5、俺の見てる視界が開けたよ
心が罪悪感で押し潰されそうになっていた頃、一人の少年がお金を握りしめてやって来た。
小学校二年生ぐらいだろうか。
外で活発に遊んでいるからだろう。頬が真っ赤に染まり汗をびっしょりかいていた。
「よし! ジュースを買おっと! 炭酸は……。」
目をキラキラさせながら見ている少年を見ても、今は、罪悪感に支配され何も見たくないし考えたくもなかった。
「……あれ? 炭酸売り切れだ。せっかく楽しみにしてたのに……。」
目の前で少年が涙目になったところでハッと我に返った。
ん? 売り切れ? 今日、この子を含めて三人しか来てないけどもう売り切れかよ。
補充忘れてんのかな?
少年の瞳が潤みそして、ポトッ……
どんどん涙が溢れて来た。
お店が近くにあるけどそれじゃダメなのか?
「……炭酸レモン水飲みだがっだあああああああああああああああああああああああ。」
あぁ、それは確かこの自販機にしか売っていないジュースですぐ売り切れになるんだよな。
俺も、よく買っていた。
さて、どうするか……。
さすがに今、運よく補充が来るわけないもんな……。
「うわあああああああああああああああああああああん!!!!」
ヤバいな。まるで、俺がいじめているみたいじゃないか。
あ、そういえば自販機だったわ俺。
うーん、どううするかなぁ。
そう悩んでいると、またあの声が聞こえて来た。
『……どうするんだ?』
「いや、どうするって言われても……どうすることも……」
『お前は、目の前にいる少年を助けたいと思うのか?』
え……。そりゃ……助けたいけど助けられないし……俺にそんな資格ないし……。
『助けたいなら助けろ。資格とかそんなのいらん。』
心読まれた? なんなんだこいつ。
でも、確かに誰かを助けるための資格なんてそんなのないよな。
「……でも、どうすればいいんだよ?」
『……お前があの子に語りかければいい……。』
「そんな神みたいなこと出来るわけないだろ? 俺は、今、自販機なんだぜ?」
『……念じれば声は届く……。』
「お、おい! そんなこと本気で……」
もう、声は全く聞こえなくなっていた。勝手なやつだ……。
念じろか……。ダメもとでやってみるかな……。
目の前では、ヒックとさせながら少年が泣いている。
『……ごめんな。今日は、売り切れなんだ。また来てくれよ。その時は、きっとそのジュースあるからさ。』
届いたのか?
少年を見てみると、涙を落としながらキョトンとしている。
まさか、通じたのか? 嘘だろ?
「……自販機が喋った……。こんなことって……。」
ヤバい。動揺させている。なんとかしなければ……。
『脅かしてごめん……。』
くそ……。謝るしか言葉が出てこない。
だが、俺の言葉を理解してくれたのか少年は、涙を拭い笑顔でこう言ったのだ。
「うん! 自販機のお兄ちゃんバイバイ! 僕、また買いに来るよ!」
少年の走っていく後ろ姿を見ながら、俺は思った。
やっぱ、人に感謝されるってほんといいな。
人間のこと嫌いだったけどその捉え方やめようかな。
きっと、彼らから学ぶこともたくさんあるんだ。
俺だって人間なんだし、もっと好きにならないとな。
よし、決めたぞ! 就活をまた再開する!
そして、たくさんの人と交わることが出来る職場で働くんだ!
今までずっと人とあまり関わらないような職を受けて来た。
もっと、視野が広がるはずだ……。
でも……俺……自販機……なんだよな……。