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日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男子の苦悩
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シャーシャ、日本男子に呼応する

 わたしはシャーシャ・ホマレー。お兄ちゃんの妹。


 わたしには好きな人が2人いる。


 1人はお兄ちゃん。

 どれいだったわたしを助けてくれた人。

 もう1人はミミカカさん。

 お兄ちゃん以外で、わたしにやさしくしてくれた人。


 ちなみにまほうつかいの人は嫌いだった。

 ときどきいやなことを言ったりして、いじわるしてきたから。

 しかもなんでもないみたいな顔で、いきなりいじわるを言ってきたりした。

 ふつう、いじわるをする人はニヤニヤ笑ったり、怒った顔をしてたのに。

 顔を見てても、何をしてくるかよくわからなかったから、すごく不安になった。


 でも2人はほかの人とちがって、わたしにいじわるしなかった。

 とくにお兄ちゃんはわたしにすごくやさしかった。

 いろんなことを教えてくれた。


「ちょっと走ってみましょうか。とにかく何をするにしても、体力があるに越した事はありませんからね」

 お兄ちゃんが最初に教えてくれたことは走ることだった。

「体力を温存しながら長い距離を走りたいか。体力を使い切って早く短い距離を走りたいか。目的によって走る時の体の動かし方、呼吸の仕方も変わってくるんですよ」


 ただ走るだけだからかんたんだって思ったのに、そうじゃなかった。

 走るのにもやらなきゃいけないことはあった。

 お兄ちゃんのいうことを聞いて走ったら、ちゃんと早く走れた。


 お兄ちゃんが教えてくれたのは、走り方だけじゃなかった。

 文字の読み方、書き方。

 計算のやり方。

 いろんなことの考え方・やり方。


「シャーシャちゃんは大人より体が小さいですね」

「………はい」

「そんなシャーシャちゃんだからこそできる事を考えましょう」


 おとなの人がしゃがまないと入れない、背の低いところ。

 おとなの人が動いたら、まわりにぶつかるぐらいせまいところ。

 そういうところを選んだら、わたしはおとなの人よりも動けるんだって教えてもらった。


 あれを教えてもらったときはほんとにびっくりした。

 それまでわたしがおとなの人に勝てるところなんてないって思ってた。

 どんなにひどいことをされてもがまんしないといけないって思ってた。

 なのにわたしがおとなの人に勝てるかもしれないって教えてくれた。


「シャーシャちゃんにこのナイフをあげましょう。そんじょそこらの数打ちとは違う逸品ですよ」

 そしてお兄ちゃんはわたしにナイフをくれた。

 ピカピカですごい切れ味のナイフ。


 それからお兄ちゃんはわたしに戦い方を教えてくれた。

 逃げ方。

 武器を持ってないときの戦い方。

 ナイフを持ってるときの戦い方。

 お兄ちゃんのいうとおりにしたら、今までできなかったことがたくさんできるようになった。


「シャーシャちゃんは、信じ難い事に………マホショージョだ」

 お兄ちゃんはわたしがマホショージョなんだっていってた。

 ニホコクミの中でも、1番強い人のことをマホショージョっていうみたい。

 わたしはそんなすごいマホショージョで、特別なんだって。


「シャーシャちゃんは素晴らしいです!お手柄です!貴方の存在全てがお手柄です!可愛らしく、頭がよく、運動が得意であるだけでなく、歌までも上手です!まるで天使の歌声です!まさしく天上の調べ!あぁシャーシャちゃん、貴方はこの世の奇跡です!その存在が全てから祝福されています!」


 そしてお兄ちゃんはわたしのことをたくさんほめてくれた。

 こんなに人にほめてもらえたのははじめてだった。

 お兄ちゃんはいつもわたしのことをほめてくれた。

 わたしが生きてて、こんなにうれしかったのははじめてだった。


 こんなにわたしにやさしくしてくれたのはお兄ちゃんだけだった。

 おいしいごはんをいつでもくれた。

 いろんなことを教えてくれた。

 たくさんほめてくれた。


 お兄ちゃんがいなかったらわたしはどうなっちゃうんだろう。

 また昔みたいにまわりの人からいじわるされる?

