<★>日本男子達と桃太郎
イラスト有り
投稿を始めて1年が経過したので記念の番外編
やがーてやがーて、あるところに。
ヤマトーさんというお爺さんがいました。
「え、俺お爺さんなの?」
お爺さんは自分が年を取った事を、頑なに認めない、偏屈な人物でした。
「うわ、その言い草納得行かねぇ!」
お爺さんは不満げに漏らしました。
「ところで、お婆さん役はいないのか?まぁ少人数だから、省けるところは省いていく方針なのか?」
「おばあちゃんでーす」
「お婆さんなのだ!」
「………おばあちゃん」
「おい、なんかババアのハーレムが出来上がったぞ!」
「だまされないでお爺さん!本物のおばあちゃんはアタシです!」
「ミミカカ殿が言っておるのは嘘なのだ!この我こそが本物のお婆さんなのだ!」
「………みんなちがう。本物はわたし」
「なんか俺を差し置いて争いが始まったんだけど!」
いやぁ、お爺さんも隅に置けないねぇ?
「姿が見えないと思ったら、ナレーターはナーナちゃんか!」
登場人物のメタ発言は、ボク好きじゃないなぁ♪
「ばたんきゅー!」
「強すぎるのだ!」
「………勝った」
「しかもちょっと目を話した隙に、他のお婆さんが瞬殺されてる!流石はシャーシャちゃんです!僕の自慢の妻です!世界で1番の宝物です」
お爺さんはお婆さんの事が大好きでした。
「うー、ヤマトーさんの妻役やりたかったー」
「ぬー!無念なのだ!」
2人は誰もが羨むおしどり夫婦でしたが、子宝には恵まれませんでした。
「おぉ、桃太郎の登場をアシストするいいつなぎだな………ん?」
あれ、お爺さん、どうしたの?
「あぁ、いや、たしか桃太郎って………桃食って、絶倫になった2人が、ハッスルして授かった子供だったよな?よくそんな濡れ場のある、赤裸々な役をやりたがるなぁと思ってな」
「濡れ場もあったのか!クソ!」
「おのれ!全く口惜しいのだ!」
お爺さんに見初められなかったお婆さん達は、悔しそうにしていました。
「そこまで悔しがるとは………女の顕示欲というのは実に恐ろしいな」
若干天然入ってるお爺さんは、お婆さん達の争いの理由を勘違いし、勝手に恐れを成していました。
「………あのね、あのね、お兄ちゃん………じゃなくてお爺さん?」
「はい、なんですかお婆さん?」
「………濡れ場って何?」
「足元が濡れていて滑って危ない場所の事ですよ。今日もお婆ちゃんは可愛いですね。いつまでも僕の最愛の人でいて下さい」
「………うん?」
うまくはぐらかしたお爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯へ行きました。
ですがお婆さんは家から出て、すぐに家に引き返そうとしました。
「ん、どうしたんですか、お婆さん?」
怪訝に思ったお爺さんは、お婆さんに尋ねました。
「………あのね、洗濯物がないの」
「あぁ、僕達はいつでも安心・安全・高品質・着心地抜群で清潔な、日本製の衣服に身を包んでいますからね。汚れ物がない以上、洗濯しに行く必要がないのは納得です」
「ん?じゃあ肝心の桃が登場しない事にならないか?プロットが破綻してないか?」
桃はお爺さんの方に登場させるから安心してね。
「ふむ?じゃあ気を取り直して芝刈りに行くか。お婆さん、いい子でお留守番してて下さいね」
お爺さんはシトーのマチェットを構えて、山へと踏み入りました。
「ところで、俺はなんで芝なんて刈ろうと思ったんだ?火なんて魔法で点けられるのに」
お爺さんは痴呆症なのか、徘徊癖があるのか、自分が山に居る理由を説明できませんでした。
「酷ぇ言われようだ。まぁ目的もなく、剥き出しのマチェットを構えて立ってるんだから、その誹りは甘んじて受けよう」
挙動不審かつ危険度爆発のお爺さんの元に、大きな桃がどんぶらこ~どんぶらこ~と流れてきました。
「ちょっと待て!」
何か?
