日本男子、死神と邂逅する
俺は今、戒名を考えていた。
目の前には胡散臭い喋り方をするケモ耳ロリータ―――ナーナちゃんがいる。
「胡散臭いかぁ………」
俺の指摘にショックを受けた様だ。
ケモ尻尾も垂れ、ナーナちゃんの心情を表すかの様に、小さく揺れている。
だが見過ごさない方がいいと思ったのも確かだ。
喋り方と一人称というのは、重要な情報なのだ。
例えば公的な場・ビジネスシーンに於いてはかしこまった口調を使う。
気の置けない友人の前では砕けた口調を使う。
人は場面場面に於いて、態度を変える。
別におかしな事ではない。
むしろ当然の事だ。
こういう表層的な人格の事をペルソナという。
ペルソナとは仮面という意味の言葉で、仮面を付け替える様に、表層人格を付け替えるという心理学の用語だ。
昨今ではそれを題材に扱った国民的RPGも存在するので、そちらからご存知という方も多いかもしれない。
その会社のゲームは個人的にそっちより、昔のアングラな雰囲気の方が好きだったんだが。
大体、ペルソナを題材に扱ってるのに、仲間のペルソナが固定されてるって、ペルソナとしておかしいだろ。
あぁ、失礼。全く関係ない話だった。
で、その表層人格だ。
その昔の創作では、多重人格者について扱うのが流行った事もあった。
だが、人格が複数ある事は別に珍しい事ではないのだ。
殊、表面的な人格に限り、ではあるが。
どういう人格がその場に相応しいと思ったかで、出て来る人格は決まる。
逆に言えば、出て来る人格から見せたい自分というのを推察できる。
ナーナちゃんの話に戻ろう。
終助詞の「さ」を付けてしゃべる人間なんて、現実に見掛けた事があるだろうか?
正直、創作の世界でしか見た事がない。
挙句に一人称が「ボク」。
そう、作り物っぽいのだ、ナーナちゃんの話し方は。
その話し方から推察される人間性はどういうものか?
真意の読めない人間。
裏のある人間。
とにかく含意があるのではないかと危惧される。
ナーナちゃんの胡散臭い喋り方は、真意を問い質す必要があると感じた。
「あー、お兄さん」
迷う様に声を出すナーナちゃん。
「うむ」
見定める様に見返す、偉そうな俺。
「例えばお兄さんはさ、急にボクみたいになったらどうする?」
「うむ?」
質問の意図が読めなくて間抜け面を晒す俺。
どういうことだろう?
ナーナちゃんみたいになる?
「それは………言葉通りに俺がナーナちゃんになったら、という意味でいいのか?」
「うん。その通りの意味でいいよ。ボクになったと考えてみて」
「ふむ………」
俺は思考実験が好きだ。
もし~だったらどうなるか?
その実験を思考の中で限りなく精査していく。
実に知的で優雅で退廃的な趣味と言える。
条件の確認ができたので、そのとおりにしてみる。
俺がナーナちゃんになったら?
目の前のナーナちゃんを見てみる。
人としては鼻先の長い顔。
独特のウィスカーパッド。
ウィスカーパッドとは、猫の口―――つまり「ω」の事だ。
そしてピクピク動くケモ耳。
俺の様子を伺う様に、上を向いてふらふら揺れるケモしっぽ。
ほっそりした体付き。
ふわふわした赤毛のウルフカット。
シャーシャちゃんよりもちっちゃくて丸まっちぃ手。
シャーシャちゃんと同程度の身長。
半人半獣の肉体を持った美少女。………有り体に言えば萌えキャラっぽい属性だな。
そんな肉体を持ったら?それだけでは答えが多岐に渡りすぎる。
別にその肉体になったら、お風呂でどこから身体を洗う様になるか、と俺に聞きたい訳ではないだろう。
胡散臭い口調に対する指摘への返答として返ってきた以上、そこに関連性があると考えてみるべきだ。
「なるほど………」
するとナーナちゃんに対して同情心が湧いてきた。
「うん、わかってくれたかな、お兄さん?」
ナーナちゃんも俺の様子を見て、望んだ答えに至ったと確信した様だ。
しっぽの動きも嬉しさに合わせてか大きくなっている。
俺がこの可憐な萌えキャラになったら?
