ミミカカ、日本男子の真意を知る
アタシはニホコクミを目指す戦士、ミミカカ!
アタシの方に、2つのものがとんできた。
「霊探管制射撃、準備ヨシ!初手から効力射が見込めるであります!」
「………うん!行け!」
1つはシャーシャの出したまっくらな影のかたまり。
「混戦模様は望むところさ!この前の様にはいかないよ!今度こそボクが勝たせてもらおうじゃないか!」
もう1つは獣人の子供。
あ、アタシのほうにとんできたのは今、3つになった!
「まずはこっちだ!七色ネリキコーセ!」
ヤマトーさんがわたしに向かって、すごい光を撃ってきた!
「ひっ!いいいいいいいいいいいっ!」
アタシは死ぬのがこわくなって、目をギュっと閉じた!
………。
死んだアタシは、どこかにむかって、落ちていってるみたい。
痛くはなかった。
痛みを感じないぐらい、一瞬で死んだの?
ふしぎに思いながら目を開けたら、どんどん近づく地面が見えた。
「人って死んだら………地面の底に行くんだ」
「死ぬには早いぞ、ミミカカ」
「え?」
「無事か」
「………え?」
声が聞こえたら、地面に落ちるのがゆっくりになった。
そして、アタシが地面にぶつからないように。
ヤマトーさんが後ろから抱きしめてくれてた。
「言葉も出ない程か………怖かったよな?」
アタシの耳元で。
やさしい声でささやく。
こどもに。
まるでシャーシャにするみたいに。
やさしく髪をなでてくれる。
アタシがヤマトーさんにしてもらいたかったことだ。
いつもだったらうれしかったと思う。
「なんで………?」
さっきまでアタシは、ヤマトーさんに殺されかけてたのに。
「なんで………?アタシ………?いきなり………?やさしく………?」
なにから聞いたらいいのかわからなくて、なにを言ったらいいのかわからない。
「大丈夫だ、ミミカカ。もう怖がらなくていいからな」
「だいじょう、ぶ………?」
「そうだ、大丈夫。大丈夫、大丈夫」
ヤマトーさんが、髪をなでてた手で、アタシの頭を胸に抱いた。
もうヤマトーさん怒ってない?
もうヤマトーさんに殺されない?
もう………大丈夫?
「うぅ………ひっ、うあああああっ!」
安心したら、こどもみたいに声を出して泣いてた。
「大丈夫、大丈夫」
アタシが泣いてる間、ヤマトーさんは頭をポンポン、やさしくたたいてくれた。
抱きしめられてるのが、背中からなのがちょっと残念だって思った。
「もう落ち着いたか?」
「はい………」
耳元で、やさしく聞いてくるヤマトーさんに答える。
「大丈夫そうだな」
「あ………」
アタシを抱きしめてた、ヤマトーさんの手が離れた。
背中にあった、ヤマトーさんの暖かさがなくなったのが、さびしくて声が出た。
「もう地上に降りてる。落ちることはないから安心するんだ」
アタシの声を地面に落ちるんじゃないかって、慌てたんだと思ったヤマトーさんがそんなことを言った。
肩をポンポンって叩かれる。
「さて、ミミカカ」
「はい?」
「今日のミミカカは………言いたくないが、最低だった」
「さい、てい………」
「そうだ。ありとあらゆる点で最低だったと言える。殺すつもりは最初からなかったが、怒ったのは本気だ」
「で、でも!」
思わず、すぐに言い返そうとした!
「でも、なんだ?あの迂闊・軽挙・無謀が全て揃った言動に、何か意味があったのか?根拠も何もない、反論の為だけの反論ならしない方がいいぞ」
「うぅ………」
とりあえずなにか言おうとしたのはダメだったみたいだ。
「そ」
「そ?」
「そんなに、アタシの言ったことはダメでしたか?」
「そんなにミミカカの言った事は駄目だった」
バッサリだ。
そもそもヤマトーさんが怒り出したのは、アタシがシャーシャをバカにしたからだ。
「シャーシャなんかよりすごいでしょ?」
この一言で、アタシは死ぬような目にあった。
「戦士である事を目指すなら、油断するな、慢心するな、相手を侮るな。お前は刃物で刺されて生きてられるのか?俺の援護もなしで、火を掛けられて生きていられるのか?どんな相手でも、武器を持ち、魔法を使えれば、常に殺される可能性があるというのに」
「でもヤマトーさんに魔法を使ってもらったら、火なんて効かなく………」
ヤマトーさんの魔法があったら、魔法なんかこわくない。
「俺の力をアテにしてシャーシャちゃんに喧嘩を売ったのか?ミミカカの目指していた立派な戦士とはそんなものなのか」
「う………」
そうやって、あらためて言われたら………アタシ、ただのヤなやつじゃん!
