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日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男子の躊躇
97/154

<★>日本男子達と桃太郎

イラスト有り


投稿を始めて1年が経過したので記念の番外編

 やがーてやがーて、あるところに。


 ヤマトーさんというお爺さんがいました。

「え、俺お爺さんなの?」

 お爺さんは自分が年を取った事を、頑なに認めない、偏屈な人物でした。

「うわ、その言い草納得行かねぇ!」

 お爺さんは不満げに漏らしました。


「ところで、お婆さん役はいないのか?まぁ少人数だから、省けるところは省いていく方針なのか?」

「おばあちゃんでーす」

「お婆さんなのだ!」

「………おばあちゃん」

「おい、なんかババアのハーレムが出来上がったぞ!」


「だまされないでお爺さん!本物のおばあちゃんはアタシです!」

「ミミカカ殿が言っておるのは嘘なのだ!この我こそが本物のお婆さんなのだ!」

「………みんなちがう。本物はわたし」


「なんか俺を差し置いて争いが始まったんだけど!」

 いやぁ、お爺さんも隅に置けないねぇ?

「姿が見えないと思ったら、ナレーターはナーナちゃんか!」

 登場人物のメタ発言は、ボク好きじゃないなぁ♪


「ばたんきゅー!」

「強すぎるのだ!」

「………勝った」

「しかもちょっと目を話した隙に、他のお婆さんが瞬殺されてる!流石はシャーシャちゃんです!僕の自慢の妻です!世界で1番の宝物です」

 お爺さんはお婆さんの事が大好きでした。


「うー、ヤマトーさんの妻役やりたかったー」

「ぬー!無念なのだ!」

 2人は誰もが羨むおしどり夫婦でしたが、子宝には恵まれませんでした。

「おぉ、桃太郎の登場をアシストするいいつなぎだな………ん?」

 あれ、お爺さん、どうしたの?


「あぁ、いや、たしか桃太郎って………桃食って、絶倫になった2人が、ハッスルして授かった子供だったよな?よくそんな濡れ場のある、赤裸々な役をやりたがるなぁと思ってな」

「濡れ場もあったのか!クソ!」

「おのれ!全く口惜しいのだ!」

 お爺さんに見初められなかったお婆さん達は、悔しそうにしていました。


「そこまで悔しがるとは………女の顕示欲というのは実に恐ろしいな」

 若干天然入ってるお爺さんは、お婆さん達の争いの理由を勘違いし、勝手に恐れを成していました。

「………あのね、あのね、お兄ちゃん………じゃなくてお爺さん?」

「はい、なんですかお婆さん?」

「………濡れ場って何?」


「足元が濡れていて滑って危ない場所の事ですよ。今日もお婆ちゃんは可愛いですね。いつまでも僕の最愛の人でいて下さい」

「………うん?」

 うまくはぐらかしたお爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯へ行きました。

 ですがお婆さんは家から出て、すぐに家に引き返そうとしました。


「ん、どうしたんですか、お婆さん?」

 怪訝に思ったお爺さんは、お婆さんに尋ねました。

「………あのね、洗濯物がないの」

「あぁ、僕達はいつでも安心・安全・高品質・着心地抜群で清潔な、日本製の衣服に身を包んでいますからね。汚れ物がない以上、洗濯しに行く必要がないのは納得です」


「ん?じゃあ肝心の桃が登場しない事にならないか?プロットが破綻してないか?」

 桃はお爺さんの方に登場させるから安心してね。

「ふむ?じゃあ気を取り直して芝刈りに行くか。お婆さん、いい子でお留守番してて下さいね」

 お爺さんはシトーのマチェットを構えて、山へと踏み入りました。


「ところで、俺はなんで芝なんて刈ろうと思ったんだ?火なんて魔法で点けられるのに」

 お爺さんは痴呆症なのか、徘徊癖があるのか、自分が山に居る理由を説明できませんでした。

「酷ぇ言われようだ。まぁ目的もなく、剥き出しのマチェットを構えて立ってるんだから、その誹りは甘んじて受けよう」

 挙動不審かつ危険度爆発のお爺さんの元に、大きな桃がどんぶらこ~どんぶらこ~と流れてきました。


「ちょっと待て!」

 何か?