語尾にニャとか付けて喋る様になるか?
いや、そこまで自分を捨てられない筈。
俺は男性口調の中でも、殊更に断定的な喋り方をする。
まるで会話を打ち切る様に「~だ」を語尾とする事が多い。
特にそこに意図はない。あえて言うなら簡潔に喋りたいと思っての事だ。
友達が少なかった俺の日本語は、各種メディアによって培われた。
その為方言が飛び出す事が少なく、かなりつまらない標準語を使う。
周りからは高圧的だと思われている様だが、今更変える気にはならない。
じゃあその男性的な口調のまま喋るのか?
いや、難しいだろう。
立場に依って言動は変わる。
おそらく、この可憐な少女の外見になれば、男性口調のまま喋るのは相当な異質だ。
萌えキャラの口調になるでもなく。
男性の口調になるでもなく。
女言葉になるでもなく。
行き着く逃げ場はどこか?
それはきっと、中性的な喋り方に落ち着くのではないだろうか?
そう考えてみれば、ナーナちゃんの作り物めいた喋り方にも理解が及ぶ。
実際、作り物なのだろう。
もしかしたらナーナちゃんは、中身が外見と違うのかもしれない。
俺は自分の肉体のまま………この異世界に転移した。
しかしナーナちゃんは、この異世界に転生したのではないか?
「こんな訳の分からない存在になって、ボクも案外、苦労してるって訳なのさ」
「あぁ、思慮が足りなかった。すまない」
「うん、まぁいいんだよ。わかってくれたら十分さ」
本人的にもう折り合いがついている事だからか、気にした様子はない。
なんでもないと言わんばかりに手を軽く振っていた。
「それよりもさ」
話は終わったとばかりにナーナちゃんが切り出す。
あー、ところでナーナちゃんはナーナちゃんでいいんだろうか?
もしかしたら中身は年上だったり、はたまた男だったりするんだろうか?
まぁ体が少女なんだからいいか、面倒だし。
「それよりも?」
「ボクの事よりもシャーシャちゃんの事さ」
シャーシャちゃんに顔を向けるナーナちゃん。
「………わたし?」
急に話を振られて驚いた顔のシャーシャちゃん。
「ボクの用事についてだよ。ボクはパワーアップを遂げたんだ。早速ライバルとして、シャーシャちゃんと戦いたくてうずうずしてるのさ」
尻尾の動きからも、ナーナちゃんが本当にうずうずしているのがわかる。
お預けされた様に身を縮め、しかし尻尾は我慢しきれずにうずうずうねうねしている。
「おー、ライバルっぽい」
思わず拍手しそうになる俺。
所構わず突っかかるのはライバルの特権だな。
「せめて立派な戒名を考えておこう」
そしてついつい合掌して黙祷する。
南無南無。
「ちょっと、お兄さん!なんでボクが負ける前提なのかな!」
ナーナちゃんが聞き捨てならないと言った様子で目を向けてきた。
「………あのね、あのね、お兄ちゃん?カミョーってね、なに?」
シャーシャちゃんは聞き慣れない言葉を聞き返してきた。
「戒名というのは、死んだ後に付けられる名前ですよ」
「………?死んだあと?」
「そうです。こっちで言えば墓碑銘が近いでしょうか?」
「………ふーん?」
墓碑銘はちゃんと翻訳されたのでそういう概念はあるみたいだ。
墓碑に何をした人なのか、碑文を刻むという習慣は世界で広く見られる。
○○を志した△△の士、ここに眠る―――とかいう奴だ。
「ちなみにナーナちゃんの戒名は、獣勇院烈空魔士となる予定です」
「え、何それ、超カッコイイんだけど?」
お気に召した様で、ナーナちゃんがちょっと乗り気。
尻尾も嬉しそうに揺れている。
「………ジューユーイ・レックマシ?」
シャーシャちゃんは字面がわからなくて首を捻っている。
「この世界で最強である事に疑いのない、今のシャーシャちゃんに戦闘を挑むとなれば、勇気の文字は必須でしょう」
獣はケモノ属性、烈空魔は空を飛ぶ魔法を使いこなした事から。
うん、この戦闘は自殺行為に他ならないから、せめて無謀にしても勇気だけは讃えようと思った。
「って、そうだ!なんでボクが負ける前提なんだい?」
ナーナちゃんが気を取り直して聞いてくる。
「だって、そりゃなぁ………ナーナちゃん?」
「うん?何かな?」
尋ねると素直に応じてくれる。
「パワーアップを果たしたって、具体的にどういう事ができるんだ?」
「フフーン!よくぞ聞いてくれました!」
得意満面の顔で腕組みして、胸を反り返してのドヤ顔!
