◇10月5日(金) 午前7時
◇ ◇ ◇
セーラー服を着た少女が、通学かばんを担いで部屋に入ってくる。
「ほら、行くわよ」
呼ばれた方の少年は、制服に身を包み、自室のベッドの上で何かをまじまじと見つめていた。
「どうしたの? 時刻表なんて眺めて」
彼の手に握られているのは、駅で配布されているぺらぺらの時刻表。
「いやー、思ったんだけどさ」
「何よ」
「お前、終着駅まで行ったことある?」
彼は"下り"の方を指しながら、幼なじみに聞く。
「ないわよ。あんたが一番よく知ってるでしょうに」
「そうでした」
机の横に置いてあったかばんを持ち、少年が立ち上がる。
「行ってみる?」
「は?」
部屋を出ていこうとしていた少女が、振り向いて固まった。
「これから?」
「うそうそ」
◇ ◇ ◇
「おい、そっちは逆だぞ」
「知ってる」
駅まで歩いてきた彼らのうち、少女が、いつもとは逆方面の改札に入ろうとするしぐさを見せた。
「あんたが言い出したんでしょう?」
「うそだって」
「知ってる」
「ほら、さっさと戻ってこい」
「はあい」
生返事をして、彼女が少年の隣に戻ってくる。
「ねえ」
「何?」
「もしほんとに、このまま終点まで行ったら。どう思うかな、みんな」
「みんなって……まあまず、先生から親に電話が行くわな」
「そうね」
「親はなんて答えるのかな」
「『今日もふたり一緒に出かけていきましたけど……』とかかな」
「ふたり一緒に出かけて、ふたり一緒に失踪か」
「携帯の電源、切っとかないとね」
ふふふ、と顔を見合わせて笑い合う。
「クラスのみんなは、なんていうかな?」
「『ついに駆け落ちか』とか?」
ぷっ、と少女が吹き出す。
「『意外と早かったな』なんて言われたりして」
「『どこ行ったんだろ?』」
「『チャペルだよチャペル』」
「『ご祝儀、包まないとな』」
「『二万円包んでやる』」
ここまで掛け合って、彼らは揃って爆笑を始めた。
「あー、おかしい。あはは……特に最後とかもう」
「しれっと離婚を願われてるあたりな」
「うん。あははは」
「いや笑いすぎだろお前」
「だっておかしいんだもん」
これで彼ら、付き合っているわけではない、ただの幼なじみだというのだから、驚きだ。
* * *
10月5日(金)は「時刻表の日」です。