「なんで木々に囲まれた俺の元に桃が流れてくるんだ?」
え?そもそも桃が川を流れてくるのだって、よくわからないと思うよ。
別に桃が山の中に突如現れても、大差ないと思うんだけどなぁ。
「多少頷けるところはあったが、だからと言ってこんな怪奇物質が認められるか!」
桃は風を切りながら、お爺さんの元に辿り着こうと、独りでに宙を飛び交います。
「桃が風を切って独りでに飛び交うってどういう事だよ!」
ひゅん!ひゅん!ひゅん!ひゅん!
「怖ぇ!怖ぇ!顔面めがけて、バスケットボールよりデケェ桃が迫ってくんの怖ぇ!」
ひゅん!ひゅん!ひゅん!ひゅん!
四方八方から躍りかかる桃に、お爺さんは防戦一方です。
「おかしいだろ!なんでお爺さん役の俺にアクションシーンがあるんだよ!あとついでに、この桃、すれ違うときにどんぶらこ~って、ドップラー効果を響かせながら、過ぎ去っていくんだけど!どんぶらこって何の音なんだよ!」
そんなこと聞かれても、ボクにはわからないよ。
「どんぶらこっていうのは、大きな物が水に浮き沈みする様を指すどんぶりに、接尾辞である”こ”を付けた言葉だ!平べったい様子を表すぺたんこや、ぶつかった様子を表すごっつんこと同様の言葉だ!なんでこの桃は馬鹿正直に、どんぶらこなんて音を響かせてるんだ!」
お爺さんは文系なツッコミをしながら、桃を回避していました。
「えぇい!こんな殺人桃が居る空間に一緒に居られるか!俺は1人で旅に出る!誰もついてくるな!」
お爺さんは推理モノで次の犠牲者が言いそうな台詞を残し、山から逃げ出しました。
1人旅に出かけたお爺さんの元に、1匹の犬が現れました。
「お~じいっさんっ♪おっじっいさん~♪お腰に付けたシトーを~♪一振りワッタシ~にくっださ~いな~♪」
「よぉナーナちゃん。1人2役とは忙しいな」
まぁね。
「まぁそれはいいから、シトーちょうだい。シトーがあったら鬼なんか余裕さ」
「昔話に出て来る鬼とか天狗というのは、日本の僻地に勝手に住み着いた、外国人の事じゃないかって話もあるしな。シトーがあれば問題なく皆殺しに出来るな」
「という訳でシトーを下さいな♪」
「うむ、神国ニホから悪の不法占拠者共を根絶やしにする為に協力してくれるか」
お爺さんは芝刈りの為に持ち出した、刃物コレクションを犬に披露しました。
「このククリマチェットはどうだ?先の膨らんだ形状から、斧の様な打撃力が期待できる逸品だぞ?それともこっちのソーバックのマチェットがいいか?背面が鋸歯になってて威圧感抜群だぞ?」
お爺さんの声には、コレクターにありがちな、自分のコレクションを自慢する響きがありました。
犬は精神的に大人だったので、笑顔でうんうん頷いて聞いてあげました。
「女の話は適当に頷いてりゃいいって言うけど、アレは建設的な話を殆どしないからって事だな。つまり男の話でも管巻いてる時なら、適当に聞き流してりゃ会話は成り立つ」
「自分で言ってたら、世話がないと思うなぁ、お爺さん」
割りとお爺さんは自分を客観視できる人だったようです。
「まぁ薀蓄も語れたし満足だ。適当に気に入った物を選ぶといい」
「もう、お爺さんったらノリが悪いなぁ。ボクはオペラ風に歌いながらねだったんだから、同じ様に返してよ」
「え、アレやんの!」
おじいさんは目をそらしながら赤面しました。
「しゃーねぇなぁ………んん!ゴホッ!ゴホッ!んん!あー、あー………ぁ、ぁ…げましょ…ぁげましょぉ」
「声小さーい」
犬は声が急に声が小さくなったお爺さんをいじり倒しました。
「あぁ酷ぇ目に遭った………ボッチに人前で歌えは難易度高い」
「声張ったらいいのにさ。裏声出すのうまいんだし」
「え、なんでお前が俺の裏声知ってんの?」
「1人になったらよく歌ってるじゃない。ボク、耳がいいから聞こえるんだよ」
「うわ、アレ聞かれてたのか!」
「女の子の声出してるときの声、すごい萌え声だよね」
「ぎゃー!やーめーてー!」
「女のボクでもなかなか出せる声じゃないよ」
