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日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男子の苦悩
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ミミカカ、日本男子に見放される

 アタシはニホコクミを目指す戦士、ミミカカ!


 ヤマトーさんの妹。

 ニホコクミの兄弟子。

 マホショージョ。

 シャーシャはこどもなのに、なんかいろいろすごかった。


「流石はシャーシャちゃんです」

「よくできましたねシャーシャちゃん」

「シャーシャちゃんは僕の自慢の妹です」

「シャーシャちゃんは世界の宝物です」


 シャーシャ。

 シャーシャ。

 シャーシャ。

 シャーシャシャーシャシャーシャ!


 ヤマトーさんはいっつもシャーシャばっかり見てた。

 アタシのことなんか見てくれなくなった。

 最初はこうじゃなかったと思う。

 村に戻ったぐらいからかな。


 ヤマトーさんはシャーシャをすごく大事にしてた。

 それははじめて会ったときからずっとだったけど。

 最初はやっぱりここまでじゃなかったと思う。

 それでもシャーシャなら………まだわかる。


 でも、なんでグララを大事にするの?

 最初、ヤマトーさんはグララのことなんて見てなかったのに。

 ちゃんと考えたらやっぱり、村に戻ってしばらくしてからだ。

 気付いたらアタシは、グララより下になってた。


 アタシはヤマトーさんが好きで。

 もしかしたら、ヤマトーさんもアタシのことを好きで。

 それで、妻になって、こどもを作ったり。

 ………アタシは村に戻ってくるまでは、けっこう本気でそう思ってた。


 なんで?

 なんでヤマトーさんはアタシを見てくれないの?

 くやしかったし、かなしかった。


 だから、魔法戦技の修行って言われたとき、チャンスだって思った。

 魔法戦技はヤマトーさんが教えるんじゃなくって、アタシたちが自分で作らないとダメっていってた。

 それなら、それならアタシにだってチャンスがある。


 シャーシャがすごいのは、ヤマトーさんがいるからだ。

 ヤマトーさんが教えるから、シャーシャはいろんなことができる。

 でも、ヤマトーさんがいなかったら、シャーシャなんてただのこどもといっしょだ!


 けど、アタシはちがう!

 ヤマトーさんが教えてくれなくても!

 アタシなら精霊が見られる!

 教えられなくても、アタシならヤマトーさんの魔法が使える!


 アタシはすぐヤマトーさんみたいに、光の剣と槍を作れるようになった。

 ヤマトーさんの使う光みたいに、なんでも切れるように力を込めた。

 ヤマトーさんのより、すごいまっしろでまぶしいアタシだけの魔法戦技ができた。


 そして空を飛ぶ魔法もすぐできるようになった。

 空を飛ぶ魔法は、まるで高いところから落ちるみたいで、すごいこわかった。

 ヤマトーさんみたいに自分の好きに、動いたり止まったりはまだできなかった。

 でもちゃんと空を飛べるようになった。


 シャーシャもまだ空は飛べない。

 地面の上ですべってるだけだった。

 アタシはうれしかった!

 ヤマトーさんが大事にしてるあのシャーシャでも空は飛べない!

 アタシのほうが上なんだ!


 ………調子にのったらいけなかったんだと思う。

 どんなにうれしくても、言っちゃダメだったんだと思う。

 でも、アタシはもう言っちゃったあとだ。


「アタシ、ヤマトーさんと同じ魔法が使えるようになったんですよ!シャーシャなんかよりもすごいでしょ?」

 見たことがないようなこわい目で、ヤマトーさんがアタシを睨んだ。

 領主さまを殺したときの目で、アタシを。


 アタシは腰をぬかして地べたにすわりこんでた。

 頭の中がまっしろになって、どうしたらいいかわからなかった。

 殺されるかもしれないのに、オシッコをもらさなくてよかったとか、そんなことを考えてた気がする。




「シャーシャちゃん。信じられない事に、()()()は、僕と同じ力を持っていて、あろう事かマホショージョであるシャーシャちゃんをも凌駕したとほざいています。許せる事ではありません。あらゆる手段を用いて叩き潰しなさい」

