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アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~  作者: ma-no
第十六章 日ノ本編其の二 天下分け目の関ケ原にゃ~

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455 人間将棋、開戦前にゃ~


 わしが玉藻に抱き締められてぐったりしていると、ちびっこ天皇は顔を青くする。どうやら、玉藻がわしを絞め殺したと勘違いしたようだ。

 その静まり返る食堂に、王族達にまざってリータとメイバイが入って来て、浮気だなんだと騒いだらしいが、わしは玉藻に気絶させられていたから気付かなかった。

 さすがにピクリとも動かないわしを見たリータとメイバイは、わしを献身的に看病してくれたらしいが、目覚めたら撫でていただけであった。たぶん、撫でたかったんだと思う。服の中にまで手を入れていたし……


 ようやく復活したわしは、二人に餌付けされながら玉藻に話し掛ける。


「にゃんで、誰よりも早く晩メシを食っていたにゃ?」

「おお。そうじゃったな。明日の競技の事で来たんじゃ」


 わしの質問には答えず、玉藻はオクタゴンに来た理由を語る。

 明日行われる競技は、人間将棋。わしもプログラムは見ていたが、やり方を知らないだろうと教えに来てくれたらしい。ちなみにオクタゴンには、玉藻は顔パスで入れるので、門番をしていたエルフの男が通したみたいだ。


 人間将棋とは、文字通り人間が駒になって将棋を打つ競技。ただし、駒が重なった場合が元の世界とは異なる。

 元の世界では将棋のルール通り、駒を重ねた者が相手の駒を奪えるのだが、ここでは駒どうしが闘って、負けたほうが退場となるらしい。

 さらには援軍もあり、闘っている最中に駒を重ねると、二対一、三対一の戦闘になるから気を付ける必要があるようだ。


「ふ~ん……将棋って、一手打つのに時間が掛かるのに、三手も重なる事があるにゃ?」

「早打ちじゃからな。二分以内に次の手を打たないと、罰がある。どれか駒をひとつ落とさないといけないのじゃ。それに、戦闘に突入すると最低五分間、動かさないのが決まりじゃ」

「その間に次が重なると、延長って事かにゃ?」

「ご明察じゃ」


 なるほどな。ここは元の将棋と同じか。他の駒が後ろにある場合は飛び込むなってところじゃな。じゃが、わしには関係ない話じゃ。一瞬で倒せばいいだけじゃもん。


「じゃあ、わしは飛車か角将の配置について突っ込んだら楽勝にゃ~」

(わらわ)もそれは考えたんじゃがな~」

「にゃ? ダメにゃの??」

「おそらく王将は、あの家康じゃ。守りに入られたら、シラタマでも時間が掛かるんじゃないのか?」


 う~ん……本気を出せば、五分以内は余裕じゃと思うが、二、三手で王将を取るのも味気ないか。


「じゃあ、飛車で序盤は守りを堅めて、頃合いになったら出るにゃ」

「いや、そちには王将になってもらう」

「にゃんで~?」

「駒を動かすのは、王将しか出来んからじゃ」

「そんにゃの、誰か将棋の上手い人に任せたらいいにゃ~」

「いいや。王将は盤の上で、一番強い者が就くのが暗黙の了解じゃ。それにシラタマなら、万が一全ての駒が取られても、一人で勝ち抜けるじゃろう」

「え~! 考えるの面倒にゃ~」


 結局、体裁(ていさい)を気にする玉藻に押し切られ、わしは王将と決まるのであった。いや、リータとメイバイの猛プッシュで、王将に就かされた。

 ルールも知らないくせに、キングはわししかいないんだとか。あとでわしが角将になれば、二、三手で勝てるのにと説明していたら、それを聞いていたさっちゃんが卑怯だと罵って来たのでケンカになった。


 わしが出てること自体が卑怯だと思うんじゃが……皆さん、どこに行くんじゃ? 戻って来て話を聞いてくれんかのう?


