3、ありがとうって最高の言葉だな
あれから三十分後、一人のお婆ちゃんがやって来た。
腰もかなり曲がっており歩くのも大変そうなくらいだ。
そんなお婆ちゃんが俺(自販機)の前に来て、何やら上の方に手を向けだした。
「……わたしゃ、お茶が飲みたいんだけどね……腰が痛くてかなわんよ……。」
いや、婆ちゃん店の中で買ってよ!
そこにお店あるから。
そう叫んでも婆ちゃんの耳に届くはずがなく……。
ついには、疲れ果てたのか俺(自販機)の前に座り込んでしまった。
「……はぁ……老人ってことを認めたくないから買うのを諦められないのよねぇ……でも、諦めるしかないかねぇ……。上のボタンが押せないのは、しょうがないこと……。小さいお茶を買ってもいいけどなんだかねぇ。」
なんか、だんだん婆ちゃんが可哀想に思えてきた。
下の小さいお茶じゃダメなのね。
しょんぼりしているお婆さん。でも、彼女の力では上のボタンは押せないだろう。
だから、誰かに押してもらうのが一番なんだけど……。
プライド高そうだからな……。
さて、どうするか……。
「………お店に入るのはめんどくさいね。飲み物を買うためだけに入りたくないよわたしゃ。」
なるほど。なら、誰かが押してくれたら解決しそうだな。
よし、考えろ。ない頭で考えろ。今、何をすれば人がやって来てくれるか……。
そう言えば、これって喋る自販機だよな?
金を入れたら確か喋るんだよ。
でも、俺が自販機だから自分の体を……重いけど………揺らせば……壊れて……。
『いらっしゃいませ。いらっしゃいませ。お飲み物はどうなさいますか? ありがとうございました。ありがとうございました。』
来た! よし、誰かこの狂った自販機を直すために現れろ!
ドンドンドンドンドン!
この声が永遠と流れる中、お婆ちゃんはびっくりして立ち上がりずっと俺(自販機)のことを見ていた。
すると、店の方から一人の若い従業員らしき人が出て来た。
そして、この声に気付いたのか走ってやって来る。
「どうしました?」
「何か、自販機が壊れちゃったみたいなのよ。」
どれどれと、青年が覗き込んだ隙に揺れるのを止めた。
なんとか収まった。
「あれ? 僕が来たら収まっちゃったな。お婆ちゃん、何か欲しい物でもあったんじゃないのかい?」
「あ、あぁ、わたしゃ、上のお茶が欲しいんだよ。」
その言葉を聞いて、青年はもう一度お金を入れて買ってくれた。
それを、お婆ちゃんに渡す。
すごく嬉しそうだ。
良かった。婆ちゃん喜んでる。
兄ちゃんサンキュー! と、心の中で思いながら彼を見送った。
すると、婆ちゃんがまだ俺(自販機)のことを見ていた。
あれ? 何かやばいことやっちゃった?
次の瞬間、自販機なのに婆ちゃんに撫でられた。
「あんたが呼んでくれたのかい? 私の言葉聞いてたんだね。ありがとう。」
そう言って、曲がる腰を手で擦りながら歩いていってしまった。
……褒められた? 撫でられた? 自販機なのに?
人間なんて嫌いだったのに……お礼を言われただけで何でこんなに心が高鳴るんだろう。