人外と少女の本。
「おまえ、本読むか?」
ここはもともと、なんにもない家をぼくがアレンジしたものだ。できる限り森と一体化させたくて、家の周りは木々を生やして隠れ家のようになっている。
もともと森であるため食料には困らないし、少し行くと川もありそこで魚を捕まえたり水浴びをしたりする。
できる限り人里には行かないと決めているため、あらかたのことはこの場所で事足りている。
しかし、知識欲だけはどうにもならなかった。
あの時自分がもっと知識があれば母親を助けられていたかもしれない。
そんなことを考えながら、昔から本を読むことしか知らなかったぼくは、この家にあったすこし古びているが立派な本を読み漁った。
ここで冒頭に戻るがこいつもやることがなく(ぼくを見るのをやることとは言わない)、暇だろうと踏んでこんな質問を投げかけてみるに至ったのだ。
「…興味がないならいい」
「……きょうみある。よむ!」
思いっきり食いついてきた。
予想以上の食い付きにおもわずびっくりしたが、まぁいいだろう。
しかし問題がある。
「そう言えばおまえ目が見えないなら読めないな。」
「………はっ!!」
「おい、なんで今気づいたみたいな顔してるんだ。おまえのことだろう。気づけ。」
「………でもこれで、ほん、よめない。」
ショボーンという効果音をだしながら、目に見えて落胆するこいつに、しまったという罪悪感が芽生えてくる。
「…(思わず思いつきで言ってしまったが失敗だったな。)すまない。忘れてくれ。」
「……………………うん。おにいさん、ありがとう。」
なぜこいつはお礼なんか言うのだろう。
このありがとうのせいでぼくの罪悪感はより一層増すばかりなのに。
ギシギシと自分の心と戦っているころ、あいつはふっと笑っているのだ。
「…おい、何笑ってるんだ」
「………だって、おにいさんが、やさしいから」
こいつはこんなぼくを優しいだなんて言うんだ。
やっぱりこいつは、変なやつである。
「………はぁ。ぼくが読む。」
「…………でも、たいへんだから、いい」
「………ぼくが独り言を言いたいだけだ。別にお前のためじゃない。……暇ならいつもみたいにぼくを見ておけばいいだろう。」
「……!……ふふ、やっぱりおにいさんは、あったかいひとだね。」
「………うるさい」
こうして、この日からあいつへ暇な時は本を読むことがぼくの日課となった。
ぼくは本を読むことが上手いわけでもなく、むしろ今まであまりヒトと話したこともないため、下手くそだと思う。
それでもあいつはニコニコしながら、あの赤い目でぼくをいつものように見つめているのだ。
人外と少女の本。
ブックマーク登録を初めてして頂きました。めっちゃくちゃうれしいです。ありがとうございます。ここで土下座できないことが悔しさです。
少女は本を読むことはできないけど、人外の声が聞けることがきっとなによりも嬉しいのです。