 口にするのもいやって感じで、ヤマトーさんはアタシのことをアイツっていった。


 呼ばれたシャーシャは震えてた。

 シャーシャは怒ったヤマトーさんのことをこわがる。

 っていうか、怒ったヤマトーさんをこわがらない人っていないと思う。


 背中を向けてるヤマトーさんは、今どんな顔してるんだろ。

 ヤマトーさんが掴んでいた肩を離したら、シャーシャがゆっくりこっちを見た。

 背中越しに見たシャーシャの顔は、血の気が引いててもう真っ白になってた。


「………さなきゃ」

「………さなきゃ」

「………さなきゃ」

 シャーシャが真っ白な顔で、なにかをつぶやきながらこっちに歩いてくる。


「………さなきゃ………さなきゃ………さなきゃ」

「………さなきゃ………さなきゃ………さなきゃ」

「………さなきゃ………さなきゃ………さなきゃ」

 遠目でも、身体がガタガタ震えてるのがわかる。


「………ぶさなきゃ………ぶさなきゃ………ぶさなきゃ」

「………ぶさなきゃ………ぶさなきゃ………ぶさなきゃ」

「………ぶさなきゃ………ぶさなきゃ………ぶさなきゃ」

 無表情な顔が近づいてくる。


「ひぃ、ひっ、ひっ、ひっ、ひっ!」

 アタシはこわくなってさけんだ。

 でも息をうまく吸えなくて、変な声が出た。

 シャーシャは足元を見ながらフラフラ近寄ってくる。


「………潰さなきゃ………潰さなきゃ………潰さなきゃ」

「………潰さなきゃ………潰さなきゃ………潰さなきゃ」

「………潰さなきゃ………潰さなきゃ………潰さなきゃ」

「………潰さなきゃ………潰さなきゃ………潰さなきゃ」

「………潰さなきゃ………潰さなきゃ………潰さなきゃ」


「………お兄ちゃんを怒らせたやつ、潰さなきゃ」

 シャーシャがアタシの顔を見た。

「………お兄ちゃんを怒らせた、ミミカカさんが悪いんだよ」

 こわい。

 シャーシャはなにも考えてないみたいに無表情だ。


「………死んで」

「ひぃ!ひぃ!ひぃ!ひっ!ひぃぃぃいいいいっ!」

 アタシは犬みたいに手と足をつきながら、背中を向けて逃げ出した。




「い!ひぃ!ひっ!ひぃぃぃ!」

 走る前から息が乱れてた。

 心臓がやぶけそう。

 でも止まれない。


「………」

 シャーシャが追ってきてる。

 アタシと違って息を切らしてもいない。

 っていうか足も動かしてない。


 シャーシャは空を飛べない。

 アタシはそれをバカにした。

 アタシはなんてバカだったんだろ。

 シャーシャのこの魔法は空を飛ぶ為のものじゃない。

 戦うのに必要だ(いる)から作った、本物の魔法戦技だ。


「いいい!い!いぃいいいいいい!」

 うでを斬られた!

 アタシは逃げるしかできない。


 走りながらじゃ、シャーシャの攻撃は防げない。

 なのにシャーシャは動きながらナイフを使える。

 しかもシャーシャのほうが速い。

 どうやっても逃げられない。


「あぁっ!」

 足がもつれてころんだ。

 耳のすぐ横でヒュッて音がした。

 転んでなかったら首を切られてたかもしれない。


「いぃひぃいいいいいい!」

 虫みたいにカサカサ這って、すぐに逃げる。

「オイ」

 シャーシャの動きが止まったのがわかる。

 アタシもその声を聞いて動けなくなった。


「何してんだテメェ」

 ヤマトーさんがアタシを睨んでる。

「俺と同じ力を持ってて、シャーシャすら凌駕したんだろうが」

 すごく冷たい目で睨んでる。


「だったら戦えよ。じゃねぇと」

 動けないアタシたちが見てる前で、銀色の剣を抜いた。

「俺が殺すぞ」

 ブン!


 シャーシャに声をかけたところから動いてなかったのに。

 ヤマトーさんが振った剣は、アタシの目の前の地面を深くえぐった。

 わざと外してくれなかったら、アタシはもう死んでた。


「シャーシャちゃん、遠慮はいりませんよ」

 声をかけられたシャーシャがビクってした。

「そのカサカサ這う虫みたいな奴は、シャーシャちゃんより強いらしいですから。手加減の余地はありません。全力で仕留めるんですよ」

 ヤマトーさんがけしかけてきた。


「………死ね」

 ナイフ!

 腰から吊ったナイフでシャーシャのナイフを弾く!

 戦わないと!

 ヤマトーさんに殺される!


