6、そういうことだったのね
『……そろそろ時間だな。』
ん? またあいつの声か。
『交代だ。というより、自販機としてのお前の役目は終わりだ。』
「……は? お前、さっきからなんなんだよ!」
『俺は……本物だ。』
その場が一時制止する……。何言ってんだ? こいつ。
『……さ、変われ! 役目ごくろうだったな。』
澄ました顔でいや、顔がないから見えないけど恐らくそんな顔で彼は言った。
「いやいやいや、そんな一言で戻れるのかよ。てかさ、さっきも聞いたんだけどあんた何者?」
『……だから、さっきも言っただろう。本物の自動販売機だ。』
え? どういう意味?
『お前も、人間を辞めたいと思ったのだろう。それと同じで俺も自動販売機を辞めたいと思ったんだ。』
いや、言ったけれども!
それとこれとは話が別なわけで……。
あれ、じゃあ、俺の体は今どこに。
「俺の実体はどうなってんだよ? それに、自動販売機になる前は、パジャマ姿で寝ていたと思うんだけど!」
すると、いたって冷静な声が返ってきた。
『トレードしたんだ。』
は? 全然、話についていけないんですが?
『お前の体を俺が貰い、そしてお前には自販機として過ごしてもらった。一度、人間になってみたいと思っていたのだ。大学というのは、楽しい場所だな。ありがとう。』
いや、素直に礼を言われても困る!
「てかさ、何で俺を選ぶ必要があったわけ? 人間ならたくさんいるじゃん。それに、あんた大学行ったの? 俺の体で!?」
その言葉を言い終わった途端、目の前に俺が現れた。
嘘だ……。何で、動いてるんだよ。
『今まで、テレパシーで話しかけていた。』
そして、あいつは、俺(自販機)の前に座り込む。
『お前がいいと思った。人間嫌いで人間を辞めたいと思っている者が自販機になれば、思考が変わるかもしれないし、お前なら、人間としての生き方を一八〇度変えて、一歩が踏み出せるような気がした。罪悪感を分かった上でな。』
罪悪感……確かに昔の俺は、そんなこと思ったこともなかった。
だからこそ、自販機の下に手を突っ込んで金を取っていたのだろう。
『これでとどまってよかった。行き過ぎると盗みを働いたり、エスカレートしていくからな。』
「そんなことするわけ……」
『言い切れるのか?』
低音の凛とした声が響き渡る。俺は、口を噤んだ。
『……言っておくが、犯罪は重いも軽いもない。ひょんなことから、染まってしまうものなんだ。』
確かにそうだな……。
「あぁ、俺が悪かったよ。このまま分からないままだったら行き過ぎた行動に出ていたかもしれない。就活でむしゃくしゃしていたからな。」
彼は、ふと微笑んだ。自分では作ることのない笑顔だ。
『……善人も悪人も自分がいると思うからいるんだ。皆、平等に同じ人間だと思えば人間との交流も楽になるぞ。人間としての人生を楽しめ。』
その言葉を彼が言った途端、視界が真っ白になった。
何か不思議な感覚だ。
全てが夢だったかのように消えていく。
そして……俺は、重い瞼を必死に開けて、微笑んでいる彼を見ながら意識を失った。