「更には、自分より強い相手を侮るとは………思い上がりも甚だしいぞ」
「あ、あれは………」
たしかにアタシはシャーシャから逃げることしかできなかった。
でも、あれはヤマトーさんの魔法で、腰が抜けたからっていうのだって………。
「戦いに身を置くなら、彼我の戦力差の見極めは必須だ。見誤れば死ぬ事になる。わかるか?お前は本来なら死んでたんだぞ?どれ程の無謀だったか理解しているか?」
「でも、アタシには!アタシには空を飛ぶ魔法が!飛べばシャーシャでも!」
シャーシャは空を飛べないんだから、アタシが負ける事はない。
「シャーシャちゃんは、火を使う事を俺に禁止されていなければ………ミミカカを一瞬で灰にできたんだぞ?」
「………」
そうだった。
シャーシャをバカにしたから、もうヤマトーさんはアタシを守ってくれてなかったんだった。
ヤマトーさんの魔法がないときに、シャーシャの魔法をくらったら、アタシは死んでた。
アタシが生きてるのは、ヤマトーさんが火の魔法を使うなって、言ってくれたからだった。
「それに最後に使った影の魔法………恐らくあれは、究極の魔法そのものだ」
「究極?………の魔法ですか?」
なにそれ?
いくらシャーシャでも、ヤマトーさんより強い魔法は使えないんじゃ?
「効果を発揮する前に相殺した以上、推測に過ぎないが………少なくとも俺の防御すら貫通できる筈だ」
「ヤマトーさんの魔法の防御を?」
ヤマトーさんは、アタシが知ってる1番すごい魔法使いだ。
攻撃に使う魔法は、火でも水でも光でもなんでもすごい威力だった。
それに防御に使ってる魔法もすごい。
ヤマトーさんが守れば、周りで火も使えなくなる。
それに、アタシはわかってなかったけど………ヤマトーさんは光の魔法も防げるみたいだ。
アタシが光の魔法を使おうとしたとき、まぶしくて目が見えなくなった。
今まではそんなことなかったのに。
それは今までヤマトーさんがアタシを守っててくれたからだったらしい。
それに………あれだけまぶしかったってことは、光の槍の魔法はできあがってたはずだ。
光の槍は、作った瞬間に相手まで届く。
なのにヤマトーさんは全く怪我してない。
そして、最後にアタシの放った矢が、突然どっかに弾き飛ばされたのも見た。
ヤマトーさんには魔法も、矢も、なにも効かなかった。
そんなすごいヤマトーさんの、魔法で防げない?
「あの影を防ごうと思えば、俺でも全力の七色ネリキコーセで相殺を狙うしかない。七色ネリキコーセは対象を消滅させる、正真正銘俺の切り札だ。それと相殺し合った以上、同等の威力があると思われる。ユ・カッツェもそういう旨の発言をしていたしな」
七色ネリキコーセ。
村にきたマホショージョが見せた、森の木を消し去った魔法だ。
魔法が当たった木は、燃えなかったし、切り倒されもしなかった。
ただ、消えた。
ニホコクミが使う、最強の光の魔法。
そんな最強の魔法と同じ威力があるの、シャーシャのあの魔法には?