 ヤマトーさんがシャーシャを大事にしてるのはわかりきってるのに!

 なんでさっきのアタシは調子に乗ったの?

 なんでいらないことを言ったの?


「………っ!………っ!………っ!」

「………っ!………っ!………っ!」

 無言でシャーシャと打ち合う。

 死にたくないアタシは、必死でシャーシャの攻撃をふせいだ。


「シャーシャを超えたとほざいただけあるじゃないか、アッハッハッハッハッ、アハハハハハハハハハハヒヒヒヒヒヒヒ!クフフフフフフフフフ!」

 手をたたいて喜んで笑うヤマトーさん。

 シャーシャの動きをよく見ないといけなくて、なにが楽しいのかぜんぜんわからなかった。


「お上手お上手!ホラホラ危ねぇぞオイ!ヒヒヒヒヒハハハハハハハ!イヒャヒャヒャヒャヒャ!フフフ!フフフフフフフ!」

 どんどんわけがわからなくなる。

 なんでアタシ、シャーシャとナイフでケンカしてるの?

 前にケンカしたときは、鞘に入ったままのナイフだったのに。

 今のシャーシャの攻撃が当たったら、アタシは死ぬ。


「何を悠長に!遊んでいるのか?余裕じゃないか?追い立ててやろうか?」

「ひぃ!」

 まぶしい!

 ヤマトーさんが光の剣を使ってきた?


「そら!どうした!どうしたどうしたどうしたぁ!ヒヒヒヒヒ、どうかしてるどうかしてる!全くもってどうかしてる!ヒヒハハハハハ!ヒヒヒヒヒヒヒヒ!」

 シャーシャと戦ってる場合じゃない!

 ヤマトーさんが光の剣をいっぱい飛ばしてくる!

 アレに当たったらアタシは死ぬ!


「いひっ!ひぃ!ひぃ!」

「ヒハハハハハハハハハ!どうした?俺と同じ魔法を使えるというなら抵抗しろよ?対抗しろよ?何なんだテメェは?何なんだテメェはよぉ!殺されたいのかっ!」

 ヤマトーさんが怒ってる!

 ヤマトーさんが怒ってる!


 ヤバイ!

 なんとかしないと!

 なんとかしないと!

 死ぬ!


「ひぃいいいっ!」

 アタシも光の剣でヤマトーさんを攻撃する!

「馬鹿め!」

「うぅっ!」

 目が!?

 目が見えない!?


「それだけ光を集めれば当然だろ?光は眩しいんだからな!今まで目が潰れなかったのは俺が守ってたからだ!俺と同じ事ができるなら全部自分でやれよ?やってみせろよ?焼き殺すぞおおおおおお!」

 目が真っ白になって見えないアタシ!

 でもなにされたのかはすぐわかった!


「熱い!熱い!熱い!熱い!」

 火だ!

 火をつけられた!

 今まではヤマトーさんが、火を消す精霊をつけてくれてたからだいじょうぶだったのに!

 今はヤマトーさんが守ってくれてないんだ!


 目が見えない!

 焼き殺される!

 このままじゃ死ぬ!

 逃げなきゃ!


「いいぃ!痛い!痛い!痛いいいいいいいい!」

「アヒヒヒヒハハハハハ!何だその魔法は?自傷癖に目覚めたか?アッハハハハハハハ!」

 アタシの体は、地面にこすりつけられてた!


 火と光の剣から逃げたくて、アタシは空と飛ぼうとした!

 でも、目が見えなくて、地面に向かって飛んでたみたいだった!

 アタシは頭から地面にこすりつけられて、血まみれになった!


「ヒフフフフ!無様だな!無様だなぁ!まだ逃げれてねぇぞオイ!」

「あぁああああああっ!ああああああああああっ!」

 焼かれる!

 焼かれる!

 やだ!

 やだあああああ!


