白い少女
あらすじのトキは鳥のトキではありません。あしからず。
白い少年だった。
肌も、髪も、その衣服も。
白を異質な色と思うようになったのは、きっとその少年を見てきたからだろう。白雪を施したような純白の身体に、ただ一つ違う色を彩っていたのは瞳だけだった。瞳だけが血に塗れた赤色だった。
ウサギみたいだね。
かつての僕は言った。
それに少年は笑った。
僕ほどに凶悪なウサギはいないよ、と。
いつ出会ったのか。その問いには、わからない、と答えるほかない。物心ついたときにはもう彼は僕の横にいた。いつもその少年は僕の傍にいた。多分赤ん坊の頃から、彼は僕の隣に居たのだと思う。
とある日。名前というものを知った。物にも人にも名前というものがあるらしい。母が僕のことをシヒトと呼んだ。それが僕の名前だ。
君はなんて名前だい?
僕は聞いた。
名前なんてないさ。
彼は口を尖らせて言った。
じゃあ、僕が名前をつけてあげようか。
僕がそう言うと、少年は、ふむ、と妙に爺くさいことを言って顎を撫でた。
君がどうしてもと言うのなら、それもやぶさかではないよ。
どうしても、ということはなかったけれど、僕は彼に名前をつけた。多分そうしないと彼は拗ねただろうから。
じゃあ、これから君の名前はトキだ。
トキと僕はいつも一緒だった。片時も離れたことはない。
それが良いことなのか悪いことなのかは考えなかった。それがもう、当たり前のことだったからだ。
けれど不思議なことに、誰も僕と一緒にいる彼のことを知らなかった。誰も彼を見ることはできないし、誰も彼の言葉に耳を傾けることもできない。
何でお母さんはトキに話しかけないの?
僕がそう言うと、母は、またか、という顔をした。
そんな子いないでしょう。この村の中には。
いるよ、いつも僕の隣に。ほら、今も。
母は庭の苗に毛虫が付いているのを見つけたような顔をした。
……気味の悪い子。
小さいけれど、僕に聞こえる声でそう言った。
母は僕よりも僕の後に生まれた妹を可愛がった。それは妹が女の子だからだと思っていたが、そうではなかったらしい。しばらくして、その理由に気が付いた。
妹にはトキが見えないのだ。だからだ。
父が生きていたなら僕をもっと可愛がってくれた、と母に訴えていた自分が急に愚からしく思えた。男親なら僕を理解してくれる、とそれまでは信じていたけど。でも、父が生きていたとしても、僕ではなく妹を可愛がっていただろう。
だって父もトキが見えなかったに違いないから。
何でみんなにはトキが見えないんだろう。
村の子供に石を投げられ、額が切れた。近くにいたはずの大人たちもそれを止めることはしなかった。村の中で僕はすっかり嫌われ者だ。みんなが僕を気狂いだと言う。母は怪我をした僕を見ても何も言わない。
村のみんなが憎い?
いつも僕の傍にいるトキは、いつにない上機嫌でそう聞いてきた。
憎い? ううん、別に。
僕がそう言うと、トキのにこにこ顔がむっつり顔に変わった。
じゃあ、母親が憎いのかい?
まさか。嫌われているのは、悲しいけど。憎いはずがないよ。
わかった。妹が憎いんだろう?
妹はやっと喋り始めたばかりだよ。
だったら君は何が憎いのさ?
何も憎くはないよ。
何でさ、とトキは怒った。さっきまでの上機嫌は風に吹き飛んでしまったのか、もう欠片も見えない。むっつり顔ははっきりとした怒り顔に変わって、その赤い目を細めて僕を睨む。
トキが怒っても不思議と怖くはなかったけれど、あんまり怒ると僕と話してくれなくなってしまう。それは嫌だ。だから僕は正直に答えた。
だって、僕にはトキがいるからね。
胸をそらして僕がそう言うと、トキは顎が外れたくらいに大口を開けた。その様子に僕は指を刺して笑った。
トキが女の子になっていた。
髪が長くなって、服はズボンから長いスカートに変わっている。心持胸も膨らんでいる気がした。でも、その真っ白な身体と赤い瞳は変わっていない。僕はトキが女の子になってもすぐにそれがトキだとわかった。
どうしてトキは女の子になったの?
僕がトキにそう聞くと、トキはそっぽを向いた。
君が馬鹿なことを言うからさ。
馬鹿なことなんて言ってないよ。
僕がむっとなって言い返す。
馬鹿なことだよ。君がみんなに嫌われている原因は、僕だろう。それなのに君はそれを気にもしない。それどころか僕のことを――。
トキはぴたりと口を噤んだ。
それから変化が起こった。
トキの真っ白な肌がみるみる赤くなっていったのだ。僕は驚いた。今までトキの白が赤になったことはない。トキの赤は瞳だけだ。
トキ、トキ、大丈夫っ!?
僕が駆け寄ってぺちぺちとトキの頬を叩くと、なぜかトキは僕の頭に頭突きした。痛かった。トキも痛かったのか頭を抑えている。
痛いよ、トキ。
僕も痛いさ。
トキの赤い目には涙が溜まっていた。その様子はなんだか僕の胸をもやもやさせた。何だろう。息がしづらい。
もやもやを晴らしたくて、もう一度僕は聞いた。
何でトキは女の子になったんだい?
それにトキはまたもやそっぽを向いて返事を返した。
君が男の子だからだよ。
意味わかんねーと思われた読者の皆さま方。すいません。これはわりと自己満足的作品です。暇つぶしになったかな、と思われたなら、作者は本望でございます。
一応書いておきますと、俺とアクマの原案になった話。ところどころ共通するところはありましたか。結局全然違うストーリーになりましたが。悪魔とか天使とかも大好きなもんで。書いていて楽しいっす。また書きたい。




