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隠された思い  作者: 考える人
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初めての出会い


 とある田舎の中学校、六ノ宮中学校には一つだけ怪談が存在する。

 普通なら七不思議だったり、いくつかそんな怖い話が存在したりするのだが、この学校ではたった一つ。


 夜になると美術室に、昔死んだ女の幽霊が現れる。

 その女の幽霊はあなたにお願いをしてくる。


 『……ねえ、私たちの絵を描いて』と。



ーーーーーー



 夜十時、良い子は寝始める時間だ。

 そんな夜中に、俺は二人の友達と一緒に校舎の前に立っている。


 俺の名前は神崎(かんざき)直斗(なおと)

 六ノ宮中学校に通う中学2年生で、みんなからはナオと呼ばれている。

 

 先生たちも家に帰り、明かりがいっさいついてない校舎に来たのには理由がある。


「いいか二人とも、今回のミッションは学校に潜入し、美術室にある超重要書類を回収することだ」


 そう言うのはクラスメイトの足立(あだち)(まさる)

 ちなみに、ミッションだとか超重要書類だとかカッコいいことを言ってるが実際は、


『明日提出する宿題プリントを美術室に忘れたから取りに行こう!』


 というただそれだけの話だ。


「というかなんで俺たちを呼んだんだよ?

 一人で行けばいいじゃん」


「バカ!お前美術室の幽霊の話を知らないのか!?

 それに僕は前に見たんだ……美術室で宙に浮いた女の姿を!!」


 マサルは必死に幽霊の恐ろしさを俺に伝えてくる。

 あと誰がバカだ。


「幽霊なんて存在するわけないだろ、バカバカしい」


「いや、幽霊は存在する」


 あ、やべえ。

 地雷に触れちまった。


「幽霊は存在するぞ、ナオ。

 守護霊、背後霊、地縛霊、それらは科学的に証明されていないだけであって多くの目撃証言があり具体的には……」


 息継ぎをすることもなく、ペラペラと霊について語りだしたのは同じくクラスメイトの竹田(たけだ)智貴(ともき)

 ご覧の通り、幽霊の存在を本気で信じており、幽霊についての知識もすごい。

 聞いてもいないのに、霊についてやたらと語りだす。

 俺とマサルもよく話をされるが、半分以上まともに聞いていない。


「この学校でも10年ほど前から目撃情報が多発して------」


 まだしゃべってるよコイツ。


「わかったわかった、じゃあ俺が行ってくるから。

 ついでに幽霊なんていないって証明してやる」


 話を聞くのにうんざりした俺は自分が取りに行くと、話を切り出す。


「さすがナオ、僕ナオなら行ってくれると信じてた!」


 そう言ってマサルが俺を褒める。


「おいおい、当たり前だろ。

 当然のことで褒めるなって」


「そうやって調子に乗ってるやつが、幽霊映画とかで真っ先に殺されるんだ」


 おい。


「誰が死ぬか!……ってあれ?

 トモキは行かねえの?」


「地縛霊とかだったら呪われるかもしれないだろ?」


 俺は呪われてもいいってか。

 まったく、このビビりどもめ。


「しかたねえな。

 見とけよヘタレども、すぐにとってきてやるからな」


「ありがとうナオ!お礼に僕の書いた魔法少女マミマミの絵をプレゼントするよ!」


 いらねえ。


「あ、ちなみに美術室の後ろの扉がカギ壊れてるんだ。

 だからそこから中に入れるよ」


「わかった」


 俺はそう返事して校舎の中へと入っていく。

 持ってきていた懐中電灯をつけ、美術室へと向かう。


 さっきの話に戻るが、俺は幽霊なんて信じない。

 理由は単純明快、見たことがないからだ。

 仮に霊感というものが存在するなら、俺には霊感はまったくない。

 よく小学生のころ、友達と心霊スポットに行って、塩を投げまくるなんていうバカな遊びをしていたが幽霊に遭遇したことは一度もない。

 寒気だとか、恐怖だとかを感じたこともない。

 マサルもトモキも、よく幽霊とか信じる気になれるもんだ。


 そんなことを考えていると、美術室の前までたどり着く。

 黒板があるほうと反対方向の扉を開くと、確かに鍵が開いていた。


 電気は……つけなくていいか。

 すぐでていくし。


 マサルに教えられた場所を見てみると、机の上に宿題プリントが置かれていた。

 俺はプリントを配られた瞬間に、紙飛行機にして飛ばしたから内容は把握してないが、おそらくこれが宿題プリントのはずだ。

 

 とにかくこれでミッションコンプリートだ。

 さっさとあいつらのとこに戻るか。


 そうして懐中電灯を出口のほうに向けたその時だった。




「ばあっ」


 六ノ宮中の制服をきた女が、俺を脅かすように現れた。

 

 おいおい、こんな深夜に学校に忍び込むなんて悪いやつだな。

 この女も忘れものか?

