日本男子、咆哮する
俺は今、感情を持て余していた。
魔法について考えたり。
ミミカカと険悪になったり。
ナーナちゃんが飛んできたり。
グララがいらない傷を負ったり。
お菓子食べてサンダル作ってゆっくりしたり。
町まで来るのにえらく時間がかかったもんだ。
あぁ、この言い方はよくないな。
こういう他人事みたいな、当事者意識のない言葉を吐くのは、無意識下の認識の発露だ。
別に意図はないんだが、単純に考えが足りなかった。
ここまで時間がかかったのは、短絡的にはグララ1人に理由は集中している。
歩き慣れてない。
体力ない。
靴はサンダル。
とはいえ、そんなのは最初からわかりきってるんだ。
対策を練らなかった俺の落ち度だ。
俺は偉大な日本の輝ける工業製品を使っているから、特にサンダルの負担に気付かなかった。
そういえばこの「偉大な日本の輝ける工業製品」ってフレーズ、俺だけのものじゃなくなったな。
ナーナの装備も全身、偉大な日本の輝ける工業製品だ。
眩しさ2乗で失明の危険があるレベル。
このナーナちゃん、1つだけ俺ですら目を剥く超性能装備を持ってた。
俺の背負った背嚢より一回り小さい、同型の背嚢だ。
俺の背嚢には「保存・復元・複製」の機能があった。
まぁ本来これだけでも十分驚異的な性能なんだが。
ナーナちゃんの背嚢には、それすら霞んで見える機能があった。
チョコパフェを思い浮かべながら手を突っ込んでみたら、思い浮かべた通りのチョコパフェが手に入った。
和菓子だろうが洋菓子だろうが思いのまま。
際限なくお菓子を取り出せたから、お菓子パーティーにした。
シャーシャちゃんはチョコパフェを気に入ったのか、パクパク食べてたのが印象的。
ふと顔を上げたシャーシャちゃんは、俺の視線に気付くと幸せそうにニッコリはにかんできた。
大変可愛らしい。
俺は取り出した3色団子にかじりつきながら、見るとはなしにそれを見ていた。
ほんのり甘くて、もちもちしていて、桜色で、白色で、薄緑色で。
地域の大型スーパーにある様な、1パック100円もしない様な安い3色団子。
甘党なので羊羹やみたらし団子も好きなのだが、1番はこの3色団子かもなぁ。
そんな安上がりな幸せを享受しながら、並行してナーナちゃんの背嚢の機能を確かめる。
お菓子以外には何が出せるのか。
本人は何でも入ってると言った。
じゃあ本当に何でも入ってるんだろう。
最初にお菓子を取り出したのは性質の見極めの為だ。
焼き菓子はともかく、生菓子では保存の関係上、最初から入ってただけというのがあり得ない。
取り出したチョコパフェとプリンサンデーは冷たかった。
というか旅する事が決まって、持ち物にチョコパフェを入れる馬鹿はこの世にいないと思う。
ならつまり、チョコパフェ達は、この背嚢の中には入ってなかった。
ナーナちゃんの背嚢の機能は無限の収納力じゃない。
本当の機能は、望んだ物を取り出す機能だ。
脳内にテトラポットを思い描いてみて、手にずっしりした重みを感じた時点でイメージを霧散させる。
重量に制限なし。
次に大きさの制限を確認しようと思った。
背嚢より大きなもの?
それ、どうやって取り出すんだ?