思わずちょっかい出して、表情を壊したいと思うぐらいの完成度だった!
「前回戦った時、炎の魔法はバリアで無効化されたからね!対策を練ったんだ!」
「ほほう?」
対策を練った上での改善。
技術的なアプローチとして大変有効に思える。
「魔法は通じなかったけど、剣での接触はできたのを覚えてる!あのバリアの弱点は物理攻撃だとボクは見た!岩を打ち出す魔法だったらあのバリアを破れるに違いない!」
どうだ!と言わんばかりのナーナちゃん。
「あぁ、なるほどなぁ」
以前にシャーシャちゃんとナーナちゃんの2人が遭遇したのはいつか?
ムムカカ村に滞在していた時だ。
その時は集団生活に支障をきたさない為、磁力バリアは展開してない。
既存の無害化だけだったからそんな事になったんだろう。
「更に空を飛ぶ魔法を会得した事で、シャーシャちゃんの攻撃範囲外へ逃れる!こうして一方的に攻撃できればボクが勝つ筈さ!」
自信満々のナーナちゃん。
確かに射程距離外からの攻撃は有効だろう。
特にこの異世界に、空を飛べる魔法使いはそうそういない筈だ。
人は地に足をついて生きる。
羽もないのに飛べるに違いないと、疑いなく克明にイメージできる訳がない。
相当な優位性となった事だろう。
「シャーシャちゃんは遠くを攻撃する魔法が使えないみたいだからね!」
「うん?」
ここで聞き捨てならない事を耳にする?
奇跡の魔法少女シャーシャちゃんが魔法を使えない?
奇跡の炎はどうしたんだ?
………あぁ、そうか。
「あー、シャーシャちゃんが遠距離攻撃できないというのは勘違いだ」
前回2人が出会ったのはムムカカ村の森の中だ。
あそこでシャーシャちゃんが火の魔法を使えば、大規模森林火災は必至。
それを恐れて自分で封印してたんだろう。
「できないどころか、おそらく世界で1番火の魔法を得意としているぞ」
「え、そうなの?」
想定外だとナーナちゃんが驚いている。
シャーシャちゃんは火の魔法が得意だ。
何せ俺よりも上を行っている。
酸素を必要としない概念から構築された炎というのも本来驚愕に値する事実だ。
だが根本的にシャーシャちゃんが他者と隔絶しているところがある。
巨大な火を発現・制御できる事だ。
放火の犯罪で犯人が取る事の多い行動をご存知だろうか?
実は放火の現場に立ち尽くして、炎を眺めているのが1番多いんだそうだ。
そしてそのまま駆けつけた警察にお縄となる。
なんでそんな間抜けな行動をしているのかって?
