06. 彼女との穏やかな時間
そんな気まずくて、息苦しくて、それでもやめることも逃げることもできない同棲生活だったけれど、
僕には一時だけ心が休まる時間があった。
朝が弱い彼女は、いつも起き始めた時は穏やかで優しい、僕の大好きな笑顔をうかべる。
その時だけは、僕は彼女を以前のように純粋に、ただただ好きでいられた。
だから、こんな関係になってしまっても僕は朝彼女を起こせることが幸せだった。
彼女を起こして、寝ぼけた彼女と一緒に朝食を食べて、くだらない会話をする。
それが僕たちの1日における関わりの全てといってもいいぐらいだった。
そして、朝食を食べたあとに彼女は身支度を整えて気まずい挨拶をして家から出ていく。
僕は今日も夕方から夜までバイトだから、家に帰ってきた時には、きっと彼女はいつも通り寝てしまっているだろう。
また彼女と顔を合わせるのは明日の朝、僕が彼女を起こすときだ。
その時が楽しみなような、少し寂しいような…何とも言えない気持ちだった。
そんな毎日を何日も過ごしていくうちに、僕らは少しずつ元通りになっていった。
結局、謝ることも話し合うこともできないままだったけれど、少しずつ会話は増えて気まずい空気も減ってきた。
毎朝彼女を起こして、朝食を一緒に食べて、くだらない会話をして、「いってきます」という彼女を「いってらっしゃい」と見送る。
以前と同じ幸せな朝だった。
そんなある日、朝食を食べている時に彼女がぽつりと言った。
「バイト先の子たちから『変わったね』って何回も言われるの。『彼氏と同棲始めたからでしょ』って。
なんでだろう…」
彼女が不思議そうに言うのを、にやけそうになる顔を隠しながら聞いていた。
彼女が変わったことには気づいていた。
彼女は意識していないようだが、喧嘩を乗りこえたぐらいから彼女は穏やかで素直になった。
以前の彼女は少し気が強くて、周囲に敵を作ってしまうこともあったけど、今の彼女はずいぶんと雰囲気が丸くなった。
そんな彼女のいい変化を僕のおかげだと言ってもらえる。それが嬉しくてにやけそうになる顔に必死で力を入れた。
「僕は今の君が好きだよ」
素直になった彼女を見習うように僕も彼女の目を見つめながらはっきりと伝えた。
彼女は一瞬目を見開いたあとにふわりと笑った。
「ありがとう」