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白い少女

作者: エニシ
掲載日:2008/08/15

あらすじのトキは鳥のトキではありません。あしからず。


 白い少年だった。


 肌も、髪も、その衣服も。


 白を異質な色と思うようになったのは、きっとその少年を見てきたからだろう。白雪を施したような純白の身体に、ただ一つ違う色を彩っていたのは瞳だけだった。瞳だけが血に塗れた赤色だった。


 ウサギみたいだね。


 かつての僕は言った。


 それに少年は笑った。


 僕ほどに凶悪なウサギはいないよ、と。


 いつ出会ったのか。その問いには、わからない、と答えるほかない。物心ついたときにはもう彼は僕の横にいた。いつもその少年は僕の傍にいた。多分赤ん坊の頃から、彼は僕の隣に居たのだと思う。




 とある日。名前というものを知った。物にも人にも名前というものがあるらしい。母が僕のことをシヒトと呼んだ。それが僕の名前だ。


 君はなんて名前だい?


 僕は聞いた。


 名前なんてないさ。


 彼は口を尖らせて言った。


 じゃあ、僕が名前をつけてあげようか。


 僕がそう言うと、少年は、ふむ、と妙に爺くさいことを言って顎を撫でた。


 君がどうしてもと言うのなら、それもやぶさかではないよ。


 どうしても、ということはなかったけれど、僕は彼に名前をつけた。多分そうしないと彼は拗ねただろうから。


 じゃあ、これから君の名前はトキだ。




 トキと僕はいつも一緒だった。片時も離れたことはない。

 それが良いことなのか悪いことなのかは考えなかった。それがもう、当たり前のことだったからだ。

 けれど不思議なことに、誰も僕と一緒にいる彼のことを知らなかった。誰も彼を見ることはできないし、誰も彼の言葉に耳を傾けることもできない。


 何でお母さんはトキに話しかけないの?


 僕がそう言うと、母は、またか、という顔をした。


 そんな子いないでしょう。この村の中には。


 いるよ、いつも僕の隣に。ほら、今も。


 母は庭の苗に毛虫が付いているのを見つけたような顔をした。


 ……気味の悪い子。


 小さいけれど、僕に聞こえる声でそう言った。




 母は僕よりも僕の後に生まれた妹を可愛がった。それは妹が女の子だからだと思っていたが、そうではなかったらしい。しばらくして、その理由に気が付いた。


 妹にはトキが見えないのだ。だからだ。


 父が生きていたなら僕をもっと可愛がってくれた、と母に訴えていた自分が急に愚からしく思えた。男親なら僕を理解してくれる、とそれまでは信じていたけど。でも、父が生きていたとしても、僕ではなく妹を可愛がっていただろう。

 だって父もトキが見えなかったに違いないから。




 何でみんなにはトキが見えないんだろう。

 村の子供に石を投げられ、額が切れた。近くにいたはずの大人たちもそれを止めることはしなかった。村の中で僕はすっかり嫌われ者だ。みんなが僕を気狂いだと言う。母は怪我をした僕を見ても何も言わない。


 村のみんなが憎い?


 いつも僕の傍にいるトキは、いつにない上機嫌でそう聞いてきた。


 憎い? ううん、別に。


 僕がそう言うと、トキのにこにこ顔がむっつり顔に変わった。


 じゃあ、母親が憎いのかい?


 まさか。嫌われているのは、悲しいけど。憎いはずがないよ。


 わかった。妹が憎いんだろう?


 妹はやっと喋り始めたばかりだよ。


 だったら君は何が憎いのさ?


 何も憎くはないよ。


 何でさ、とトキは怒った。さっきまでの上機嫌は風に吹き飛んでしまったのか、もう欠片も見えない。むっつり顔ははっきりとした怒り顔に変わって、その赤い目を細めて僕を睨む。


 トキが怒っても不思議と怖くはなかったけれど、あんまり怒ると僕と話してくれなくなってしまう。それは嫌だ。だから僕は正直に答えた。


 だって、僕にはトキがいるからね。


 胸をそらして僕がそう言うと、トキは顎が外れたくらいに大口を開けた。その様子に僕は指を刺して笑った。




 トキが女の子になっていた。


 髪が長くなって、服はズボンから長いスカートに変わっている。心持胸も膨らんでいる気がした。でも、その真っ白な身体と赤い瞳は変わっていない。僕はトキが女の子になってもすぐにそれがトキだとわかった。


 どうしてトキは女の子になったの?


 僕がトキにそう聞くと、トキはそっぽを向いた。


 君が馬鹿なことを言うからさ。


 馬鹿なことなんて言ってないよ。


 僕がむっとなって言い返す。


 馬鹿なことだよ。君がみんなに嫌われている原因は、僕だろう。それなのに君はそれを気にもしない。それどころか僕のことを――。


 トキはぴたりと口を噤んだ。


 それから変化が起こった。


 トキの真っ白な肌がみるみる赤くなっていったのだ。僕は驚いた。今までトキの白が赤になったことはない。トキの赤は瞳だけだ。


 トキ、トキ、大丈夫っ!?


 僕が駆け寄ってぺちぺちとトキの頬を叩くと、なぜかトキは僕の頭に頭突きした。痛かった。トキも痛かったのか頭を抑えている。


 痛いよ、トキ。


 僕も痛いさ。


 トキの赤い目には涙が溜まっていた。その様子はなんだか僕の胸をもやもやさせた。何だろう。息がしづらい。


 もやもやを晴らしたくて、もう一度僕は聞いた。


 何でトキは女の子になったんだい?


 それにトキはまたもやそっぽを向いて返事を返した。


 君が男の子だからだよ。






意味わかんねーと思われた読者の皆さま方。すいません。これはわりと自己満足的作品です。暇つぶしになったかな、と思われたなら、作者は本望でございます。

一応書いておきますと、俺とアクマの原案になった話。ところどころ共通するところはありましたか。結局全然違うストーリーになりましたが。悪魔とか天使とかも大好きなもんで。書いていて楽しいっす。また書きたい。


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― 新着の感想 ―
[一言] 出版されたら絵本風がいいですね。 シヒトが男の子だから女の子になったトキ。 『だって、僕にはトキがいるからね』や、『君が男の子だからだよ』は何か感動しました。 いつまでも、2人一緒にいてほし…
[一言] 私もこういうなんていうんですか・・。ファンタジー(?)ちっくな物は大好きです。文の書き方も好みです。
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