じゃあ、シャーシャは………。
「シャーシャは………そんな魔法をアタシに使った、の?」
シャーシャとは仲がよかったつもりだったのに。
「そうだミミカカ。敬意を持て。正しく評価しろ」
「敬意?評価?」
アタシがショックを受けてたら、ヤマトーさんがよくわからないことを言った。
「お前は軽々しくシャーシャちゃんの事を馬鹿にしたな。シャーシャちゃんのどこに馬鹿にされる様な要素がある?シャーシャちゃんは才能も、努力も、全てが人並みを遥かに超えている。シャーシャちゃんがその気になればミミカカ………お前を殺す事だって、簡単にできるんだぞ」
「簡単に殺す………」
「ミミカカ、心配させないでくれ」
「え………」
アタシの両肩を、ヤマトーさんの手がつかんだ。
「今回は俺が居た。なんとかできた。それは………運が良かっただけだ。もしも俺が居なければ?もしも俺の力が及ばなければ?わかっているか?お前はもう死んでていてもおかしくなかったんだぞ?」
「アタシが………死ぬ」
ヤマトーさんがアタシをまっすぐ見てる。
「恐怖を味合わなかったか?死を隣に感じなかったか?お前は今、正に、死ぬところだったんだぞ?」
「えっと………」
ちょっとわからなくなった。
「ヤマトーさん、心配して、くれたんですか?」
「当たり前だ。命がいくつあっても足りないぞ?俺がどれだけ怒ったかわかるか?戦士とは死ぬ事と見つけたりという言葉は、短絡的に死ねという意味の言葉ではないんだぞ?」
「あの………」
「どうした?」
ヤマトーさんの顔が近い。
アタシのことをまっすぐ見てる。
「ヤマトーさんは、アタシのこと、心配して、怒ったん、ですか?」
「そうだ。どうでもいい相手に怒ったりしない。どうでもいい相手なら俺は無視する、関わり合いにならない。俺が怒ったのは、それだけ本気だからだ。どうでもいいと思えない相手だから、ミミカカだからだ」
ヤマトーさんはアタシから目をそらさない。
真剣な顔で、アタシをまっすぐ見てる。
「それって………」
「言わせんな恥ずかしい………その、大事だから、だ!」
ここでヤマトーさんが目をそらした。
ちょっと照れたみたいに、ちょっと笑って。
いつも冷たい目だったヤマトーさんが。
「だいじ?アタシが?」
「あぁ。だから心配させないでくれ。特に今回の事は命に関わるんだからな」
そうだったんだ。
ヤマトーさんがあんなに怒ってたのは。
てっきり大事なシャーシャをアタシがバカにしたから怒ってるのかと思った。
けど違った。
ヤマトーさんはアタシの事を心配してくれてたんだ。
さっきまで急すぎてわかんなかったけど、たしかにそうだ。
自分で仕留められない獲物に手出ししたらダメだ。
ヤマトーさんにアピールしたくてシャーシャのことバカにしたけどそれじゃダメだ。
シャーシャはアタシより強い。
そんな相手をバカにして、ホントならアタシはもう、死んでてもおかしくなかったんだ。
ヤマトーさん達が本気じゃなかったから生きてるだけだ。
あんなにヤマトーさんが怒ってたのは、アタシのことを本気で考えてくれたからだったんだ。
なのにシャーシャに嫉妬して。
なのにグララなんかに負けたってあせって。
こんなに大事にしてもらってるのに。
やっぱりヤマトーさんはやさしい。
アタシがバカなことをしたら、本気で心配して怒ってくれるんだ。
それがホントに大事にするってことなんだ。
グララに言った口だけの大事じゃない。
アタシのが本気の大事なんだ。
ちゃんとヤマトーさんに怒られないようにしよう。
ちゃんとヤマトーさんに認めてもらえるようにしよう。
それが立派な戦士なんだ。
もう心配されなくてもいいように。
「しかし、何者なんだコイツ?」
「あ」
そういえばアタシに飛んできたのは、シャーシャの魔法だけじゃなかった。
見た目は獣みたいな耳と尻尾が生えてた。
獣人だ。
それも子供。
シャーシャと同じくらい?
なんで獣人が空を飛ぶ魔法なんて使えるんだろう?
村を出る前にお父さんが、村の外の事をいくつか教えてくれた。
獣人はすごく力があるんだけど、その分魔法なんかは使えないって。
ふつうの火を出す魔法だって使えないって。
なのに、たしかに空を飛んでた。
ヤマトーさんとアタシ以外で、空を飛べる魔法を使えるなんて。
まぁ、今は飛んでないけど。
なんかピクリともしなくなって、地面に倒れてる。
「この子、どうしたんですか?なんか動かないんですけど?」
「ん?脅威度と目的が不明だったから、全ての抵抗力を奪ってやった」
「抵抗力をうばった?」
「あぁ、何者であろうと俺の制御下にある以上、指一本として動かせまい」
なにそれ?