「なんで木々に囲まれた俺の元に桃が流れてくるんだ?」

 え?そもそも桃が川を流れてくるのだって、よくわからないと思うよ。

 別に桃が山の中に突如現れても、大差ないと思うんだけどなぁ。


「多少頷けるところはあったが、だからと言ってこんな怪奇物質が認められるか!」

 桃は風を切りながら、お爺さんの元に辿り着こうと、独りでに宙を飛び交います。

「桃が風を切って独りでに飛び交うってどういう事だよ!」

 ひゅん!ひゅん!ひゅん!ひゅん!


「怖ぇ!怖ぇ!顔面めがけて、バスケットボールよりデケェ桃が迫ってくんの怖ぇ!」

 ひゅん!ひゅん!ひゅん!ひゅん!

 四方八方から躍りかかる桃に、お爺さんは防戦一方です。


「おかしいだろ!なんでお爺さん役の俺にアクションシーンがあるんだよ!あとついでに、この桃、すれ違うときにどんぶらこ~って、ドップラー効果を響かせながら、過ぎ去っていくんだけど!どんぶらこって何の音なんだよ!」

 そんなこと聞かれても、ボクにはわからないよ。


「どんぶらこっていうのは、大きな物が水に浮き沈みする様を指すどんぶりに、接尾辞である”こ”を付けた言葉だ!平べったい様子を表すぺたんこや、ぶつかった様子を表すごっつんこと同様の言葉だ!なんでこの桃は馬鹿正直に、どんぶらこなんて音を響かせてるんだ!」

 お爺さんは文系なツッコミをしながら、桃を回避していました。


「えぇい!こんな殺人桃が居る空間に一緒に居られるか!俺は1人で旅に出る!誰もついてくるな!」

 お爺さんは推理モノで次の犠牲者が言いそうな台詞を残し、山から逃げ出しました。




 1人旅に出かけたお爺さんの元に、1匹の犬が現れました。

「お~じいっさんっ♪おっじっいさん~♪お腰に付けたシトーを~♪一振りワッタシ~にくっださ~いな~♪」

「よぉナーナちゃん。1人2役とは忙しいな」

 まぁね。


「まぁそれはいいから、シトーちょうだい。シトーがあったら鬼なんか余裕さ」

「昔話に出て来る鬼とか天狗というのは、日本の僻地に勝手に住み着いた、外国人の事じゃないかって話もあるしな。シトーがあれば問題なく皆殺しに出来るな」

「という訳でシトーを下さいな♪」

「うむ、神国ニホから悪の不法占拠者(アメリカ)共を根絶やしにする為に協力してくれるか」

 お爺さんは芝刈りの為に持ち出した、刃物コレクションを犬に披露しました。


「このククリマチェットはどうだ?先の膨らんだ形状から、斧の様な打撃力が期待できる逸品だぞ?それともこっちのソーバックのマチェットがいいか?背面が鋸歯になってて威圧感抜群だぞ?」

