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1話


  5月2日。


  世間一般ではゴールデンウィークがあって、学校は休みに入るそんな時期だけれど、絶賛引きこもりをしている俺には関係ない。……妹が毎日家にいるのが苦痛なぐらいか。


  妹……風見さち(かざみさち)は俺と違って良くできた妹だ。

  成績優秀、運動神経抜群、愛想もいい。そしてなによりその見た目だ。本当に俺と同じ遺伝子でできているのかわからないほどに、目はパッチリと開き、シュッとした小顔にほんのりとピンク色の頬。唇のぷるんと艶付き、けれどもどこかあどけない。2次成長が続いているからか、昔に比べ身体全体が丸みを帯び、出ているところは出て、けれども引っ込むべきところは引っ込む。恐らくは女性から見ても完璧な身体つきだろう。これで高校1年生だと言うのだから、今の子は発育がいいと言うべきか。

  一方の俺、風見瑞樹(かざみみずき)はもう大学生だと言うのに一般男性から見ればチビ、さらには童顔で人見知りの引っ込み思案。おかげで友達なんぞできるわけもなく。運動もできなければ勉強もそこそこ。授業には次第についていけず、サークル活動なんかできるわけもない。そんなわけで見事に引きこもっている。


  話を戻すが妹のやつは学校に行っているはずだが、今日は早くに帰ってきたのだろうか。出迎えるわけでもなかったのだが、たまたまトイレに行くために部屋を出ていたら、タイミングが悪くちょうど帰ってきた妹と鉢合わせてしまった。

  俺は咄嗟に、バツが悪そうに妹から目を背ける。

  ……気分が悪い。これは劣等感だ。出来の悪い兄が、出来の良い妹に対する、最悪な感情だ。

  妹もそれをわかっているからなのか、それとも出来の悪い兄と話すことはないのか、基本的に顔を合わせても口を利くことはない。嫌われている……のだと思うけど、俯いてなにも話してはくれないのだ。

  けれども、この日はどうもおかしかった。


「お兄ちゃん!  ただいま!」


  妹は荷物を放り出すと、目に涙を浮かべながら俺に抱きついてきた。

  俺はわけもわからず、一瞬抱き着かせた後に、それを拒絶する。妹を突き放し、そして何も言わず部屋へと戻って鍵をかけた。


「なんだあいつ何を考えてるんだ!  俺のことをバカにしてるのか!  ううううううああああああああ!!」


  劣等感。嫉妬。

  よくない感情だと思ってはいても、それを抑えることができない。


  どうしてあいつだけが。どうして俺は。


  そんな感情が俺の心の中で渦巻いて行く。

  行き場のない感情をどうすることもできず、気がつけば俺は眠っていてしまっていた。


ーーーーーーーー


  5月3日。


  目が覚めた俺は日付と時間を確認しようと、枕元に放っておいたはずのスマホを探す。けれど、いくら手を伸ばしてもスマホが見つからない。まぁ、布団をかぶったまま、目を瞑ったままでは当然かもしれないが。

  埒があかないので仕方なく布団から頭を出し、目を開いてみる。


「へ……?」


  スマホは見つからなかったが、時間はわかった。8時を少し回ったところだ。枕元にある目覚まし時計を見たのだけれど、これがこんなところにあるわけがない。

  だって、これは小学生の時に俺が使っていた学習教材のキャラクターの目覚ましで、中学に入学する頃には捨ててしまったもののはずだからだ。

  おかしいのはそれだけではなかった。

  大学生になってから買ったPCや机が見つからない。その代わりに、同じく小学生の頃に使っていたシンプルな学習机がある。

  それだけならまだよかったかもしれない。

  枕元には買った覚えのないぬいぐるみの数々。淡いピンクの壁紙や同じ色合いのカーテン。本棚からは長年読んでいた少年漫画は消え去り、少女漫画が並んでいる。どこをどうとってみても、大学生の男の部屋ではなく女児の部屋だった。

  俺がぽかんとしていると、ガチャリとドアを開ける音がする。


「瑞樹ちゃーん?  そろそろ起きたかなー?」


  扉の陰から妹の顔が見えた。俺が起きているのを確認すると、スタンドミラーを部屋の中に入れ、ガチャリと鍵を閉める。


「起きてるなら話は早いや。早速説明したいけど、まずはこれを見てみて」


  妹は親指でスタンドミラーを見るようにと指を指す。言われるがままにスタンドミラーを覗き込むと、そこに大学生の男の姿はなかった。


「はは……なんかの冗談だろ……っ!?」


  鏡に映っていたのは妹よりももう少し小さい、恐らく小学生ぐらいの女児だった。

  妹を幼くしたような将来的に美人になりそうな顔立ち。髪も元の短い髪ではなく、肩甲骨のあたりまですらっと黒髪が伸びている。ちょっと大きめのダボっとした水玉のパジャマがさらに愛らしさをそそっている。

  極め付けは声だった。俺が喋ると、その喉から少女のかわいらしい声が聞こえてくる。

  間違えようがなく、間違いなかった。


「俺が、女の子になってる……」


  ペタペタと顔に手を当てると、鏡の中の少女も全く同じ動きをしてみせる。頬をつねってみれば痛みがある。どうやら夢というわけでもないらしい。

  その様子に満足したかのように、妹が口を開く。


「お兄ちゃんには、女の子になって私の妹になってもらいます」


  その日から、俺の生活は一変した。

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