでは何故動くことができたのか、脳の補助として取り付けられた人工知能が身体を動かしたのだと思いきや飽くまでその人工知能は補助的な役割をせず脳が全くの休止状態なら活動しない、その証拠に身体チェックをするまで問題なく動いていたルイス・アルカットだがその後はピクリとも反応しなかった。
彼の記録を出したいと言う思いが身体を動かしたと言うのが多くの人が支持する説であるが、もはや確かめようもない。
IPCは世論を尊重してルイス・アルカットの記録を参考記録としてではあるが正式に認めることを表明した。