 お爺さんの声には、コレクターにありがちな、自分のコレクションを自慢する響きがありました。

 犬は精神的に大人だったので、笑顔でうんうん頷いて聞いてあげました。


「女の話は適当に頷いてりゃいいって言うけど、アレは建設的な話を殆どしないからって事だな。つまり男の話でも管巻いてる時なら、適当に聞き流してりゃ会話は成り立つ」

「自分で言ってたら、世話がないと思うなぁ、お爺さん」

 割りとお爺さんは自分を客観視できる人だったようです。


「まぁ薀蓄も語れたし満足だ。適当に気に入った物を選ぶといい」

「もう、お爺さんったらノリが悪いなぁ。ボクはオペラ風に歌いながらねだったんだから、同じ様に返してよ」

「え、アレやんの!」

 おじいさんは目をそらしながら赤面しました。


「しゃーねぇなぁ………んん!ゴホッ!ゴホッ!んん!あー、あー………ぁ、ぁ…げましょ…ぁげましょぉ」

「声小さーい」

 犬は声が急に声が小さくなったお爺さんをいじり倒しました。


「あぁ酷ぇ目に遭った………ボッチに人前で歌えは難易度高い」

「声張ったらいいのにさ。裏声出すのうまいんだし」

「え、なんでお前が俺の裏声知ってんの?」

「1人になったらよく歌ってるじゃない。ボク、耳がいいから聞こえるんだよ」

「うわ、アレ聞かれてたのか!」


「女の子の声出してるときの声、すごい萌え声だよね」

「ぎゃー!やーめーてー!」

「女のボクでもなかなか出せる声じゃないよ」

「聞こえない聞こえない!」


「1人で歌ってる時はあんなにノリノリなのに」

「かくなる上はお前を亡き者にして、情報ごと葬り去って!」

「みんな知ってると思うけど?」

「全員に聞かれてたのか!死にたい!俺死にたい!」

 お爺さんは恥じ入りました。




「………ぷい」

「お爺さん、かわいく拗ねてる場合じゃないよ。まだまだお爺さんが来るのを待ってる仲間がいるのさ」

「はー………猿と雉の事か。俺桃太郎じゃなくてお爺さんなんだけど」

「ヤマトーさん、ヤマトーさん。鬼退治にアタシも連れてってください」

 早速、雉が鬼退治に協力を申し出てきました。


「あぁ、ミミカカは偽お婆さん兼、雉なのか」

「ボク以外で空を飛べるのは、お姉さんだけだったからね」

「じゃあ採用試験を行うか………本日は弊社の、鬼退治プロジェクトの面接にお越しいただき、真にありがとうございます」

「え、ぷろじぇくと?面接?」


「人事のお爺さんです」

「犬です」

「き、キジです」

「どうぞお掛け下さい」

「え、どこに座るんですか?」

 雉の採用面接が始まりました。


「早速でございますが、志望の動機をお伺いしてもよろしいでしょうか」

「シボーノドーキ?」

「なんで俺に着いてくんの?」

「えっと、なんか皆やってて楽しそうだし」


「犬面接官、なんか頭の悪そうな志望動機が飛び出しましたよ」

「お爺さん面接官、なんか頭の悪そうな志望動機が飛び出しましたね」

「犬面接官、お帰りいただきますか」

「お爺さん面接官、お帰りいただきますか」

「わ、待って!待ってください!」


「犬面接官、まだ何かあるようですよ」

「お爺さん面接官、まだ何かるあるようですね」

「仕方ないので面接を続けますか………貴方を採用した場合、弊社にはどの様なメリットが生まれますか?」

「えっと?えっと?アタシは魔法が使えます」


「キジさんはどの様な魔法が使え、それをどの様に弊社に活かして下さいますか?」

「えっと、アーパーラリパッパコーセ使って、敵をやっつけれます」

「犬面接官、ら抜き言葉が飛び出しましたよ」

「お爺さん面接官、ら抜き言葉が飛び出しましたね」

「え、アタシまた失敗しました?」

 お爺さんは若者の言葉の乱れを肌に感じていました。


「受け答えには不安がありますが、もしかしたら何か、特技をお持ちかもしれませんし、確認してみましょう。履歴書と職務経歴書をお出し下さい」

「リレキショ?ショクムケイレキショ?」

「犬面接官、どうやら彼女は着の身着のままで、フラッと弊社の面接にお越しいただいたみたいですよ」

「お爺さん面接官、どうやら彼女は着の身着のままで、フラッと弊社の面接にお越しいただいたみたいですね」

「え、なんかヤバいんですか?」


「志望動機は不純、言葉遣いは乱暴、持ち物はなし………雉さんはちょっとご縁がなかったという事で、これからのご活躍をお祈りしておきます」

「え、あれ?アタシ仲間じゃないんですか?」

「まぁお爺さん1人いたら、鬼ぐらいやっつけられるしね」

「えーやだやだ!アタシもいっしょがいいですー!」


「うわ、うぜぇ!小さいガキだったらともかく、この大きさの女が捏ねるだだとか可愛くねぇ!」

「駄目だよお爺さん。女はいつまで経っても、心は女の子なんだよ」

「うっせぇ!そんな妄言は聞き飽きた!年甲斐のないアホ女は1人残らず死滅しろ!」


「わー!アホって言われた!ヒドイですヤマトーさん!」

「うっせぇアーパークソビッチギャル!お前みたいなアホ女いらんわボケ!」

「またアホって言ったー!っていうかヤマトーさん、いっつもアタシとシャーシャで態度がちがうし!ヤマトーさんのロリコン!」


「俺は不利になったら、論点をすり替えて相手を批難する輩が嫌いだ!だいたいこの世界で、最高の宝物であるシャーシャちゃんに、相応の対応をするのは当たり前だ!そもそも自分を同格に置くとか厚かましいぞ、このアーパークソビッチギャル!着いてくんじゃねぇ!」