 そう考えたらすごく不安になった。


「信じられない事に、()()()は、僕と同じ力を持っていて、あろう事かマホショージョであるシャーシャちゃんをも凌駕したとほざいています。許せる事ではありません。あらゆる手段を用いて叩き潰しなさい」


 お兄ちゃんがわたしに言った。

 お兄ちゃんは本気で怒ってた。

 だから。


「………潰さなきゃ………潰さなきゃ………潰さなきゃ」

 わたしはぜったいにお兄ちゃんのいうことを聞かなきゃ。

 潰さなきゃだめだ。

 わたしはなんどもつぶやいた。


「………お兄ちゃんを怒らせたやつ、潰さなきゃ」

 そうだ、お兄ちゃんを怒らせたんだ。

「………お兄ちゃんを怒らせた、ミミカカさんが悪いんだよ」

 ミミカカさんもわたしにやさしくしてくれたけど。

 お兄ちゃんを怒らせたらだめだ。




「い!ひぃ!ひっ!ひぃぃぃ!」

 ミミカカさんが泣きながら逃げた。


「………」

 わたしはナイフを抜いて追いかけた。

 まだ空は飛べなかったから、地面の上をすべるまほうで。

 まほう使いの人みたいに、フラフラしながら走ってた、ミミカカさんは遅かった。


 わたしのからだは人より小さかった。

 だから逃げるミミカカさんにちゃんと届かなかった。


「いいい!い!いぃいいいいいい!」

 腕を斬ったミミカカさんが変な声を出した。


 早くやっつけないと!

 お兄ちゃんが見てるのに!

 お兄ちゃんに怒られたくない!

 首を狙ってナイフを振った!


「あぁっ!」

 ………あ。

 ミミカカさんが急に転んだから外れた。

 さっきから動き方がヘンでうまく当てられない。


「いぃひぃいいいいいい!」

 地面にたおれたミミカカさんが、カサカサしながら逃げた。


「オイ」

 ビクッ!

 わたしのからだが震えた。

 お兄ちゃんの声が怒ってたから。

 ミミカカさんも止まった。


「何してんだテメェ。俺と同じ力を持ってて、シャーシャすら凌駕したんだろうが。だったら戦えよ。じゃねぇと、俺が殺すぞ」

 シトーでお兄ちゃんがミミカカさんの目の前の地面を斬った。

 それを見て怒られてるのはミミカカさんだってわかったから安心した。




「………っ!………っ!………っ!」

「………っ!………っ!………っ!」

 何も言わないでミミカカさんにナイフを振った。

 怒られたくないアタシは、必死にミミカカさんを攻撃した。


「シャーシャを超えたとほざいただけあるじゃないか、アッハッハッハッハッ、アハハハハハハハハハハヒヒヒヒヒヒヒ!クフフフフフフフフフ!」

「お上手お上手!ホラホラ危ねぇぞオイ!ヒヒヒヒヒハハハハハハハ!イヒャヒャヒャヒャヒャ!フフフ!フフフフフフフ!」

 なぜかお兄ちゃんはうれしそうに手をたたいて喜んでた。


「何を悠長に!遊んでいるのか?余裕じゃないか?追い立ててやろうか?」

「ひぃ!」

 かと思ったら光のまほうでミミカカさんの周りを焼いた。

 お兄ちゃんは頭がいいから、なにを考えてるかわからないことが多かった。


「シャーシャちゃん、遠慮はいりませんよ。そのカサカサ這う虫みたいな奴は、シャーシャちゃんより強いらしいですから。手加減の余地はありません。全力で仕留めるんですよ」

 ビクッ!

 お兄ちゃんがわたしに話しかけてきた!

 ボーっとミミカカさんをどうやってやっつけるか考えてた頭がまっしろになった!