とりあえず収まっている筈がない長い物を想像すればいいか。
3メートルの物干し竿をイメージする。
背嚢からするすると取り出してみると、明らかに背嚢より長い。
もう用がないので手放そうと思ったが、背嚢の中に戻らない。
どうやら1度実体化した以上、もう戻ってくれないらしい。
………物干し竿なんていらないんだが。
光学迷彩で隠匿し、重力追放でお空の彼方へ送り出す。
宇宙人への友好の証としてプレゼント。
ありがたく受け取るがいい。
次は小烏丸造の日本刀を取り出す。
おぉ、ちゃんと取り出せたな、結構不安があったんだが。
何せ俺、日本刀に詳しくない。
小烏丸造について知ったのは古いゲームの攻略本だ。
武器アイテムの解説に、挿絵と説明が充実していて、雑学的に面白かった。
刀でありながら両刃という、特異な性質を持っているのが好きで覚えてた。
だから他の刀については天下五剣だろうが、どんな造になってるのかわからない。
日本が好きなんだったら、日本刀とか好きなんじゃないのかって?
刃物コレクターとして、日本刀にはそれなりに興味はあるが、手にする事はなかった。
本物の日本刀は持ってるだけで税金がかかるからだ。
別に大して欲しくないものに、そんな大枚をはたく気はしない。
そう。
実は俺、武士というものはそれほど好きじゃなかったりする。
というか大抵の武士は嫌いだ。
好きな戦国大名とかもいない。大体嫌いだ。
というのも武士階級というのは、基本的に代々の天皇陛下と敵対する存在だからだ。
名立たる武士とはつまり、天皇陛下の御威光を無視し、天下を勝手に乱した逆賊だ。
戦国大名・将軍等以ての外。徳川家の連中は弑すべき連中だ。
だが俺も、全ての武士が嫌いな訳じゃない。例外的に好きな侍もいる。
まずは忠臣蔵で有名な、大石内蔵助が率いた赤穂浪士の面々だ。
一応何を成した人達なのか説明しておこう。
亡き主君の為に敵討ちを遂げた、現代にも知られた忠勇義烈な武人達だ。
討ち入り参加者は、全員死罪となるにも関わらず、敵討ちを成したのだ。
この時代は喧嘩両成敗と言って、争った両方に沙汰がなければならない。
にも関わらず時の将軍は、赤穂の殿である浅野内匠頭のみに切腹を命じた。
赤穂浪士はこの沙汰を片手落ちであるとし、自らの手で喧嘩の相手である吉良を討っている。
つまりは思い上がったクソ幕府の、クソ将軍の、クソ徳川に、真っ向から否定を叩きつけている。
なんで俺が例外的に赤穂浪士は好きなのかと言えば、幕府の権威というものを真っ向から否定しているからだ。
他に好きな武士といえば、もうおわかりかもしれないが、幕末志士だ。
流石にあまり説明はいらないと思う。
クソ頼りなく、クソ意地汚く、クソ役に立たない、クソ幕府から天皇陛下へ、政権返上させた名立たる偉人達である。
もし万が一薩摩藩と長州藩の偉人がいなければ、日本はクソ外国共の植民地支配を受けていたかもしれないのだ。
今ある日本を形作ってくれた、大変お有り難い人達である。
ついでに嫌いな武士といえば、足利だったり徳川だったりする、天皇陛下をないがしろにして将軍を名乗った連中。
後は織田を始めとした、名の知れた戦国大名達。天皇陛下を差し置いて天下等と烏滸がましいにも程がある。
そして極めつけは狂人集団・新撰組だ。もし万が一この狂人達が勝っていれば、今の日本の栄光はなかっただろう。
まぁそういう訳で武士は嫌いだ。