 お爺さんは犬だけを連れて、キジを置いて逃げ出しました。


「ぬ!………我の出番は?」

 猿は遠ざかるお爺さんの背を目にし、あまりの扱いに一人打ち震えました。




 お爺さんは犬と共に鬼ヶ島へと旅立ちました。

 いよいよ最終決戦の時です。

「よく考えたら俺、鬼が無体を働いているとか、そういう情報を収集してないな。なのになんで鬼ヶ島まで来たんだろうな」

「お爺さんは痴呆症と徘徊癖を併発してるから、理由なんてないんじゃないかな」

「あぁ悲しいなぁ悲しいなぁ」

 お爺さんは冷静に自分の評価を振り返らされて、1人大粒の涙を流しました。


「たしか鬼って平和に暮らす臣民を襲い、金銀財宝を簒奪し、暴虐の限りを尽くした典型的アメリカ人だよな」

「でも金銀財宝は元々鬼達の持ち物だったって話もあるよね」

「税も収めていない不法占拠者の言い分等聞く耳持たんぞ。だいたい住み着いている間の食事はどうしていたんだ。霞でも食ってたのか。明らかに周辺の土地から奪ってる。根絶やしにしてやるぞクソメリケン共め」


「自然になってるものを取ってたのかも」

「自然のものは本来、その土地の所有者のものだ。お前は自分の家に強盗が押し入って、家の物を根こそぎ持っていっても、そこにあった物を持っていっただけだと言われれば見逃すのか」

「ぶっ殺すに決まってるさ」

「あぁ、ぶっ殺してやろうじゃないか」

 お爺さんは鼻息も荒く、歩みを進めます。


「けど、桃太郎って正義の人なんじゃないの?なんでそんな血生臭いのさ?」

「まず第一に俺は日本一の桃太郎じゃない。第二に正義とか悪とかは、決別の時に使われる言葉だ。である以上は血生臭いのは当然だ。何より正義を語る奴はどこか狂気的なものだ。この世に絶対正義等ありえん以上、正義は排他の尊敬語で、悪はその謙譲語に過ぎん」

 お爺さんは中二病みたいな事を、得意気に言っています。


「立派な門構えだな」

 純和風な両開きの門が、お爺さん達の行く手を阻んでいました。

「原作だと、雉が偵察して、猿が裏に回って、門の閂を開けてくるんだったか?」

「雉も猿もいないね」


「全く、ミミカカはともかくグララは、何処をほっつき歩いてるんだ」

「ぬ!全く納得いかんのだ!」

「お、なんか聞こえてきたぞ?」

「いないものとして扱おう、あれは魔法使いのお姉さんじゃなくて空耳だよ」

 お爺さんは痴呆症と徘徊癖に加え、難聴まで併発した三冠王となりました。


「まぁ門を開ける手段を考えないとな………こんにちわー、消防署の方から消火器の点検にお伺いしましたー」

 お爺さんは言葉巧みに鬼の住居に押し入ろうとしました。

「こんにちわー、ちょっとよろしいですかー?私青森の方から、美味しいリンゴジュースを販売に来ました。青森産のリンゴを100%使った、美味しいジュースですよー。1リットル900円でご購入されませんかー?」

 お爺さんは手を変え品を変え、鬼に迫ります。


「こんにちわー、受信料の徴収に来ましたー。受信料の支払いは国民の義務でーす。深夜だろうが、男性立ち入り禁止の場所だろうが、なんだろうが押し入る権利がありまーす。………おい開けろコラ!居留守使ってんじゃねぇぞ!俺を誰だと思ってやがる!なめたら殺すぞボケが!逆らう奴は裁判するぞオラ!受信料払わねぇとぶっ殺すぞ!集金人に逆らっていいと思ってんのかゴラ!」

 お爺さんは大声で怒鳴りながら、門を狂った様に蹴りまくりました。


「おいゴラ!中から音楽が聞こえてきたぞ!使用料払えやボケが!うちが管理してる音楽の一部でも使ったら、ケツの毛まで引っこ抜いて、二度と人の目を見ながら話ができない様な目に遭わせてやる!ヤクザなめんじゃねぇぞ!俺に逆らって生きていけると思ってんのか!ぶっ殺すぞ!死にたくなけりゃ開けろ!ぶっ殺されたいかてめぇ!」