 お兄ちゃんがなにを考えてるのかはわからなかった。

 でも。

「………死ね」

 お兄ちゃんはなにをしたらいいのかは教えてくれてた。


 わたしはお兄ちゃんの言ったとおりにしたらいいんだ。

 そうすればお兄ちゃんがわたしを幸せにしてくれるんだから。

 ミミカカさんがやさしいかなんてどうでもよかった。

 お兄ちゃんの言うことを聞かなきゃ。


 わたしに斬られたり。

 お兄ちゃんに火であぶられたり。

 やっとミミカカさんは、空を飛べることを思い出したみたいで、飛んで逃げてった。


「………うーん、届かない」

 こまった。

 わたしはまだ空が飛べなかったのにミミカカさんは空にいた。


「ふふふ、シャーシャちゃん?別にシャーシャちゃんも飛ぶ必要はないんですよ?」

「………あ」

「そう、魔法で撃ち落せばいいんです。ただ………」

 でもわたしがこまったらお兄ちゃんはちゃんと教えてくれた。


「………ただ」

「一応、僕と同じ魔法が使えると言っていたので、火の魔法は防げると想定しておきましょう。火以外の遠距離攻撃で、シャーシャちゃんを虚仮にした奴を後悔させて下さい」

「………火、以外」


 けど、またこまった。

 火、以外で攻撃するまほう?

 お兄ちゃんとか、マホショージョの人(ズィーベンレーベン)みたいに、光で攻撃するまほうが使えたらよかったんだけど。

 こまってたわたしに、空にとんだミミカカさんは矢を飛ばしてきた。


「しかし、シャーシャを傷つける全てから俺が守る。セッリョ防御壁の試験稼働は問題なく完了した、ご苦労。後はシャーシャがお前を討てば、全ての試験項目は完了する。せいぜい思い上がりと慢心を悔むんだな」


 でもわたしにはなにもきかなかった。

 お兄ちゃんはわたしをいつでも守ってくれた。

 やっぱりわたしが幸せになるには、お兄ちゃんがいるんだ。

 お兄ちゃんの言うことを聞かなきゃ。

 お兄ちゃんの言ったとおりにしなきゃ、わたしは不幸になるんだ。


 わたしは新しいまほうで、幸せになるんだ!

 ………そのときだった。

「自分の声が聞こえるでありますか?」

「………え?」

 なにかの声が聞こえてきた。


 周りを見てもお兄ちゃんと、地面に座ったままのまほう使いの人しかいなかった。

 今の声は女の人の声だった。

 けど、ミミカカさんとも、まほう使いの人の声とも違ってた。

 今の、何?


 お兄ちゃんもびっくりしたからこっちを見てたみたい。

 え?

 ()()()を見てた?

 じゃあ?

 今の声って?


「問題なく、自分の声が聞こえているでありますね?」

「………」

「その声………喋ってるのは、シャーシャちゃんのシトーか?」

 お兄ちゃんが聞いてきた。

 声が聞こえてくるのは………()()()()()()()からだ!




「肯定であります、ヤマトー殿!」

 わたしのナイフがしゃべった!

「こうして話をするのは初めてであります!自分はテノーヘカ様に仕える誇り高い軍神、ユ・カッツェであります!どうぞよろしくお願いするであります!」

「あ、あぁ、よろしく………?」

 ナイフにあいさつされた、お兄ちゃんがびっくりしたまま返事した。

 こんな風になってたお兄ちゃんはめずらしかった。


「自分は現在、マホショージョのシャーシャ殿を補佐する、特務に就いているであります!」

「………わたし?」

「はい!肯定であります、シャーシャ殿!自分がシャーシャ殿の力になってみせるであります!」

「………わたしを助けてくれるの?」

「はい!微力を尽くす所存であります!」


 シトーのユ・カッツェがわたしを助けてくれるようになったみたい。

 びっくりした。

「驚かされたが、流石はシャーシャちゃんだ。シトーの力をこうまで引き出すとは………」

 お兄ちゃんもびっくりしたままの顔だったけど、なんか知ってたみたいだった。


「………あのね、あのね、お兄ちゃん?シトーってしゃべるの?」

「えぇ、実は喋るんです」

 そうだったんだ!

