230 肉が消えたにゃ〜
しばし三人で山を眺めて、軽くわしが埋められてから広場に移動する。リータとメイバイには、スリスリと機嫌を取ったので、抱かれたまま戻る事となった。広場では料理のいい匂いが漂い、昼が近付いて来ていたので、わし達は吸い込まれるように席に着く。
するとズーウェイが配膳し、皆の前に料理が並ぶが、ズーウェイは立ったままで座らない。
「どうぞ」
「にゃ? ズーウェイの分が無いにゃ」
「私は残り物を頂くので大丈夫です」
「ズーウェイ……ズーウェイはもう奴隷じゃないにゃ。わしも主人じゃないにゃ。だから一緒に食べようにゃ〜」
「いえ、それは……」
「私も奴隷だったニャー。シラタマ殿はそんな私でも、優しく接してくれるニャー」
「そうですよ。私も昔は家も無く、汚い格好をしていても、優しくしてくれました。ズーウェイさんも一緒に食べましょう」
「ケンフにゃんて捕虜にゃ。それにゃのに、堂々と座っているにゃ」
「あ……す、すみません!」
「立たれる方が迷惑にゃ。座るにゃ」
「はい……」
「にゃ〜? このテーブルは等しく平等にゃ。一緒に楽しく食べようにゃ〜」
「は、はい」
ズーウェイは渋々だが、料理を準備して席に着く。
「「「いただきにゃす」」」
「「「いただきにゃす?」」」
わし達の食事の挨拶に、半数は疑問系で応えるが、気にせずバクバク食べる。ケンフはわしを見ていたので「よし!」と言って食べさせた。まだ犬設定が続いているようだ。
「ズーウェイ。どうにゃ? みんにゃで食べる食事は美味しいにゃ?」
「……はい。温かい食事も美味しいですが、何か心が温まるような……」
「それが食卓にゃ。家族、仲間、友達……今日の出来事を話しあったり、笑いあったりしながら食事を食べるにゃ。楽しい食卓にゃ〜」
「食卓……」
「今はまだ実感は湧かにゃいだろうけど、これから先、これが普通の毎日になるにゃ」
「こんなに素晴らしい事が、毎日ですか!?」
「そうにゃ。でも、ズーウェイには仕事を頼むにゃ」
「仕事……なんでもします!」
「そんにゃに気を張るにゃ。ズーウェイにはわし達の食事の世話、それと奴隷を解放したら、この楽しい食卓の話を、奴隷だった者に聞かせて欲しいにゃ」
「はい! 任せてください」
「頼んだにゃ……にゃ!?」
わしが視線をズーウェイから皿に戻すと、おかしな事が起きた。
「どうしたのですか?」
「わしの肉がどっか行ったにゃ! ……メイバイ! 食ったにゃ?」
「なんで私を疑うニャー!」
「……一番やりそうにゃ。リータはそんにゃ事しないもんにゃ?」
「しませんけど、メイバイさんだってそんな事しませんよ」
「そうニャー! きっとシラタマ殿は食いしん坊だから、もう食べ終わったニャー」
そうだったかいのう? 話してばかりで、食べた記憶も無い。腹もあまり膨らんだ感じもしないし……
「絶対誰か食べたにゃ〜!」
「誰かって、誰ですか?」
「二人じゃないとしたら、ノエミが怪しいにゃ〜。ちっさいから、テーブルの下に潜り込んで食べたにゃ!」
「わっちはそんなに意地汚くないわい! これでも多過ぎて食べきれないかもしれないのに!」
「ちびっこは少食なんにゃ……」
「ちびっこって言うな!」
「本当に食べてないニャー?」
「本当にゃ〜。お腹ペコペコにゃ〜」
「下に落としたんじゃないですか?」
「そんにゃ訳は……にゃ〜〜〜?」
リータの指摘にそんな訳は無いとわかりつつ、テーブルの下を覗き込む。するとテーブルの下には……
「ちびっこがいるにゃ! やっぱり犯人はノエミだったにゃ〜」
「わっちはここにいるわ! ちびっこ言うな!!」
「にゃ〜〜〜?」
わしは再度、テーブルの下を覗き込む。すると……
「バレた! 逃げろ!!」
と言いながら、男の子と女の子がテーブルの下から、別方向に飛び出す。
「メイバイ! 肉泥棒にゃ! そっちの女の子を捕まえるにゃ!!」
「わかったニャー!」
わしとメイバイは二手に別れ、子供を追い掛ける。もちろんわしに掛かれば、一瞬で捕まえられる。後ろから抱き抱え、テーブルに戻り、メイバイも程なくして捕まえて戻って来た。
子供であっても肉泥棒。土魔法で作った檻に放り込む。
「にゃんで泥棒にゃんてしたにゃ!」
「シラタマさん。そこまでしなくてもいいじゃないですか」
「手伝ってなんだけど、かわいそうニャー」
「だって……わしの肉を取ったにゃ〜」
「大人気ないですよ」
「食いしん坊だからニャー」
わしのどこが大人気ないんじゃ? 子供相手に檻に閉じ込めているからか。じゃが、わしは三歳。まだ子供じゃ! う〜ん……魂年齢、百三歳の者がする事じゃないな。
「君達は、なんでこんな危険な場所にいるの?」
「「………」」
「怒らないから教えてニャー」
「「………」」
リータとメイバイが優しく質問するが、子供は口を閉ざして喋らない。
こんな所に子供か……黒い木もちらほらあるのに、子供二人だけで生活出来るものかね? 見た目は汚いし、そこそこの日にちを生き抜いておるように見える。
ケンフが口べらしをしているような事を言っていたし、生き延びて、ここに集落を作って、帝国から逃れているのか? そうなれば他にも人が居て、囲まれていてもおかしくないんじゃが、探知魔法に反応が無い。
優しくしていてもらちがあかんし、少し脅してみるか。
「リータ、メイバイ。もういいにゃ。子供であっても泥棒にゃ。殺してやるにゃ」
「シラタマさん!」
「ひどいニャー!」
今のは嘘じゃ。二人はわしの心を読めるじゃろ? うん。わかってくれたみたいじゃな。でも、そんなに簡単に読まないで! 目を逸らすな!