「聞こえない聞こえない!」
「1人で歌ってる時はあんなにノリノリなのに」
「かくなる上はお前を亡き者にして、情報ごと葬り去って!」
「みんな知ってると思うけど?」
「全員に聞かれてたのか!死にたい!俺死にたい!」
お爺さんは恥じ入りました。
「………ぷい」
「お爺さん、かわいく拗ねてる場合じゃないよ。まだまだお爺さんが来るのを待ってる仲間がいるのさ」
「はー………猿と雉の事か。俺桃太郎じゃなくてお爺さんなんだけど」
「ヤマトーさん、ヤマトーさん。鬼退治にアタシも連れてってください」
早速、雉が鬼退治に協力を申し出てきました。
「あぁ、ミミカカは偽お婆さん兼、雉なのか」
「ボク以外で空を飛べるのは、お姉さんだけだったからね」
「じゃあ採用試験を行うか………本日は弊社の、鬼退治プロジェクトの面接にお越しいただき、真にありがとうございます」
「え、ぷろじぇくと?面接?」
「人事のお爺さんです」
「犬です」
「き、キジです」
「どうぞお掛け下さい」
「え、どこに座るんですか?」
雉の採用面接が始まりました。
「早速でございますが、志望の動機をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「シボーノドーキ?」
「なんで俺に着いてくんの?」
「えっと、なんか皆やってて楽しそうだし」
「犬面接官、なんか頭の悪そうな志望動機が飛び出しましたよ」
「お爺さん面接官、なんか頭の悪そうな志望動機が飛び出しましたね」
「犬面接官、お帰りいただきますか」
「お爺さん面接官、お帰りいただきますか」
「わ、待って!待ってください!」
「犬面接官、まだ何かあるようですよ」
「お爺さん面接官、まだ何かるあるようですね」
「仕方ないので面接を続けますか………貴方を採用した場合、弊社にはどの様なメリットが生まれますか?」
「えっと?えっと?アタシは魔法が使えます」
「キジさんはどの様な魔法が使え、それをどの様に弊社に活かして下さいますか?」
「えっと、アーパーラリパッパコーセ使って、敵をやっつけれます」
「犬面接官、ら抜き言葉が飛び出しましたよ」
「お爺さん面接官、ら抜き言葉が飛び出しましたね」
「え、アタシまた失敗しました?」
お爺さんは若者の言葉の乱れを肌に感じていました。
「受け答えには不安がありますが、もしかしたら何か、特技をお持ちかもしれませんし、確認してみましょう。履歴書と職務経歴書をお出し下さい」
「リレキショ?ショクムケイレキショ?」
「犬面接官、どうやら彼女は着の身着のままで、フラッと弊社の面接にお越しいただいたみたいですよ」
「お爺さん面接官、どうやら彼女は着の身着のままで、フラッと弊社の面接にお越しいただいたみたいですね」
「え、なんかヤバいんですか?」
「志望動機は不純、言葉遣いは乱暴、持ち物はなし………雉さんはちょっとご縁がなかったという事で、これからのご活躍をお祈りしておきます」
「え、あれ?アタシ仲間じゃないんですか?」
「まぁお爺さん1人いたら、鬼ぐらいやっつけられるしね」
「えーやだやだ!アタシもいっしょがいいですー!」
「うわ、うぜぇ!小さいガキだったらともかく、この大きさの女が捏ねるだだとか可愛くねぇ!」
「駄目だよお爺さん。女はいつまで経っても、心は女の子なんだよ」
「うっせぇ!そんな妄言は聞き飽きた!年甲斐のないアホ女は1人残らず死滅しろ!」
「わー!アホって言われた!ヒドイですヤマトーさん!」
「うっせぇアーパークソビッチギャル!お前みたいなアホ女いらんわボケ!」
「またアホって言ったー!っていうかヤマトーさん、いっつもアタシとシャーシャで態度がちがうし!ヤマトーさんのロリコン!」
「俺は不利になったら、論点をすり替えて相手を批難する輩が嫌いだ!だいたいこの世界で、最高の宝物であるシャーシャちゃんに、相応の対応をするのは当たり前だ!そもそも自分を同格に置くとか厚かましいぞ、このアーパークソビッチギャル!着いてくんじゃねぇ!」