 まあそんなことはどうでもいい。


 一つだけ、何よりも尋ねたい大きな疑問がある。

 

 ……なぜこの少女は上下逆さまなのか?

 

 突然現れたときからずっと、この女の全身が俺には上下反対に見えている。

 それなのに、肩まである女の髪の毛は下にたれていない。

 スカートがめくれていない、重力に逆らっている。


 もしかすると足でなにかに掴まっているのかもしれない。

 そう思い、懐中電灯で足のほうを照らす。


 


 足がなかった。


 スカートの少し先ぐらいで、足が煙のようにゆらゆらとゆれている。


 えーっと……つまりだ。

 この女は足がなく、空中に浮いている状態ということになる。

 そんなことは常識的に考えてありえない。


 となるとこの女の正体は幽霊……


「ウワアァァァァァァッァァァッァァアアア!!!」

 


ーーーーーー




外で待機していた友人二人


『ウワアァァァァァァッァァァッァァアアア!!!』



「……これって、ナオの声じゃない?」


「ナオは尊い犠牲となったのだ……


 よし、帰ろう」


「え、ナオのこと置いていくの?」


「もしここで行けば、俺たちも霊に殺されるかもしれない。

 マサル、宿題は諦めるんだ」


「……うん、そうだね。

 僕、実はお母さんに黙って来ちゃったんだよ。

 だから早く帰らないとばれちゃうかも」


「実は俺もそうなんだ。

 先生に怒られるより、母ちゃんに怒られるほうがよっぽど怖いしな」


 そう言って友人二人は、薄情にもナオのことを置いて帰ってしまう。


ーーーーーー



美術室



「ごめんごめん、まさかあんなに驚くと思わなくて」


 幽霊の女は、申し訳なさそうに手を合わせて、俺に謝る。


「本当に幽霊なのか?」


「そうだよ、ほら!」


 幽霊は教室中をビュンビュン飛び回る。

 これではさすがに、本物の幽霊だと信じるしかない。


「でもすごいね、そんなにはっきり私のことが見えるなんて。

 みんな中途半端に見えたりするから、怖がってすぐ逃げちゃうんだよね」


 俺も初めての経験だし、めちゃくちゃ怖がったけどな。


「そこで、私のことが見えている君にお願いがあるんだけど」


「お願い?」


「昔、友達と一緒に描いていた絵があったんだ。

 でも、今もその絵は完成してないの」


 幽霊は、理由を詳しく語らない。

 きっと言いたくないのだろう。

 美術室の幽霊は、事故で死んだという噂もある。

 つらい記憶だろうし、俺も聞かないでおくか。


「そこの奥にある絵なんだけど……」


 幽霊はものに触れることができないらしく、俺が幽霊から指示を受けて絵を取り出す。


 その絵は、二人の少女が笑いあっている絵で、俺には完成しているように見えた。


「これ完成してないのか?」


「うん、後は仕上げだけなんだけどね。

 だからお願いっていうのは、この絵を完成させてほしいの」


 完成させてほしいと言われても、ちゃんと色も塗ってあるし、どこに手を加えればいいかわからない。

 それに自慢じゃないが、美術の成績は五段階評価で1しかとったことがない。


「俺、絵を描くのかなり苦手なんだけど」


「大丈夫大丈夫、あとちょっとで完成だから。

 どこを塗ればいいかは私が言うよ。

 

 まあねんのため、そこの紙にリンゴでも書いてみてくれない?」


 言われた通り、鉛筆で紙にリンゴを描く。

 

 ……よし、できた。

 俺にしてはかなり上手くかけたんじゃないか?


「どうだ?」


 描いたリンゴの絵を、幽霊に見せる。


「え、なにこれ?

 爆弾?」


「リンゴだよ!!」


「う、う~ん……これはちょっと絵を描いてもらうには厳しいかも」


「だから言ったんだ。

 なんなら明日にでも、絵を描くのが上手いやつを連れて来てやるよ。

 俺がそいつに、あんたの言葉を直接伝えれば問題ないだろ」


「ほんと!ありがとう!!

 え~っと、そういや名前聞いてなかったね」


 そういや言ってなかったな。


「直斗っていうんだ、みんなからはナオって呼ばれてる」


「そっか、私の名前は友美(ともみ)っていうの。

 よろしくね、ナオ」


 こうして俺は、人生で初めて幽霊の知り合いができた。

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