それは理屈ではなく本能的な感情に支配されているからだ。
人間に限らず、生き物は火を恐れる。
例えばキャンプファイヤーの火を見た時の人の感情。
その感情は一定の割合で恐怖が占めているんだそうだ。
キャンプファイヤーより大きな炎は、人の思考を恐怖で埋め尽くす。
その結果、放火魔は理性立った考えができずに、その場で立ち尽くすという訳だ。
連続放火をする放火魔の心理にも恐怖は影響を与えている。
言った通り、恐怖は人の思考を覆い尽くす。
鬱屈。鬱憤。苛立ち。不安。どんな悪感情すらも。
要するに、ストレス発散の手段だ。
この様に火というのは、人に凄まじい影響を与える性質を持つ。
だというのに奇跡の魔法少女シャーシャちゃんは物ともしない。
家一軒を覆い尽くす様な大きさの火を制御してみせる。
これは正直、俺にもできない芸当だ。
リアルに想像して欲しい。
立派な一軒家を覆い尽くす様な、メラメラと燃える巨大な炎。
それを自分の制御下に於けると、一切の疑いなく、明確にイメージできるだろうか?
まぁ、普通できないと思う。
それだけ巨大な火をイメージするのも至難だ。
だがこれだけなら、大火災を映像として見た事のある人間ならできる。
問題は、その火にもしも自分が飲まれたらと想像した場合だ。
火をイメージできる想像力があれば、身の危険も同時に想像する。
その危機意識が、無意識下に火のイメージを打ち消してしまうのだ。
だから普通、火の大きさはある程度、自然と制限される。
俺の火、完全燃焼は暗く蒼い、静かな炎を作り出す。
それは出来る限り火のイメージを省く事で、制御下に置こうとした結果でもある。
しかしシャーシャちゃんは違う。
思考能力が破綻しているわけでも、想像力が欠如している訳でもないというのに、大きな火をイメージしてみせる。
シャーシャちゃんは炎は色んな意味で奇跡なのだ。
「それに、シャーシャちゃんに投石が効くというのも間違いだ」
「え、だって前会ったときは」
ナーナちゃんがそんな筈はない、と反論する。
「本気を出してなかっただけだ。本気を出せばシャーシャちゃんに投石なんて効かない」
今は磁力バリアがあるので、まず斥力で乱反射できる。
一応斥力を上回った力であれば、バリアを貫通できるかもしれないが。
どんな速度・質量の投石を行うつもりか次第だが、人の手で全力で投げた拳大の石程度なら全く問題ない。
大質量の落石等の場合、別の手段で無効化する様になっているのでそちらも抜かりはない。
「う………で、でも、ボクにはまだ、空を飛ぶ魔法が!火の魔法が得意と言っても、ボクには追いつけないよ!」
確かにナーナちゃんの飛行技術は非常に高い。
シャーシャちゃんのホバー移動の機動を、そのまま三次元的に行える様なものだ。
生半な事ではナーナちゃんに直撃させる事はできないだろう。
………本来ならば、だが。
以前、姿を消し、上空を高速移動しながら遠距離戦で戦えば、シャーシャちゃんに勝てると俺は考えた。
その時はそれで正しかったのだが、今は状況が変わって、もうその戦法は通用しない。
神刀の存在がそれを許さない。
神刀ユ・カッツェ。
異世界人の発声方法により、そう認識されている神刀。
彼女の本来の名前は雪風―――帝国海軍の中でも、戦艦大和に次いで知名度が高いであろう軍艦の名だ。
ちなみに一般的に船の二人称は女性であるとされる。なんでかは知らん。
そんな雪風は最初から最後まで、過酷な作戦に従事しながら、必ず健在な姿を誇示し続け、遂には終戦の日まで健在だったと知られている。
別名を強運艦、不死身の駆逐艦。
その異名の通り、幸運なエピソードに事欠かないが、それだけが彼女の本質な訳ではない。
雪風の強さはもっと相乗的なものだ。
どんな過酷な環境からも無傷で生還する事から、優先的に新装備が配備される。
また生還する事で乗員の経験が蓄積され、より洗練される。
上質な装備・比類なき研鑽が、また雪風を生存させたのだ。
そして生存する事でまた装備と乗員が充実する。
誰かに似てないだろうか?