日本刀という、刀剣史上最高の完成度を誇る芸術品には興味があるが、歴史的背景を考慮すると手放しで好きとはいえない。
はい、閑話休題。
次に89式小銃を取り出そうとする。
自衛隊で制式採用されているあのライフルだ。セレクターに「アタレ」と書いてある。
ちなみに「アタレ」は、投げ遣りに「当たって欲しい」と言ってるのではない。
・安全(引き金を引いても弾が出ない)
・単発(引き金を引くと弾が1発出る)
・連射(引き金を引いてる間弾が出る)
それぞれの頭文字だ。
こういう頭文字で単語を成す事を頭字語という。
頭字語で別の単語を形作る、一種の洒落、言葉遊びには情緒を感じる。
特に射撃武器に「アタレ」と書いてある辺りには、どこか優雅さすら覚える。
この89式小銃の召喚は、半分成功・半分失敗に終わった。
間違いなく89式小銃は出てきた。
俺のよく知っている物と、寸分違わない物だった。
………つまりは俺の持ってたのと同型の、電動エアガンが召喚された。
実銃を手にした事なんてないので、ある意味当然の結果か。
やはりわかった事がある―――魔法だ。
背嚢そのものが、奇跡の魔法の媒介となっている。
イメージした物を取り出す魔法が背嚢にかかっている。
効果は違えど、俺の背嚢と同じだ。
俺の持ち物には全て、奇跡の魔法がかかっている。
背嚢は入れた物の状態を保存し、復元する。
刀剣類は石の塊すら切り裂き、突き通す。
医薬品類はたちまちに傷を治す。
衣服類は決して汚れる事もない。
シャンプーで髪を洗えば、たちまちに髪質が改善する。
全てが魔法だ。
全ては俺が、輝き溢れる日本の製品を信頼している為に起こった奇跡だ。
背嚢は物を運ぶ為にも使うが、中に入れたものが破損してはかなわない。
つまりは保存する為のものでもある。
信頼と品質の日本の工業製品ならバッチリ荷物を保存してくれる!
その認識が、魔法となり、奇跡となり、保存と復元という異常な機能を付け足した。
物は只放置するだけでも劣化していく以上、同時に復元の機能も有する。
他も全て同様だ。
断てぬ物等ないに違いない日本製の刀剣類。
信頼性抜群の日本製の医薬品類。
諸外国の普段着とは違う、まるで輝く様に洗練された清潔な衣服。
お風呂大好きなお国柄の日本が誇る入浴用品。
無二の信頼が、奇跡を引き起こした。
ナーナは如何なるイメージでか、背嚢に物を取り出す機能を加えている。
この機能が無から(無とは限らないが)有を生成しているのか、それともどこかから転送しているのかはわからない。
俺が観測できるのは、とにかく望んだ物を出現させるという結果のみ。
奇跡をこの目で見た。
後は奇跡を再現するだけだ。
偉大な奇跡は俺の手によって、只の技術・手法・現象へと成り下がる事になるのだ。
魔法少女覚醒計画。
計画の推進に、意外なところからも援護が加わった。
是非この便利な奇跡を、自分の手で発現させたいものだ。
まぁそんなこんなでイテシツォの町にやっと戻ってきた。
前に滞在した時から何日ぶりになるんだ?
俺、ムムカカ村には何日滞在してたんだ?
移動には何日かけたんだ?
それぞれ1週間ずつだったら2週間ぶり?
それぞれ2週間ずつだったら4週間ぶり?
間を取って3週間ぶりってところか?
だいたいそんなもん?
そんなあやふや極まりないイテシツォの町だが………見違えた!
なんせ見渡す限り、人っ子一人いねぇ!
見渡す限り無人!