お爺さんは犬だけを連れて、キジを置いて逃げ出しました。
「ぬ!………我の出番は?」
猿は遠ざかるお爺さんの背を目にし、あまりの扱いに一人打ち震えました。
お爺さんは犬と共に鬼ヶ島へと旅立ちました。
いよいよ最終決戦の時です。
「よく考えたら俺、鬼が無体を働いているとか、そういう情報を収集してないな。なのになんで鬼ヶ島まで来たんだろうな」
「お爺さんは痴呆症と徘徊癖を併発してるから、理由なんてないんじゃないかな」
「あぁ悲しいなぁ悲しいなぁ」
お爺さんは冷静に自分の評価を振り返らされて、1人大粒の涙を流しました。
「たしか鬼って平和に暮らす臣民を襲い、金銀財宝を簒奪し、暴虐の限りを尽くした典型的アメリカ人だよな」
「でも金銀財宝は元々鬼達の持ち物だったって話もあるよね」
「税も収めていない不法占拠者の言い分等聞く耳持たんぞ。だいたい住み着いている間の食事はどうしていたんだ。霞でも食ってたのか。明らかに周辺の土地から奪ってる。根絶やしにしてやるぞクソメリケン共め」
「自然になってるものを取ってたのかも」
「自然のものは本来、その土地の所有者のものだ。お前は自分の家に強盗が押し入って、家の物を根こそぎ持っていっても、そこにあった物を持っていっただけだと言われれば見逃すのか」
「ぶっ殺すに決まってるさ」
「あぁ、ぶっ殺してやろうじゃないか」
お爺さんは鼻息も荒く、歩みを進めます。
「けど、桃太郎って正義の人なんじゃないの?なんでそんな血生臭いのさ?」
「まず第一に俺は日本一の桃太郎じゃない。第二に正義とか悪とかは、決別の時に使われる言葉だ。である以上は血生臭いのは当然だ。何より正義を語る奴はどこか狂気的なものだ。この世に絶対正義等ありえん以上、正義は排他の尊敬語で、悪はその謙譲語に過ぎん」
お爺さんは中二病みたいな事を、得意気に言っています。
「立派な門構えだな」
純和風な両開きの門が、お爺さん達の行く手を阻んでいました。
「原作だと、雉が偵察して、猿が裏に回って、門の閂を開けてくるんだったか?」
「雉も猿もいないね」
「全く、ミミカカはともかくグララは、何処をほっつき歩いてるんだ」
「ぬ!全く納得いかんのだ!」
「お、なんか聞こえてきたぞ?」
「いないものとして扱おう、あれは魔法使いのお姉さんじゃなくて空耳だよ」
お爺さんは痴呆症と徘徊癖に加え、難聴まで併発した三冠王となりました。
「まぁ門を開ける手段を考えないとな………こんにちわー、消防署の方から消火器の点検にお伺いしましたー」
お爺さんは言葉巧みに鬼の住居に押し入ろうとしました。
「こんにちわー、ちょっとよろしいですかー?私青森の方から、美味しいリンゴジュースを販売に来ました。青森産のリンゴを100%使った、美味しいジュースですよー。1リットル900円でご購入されませんかー?」
お爺さんは手を変え品を変え、鬼に迫ります。
「こんにちわー、受信料の徴収に来ましたー。受信料の支払いは国民の義務でーす。深夜だろうが、男性立ち入り禁止の場所だろうが、なんだろうが押し入る権利がありまーす。………おい開けろコラ!居留守使ってんじゃねぇぞ!俺を誰だと思ってやがる!なめたら殺すぞボケが!逆らう奴は裁判するぞオラ!受信料払わねぇとぶっ殺すぞ!集金人に逆らっていいと思ってんのかゴラ!」
お爺さんは大声で怒鳴りながら、門を狂った様に蹴りまくりました。
「おいゴラ!中から音楽が聞こえてきたぞ!使用料払えやボケが!うちが管理してる音楽の一部でも使ったら、ケツの毛まで引っこ抜いて、二度と人の目を見ながら話ができない様な目に遭わせてやる!ヤクザなめんじゃねぇぞ!俺に逆らって生きていけると思ってんのか!ぶっ殺すぞ!死にたくなけりゃ開けろ!ぶっ殺されたいかてめぇ!」
お爺さんは最早完全にキチガイそのものでした。