「もっと必死になれよ?死ぬぞ?死んじまうぞ?死ねよ!」

 地面に倒れてたアタシは、魔法で空に逃げた。

 目が見えなくても倒れてたから、背中のほうに飛んでいけばだいじょうぶだ。

 そこまでちゃんと考えたんじゃなくて、火から逃げるのに必死で気付いたら逃げてたんだけど。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………」

「ヒヒヒヒ!しぶといしぶとい!さぁ、シャーシャちゃん!貴方がとどめを刺しなさい!」

「………!」

「うぅ、逃げなきゃ、逃げ、なきゃ………」


 目が真っ白でチカチカしてる。

 何も見えない。

 でも逃げないと。

 今度こそとどめを刺される。


 ………そう思ったけど。

 アタシはまだ生きてた。

 さっきから何も攻撃が飛んでこない。


「………うーん、届かない」

 シャーシャは空を飛べないから、アタシが空を飛んでる間なら攻撃されないからだ。

「ふふふ、シャーシャちゃん?別にシャーシャちゃんも飛ぶ必要はないんですよ?」

「………あ」


「そう、魔法で撃ち落せばいいんです。ただ………」

「………ただ」

「一応、僕と同じ魔法が使えると言っていたので、火の魔法は防げると想定しておきましょう。火以外の遠距離攻撃で、シャーシャちゃんを虚仮にした奴を後悔させて下さい」

「………火、以外」


 いきなり魔法を作れなんてムチャ。

 いくらシャーシャがすごいって言っても、そんな簡単に魔法なんて作れない。

 おかげでアタシの目も見えるようになってきたし、避けることだってできる。

 それに………。


「ふぅ………ふぅ………はぁ………」

 まだ落ち着かない息を整えながら、弓を引く準備をする。

「!」

 ヒュッ!

 矢はまっすぐ、狙ったところと、全然違うところに飛んでった。


「はぁ………はぁ………はぁ………」

 息が上がったままだ。

 まだ落ち着いてない。

 でも、矢が外れたのはそれだけが理由じゃない。


 空を飛びながらだと、狙いがつけられない。

 空を飛ぶ精霊は、アタシをすごい速さで引っ張る。

 まるで空に向かって落ちてくみたいに。

 アタシがいくら村1番の弓の使い手って言っても、落ちながら狙ったことなんてない。


「ふっ、ふっ………!」

 ヒュッ!

 今度も外れた。


「んんぅ………!」

 ヒュッ!

 行き過ぎた。


「………!」

 ヒュッ!

 だんだん息が整ってきた!

 だんだん矢が近づいていってる!


「………!」

 ヒュッ!

 もうコツはわかった!


 ギリッ!

 今度は当てる!

 そう思ってゆっくり弓を引く!


「!」

 ヒュッ!

 やった!

 矢はまっすぐシャーシャに飛んでった!


 矢は速い!

 野生の動物・化物だって避けられない!

 しかも今アタシは空から地面に打ち下ろしてる!

 いくらシャーシャでも見てからじゃ避けられないぞ!


 死んでたまるか!

 死んでたまるか!

 アタシは生きるんだ!

 アタシが勝つ!

 アタシが勝つんだ!


「死ね、死ね、死ね、死ね!」

「死なねーよ、タコが!」

「え?」

 ヤマトーさんの声が聞こえた?

 ヤマトーさんは最初の場所からほとんど動いてない。

 なんで声だけが聞こえたの?


「フン、周りを見ても何も見えねぇよ。何の為の精霊が見られる目だ。とんだ持ち腐れだな」

「え、あ………」

 風の精霊?

 声を風に乗せてる?


 って!

 さっきはヤマトーさんの声におどろいたけど、それどころじゃない!

 アタシの矢だ!


 まっすぐシャーシャに飛んでった矢。

 シャーシャはよけない。

 なのに矢は当たらなかった。

 シャーシャに当たる手前で、急に変な方向に曲がってったからだ。


「なんなの、アレ………」

「だが一応、射撃に向かない空中から数回の試射だけで、直撃させたのは流石だと言っておくか。流石は武功抜群の軍神、サッキの力だ」

 なにが起こったのかわかんなくて、おどろいてる間にもヤマトーさんはしゃべってた。


「しかし、シャーシャを傷つける全てから俺が守る。セッリョ防御壁の試験稼働は問題なく完了した、ご苦労。後はシャーシャがお前を討てば、全ての試験項目は完了する。せいぜい思い上がりと慢心を悔むんだな」


 光の剣は使えない。

 また目が見えなくなる。

 今度こそ使ったら、シャーシャにやられる。

 矢はヤマトーさんの魔法があるから効かない。


 なんでアタシはよけいなことを言ったんだろ。

 もしやり直せるなら、ヤマトーさんを怒らせないようにしたい。

 ヤマトーさんを怒らせなかったら、こんなことにならなかったのに。


「死にたく、ない………」

 心の底からアタシはそう思った。

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