 お爺さんは最早完全にキチガイそのものでした。


「こんにちわー。ちょっとお時間よろしいですかー?私目覚めよって宗教の………いや、いくらなんでもこれはよくないな。俺は宗教なんて大嫌いだし………代わりに何にしようかなー。聖なる教えが載ってる新聞をご購読されませんかー?………結局宗教だな。他に人の迷惑顧みず、家まで押し入ってくる連中って、空き巣か強盗以外になんか居たっけか?」

 お爺さんはとにかく狂った様に、門を叩きまくりました。


「お爺さん、なんか執拗で怖いんだけど?」

「勧誘っていうのはとにかく執拗なもんなんだよ。なんてったって、勧誘のコツは相手が折れるまで続ける事だからな。身の危険を覚えるまで追い詰めるのが基本だし。最終的に同意が得られれば、それまでの手段は一切問わないんだよ。アイツらの信じる神とやらが、いかに碌でもないものなのかよくわかるよな」

「神様って怖いだねぇ」


「人間幸せに生きたかったら、特定の宗教・政党・結社・団体・マルチ購等に、関わらないに越した事はない。もし家族が関わってた場合、人生がハードモードで始まってるから、とにかく家族と離縁する事を目指して、難易度変更する事が肝要………オラ、居るのはわかってんだぞ!とっとと出てこいや!殺すぞボケ!居留守使ってんじゃねぇぞ!火点けんぞオイ!誰の死体かわからねぇ様な殺し方してやろうか!」

「………うるさい」


 その時、お爺さんの巧みな話術に騙されたのか、はたまたそのしつこさに観念したのか、門が開かれました。

「おぉ、門が開いたぞ。誠意を持って話せば通じるんだなぁ」

「よく言うよ。お爺さんが一番そう思ってない癖に」

「全ての宗教がこの世から滅びればいいと思う………おっと、鬼を無視しちゃいけないな」


 お爺さんは開いた門から、中を除きました。

 ですが何故か除いた先に、鬼の顔は見当たりません。

「ん?独りでに門が開いたのか?」

「お爺さん、下さ。下を見て」

「下?」


 お爺さんが視線を下ろすと、自分を見上げる瞳とぶつかりました。

 星の浮かんだ澄んだ瞳。

 輝くサラサラの髪。

 輝く白い肌。

 耳に染み渡る美しい声。

 鬼の正体はマホショージョでした。

 

「おぉ、鬼役はシャーシャちゃんでしたか。戦闘力から言ったらこれ以上なく妥当ですね」

「………わたし怒ってる」

「あぁ、門前で騒ぎ立てたのは、平にご容赦を」

「………それじゃない」


「それじゃない?どうしたんですか?」

「………お爺さんね、わたしにね、おるすばんしててね、言ったからね、ずっと待ってたのにね、ずっと帰ってこなかったの。だから怒ってるの」

 鬼はプンプンと怒っていました。

「おぉーう、鬼は鬼でも鬼嫁だったか」

 お爺さんはお婆さんの額に、角が生えているのを幻視しました。


「お爺さん、どうするの?鬼を倒すの?」

「馬鹿を言うな。大事な大事な嫁さんを倒す訳がないだろ。それにシャーシャちゃん相手に戦いになったら、必勝とは行かんぞ。戦いとは決して一か八か、伸るか反るかの博打で挑むものではない。準備を万端に整えて、勝つ算段を整えて、初めて挑むべきものだ」

 お爺さんは偉そうに言いながら盛大に日和りました。


「じゃあどうやってお話を終わらせるのさ?」

「ん、話はもう終わってるじゃないか?」

「え、なんで?」

「桃太郎のラストってどうなったか知ってるか?」

「鬼退治した桃太郎が、財宝を持ち帰って、めでたしめでたし?」


「うむ。お爺さんである俺は、鬼ヶ島まで移動した。つまりは鬼の財宝は手元にある状態だ。そして愛するお婆さんも目の前に居る。つまり後は、このままここで生活したら………」

 お爺さんとお婆さんは末永く幸せに暮らしましたとさ。

 めでたしめでたし。




「アタシの出番は?」

「我の出番は?」

 めでたしめでたし。





■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

おまけ

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ヤマトーラフイラスト1

挿絵(By みてみん)


ヤマトーラフイラスト2

挿絵(By みてみん)


17/6/17 投稿

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