8、人間辞めない
凛と立っている姿を見ると、あいつがそこにいるのかなと感じる。
そう言えば、お前、声がすごく低かったけど俺、そんな低くないしわざとそうしてたのか?
ちょっと話しかけてみた。でも、無駄か……
ジュースのレパートリーを見て、久しぶりに炭酸レモン水を買うことにした。
チャリ……ピッ。
ゴトッ!
その時、数字がピッピッピッと右から順番に出てくる。
この自販機は、当たりくじが付いており4ケタの数字がゾロ目だった場合、もう一本貰うことが出来るのだ。
そんなの当たるわけがない。
そう思って、ジュースを取って見もせずに帰ろうとすると、
『おめでとうございます! 大当たりです!』
嘘だろ……? 当たるなんて……。
信じられなかった。数字を二度見、三度見する。
や、や、やったあ!
一回も当たったことなかったんだよ。
すげー嬉しい!
そう思って、ルンルン気分で帰ろうとすると一人の少女がやって来た。
小学校一年生ぐらいだろうか?
長い髪を揺らして不安そうな顔で自販機を見ている。
お使いかな? いや、でもそれなら店でもいいはず……。
「……あ、お金足りなかった。どうしよう……。」
今にも泣き出しそうな少女が目の前にいる。
「……シク……シク……炭酸レモン水……シク……。」
やっぱ、炭酸レモン水なのか……。
あれ、これ俺が自販機になる前にもこんなシチュエーションなかったか?
デジャブなの?
いや、これは……きっと……。
「おい、これやるよ。俺の分は、あるからさ。」
すると、少女は恐る恐る俺の顔を見た。
しまった……。不審者だと思われたか。
そうだよな。知らない人からは、物とか貰ったらいけないもんな。
「あ、あのな、これ当たったんだ。俺、二本も飲まないからさ。よかったら貰ってくれない……かな?」
もう一本のジュースを見せながら言ったのだが、怪しすぎた。
こりゃ、通報されるな。
落胆しながらジュースを差し出していると、少女が手を出した。
「え?」
「お兄ちゃんすごいね! 当たったんだ! 本当に貰っていいの!?」
不安な顔は消え、その代わりに光が灯っていた。
「……うん、貰って。」
「ありがとう、お兄ちゃん!」
そう言って、笑顔で少女は、駆け抜けて行った。
ホッと胸を撫で下ろす。
でも、やっぱり笑顔っていいな。ありがとうってほんと魔法の言葉なんだな。
こんなにも、心が温かくなるなんて。
全く、俺は、人生を損していたのかもしれない。
人間辞めたいって言ったけど取り消すわ。
俺、人間辞めない。
就活もしないといけないし。
人間としてこの世界を生きていかないとな。
いいことも悪いことも起きるかもしれないけど………
それが……人としての定め……なんだもんな。
END