作家的資質
何かを書きたいとする感情や、それを完遂する忍耐を有することは、なるほど作家的資質と言えるかもしれない。
しかし、「書かなければならぬ」ひいては「書かなければ生きていけそうにない」、といった感情は果たしていかがなものだろうか。
普通、人は書かなければ生きていけないという感情は持たない。立派に、健全に生きている人間ほど、ただその人一人分の人生だけで悠々事足りている。
「書かなければならぬ」という使命感は状況によりけりであろうが、「書かなければ生きていけない」という感情は、やはり、その人とその人の人生との不調和から生まれている。
これは事によると、ある種の劣性かもしれぬ。
だからこそ、人は書いたものの最終的な結果である「作品」に命懸けにならざるを得ない。
芸術はただ、結果だけが美しくあり得る。その創作活動の動機においても、また、過程においてでも、そこに美を求めることは甚だ難しい。
もしも、作品自体に美が認められないのだとすれば、最後には一体何が残るのであろうか?
そこにはただ、恥辱があるだけかもしれない。或いは徒労という、恐るべき地獄かもしれない。或いは己の劣性を無様に晒してしまった、残酷な告白に他ならないのかもしれない。
普通、人は書かなければ生きていけないという感情は持たない。
これは事によると、ある種の劣性かもしれぬ。
果ては想像力でさえも、単なる欲求不満の特異な現れに過ぎないのかもしれぬ。
普通、人は書かなければ生きていけないという感情は持たない。ー
…以上のことを踏まえた上で、それでも気が変わらないのなら、書いたらよろしい。迷うことなく命懸けで書いたらよろしい。
この世に、その感情と替えが効くような「救い」など、ほとんどありはしないのだから。