 勝負に勝てないよりは、チートな猫を使うほうがいいと思う皆は、わしの正論は聞く耳持たず。わしのそばから去って行った。寂しいわしは、コリスにスリスリ。

 そうしていると、まだ話が残っていた玉藻だけが戻って来て、わしの文句は無視して人間将棋の出場者の配置を決めろとの。なので、「にゃ~にゃ~」言い合い、適当に決める。


 適当すぎると玉藻が「にゃ~にゃ~」文句を言って来たけど、元の喋り方はどうした? うつったのですか。そうですか。


 そうやって話し合っていると、各国の王族は宿場町に遊びに行ったり、自室に戻ったりとして食堂から人が消え、玉藻とちびっこ天皇も「明日までに決めておけ」と言って、去って行った。


 ただ一人食堂に残されたわしはというと、本当に適当に決めてやった。それから女王と鉄砲の話を少しだけして、コリス達の装備を準備したら、さっさと就寝したのであった。



 翌朝……


 オクタゴンから出た人間将棋出場者は、バスに揺られてグラウンドに引かれたマス目状の場所まで進む。そこで皆を降ろすと、待ち構えていた玉藻に昨日の宿題を提出する。


「はあ!? なんで神職が歩になっておるんじゃ! 桂馬になってるこいつは侍じゃぞ? 妾の話をちゃんと聞いておったのか!?」

「聞いてたにゃ~。これも作戦にゃんだから大声出すにゃ~」

「作戦……本当に作戦なんじゃな?」

「信用してくれにゃ~」


 まったく信用してくれない玉藻であったが、時間が迫っている事もあり、人間将棋出場者は控え室に入ってお着替え。鎧兜に身を包んだ出場者は、地面に描かれた将棋盤の、所定の位置につくのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



           人間将棋、出場者と会場の説明


【西軍陣営】


 【玉将】は、もちろんわし。初めて着る鎧兜と武将っぽい羽織りに興奮している。手には軍配を持ち、刀があったほうがかっこいいかと思い【白猫刀】を差している。


 【角将】にコリス。将は鎧兜が通例らしいがサイズが無かったので、ワンピースに兜だけ乗せて、昨日作った大きな盾を持たせている。


 その斜め後ろ、【銀将】にイサベレ。鎧兜に、レイピア二刀流。一本は土で作った模擬刀で、もう一本は本物。使う機会は徳川しだいだ。


 【飛車】にはリータ。鎧兜に白魔鉱の盾。猫の手グローブが若干浮いている。


 その後ろ、【桂馬】にメイバイ。鎧兜にナイフ四刀流。こちらも半分は模擬刀だけど、間違えない事を祈る。


 その隣が【銀将】のオニヒメ。鎧兜が気に入っているかは、表情から読み取れない。武器が無いと締まらないかと思い、土で作った槍を持たせてみた。


 【その他】……適当。どうせ東軍陣営の十本刀に当たったら、瞬殺されるんだから考えて決めるのは時間の無駄だ。侍、神職を、交互に配置してやった。服装も、配置に合わせた鎧兜か足軽っぽい格好をしている。



【東軍陣営】


 【王将】に徳川家康。五メートルのタヌキなのに、鎧兜が着れるらしい。手には軍配と、家康の身長より長い十文字槍を持ち、腰に刀を差している。


 【角将】に徳川秀忠。こちらも鎧兜に槍と、腰には刀を差している。


 【飛車】【金将】【銀将】には、十本刀だと思われる黒いタヌキ。鎧兜を着て、刀で闘うみたいだ。


 【桂馬】と【香車】には、神職だと思われる白いタヌキ。オニヒメと同じで、鎧兜に槍を持っている。


 【歩】は、全てタヌキ侍。足軽っぽい姿をしている。ただし、要所要所に十本刀だと思われるタヌキがまざっているはずだ。おそらくハチマキを撒いている者が十本刀だと思われる。もしくは逆? さっぱりわかりかねる。



【会場】


 宿場町側の観客席からは、将棋盤が真横に見えており、大盤解説に使う板が何個も見える。その前には、みっつの舞台が作られ、駒が重なった際にはここで闘うとのこと。足りなくなれば、空いてるスペースで野試合になるらしい。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 配置が完了すると、わしは舞台に呼ばれたので、トコトコと向かう。家康も同時に向かっており、中央の舞台には、ちびっこ天皇と玉藻が揃って立っている。