「その………ヤマトーさんが本気出したら………抵抗すらさせずに相手を倒せるんですか?」
「ん?そうだな。少なくとも見合った状況からなら、シャーシャちゃんでもない限り、俺に傷一つとして負わせる事はできないだろうな」
強いのは知ってたつもりだけど、ホントにめちゃくちゃ強いなぁ、ヤマトーさん………。
っていうか、さっきあんなにこわいって思ったのに、アタシに攻撃したときは本気じゃなかったんだ。
そういえばまぶしくて目が見えなくなったとき、火に焼かれたと思った。
けどアタシの体にやけどしたところなんてない。
火を近づけられたのを、アタシが勝手にあせって、焼かれたんだと思っただけだった。
ヤマトーさんは最初からてかげんしてたんだ。
そんな強いヤマトーさんが正面から戦っても、抑えきれないっていうただ1人の相手。
それがシャーシャ。
ヤマトーさんにただかわいがられてるだけかと思ってた。
けどそうじゃない。
シャーシャはニホコクミでマホショージョ。
ホントに強いんだ。
「………あのね、あのね、お兄ちゃん?」
「はい、なんですか?シャーシャちゃん?」
動かない獣人の子を見てたそんなシャーシャが、地面を滑ってこっちに来た。
「………あのね、ナーナちゃんがね、動けないのね、お兄ちゃんがやったから?」
「ん?ナーナちゃん?」
「………うん、ナーナちゃん」
ナーナちゃん?
シャーシャ、この獣人の子がだれか知ってんの?
「ナーナちゃんといえば聞き覚えがあるのですが………シャーシャちゃん?」
「………うん?」
あれ、ヤマトーさんも知ってるの?
「もしかしてこの子は、シャーシャちゃんのお友達になってくれたっていう、あのナーナちゃんですか?」
「………うん。ナーナちゃんはわたしのともだち」
「おぉ、なんてこった!モーローアとフドーカーシバー使っちまったよオイ!」
ヤマトーさん、シャーシャのともだちに、指一本動かせなくなる魔法を使っちゃったらしい。
獣人の子―――ナーナをよーく見てみたら、なんかすごいことになってた。
魔法の石に宿ってたのと同じ精霊がいた。
ヤマトーさんとシャーシャのいる場所がわかるようになる魔法の石。
この精霊は、近くに同じ精霊がいたら引っ張りあう。
ナーナの体をめちゃくちゃな力で引っ張って、動かないようにしてたみたい。
引っ張る精霊で人が動かないようにできるのは、多分ヤマトーさんぐらいだ。
アタシが同じ精霊を使っても、こんなすごい力にはならない。
「あー、大丈夫ですか?聞こえてますか?」
アタシが引っ張る精霊を見てるあいだに、ヤマトーさんがナーナに話し掛けてた。
「え?あ、聞こえる聞こえる!ふー………なんか視界が真緑になって、なにも聞こえなくなるし、体は動かなくなるしで大変だったんだ。流石のボクも焦ったよ。もしかしてお兄さんが助けてくれたのかな?」
「んー?原因を取り除いた事を、助けたと定義するなら助けたと言えなくもないか?狭義の意味なら助けたと言えるかもな」
「おー?なんだかすごく回りくどい肯定の仕方だね?」
「そもそも五感の殆どを奪ったのが俺だしな」
「じゃあボクが酷い目に遭ったのはお兄さんのせいじゃないか!」
「うむ、有り体に言えばそうだな、うむ」
「………ヤマトーさん」
「………お兄ちゃん」
「………お兄さん」
「ヤマトー殿!そうとしか言えないであります!」
「まさかの4人総ツッコミ!しかもシトーにまで!」
全員からツッコミを入れられて、ヤマトーさんがわかりやすくうろたえてた。
めずらしいなぁって思って、ふと周りを見たら。
視界のはしっこに、こっちをじっと見てるグララが見えた。
………なによ、その目。
そんな目でこっち見られても、アタシにどうしてほしいの?
17/4/15 投稿