代価に与えられしは くちずけが一つ(日本戦国時代バージョン)
そこは人の命が儚い日本の戦乱の時代
やがて 覇者が現れて ひとときの平和をもたらそうとした
そして雪の舞う季節に覇者たる信長公に異国のバテレテン パーデレ(神父達)や商人の一行が
たち寄りしは
信長公の支配下にありし小国の領主の舘
舘から聞こえるはまだ聞いた事もない楽器にて奏でられたる異国の妙なる音楽
夢の中の・・天上にて迦陵頻迦や乾闥婆
が奏でる音楽のような夢心地 すぐそばには吉祥天 弁財天がいるがごとく・・・
異国のまだ幼い面影の残る少女が奏でるリュートと呼ばれた楽器・・
奏でる少女の指先が止まる
人々はうっとりして一瞬、静まりかえるが やがて 拍手の嵐 いやはや素晴らしいものだ
一行の異国の商人の一人が口を開く この可愛い演奏者は我が姪っ子
同じ商人である弟の娘南の国のマニラで生まれ私と同じポルトガルの多くの同胞が
定住してくらすマカオで育ちました者
来年の春には 海を越えて本国ポルトガルに戻る事になっておりますが
美しい東洋を離れる前にこの桜の美しい国を見せたく思いまして
信長様は少女の演奏の腕枕をパーデレさま達より伝え聞いて
事の他 興味を示されて城にて演奏を致します事になりました
少女は軽く会釈をして席を立ち別部屋へ領主の息子の一人が
彼は少女より少し歳上の少年 そっと席を立ち、少女の後を追いかける
商人は話を続ける
それから この箱はこれは信長さまへの献上する贈り物でございます
すらすらとよどみのない日本語を話す異国の商人
細長い箱から 現れたのは 異国の剣
金で出来た柄に美しい細工が施されたもの紅玉ルビー、緑柱石エメラルド・・
瑠璃ラピスラズリにトルコ石、中心にあるの
は一際、際立ち大きな青き宝石のサファイア・・
スラリと刀身を抜くと銀色にきらめいた刀のみは日本の名のある職人が 鍛えしものです
柄など金細工の宝玉などの他は
マカオに住む職人が造りあげました・・
2年以上の歳月と大変な手間をかけて日本の王にふさわしい献上品を造りました誇らしげに話をする商人
別部屋の異国の少女は部屋の障子を開けて降り積もる雪を見ていた
雪は好きか?少年は少女に話かけた うなずく少女 日本の言葉はわかるのか?
笑顔を見せて たどたどしく少しだけと答える少女 船で日本にきたか?
言葉の意味を理解するのに少し悩み・それからうなづく
春・・桜を見て船でマカオに帰ります
それからまた船で本国に帰ります ぎこちない日本語を話す少女
良いな 私も自由に遠い異国に旅をしてみたいものじや
じやが 我々は武士 父や兄者をお助けして国や領民を守らればならん
少女は部屋の奥にある大きな箱を指指すあれは?何ですか
ああ・・仏壇か我々の宗教じや
仏を奉り供養するのじや異国の衣装の少女を見て 「美しい着物じやな」
胸元の十字架に目をやる 教会でそなたらは 祈りじやろう
あるいは胸飾りの十字架 わしらも 寺などの仏閣、神社やこの仏壇や神棚に祈るのじや
そうですか
これは 祖母の形見でもありますとても大切です
そうか・・ところで日本の着物は好きか うなづく少女・・少年は侍女を呼びよせ それから
彼女に綺麗な着物を数枚はおらせたどれも似合う これをやろう・・首を振る少女に良いから構わぬ・・
頬をほんのり紅く染め少女は微笑み
そのはにかんだ可愛らしい仕草と笑顔に
今度は少年は目を見開き頬が紅くなる
そ・そうじやな まだ聞いておらなんだ 名前は?マリや 微笑む少女
そうか・わしは
マリヤ!神父が探して呼びにきた
おぉここにいたか!領主の息子の一人である少年に軽く会釈をすると少女に話しを始めた
まりや・こちらの領主さまが、再び演奏をと言われる良いかな?
うなづく少女 貴方様もぜひいらして下さいませ あい、わかった
少年は嬉しそうに笑い少女に視線を移す 少女は少し頬を紅く高揚させて
見目良い面立ちの少年を見つめた 宴の演奏の後で二人は仲良く話していた
そして・・雪の積もった早朝に異国の少女の一行は旅立ってゆく
名残惜しげに幾度も振り返り・・少年はただ 黙って見送った・しばらく後に侍女が少年に話かけた
若様!この首飾りは 夕べの異国の少女のものではありませんか?
その手にありしは 銀の十字架!昨日 着物を着替える際に落としたか!
なんでも 形見の大事な品じや!まだ間に合う 急ぎ届ける そう言うと急ぎ身支度をして ちらっく雪の中を飛び出した
追いついた峠の先で見たものは 修羅場が一つ・・
一行は山賊に襲われ 数人が殺され 残りは皆 捕らえられた
木陰に隠れて様子を伺う盗賊の一人が少女の顎に手をかけた
思わず飛び出しそうになるが、気持を抑え 様子を伺う・・
これは高く売れそうだ いや身代金を取るか
これだけのお宝を持ってる連中だ ほれ そこの山小屋に入れ!
盗賊達は一行を山小屋に押し込む 少年は見張りの目をかいくぐり 一行に話かけた
無事か! 逃げるぞ!いえ、我々は怪我をしてます
どうか この子と信長公へのこの大切な貢ぎ物を持ち先に逃げてくださいそして助けに来て下さい
大事な人質ゆえに殺しはしません
さあ 早くこっそり隠された貢ぎ物の剣を渡されて
うなづくと少女の手を取り逃げるが
しかし すぐに気がつかれ 追い手ともみ合いになる
少女に向かい叫び 逃げるのじや!
早く! 迷いながらも少女は雪の中を走ってゆく・
少年は刀を振るい敵を足止めした
少年が持っていた貢ぎ物の剣が包んでいた布からこぼれ落ち
それを手に取った盗賊の一人はニヤリッと笑い 凄いお宝じや!どれ試してみるか!
剣を後ろから振る そして 刃が少年の身体を貫く少年の悲鳴! とどめの一撃を振り落とそうとした
その時に 若様!舘から味方の武士達 形勢は逆転して 盗賊達は撃ち取られた!
赤い血が雪を染めて 少年は 倒れた。若様!若様!
暖かい部屋で布団に寝されうっすらと目を開ける目を閉じればまた眠りに落ちそうだった
隣の部屋からひそひそと話声・・今宵が峠・・
出血が多すぎました それに内蔵に傷が・・助かれば良いの
ですが・・少年はぼんやり廻りを見渡す
少女が少年をポタポタと涙を流す
栗色の髪と青い瞳の少女・・泣いてる顔も愛らしいが
笑って微笑みを浮かべる顔が好きじゃな
ぼんやり考える・・だから・そう泣くでない
そう言いたかったが 言葉を発する力なく ただ微笑んで少女を見つめた・・
少女はそっと近くに顔を寄せて少年の頬にそして唇に軽く唇を重ねた・・。
ささやかに互い気持を重ねてる代価に与えられしは・・・
くちずけが一つ
雪の降る夜の出来事