第2話 DNA的にはあまり終わってなかった。
青島の心の声は今回は記載しておりますが、今後は基本書かない予定となっております。
宜しければ、感想・評価お待ちしております。
――ざわざわ
(……お、れ……は……)
ズキズキと固い物で殴られたあとのような頭痛のなか、青島はゆっくりと意識を取り戻していく。いまだに全身には痛みが残っているものの、痛むということはそれはつまり、彼が生き残ったことを意味していた。
(……やっ、た……ぞ、…………これ、で、これで……)
「お、おい、今動かなかったか?」
「離れろっ! みんな、離れろ!」
喜んだのもつかの間、彼の周囲に大勢の人間が居る気配がする。彼が居るここは普段は人の立ち寄らない廃工場。だが、あれだけの苦痛の大声を一晩中上げ続けたのだ、不審に思った近所の住人が朝になって見に来ても不思議ではない。ないが、もしも警察までやってきたら厄介なことになってしまう。彼はもう、違法薬の真世界を服用しており捕まれば極刑となる。
(……犯罪者では、ないことを説明……、いや、逃げたほうが、良いか……)
意識はまだぼんやりとしており、全身を襲う痛みも消えてはいないのだが、なんとか手足に力を込めて立ち上がろうとする。
握った拳にかかる力は、今までの彼のモノとは比べ物にならないほど力強い。
(“増強系”……か? 単純で、良いちか、らだ……)
「た、立つぞ!?」
「どけっ! もっと退けって!」
「動物園の人はまだ来ないの!?」
(どうぶつ、えん……? どういうこと、だ……)
自分に怯える一般人の言葉が想定していたものとズレがあり、彼のなかで不安が大きく育っていく。
(もしかして、異形、にでも……成ったか……?)
異能の力のなかには、元の人間とは大きくかけ離れた姿になってしまうものもある。仮に身体が異形になろうともそれが力を求めた代償であるのなら後悔することはないのだが、今後の生活が大きく変化してしまうことに少しばかしの面倒くささを感じてしまう。
(ひとまず、犯罪者でないこと、だけでも、説明しないと……な)
瞳を開けても靄がかかったように見えにくい視界のなかで、色と明かりを頼りに人が居る方向を見極めて、彼は口を開いた。
「ウホ」
…………。
…………。
…………。
…………。
「ウホ?」
「きゃぁぁ!」
「逃げろ! はやくはやく!」
「私を見ているわっ! 私を犯す気なのよ! 誰か助けてっっ!」
「それはないわ」
「今言ったやつ出てこい」
周囲がパニックに陥るなかで、彼はそれどころではなかった。
どれだけ言葉を話そうとも、口から洩れるのはウホウホという音のみ。戻り始めた視界のなかで自分の身体を見回せば、昨日までとは明らかに異なる筋肉粒々の身体。女性の腰ほどもあろうかと思われる腕は人間では到達出来ないパワーを秘めているのが一目でよく分かる。
そしてその腕は、いや、全身は黒い毛で覆われていた。
混乱する彼の前に、ころんころん、と逃げまどう人々の誰かが落としたのであろうコンパクトミラーが転がってくる。
そこに写り込んでいたのは、どこに出しても恥ずかしくない立派な一頭のゴリラであった。
青島 正也、24歳。
ゴリラ、はじめました。