297 久し振りのハンター活動にゃ〜
コリスの登場で、リータの村がパニックとなったが、わし達は村人を宥めるのをあとにして村に入る。すると、焦った村長が追い掛けて来た。
「ま、待ってください!」
「にゃに?」
「そのリスは、キョリスではないのですか?」
「違うにゃ。この子は、キョリスの娘のコリスって言うにゃ」
「キョリスの娘!?」
「ほれ。見た目通り、かわいい子にゃ~」
「ホロッホロッ」
わしがコリスに飛び付ついて頭を撫でると、コリスは嬉しそうな声を出す。
「たしかにかわいいのですが……」
「誰にも危害を加えにゃいから安心するにゃ。ちなみにコリスは国賓待遇で、にゃにかしたら女王が怒るから、気を付けるにゃ」
「女王様の国賓!?」
あら? いつもの天使と違う奴が、村長を迎えに来た。……弁天様か? 追い払っていいか悩みどころじゃ。ホンマホンマ。
わし達は動かなくなった村長を置いて、村の奥に向かう。村をズカズカと歩き、目的地の汚い掘っ立て小屋の前に近付くと、リータ家族が並んでいる姿が目に入るが、元気がない。まぁコリスのせいなので、安心させればいいだけだ。
「久し振りにゃ~」
「はあ……お久し振りです」
「このリスは、わしの妹分のコリスって言うにゃ。だから安心するにゃ」
「夫殿がそう言うなら……」
「ありがとにゃ。それで報告があるんにゃけど……リータ」
わしはリータを隣に立たせると、手を繋いで家族に話し掛ける。
「お義父さん、お義母さん。この度、晴れてリータと夫婦になりましたにゃ。変わった旦那にゃけど、祝福してくれると嬉しいにゃ~」
「夫婦……」
「お父さん、お母さん……私、シラタマさんと幸せになります!」
「リータ……あなた……」
リータ家族は、わし達の発表に言葉を失う。さすがに猫と結婚した事に、驚いているようだ。
「「「「玉の輿だ~~~!」」」」
あ、嬉し過ぎて、言葉が詰まっただけだったようだ。しばらく、練度の増した玉の輿躍りが終わるのを待っていたが、一向に終わる気配が無いので、落ち着くまで離れる事にする。
村から出るとバスを取り出して森に向かい、到着すると歩いて森に入る。するとワンヂェンが不思議に思ったらしく、質問して来た。
「にゃんで森に入るにゃ~?」
「説明してなかったけど、ハンターは半年間、にゃにも活動をしていないと、ハンター証を取り上げられるみたいにゃ」
「てことは、実績作りにゃ?」
「その通りにゃ。安い仕事だと数件やらにゃいといけないみたいだから、ちょっと難しい獲物を狩ろうにゃ」
「うちはやる気なかったんにゃけど……」
「まぁまぁ。持ってるだけでも便利なんにゃから、ちゃちゃっとやってしまおうにゃ」
「う~……わかったにゃ~!」
ワンヂェンもやる気が出たところで、探知魔法を遠くに飛ばす。狙いの獲物は距離が離れていたので、コリスにはリータとワンヂェンを乗せてもらい、わしはメイバイを抱いて走る。
そして、獣の群れに近付くと身を隠して、念話をまじえて作戦を言い渡す。
「ひとまずコリス。教えた隠蔽魔法を使ってくれ」
「うん!」
「ザコはわしとコリスで受け持つから、リータとメイバイは、ワンヂェンと一緒にボスに突撃にゃ」
「「はい(ニャ)!」」
「シラタマが、ボスじゃないんにゃ」
「黒蟻とたいして変わらにゃいし、ワンヂェンなら大丈夫にゃ」
「……わかったにゃ」
「それじゃあ、行っくにゃ~!」
「「「「にゃ~~~!」」」」
わしとコリスを先頭に皆で駆け、獣の群れに突撃する。走って群れの中に入ったものだから、あっと言う間に囲まれてしまった。
獣の正体は鹿の群れ。突然わし達が現れた事によって、驚いて臨戦態勢になり、ボスの一声で一斉に襲い掛かって来た。
わしは刀を抜くと、飛び掛かる鹿の首を斬り裂き、バッタバッタと倒していく。コリスはリスパンチと尻尾の薙ぎ払いで、こちらもバッタバッタと倒す。
わしとコリスがリータ達を守って戦っていると、リータがワンヂェンに指示を出し、ボスに向けて風魔法を使わせる。
ワンヂェンの放った強めの風の刃、【エアブレイド】によって、ボスまでの道が開き、その道をリータ達は走る。それを見て、わしはコリスに指示を出し、両サイドのザコを倒しながら前線を上げる。