俺に見出されて世界最強となった強運。
俺が施した上質の衣服と装備。
そして弛まぬ鍛錬と研鑽。
シャーシャちゃんの神刀にこれほど相応しい名前もないだろう。
そんな神刀・雪風はいくつか聞き捨てならない事を言っていた。
「霊探管制射撃、準備ヨシ!初手から効力射が見込めるであります!」
霊探はおそらく、精霊探信儀の略だ。俺もそういう魔法を作ったから予想できる。
一般的な横文字にすると探信儀はレーダーだ。精霊を観測する事で、位置情報を収集する機能。
そして管制射撃とは、レーダーと連動させる事で、遠距離攻撃の命中精度を向上させる手法の事である。
効力射とは、狙いを付け直す必要がなく、相手を真っ直ぐ捉えている状態での遠距離攻撃の事を指す。
実際は相手を真っ直ぐ捉えても、風の影響を受けたりでそのまま相手に当たるとは限らない。
しかし逆を言えば外的な影響を受けなければ、相手を捉える状態―――それが効力射だ。
あの時、神刀・雪風が何をしていたか。
シャーシャちゃんの魔法をサポートし、命中率を向上させていたのだ。
軍艦雪風には、湾に係留されたまま敵戦闘機を撃墜したという逸話さえある。
例え攻撃対象が姿を消そうが、高速で飛び回ろうが、雪風の霊探がある限り補足される。
この時点でナーナちゃんの飛行能力による優位性は消失している。
それでも俺にはまだ、無害化の魔法による防御が残っているが、これもまた破られている。
シャーシャちゃんが雪風のアドバイスを受けて作り出した新魔法。
俺の切り札、七色念力光線に匹敵する威力を持った影の魔法によってだ。
どうでもいいが光のない事を、闇と呼ぶか、影と呼ぶか難しいな。
光の対義語は闇だと思うが、一般的に暗い事を「闇だ」とか言ったりしないだろう。
だから影だと思うがどうだろう?
まぁそれは於いておいて、あの脅威の新魔法だ。
魔法はイメージだ。
シャーシャちゃんが七色念力光線に匹敵すると認識した以上、間違いなくそれだけの威力がある。
その威力も然る事ながら、俺にとって真の脅威なのはその性質だ。
熱量を持っているわけでもなんでもない只の影は、無害化で防御できない。
七色念力光線がその性質上、無害化で防御できる点と比べれば、むしろ攻撃性能はあちらの方が上の可能性がある。
「シャーシャちゃん?」
「………なに?」
「さっきシャーシャちゃんが作り出した、あの影の魔法なんですが、どんなものをイメージして作り出したんですか?」
この懸念が現実になるのかどうか、念の為に確かめてみよう。
「………えっとね、あれはね、死んじゃったらあぁなるの」
すると事も無げにそう言った。
少しヒアリングを重ねてあの魔法の全貌が把握できた。
幼児にしばしば見られる行動に、死の疑似体験というものがある。
自我というものが芽生えた結果、自分が生きている事を認識する。
それを認識すれば今度は「生きてない状態」とはどういうものか疑問に思う。
見ている事、動いてる事、考えてる事は「生きている状態」だ。
なので目をつぶってジッと息を殺す事で、死を擬似的に体感する。
他人はどうだか知らないが、少なくとも俺は子供の頃、そうやって押入れに閉じこもっていた事がある。
「シャーシャちゃんの魔法は死の体現そのもの、という事だ」
おそらくあの影に取り込まれた瞬間、全ての生命体は無条件で絶命する事になる。
全ての生命は彼女の意のままに平伏すしかない。
「………」
ナーナちゃんは俺の説明を聞いて、無言で両手を上げた。
尻尾も力なく垂れ下がっている。
今までは部分的に強くなられても、本気で戦えばシャーシャちゃんを圧倒できる自信が俺にはあった。
しかしこれからは違う。シャーシャちゃんに対して俺の優位性というのはもう殆どない。
魔法戦技を教え始めてわずか数日。
シャーシャちゃんが本当の意味で、俺をも凌駕し出した瞬間である。
戒名が必要になるのはナーナちゃんだけではないかもしれない。
17/4/29 投稿・誤字の修正