07 転換期
僕は、今しかないと覚悟を決めた。
「そういえばさ、バイトなんだけど」
声が裏返らないように細心の注意を払う。
「そろそろ貯金もたまってきたし、ちょっと夜のシフトは減らそうかと思って…」
意識して保とうとしていた声がどんどんと弱り、目線がどんどんと下がっていくのを感じた。
一緒にいる時間を増やしたいと正直に言えるほどには、まだ素直になりきれていなかった。
「本当!?嬉しい!」
ほとんど、朝食に出した目玉焼きに向かって話しかけているような僕の耳に明るい声が聞こえた。
弾かれたように上を見ると、満面の笑みの彼女と目が合う。
「一緒にいる時間が増えるね」
僕が口に出せないことを彼女は平然と言ってのける。
「じゃあ、私は早い時間のバイト減らそうかな」
にっこりと微笑みながら言う彼女にどきどきした。
僕が夜のバイトを増やすのと同時期、彼女は午前のバイトを増やしていた。
だからこそ、僕らは朝しか合わなかったわけだけれど、
その両方が減るということは、僕らはまた最初の頃のように過ごせることを示していた。
「嬉しいよ」
僕もそっと口に出す。
もちろん、じゃあ明日から!というわけにはいかないけれど、少なくとも次に出すシフト表からは随分と〇が減るだろう。
次のシフト提出日のことを考えるとにやけそうになる。
2人のバイトが減れば、朝から昼まで一緒にいられるだろうし、夜ご飯も一緒に食べられる。
上手く休みを調整すれば、遠出して遊園地や水族館にデートに行くこともできるようになる。
映画館に行ったり家で借りてきたDVDを見たりするのもいい。
でも、彼女と2人なら何もしないで家でゆったりするのもいい。
そんな風に久々のデートのことを考えると、やっぱり僕の口元は緩んでしまう。
一気に元の関係に戻っていけるように感じた。