リータ達がボスに辿り着けば、わしとコリスは散開。リータ達にザコが近付かないように戦う。
ボスの鹿は、尻尾の二本ある黒くて巨大な鹿だ。威嚇の声を出すと、リータ達に凄い速さで突進した。
だが、リータの盾で簡単に止められ、メイバイのナイフであっと言う間に右前脚を斬り落とされる。
それと同時にワンヂェンの、風の刃渦巻く【風猫】によって左前脚も斬り裂かれ、ボス鹿は悲鳴をあげて、前のめりに倒れる。
そこを、リータの拳が頭に減り込み、ボス鹿は静かに息を引き取った。
ボス鹿が倒れると、ザコ鹿は蜘蛛の子を散らすように逃げ出したので、戦闘は大勝利で終わるのであった。
「にゃ!? シラタマ! 追わないにゃ?」
わしが警戒しながらも、ザコ鹿の逃げる様子を見ていると、ワンヂェンが質問して来た。
「これだけ収獲があれば十分にゃ。ワンヂェンは、まだ戦いたいにゃ?」
「う~ん……」
「ワンヂェンが思っていたより、早く終わったのかにゃ? 普通はもっと手こずるから、ハンターを続けたいにゃら覚えておくにゃ」
「わかったにゃ~」
「よし! 回収したら、一度戻るにゃ~」
わしは倒れた鹿を次元倉庫に入れると行きとは違い、リータを抱いて走る。コリスはメイバイとワンヂェンだ。
泉まで走るとテーブルセットと飲み物を出して、リータ達には休憩しているように言い渡し、コリスと森の奥に走る。
二匹の白い獣は追いかけっこを楽しみ、先ほど探知魔法で見付けた獣の近くで身を隠す。
単体で動いているから、コリスに持って来いじゃと思ったが……いけるかな?
黒いデッカイ亀じゃ。これも尻尾が二本、背中から角も生えておる。しかし、大きさはコリスの倍か~……聞いてみるか。
「コリス。アイツに勝てそうか?」
「え? 弱そうだよ~?」
「甲羅……背中の丸い所が硬いんじゃ」
「じゃあ、首にかみつく~!」
「頭だけじゃなく、手足も隠すから、そうなったら厄介じゃぞ?」
「う~ん……やるだけやってみる~」
「わかった。コリス、やっておしまい!」
「にゃ~~~!」
その掛け声……コリスよ。さっきのは、聞き間違いじゃなかったのか……
コリスは気の抜ける掛け声を出すと、走って黒亀に突撃する。黒亀は物音に気付き、体をコリスの方向にのそのそと向けるが、動きが遅過ぎて間に合わない。
難無くコリスは黒亀の横に付き、大口を開ける。しかし、黒亀は凄い速度で首を引っ込めてしまった。するとコリスの牙は空振り、勢いよく閉じた口は歯がぶつかって、ガキーンと音が鳴り響く。
コリスは突然の衝撃に驚いて怒り出し、脚を噛もうとするが、引っ込んでしまって、さらに怒る。
う~ん……冷静さを無くしておるな。硬いって教えたのに、甲羅にパンチして痺れておる。あ! さらにムキーってなった。
二本の尻尾でガンガン叩いておる。コリスでも、甲羅を割る事は出来ないか。わしの見立て通り、かったい奴じゃのう。
さて、コリスはどうするかな?
わしがコリスの戦いを冷静に見ていると、黒亀を叩き続けて疲れたのか、わしのそばに駆け寄って来た。
「モフモフ~」
「どうした? もう降参か?」
「だって~。かたいも~ん」
「さっき自分で弱いって言ったじゃろ?」
「だってだって~」
「はぁ……ちょっとだけアドバイスをしてやろう。ついて来い」
「え~! もうあきた~」
「これも仕事じゃ。仕事をしないと、美味しいごはんが食べられないんじゃぞ? もうちょっと頑張ろうな?」
「ごはん!? わかった~」
やる気のなくしたコリスに、餌をちらつかせるとやる気が出たようだ。相変わらずチョロイ。
そうしてコリスと共に黒亀にゆっくり近付くと、首の所を指差す。
「ここに首があったじゃろ?」
「うん!」
「ここを、気を付けながら……」
わしは首が引っ込んだ場所を強引に開ける。すると、黒亀は首を素早く出して、噛み付こうとする。わしは予想していたのでさっと離れると、黒亀はわしを噛めなかったので、すぐに首を引っ込めた。
「な? 危ないけど、首が出たじゃろ?」
「うん!」
「まぁちょっとだけ開けて、わしの教えた【鎌鼬】を入れてもいいな」
「なるほど~。やってみる!」
コリスはわしの助言を試す為に、黒亀の頭の穴を少し開いて【鎌鼬】を放つ。すると黒亀は、痛みに驚いて首を出した。
「わ! でた!!」