 そこに、わしと家康は二人を挟み込むように立った。


『これより、最終競技、人間将棋を執り行う!』

「「「「「わああああ」」」」」


 マイクを持つ玉藻の大声で、観客は沸き上がる。


『今回の関ヶ原は、やや西軍が先に出ておる。じゃが、最終競技で東軍にも勝ちは残っておるから、熱い闘いになるじゃろう。皆の者、両軍を応援して、勇気付けてやってくれ~!!』

「「「「「よ~お!」」」」」


 玉藻の声に続き、東西の応援合戦。毎回やっているからか、どちらも順番を守って交互に応援している。その間わしは、家康と喋っていた。


「それで、今回の得物はどうするにゃ?」

「そうじゃのう……お主には真剣で当たらせようかのう」

「にゃ? 猫の国組には真剣を持たしたけど、必要なかったんにゃ~」

「なんじゃと?」

「我が国の者ににゃら、使っていいと言っているんにゃ」

「わははは。凄い自信じゃな。ならば、お言葉に甘えさせてもらおうかのう」

「にゃはは。それで後腐れ無しといこうにゃ~」


 わしと家康が笑っていると、ちびっこ天皇がコソコソ玉藻と話をしていた。


「あの二人、あんな事を言っているけど、大丈夫なの? 祭りの最後を血で汚したくないよ」

「二人が納得しているならば、止めはせん。それに、シラタマは考えがあってやっているのじゃろう」

「あの猫が……とても、信用できる顔をしてないよ」

「妾も、あのとぼけた顔を見るとな~」

「聞こえてるにゃ~! わしの顔の、どこが信用ならんのにゃ~!!」

「「あ……」」


 まったく……。二人して、どこを見ておる。この凛々しい顔が、どうして信用ならんのじゃ。雪だるま猫(おやっさん)だって、睨んだら怖かったんじゃぞ。オーラが凄かったから……


 わしがちびっこ天皇と玉藻の物言いにぷりぷりしていると、応援合戦が終わりに近付いたのか、ちびっこ天皇が前に出て手を上げた。すると観客は、鳴り物や拍手を、ちびっこ天皇の手に合わせて止める。


 チャッ、チャチャチャッ


 森田さん? なんかお昼の番組みたいな事をしておるな。天皇として、どうなんじゃろう?? ……玉藻のお(とが)めは無しっぽい。


 わしが心の中でツッコミながらその光景を見ていると、ちびっこ天皇が厳かに口を開く。


『今回の関ヶ原は、例年になく盛り上がっていると聞き、(ちん)は誠に嬉しく思う。これも、シラタマ王のおかげだ。感謝する』


 ちびっこ天皇が振り返るので、わしはどうしていいかわからず、深くお辞儀をして返す。


『それに家康だ。老体に鞭打って、よく出てくれた。家臣の頑張りが見れて、朕は嬉しいぞ。他国の王を目の前にしてこんな事を言うのは失礼だが、勝ってくれ……。日ノ本に、徳川家康ありと、他国の王に見せ付けてくれ。頼んだぞ』

「はっ!!」


 ちびっこ天皇の意外な言葉に、家康は家臣らしく頭を下げ、大きな声で返事をした。


『さあ、泣いても笑っても、これで最後だ。皆の者、この二人の将の闘いを目に焼き付けようぞ』

「「「「「わああああ」」」」」



 ちびっこ天皇と玉藻が下がって行く中、わしと家康も駆け足で位置につく。だが、気になる事があったので、ミニ玉藻について来てもらった。


「玉藻は西軍贔屓(びいき)にゃろ? あんにゃ事を言わせてよかったにゃ?」

「それはそうじゃが、陛下は中立の立場じゃからな。いや、日ノ本を思えば、あのお言葉が正しい。妾では、絶対に言えない言葉じゃったな」

「にゃはは。まったくにゃ。陛下が居れば、これから先の日ノ本も安泰だにゃ~」

「コンコンコン。ようやくそちも、陛下と呼ぶようになったか。本当に、これからが楽しみじゃのう」


 日ノ本の未来に思いを馳せて、二人で笑っていると、両陣営からホラ貝の音が鳴り響く。


 ブウゥ~ ブウ、ウウゥゥ……


 ()くして、最終競技、人間将棋の幕が上がるのであった。


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