前回、兵士は尽く皆殺しにしたが、町人まで見当たらないとは解せん。
たった数週間でここまで劇的に………うん、そうだよな。
1週間もあったら十分だ。
村を出る前は楽観視してたが、旅の途中で考えが変わった。
統治機構がない。
つまりは無政府状態だ。
それも文化レベルの低いこの異世界。
領主が司る権利は多い。
司法、行政、立法、ついでに警察権。全てを握っている。
特に問題なのが警察権―――即ち暴力装置を失った事だ。
因みに暴力装置という言葉を聞いて、忌避感を覚えないでほしい。
れっきとした社会学の用語だ。
軍隊を始めとした組織化された武力の事をこう呼ぶ。
そんな暴力装置である町の兵士を、とにかく目につく限り皆殺しにした。
法というのが機能するのは、罰則が存在する時だけだ。
○○してはいけません。但しお咎めは何もないです。それでは誰も法を守らない。
咎める為の暴力装置があって、初めて規則は機能する。
誤解を恐れずに言えば、平和というのは暴力があって、初めて成り立つのだ。
何もしなければ享受できる様な安っぽい、自然発生するものでは決してない。
時々脳が膿んでいて、争いは何も生まない等とほざき、武力を否定する者もいるが。
きっとそいつらは敵性国家のスパイか、思考能力が破綻しているかのどちらかだ。
誰しも痛い目に会いたくないから自省する。
逆に痛い目に会わないとわかっているなら暴走する。
武力があって抑止力が働き、初めて平和が生まれるのだ。
無防備で生まれるのは平和ではなく、止めどない暴力だ。
兵士を失ったイテシツォの町。
これが国民の教養が高い日本なら、非常事態でも秩序だった行動を期待できる。
しかしここは平民の識字率が極端に低い異世界の地。
絵に描いた様な無法地帯となっている可能性が高い。
しかも数週間も経っているとなれば周囲にも、その無防備さが知れ渡っている可能性が高い。
恐らく周辺の野盗が嗅ぎつけて、散々に荒らし回った後だろう。
どうやら俺は、世紀末的な空間を作ってしまったらしい。
………本当に碌な事をしないな、俺は。
何も知らない子供を利用し。
外の世界を知らない少女を洗脳し。
行き場のない女を傷つけた。
俺が危害を加えなかったのは、付き合いの浅いナーナちゃんぐらいじゃないのか。
「テメェぶち殺してやるぁゴラァ!」
そして俺はまた新たな犠牲者を作ろうとしていた!
アイツ絶対殺す!
俺の目に3人の男の姿が映った。
男達は皆、ニヤついた笑みでこちらを見ていた。
男達は皆、荒んだ目をしていた。
男達は皆、黒い服を着ていた。
男達は皆、赤い丸の描かれた汚れた白い布を持っていた。
「お前ら下賤如きがぁあああああっ!」
敵の胸のど真ん中に影の塊を生み出す!
「呪われろ!」
そのまま影目掛けて手刀を突き出し心臓ごと刺し貫く!
俺の手も暗い影に包まれている!
多少距離があろうが俺には波紋の型がある!
遠距離の目標に破壊エネルギーを伝播させる!
その真価は直接攻撃を行う必要がないところに集約される!
直接の攻撃なしに威力を発揮する以上!
無手に於いても威力を発揮する!
斃れた仲間の様子に混乱した男達!
慌てふためけ不埒者共が!
甚振って殺してやる!
「引き裂く!喚け!」
下腹部目掛けて影を生成する!
そのまま影目掛け腕を振り下ろして影の爪で切り裂く!
腸をぶち撒けて悲鳴を上げる咎人!
「邪魔だ!弁えろ!」
腕を振り抜いた勢いを利用した、トラースキックで傷口を抉りながら吹き飛ばす!
「懺悔しろ!散華しろ!」
不動金縛りで罪人を磔にして、顔を影で包み込む!
そのまま手を突き出し、アイアンクローの要領で磁力によって顔面の皮膚を吸着させる!
「目障りだ!抉り取る!」
そして腕を振り抜き顔面の皮を剥ぎ取る!
「お前達がこの世に有った痕跡すら残さん!」
跳躍と真・自由落下で空に舞い上がる!
背に光輪を背負って魔法を集中させる!
「消え失せろ!」
そして上空から轟音と共に七色念力光線を浴びせかける!
空を飛んだのは被害を軽減する為だ!
角度を付けて撃たなければ、水平上に存在する全てを消滅させかねん!
「何のつもりか知らんがその喧嘩買ったぞゴミ共!蹂躙戦だ!シャーシャ!ナーナ!ミミカカ!グララ!天皇陛下の権威を汚す愚か者共を1人残らず根絶やしにしろ!」
時間が惜しい!
俺はそのまま振り返らず空を飛び、残像を残しつつ獲物を探した!
誉れも高き日章旗を、お前ら下賤如きが持っていて許されると思うな!
17/5/27 投稿