「こんにちわー。ちょっとお時間よろしいですかー?私目覚めよって宗教の………いや、いくらなんでもこれはよくないな。俺は宗教なんて大嫌いだし………代わりに何にしようかなー。聖なる教えが載ってる新聞をご購読されませんかー?………結局宗教だな。他に人の迷惑顧みず、家まで押し入ってくる連中って、空き巣か強盗以外になんか居たっけか?」
お爺さんはとにかく狂った様に、門を叩きまくりました。
「お爺さん、なんか執拗で怖いんだけど?」
「勧誘っていうのはとにかく執拗なもんなんだよ。なんてったって、勧誘のコツは相手が折れるまで続ける事だからな。身の危険を覚えるまで追い詰めるのが基本だし。最終的に同意が得られれば、それまでの手段は一切問わないんだよ。アイツらの信じる神とやらが、いかに碌でもないものなのかよくわかるよな」
「神様って怖いだねぇ」
「人間幸せに生きたかったら、特定の宗教・政党・結社・団体・マルチ購等に、関わらないに越した事はない。もし家族が関わってた場合、人生がハードモードで始まってるから、とにかく家族と離縁する事を目指して、難易度変更する事が肝要………オラ、居るのはわかってんだぞ!とっとと出てこいや!殺すぞボケ!居留守使ってんじゃねぇぞ!火点けんぞオイ!誰の死体かわからねぇ様な殺し方してやろうか!」
「………うるさい」
その時、お爺さんの巧みな話術に騙されたのか、はたまたそのしつこさに観念したのか、門が開かれました。
「おぉ、門が開いたぞ。誠意を持って話せば通じるんだなぁ」
「よく言うよ。お爺さんが一番そう思ってない癖に」
「全ての宗教がこの世から滅びればいいと思う………おっと、鬼を無視しちゃいけないな」
お爺さんは開いた門から、中を除きました。
ですが何故か除いた先に、鬼の顔は見当たりません。
「ん?独りでに門が開いたのか?」
「お爺さん、下さ。下を見て」
「下?」
お爺さんが視線を下ろすと、自分を見上げる瞳とぶつかりました。
星の浮かんだ澄んだ瞳。
輝くサラサラの髪。
輝く白い肌。
耳に染み渡る美しい声。
鬼の正体はマホショージョでした。
「おぉ、鬼役はシャーシャちゃんでしたか。戦闘力から言ったらこれ以上なく妥当ですね」
「………わたし怒ってる」
「あぁ、門前で騒ぎ立てたのは、平にご容赦を」
「………それじゃない」
「それじゃない?どうしたんですか?」
「………お爺さんね、わたしにね、おるすばんしててね、言ったからね、ずっと待ってたのにね、ずっと帰ってこなかったの。だから怒ってるの」
鬼はプンプンと怒っていました。
「おぉーう、鬼は鬼でも鬼嫁だったか」
お爺さんはお婆さんの額に、角が生えているのを幻視しました。
「お爺さん、どうするの?鬼を倒すの?」
「馬鹿を言うな。大事な大事な嫁さんを倒す訳がないだろ。それにシャーシャちゃん相手に戦いになったら、必勝とは行かんぞ。戦いとは決して一か八か、伸るか反るかの博打で挑むものではない。準備を万端に整えて、勝つ算段を整えて、初めて挑むべきものだ」
お爺さんは偉そうに言いながら盛大に日和りました。
「じゃあどうやってお話を終わらせるのさ?」
「ん、話はもう終わってるじゃないか?」
「え、なんで?」
「桃太郎のラストってどうなったか知ってるか?」
「鬼退治した桃太郎が、財宝を持ち帰って、めでたしめでたし?」
「うむ。お爺さんである俺は、鬼ヶ島まで移動した。つまりは鬼の財宝は手元にある状態だ。そして愛するお婆さんも目の前に居る。つまり後は、このままここで生活したら………」
お爺さんとお婆さんは末永く幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
「アタシの出番は?」
「我の出番は?」
めでたしめでたし。
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おまけ
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ヤマトーラフイラスト1
ヤマトーラフイラスト2
17/6/17 投稿