「コリス! 気を抜くな!!」
「うわ~!!」
黒亀の首が出た事によって喜んだコリスであったが、わしの忠告に反応して、大きく後ろに跳ぶ。その直後、コリスが居た場所には、土の槍がそびえ立った。
その土の槍は一本で終わらず、何本も無差別に突き上がり、わし達は「ワーキャー」言いながら逃げ回る。
しばらくして、黒亀は魔力に限界が来たのか、土の槍は止まった。
わしがコリスにトドメを刺すように指示を出すと、コリスは黒亀の首の穴に【鎌鼬】を撃ち込み、首が伸びたところをすかさず噛みついて切断する事となった。
「やった~!」
「よくやった! よ~し、よしよし~」
「ホロッホロッホロッ」
わしがコリスを褒めて撫で回すと、コリスはご機嫌だ。ただ、口の周りが血で汚れて、ちょっと怖かったので水洗いしてあげた。
その後、黒亀を収納すると、追いかけっこしながら泉に戻る。
「ただいまにゃ~」
「おかえりなさい」
「コリスちゃんは、どんな獲物を狩って来たニャー?」
「これにゃ」
わしはメイバイの質問に、大きな黒亀を出して答える。皆は黒亀を取り囲み、甲羅の硬さに驚いていた。
獲物は十分狩れたので、バスに乗って急いで村に戻る。門番に挨拶するも、コリスにまだ驚いているようなので勝手に入り、広場に移動する。
そこで村長が寄って来たので、例の如く、鹿の解体をお願いして、報酬で肉を払う。その肉が今日のランチだ。村の者に任せると薄味になってしまうので、鹿肉のバーベキューは自分達で行う。
肉の焼ける匂いの漂う広場は笑顔が溢れ、コリスとワンヂェンの事はどうでもよくなったようだ。
「ほい。コリスにはこれな~」
「ありがと~う」
わしは黒鹿の脚を焼いて振る舞う。黒鹿は大きかったので、脚一本でもコリスは満足のようだ。切れた脚はもう一本あったので、わし達は分け合って食べる事にした。
村人も食べたそうに見ていたが、コリスが居るからか、施しを受けて気を使っているからか、近付いて来る者は村長とリータ家族だけだった。
「みんにゃも食べるにゃ?」
「い、いえ。これだけの肉をいただいた上に、高級肉なんて貰えません。それに、私達だけ食べるわけにはいかないですからね」
「ふ~ん」
村長達は、わしの皿を断って押し返して来たので、無理に食べさせる事はやめる。厚意を断られて少し気まずいわしは、リータのお父さんに話を振る。
「にゃあ? お義父さんには、けっこうお金を渡したと思うんにゃけど、にゃんで家も服も綺麗にならないにゃ?」
「いや……その……」
「まさか……ギャンブルでもして、全部スッたにゃ!?」
「いえ、実は……」
お父さんが言うには、リータからの仕送りは、全額、村に寄付しているようだ。村長のお金の使い道も、イナゴ襲撃で壊れた農具や家の材料に代わったそうだ。
「まぁ渡したお金をにゃにに使おうと自由にゃけど、お義母さんは反対しなかったにゃ?」
「お父さんは、最初は私達にお金を使おうとしたけど、村に使えと言ったのよ。村の人は家族のようなものだからね」
村の為にお金を使っていたのか……とても玉の輿躍りを舞っていた人の言葉とは思えん。何か裏があるのでは?
「にゃんか企んでるにゃ?」
「企むって?」
「俺は母さんを楽にしてあげれたら……」
「言ったでしょ? 村が潤えば、私達に返って来るんだから、これは先行投資よ」
う~ん。企んでいると言えば企んでいるが、お義母さんは大きな視点で見ておるのか……。これでは言い出しづらいが、試しに聞いて見るか。
「実は今日、お義父さん達に会いに来たのは、結婚の報告以外にも話があるにゃ」
「はなし?」
「わしの街で暮らさないかにゃ? もちろん、おじいさん達も子供達も一緒にゃ」
「夫殿の街とは……王都ですか?」
「あ、騒ぎで言い忘れていたにゃ。山向こうに国があるってのは、この村にも伝わっているかにゃ?」
「いえ……初耳です」
「そうにゃんだ。まぁ国があるのは本当にゃ。でにゃ。わしがその国の王、猫の国の王様、シラタマ王にゃ」
「夫殿が……王様?」
「じゃあ、リータが……王妃?」
「そうにゃ。あんまり噂を広めにゃいでにゃ~?」
「「「「ええぇぇ~~~!」」」」
パニック再び。コリスショックに続き、猫王ショックで、村の中は騒ぎとなるのであった。