「………あのね、お兄ちゃん?でもね、でもね?今までね、しゃべらなかったの」

 1ヶ月ぐらいずっといっしょだったけど、しゃべってたのは見たことがなかった。


「えっとですね、シャーシャちゃん。ヤオローズの神々は、至る所に宿っている、という話は覚えていますか?」

「………うん。覚えてる。神様はね、いろんなところにね、いるんだよね?」

 お兄ちゃんが教えてくれたことに、神様のお話があった。

 神様はいろんなところにいたって。


「そうです。空にも、自然の中にも、食べ物の中にも、何処にでも神様はいらっしゃいます」

「………うん」

「そして神様は、僕らをいつもご覧になっていらっしゃるんですよ」

「………うん」


 そう。

 いいことをしても、わるいことをしても。

 神様はいつもわたしのことを見てたんだって。


「特に物に宿る神様はツモガミといいます」

「………うん」

「そんなツモガミは、自身である道具を大事に扱う者、必死な思いを込めて道具を扱う者。そういった人が大好きです」

「………うん」


「自分を大事にしてくれるシャーシャちゃんは、神様にとっても大事なんです」

「はい!肯定であります、ヤマトー殿!」

 あ、またしゃべった。


「シャーシャ殿の弛まぬ研鑽を、自分は最も近いところから観測していたであります!」

「………うん」

「そしてその功績を認め、シャーシャ殿に自分の加護を授ける事にしたであります!」

「ユ・カッツェの加護………ある意味では最強の軍神であるその力を?」

「はい!肯定であります!シャーシャ殿にはその幸運が降り注ぐ事になるであります!」


「………あのね、あのね、お兄ちゃん?」

「はい、なんでしょう、シャーシャちゃん?」

「………ユ・カッツェの力ってね、そんなにね、すごいの?」

「そんなに凄いんですよ。絶体絶命の危機すら無傷で凌げる様になるぐらい、凄まじい力を持ってます」

「………そうなんだ?」


「正直言って、現存するシトーの中では事実上、最強の一振りと言っていいものです。ユ・カッツェは神国ニホの軍神の中でも、飛び抜けた神力を持っている事で有名です」

「ヤマトー殿!自分の威力は戦働きで証明してみせるので、それ以上のお追従は不要であります!」

「あ、あぁ、そうだな………失礼をしたようだ。お手並み拝見させてもらう」

 シトーのユ・カッツェは、おだてられてるって怒ったみたい。


「早速でありますが、シャーシャ殿に一手指南するであります!」

「………うん」

「シャーシャ殿は、ヤマトー殿と、全く逆の存在であります!」

「………逆?」

 どういうことだろ?


「シャーシャ殿は女子であります!」

「………うん」

「ヤマトー殿は男子であります!」

「………うん」


「シャーシャ殿は子供であります!」

「………お兄ちゃんは大人?」

「はい!肯定であります!そしてシャーシャ殿は、白い服を着ているであります!」

「………お兄ちゃんは、黒い服を着てるね」


「はい!肯定であります!そしてヤマトー殿は、光の魔法を使いこなしているであります!」

「ほう、逆か?その発想はなかったな」

 お兄ちゃんはわたしと逆。

 光のまほうが使えたお兄ちゃんと逆のわたし。

 じゃあわたしが使えばいい魔法も逆だ。


「………影?」

「はい!肯定であります、シャーシャ殿!逆というのは対である、とも言えるであります!最も遠いようで表裏は一体!つまりヤマトー殿の対である、シャーシャ殿の魔法の才能は、潜在的に匹敵するものであります!」

「………お兄ちゃんといっしょ」

「光で全てを消し去るヤマトー殿の魔法と、対になるシャーシャ殿の影の魔法は」

「………影で全てを消し去る」

「はい!肯定であります、シャーシャ殿!後は影を作るだけであります!」


 ユ・カッツェが教えてくれた。

 わたしはお兄ちゃんといっしょなんだって。

 お兄ちゃんと1番近いのはわたし。

 そう思ったら安心して魔法を作れた。


「………できた」

 全てを消し去る影のまほう。

「上出来でありますシャーシャ殿!シャーシャ殿の魔法なら、風に流される事もないのであります!落ち着いて目標を狙えば、真っ直ぐ飛ぶであります!」

「………ん」


「霊探管制射撃、準備ヨシ!初手から効力射が見込めるであります!」

「………うん!行け!」

 わたしの手から、影のかたまりがミミカカさんに向かって飛んでった。

 そして。


「シャーシャ殿!霊探に反応アリであります!」

「………あ」

「混戦模様は望むところさ!この前の様にはいかないよ!今度こそボクが勝たせてもらおうじゃないか!」

 ナーナちゃんだ。

17/4/8 投稿

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