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ダイン・デステニー

 

「あのレーザートラップを仕掛けたのが、おまえだと言うことだ」



 ダインが一瞬固まるのを、俺は見逃さなかった。



「そして、俺を殺したがっている人間は……レイラとメイだけだ」



 その名を口にすると、胸が苦しくなった。



 俺が世界でただ一人愛した女。それが亡くなった俺の妻、レイラだ。


 そして、彼女を失って錯乱のあまり作り出してしまった、クローンの名前でもある。


 俺の世界でただ一人の愛する娘。それがメイ。


 レイラのクローンと同じく、メイのクローンも同じ名前を名乗っている。



 マックが鑑定して俺の娘だと言うのなら、それは間違いない。


 そして俺の娘だと言うのなら、この女―――ダインはメイのクローンだ。


 ダインは同じ非合法な存在ではあっても、無認可人間レコグナイズではなく、複製人間クローンなのだ。



 もちろん本人はクローンだとは知らされてないだろう。


 ただのレコとして、偽りの過去を持たされたに違いない。


 レイラ―――俺の妻のクローンによって。



「レイラさんとメイさんは、あなたが革命に邪魔だから、殺せとおっしゃった。だから私は、あなたの部屋にトラップを仕掛けた。でも、あなたのことを調べるうちに、ふとしたところから、あなたが私の父親だとわかったの 」



 もちろんそれは、気づくようにレイラとメイが仕組んだのだ。


 ダインにたいした技術がないことは、お粗末なレーザートラップを見ればわかる。俺がそれに気づくことは、レイラならわかっているだろう。


 そして、ダインが俺の娘のクローンだと言うことに、俺が気づくことも。



「今度は革命か。その前は俺のほうが犯罪者にされてたな。そのまえは、なんだっけ」


「何を言っているの?」


「レイラとメイは革命家なんかじゃないってコトさ」


「まさか」


「本当さ。彼女らの目的は別にあるんだ。それをさせるために、君に嘘を教えたのさ。革命とか正義感って言うのは、人を殺す大義名分としては、なかなか便利なものだからね」



 ダインは、今やはっきりと俺に敵意の目を向けながら、激しく言った。



「だとしてもかまわない! 生ませるだけ生ませておいて、何の責任も取らないようなあんたなら、殺されて当然に決まってるんだ!」



 彼女を生んだのは、正確にはクローン培養の試験管だ。


 そしてその元を作ったのは、ほならぬ俺なのだ。


 ダインは俺が作った、メイのクローンの残り。冷凍されていた、たくさんのクローンメイのうちのひとりなのだ。


 メイとレイラは、俺が作ったたくさんのクローンを全て手に入れ、こうして真実を知らせないまま、俺の元へ送りつけてくる。本人に真実を話そうが、黙っていようが、俺が苦しむことをよく知っているのだ。


 やがて全てが尽きたら、自分たちが来るつもりなのだろう。


 そして、そのとき俺を殺すのか、自分たちも死んで見せるのかはわからない。


 どっちにしろ、クローンと言う存在を忌み憎んでいるのは、クローンである彼女ら自信なのだ。



 俺はイイワケする気力もなくなっていた。



「レイラさんとメイさんがあなたを殺したいと思う本当の理由は知らない。知りたくもない。それに大体想像がつくわ。あなたがクズだからよ! そして、私もあなたを殺したいと思ってる! 私が、生まれてからどれほど苦しんだかも知らないで、のんきにもぐりの医者なんかやってるあなたに、思い知らせてやりたいと思ってる!」



 わかっている。


 わかっているから、俺はおまえに『本当の事』を知らせないでおこうと思うのだ。


 おまえが高速培養されたクローンで、その生まれてからの苦しみとやらも、全てあとから植えつけられた作り物の記憶だと言う事実。そして、どちらにしろ高速培養されたお前の命は、あと一年も持たないと言う事実を。


 せめてもの罪滅ぼしに。


 ダインが叫びながら銃を抜いた瞬間、一瞬早く俺の銃が彼女を貫いた。


 その瞬間、俺の胸にも鋭い痛みが走る。


 もちろん銃の傷じゃない。それならどれほどよかっただろう。 胸から真っ赤な血を流しながら、ダインは憎悪の目で俺を見る。



「私が死んでも、レイラさんとメイさんはいつか必ずあんたを殺す」



 それだけ言うと、俺の娘は息を引き取った。


 俺はダインの身体を抱きしめてつぶやいた。



「違うんだ、ダイン。彼女たちは俺を殺したいんじゃないんだよ。俺を殺すには、彼女たちは俺を憎みすぎている。一度殺しただけじゃ、彼女たちの心は満たされないんだ」



 そう、彼女たちは俺を憎んでいた。


 俺の勝手なエゴで生み出され、誰かの代わりの人生を押し付けられたのだから、無理もない。


 失った妻と娘の細胞から作ったクローンだとしても、それは妻でも娘でもない。あの頃の俺は、そんなこともわからない、バカだったのだ。


 妻と娘の遺伝子をコピーされたふたりの女は、自分たちが生み出された理由を知ったとき。


 そろって俺の元を去った。



 それからずっと、俺は罪を償うためだけに生きている。



 俺はダインのなきがらを抱きしめて、泣きながらつぶやいた。



「俺は彼女たちが許してくれるまで、こうやって娘や妻のクローンを殺し続けなきゃならないんだ。それが俺に与えられた、彼女たちからの罰なんだよ」



 そう、俺は死ぬことも許されず、自分の娘と妻を殺し続けなければならないのだ。


 いつか、メイとレイラのクローンがすっかりいなくなるまで。



 いや、贖罪の終わる日まで。




 

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