「仲間が居るにゃろ?」
「「………」」
居るな。仲間と言った瞬間、目が向こうの方向を見た。あっちじゃな。
「リータ、メイバイ。あっちに仲間が居るにゃ。全員殺して来るにゃ」
「「……はい(ニャ)」」
リータとメイバイは、わしの指差す方向に歩く。すると二人の子供は、みるみる顔を青くする。
「シラタマ君! 二人に何をさせる気!!」
「ノエミ。黙っているにゃ! ノエミはこの戦争の見届け役にゃろ? にゃら、わしのやり方に文句言うにゃ!」
「そうだけど……」
「ま、待って!」
わしとノエミの言い争いを見て、ようやく男の子が口を開いた。
「なんにゃ?」
「許してください! 仲間も殺さないでください!!」
「盗みをした者を、にゃんで許さにゃいといけないにゃ?」
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
「反省しているにゃ?」
「はい。罰なら僕が受けます。だから、仲間だけは殺さないでください」
「……わかったにゃ。ズーウェイ。また料理をしてくれるかにゃ? あと、坊主。仲間は何人いるにゃ?」
「それは……」
「仲間も腹が減ってるにゃろ? 人数を教えてくれにゃいと、料理が足りなくなっちゃうにゃ〜」
「え?」
「シラタマ君……ひょっとして、さっきのは演技?」
「そうにゃ。リータ、メイバイ。もう戻って来ていいにゃ〜」
「「は〜い(ニャ)」」
「驚かしてすまなかったにゃ。もう怒ってにゃいから、話を聞かせてくれにゃ」
「……はい」
子供はわしの事を信じたかどうかわからないが、檻から出して、テーブルの席に座らせると、わしの質問に答えてくれる。
わしの捕まえた男の子はヨキ、十二歳。メイバイの捕まえた女の子はシン、十一歳だと言う。二人とも、親に捨てられたそうだ。
同じ境遇の子供が、ここには二十人いるとのこと。この二人が年長で、下は四歳の子供もいるらしい。
何故、わし達に近付いたのかと聞くと、森に仕掛けた罠に動物が掛かっていないか確かめに行くところ、飛行機の着陸を見て側に来たとのこと。
木の窪みに隠れて様子を見ていたが、食べ物の匂いに我慢出来ずに、テーブルの下に隠れたらしい。
「ズーウェイはいいとして、護衛のケンフとノエミは、にゃにをしていたにゃ? こんにゃに近くまで接近させるにゃんて、護衛の意味が無いにゃ〜」
「それは……乙女の秘密よ!」
「俺はその付き添いで……」
「ああ。ババアのババに付き合っていたんにゃ」
「誰がババアじゃい!」
「じゃあ、ちびっこにゃ。にゃ! ポコポコするにゃ〜」
うん。リータとメイバイと違って、まったく効かん。女の子のポコポコは、これだからかわいいんじゃ。ちゃんと聞いてますか。お二人さん? うん。目を逸らしておる。
おっと、話しも逸れておった。
「そんにゃに大人数で、食べ物をどうしていたにゃ?」
「それは……罠で捕まえた獲物を……」
「狩りはそんにゃに簡単じゃないにゃ。さすがに罠だけじゃ賄えないにゃ。もしかして、言いたく無い事かにゃ?」
「えっと……」
「ヨキ。わしはヨキ達を助けたいと思っているにゃ。食べ物だけじゃなく、ヨキ達の暮らしも改善しようと思っているにゃ」
「なんでそこまでしてくれるのですか?」
「ただのついでにゃ」
「ついで?」
「これから近い内に、帝国を滅ぼすにゃ。ここも食糧不足らしいから、当面は国民に食糧を配ろうと思っているにゃ。二十人にゃんて、些末な人数にゃ」
「帝国を……そんなの出来るのですか?」
「ケンフ。元帝国軍人の立場から、どう思うにゃ」
「シラタマ様なら可能だと思います」
「だってにゃ」
「帝国軍人!? そんな人が居たら、ますます話せない……あ!」
この反応……手助けしているのは帝国の反抗勢力か? それとも……
「メイバイ、ズーウェイ。この二人に自分達の生い立ちを聞かせてやってくれにゃ」
「「はい(ニャ)」」
う〜ん。生い立ちを話せって言ったのに、なんでわしばっかり出てくるんじゃ? ズーウェイも子供に何を聞かせておる? 奴隷から解放された話をして欲しいんじゃが……
「も、もういいにゃ」
「まだシラタマ殿の偉大さを、伝えきれてないにニャー」
「そうですよ。スリルと快感を、この子達に伝えなくてはいけません」
「そんにゃの、いらないにゃ〜!」
その後も、二人はわしの意図する話をしてくれず、仕方がないので服を引っ張り、下がらせる事となった。