表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男子の始動
80/154

ミミカカ、日本男子に突き放される

 アタシはニホコクミを目指す戦士、ミミカカ!


「ホマレー流護身術を修めたシャーシャちゃんとミミカカの2人には、次のステップに進んでもらいます」

 旅に出てすぐのころ、ヤマトーさんはそういった。

「次のステップ、ですか?」

「あぁ、次のステップだ」


「ホマレー流護身術は”非力な女子供でも大の男を倒せる”を標語に作られた総合格闘術です」

「ソーゴーカクトージュツ?」

 アタシが聞き返したら「あー、こっちにそういう概念はないんだな」っていったあと教えてくれた。


「格闘術は文字通りの近接戦闘の方法・(すべ)だな。それを総合した訳だから、数ある格闘術の利点を兼ね備えたものだ」

 数あるって、パンチのしかた、キックのしかたなんて、そんなにいっぱいあるんだなぁって思った。

「僕はシャーシャちゃんに戦う術を授ける為、心血注いでこの護身術を完成させました」

 ヤマトーさんが目を閉じながら、なにかを思い出すみたいに話してた。


「可能な限り簡略化する事に腐心しました。前提条件を排除する事で、全天候に効果を発揮できる、汎用型の格闘術。それがホマレー流護身術の目標です」

 かんたんにしておいたら、どんなときでも使えるみたい。

 むずかしかったら、使いにくいもんね。


「単純な打撃力を増す為に、肘、膝に加えて武器の使用を前提としました。この試みは実際に、高い効果を発揮し、ホマレー流護身術を習得し、シトーを持った2人は、世界全体で見ても抜きん出た強さとなった………筈です。相対的な評価を最終的に下すのは、暫く旅した果てになるでしょうが、僕の見立ててではほぼ確実です」


「はい」

 手を上げて質問するアタシ。

 手を上げるのはヤマトーさんが「質問するときは挙手で」っていってたから。

「はい、ミミカカ」

 こうしたらヤマトーさんが質問に答えてくれるようになる。


「シトーってなんですか?」

「あぁ、ミミカカには説明してなかったか。ミミカカに授けたそのナイフの事だ」

「このナイフですか?」

 ヤマトーさんにもらった銀色できれいなナイフ。


「そのナイフはサッキというんだが、刀剣類として完成している上に、荒ぶる軍神の力が宿っている」

「このナイフに神さまが?」

 たしかにいくら切っても、ずっと切れ味がするどいままだし。


「持ち主にこの世の全てを圧倒する、凄まじい力を授ける無敵の武器だ」

「ヤマトー殿!」

 うわ!グララか!

 急に大きな声出したからびっくりした!


「なんだ、グララ?」

「何故2人はその様な凄い物を持っておるのだ!そして何故我だけ持っておらぬのだ!我も欲しいのだ!」

「………」

 ヤマトーさんがはりついたみたいな笑顔になってだまった。

 イライラしてるときの顔だ。


「グララ、君はいくらなんでも欲が深すぎるぞ」

「欲深いとはなんなのだ!我だってその様に特別な物があると知れば、欲しいと思うのは当然なのだ!」

 たしかにみんな持ってて自分だけっていうのはヤかも。


「俺はもうグララには、この世界に2つとない、素晴らしい魔法の道具を渡してある。なのにさらにと要求するのは過分だと思う」

「ぬ?」

 ヤマトーさんがもうあげたっていってるのに、グララはなんのことだかわかってない顔してる。


「何を犬の交尾を眺める様な顔をしてるんだ」

「そんな顔はしておらんのだ!だいたい我は犬がまぐわる様など見た事がないのだ!」

「渡しただろ、デーデダーコ?」

 ムキになってるグララを無視して話をすすめるヤマトーさん。

 グララの扱いはすごい軽い。


「アレもシトーなのか!」

 でもグララはあんまり気にしてないみたい。

 ところでデーデダーコってなに?

 そう思ってたらグララがなんか赤くて黒い、へんなのを目の前に出した。

 あー、あのポテンポテンするやつか。いつもグララが持ってるやつだ。


 右手に杖。左手にデーデダーコ。

 杖を胸の前に抱いて、左手のデーデダーコをブンブン振り回しながら走る。

 ポテンポテン、マヌケな音をさせながら走るグララ。


 ちなみに、グララはムカつくんだけど胸が大きい。

 それで、着てるのは貫頭衣。脇が縫ってない服だ。

 グララは胸と手で杖をはさんで走る。

 ………。


 胸の谷間のところを杖で抑えて。

 身体をぶんぶん振りながら走る。

 だから、どんどん、胸のところが、はだけてきて………。


 これまでは左手があいてたからだいじょうぶだった。

 けど、今はポテンポテンするやつがある。

 村を出たグララは、けっこう胸を出してるときがある。


 ………正直。

 グララの胸は女のアタシでも思わず見ちゃうぐらいキレイだった。

 白くて。

 大きくて。

 走るとぶるんぶるんしてて。


 でもダメだ!

 ヤマトーさんがいるのに!

 ヤマトーさんもグララの胸を見てんじゃないかって心配になる!


 ………でもヤマトーさんはだいじょうぶだった。

 いつもはきびしい顔をしてるヤマトーさん。

 グララの胸がはだけてたら、もっと厳しい顔になって、両手をピタって合わせて目を閉じる。


「オッパイイッパイムネイッパイ!」

 その後なんかの呪文みたいなのを唱える。

 たぶん落ち着く魔法なのかな?


「神に感謝を」

 その後、なんかすごいスッキリした顔で、神さまに感謝する。

 たぶんテノーヘカ様へのお祈りなんだと思う。

 手を合わせるのはテノーヘカ様への感謝だっていってたし。


 今度からアタシも立派な戦士になれるようにマネしよう!

 オッパイイッパイムネイッパイ!

 なんかお祈りのことばもおぼえやすいし!


 で、デーデダーコの話だ。

「いや、デーデダーコはシトーではない。シトーではないが、特別な効果を持った魔法の道具だ」

「特別な効果だと?」

「グララが魔法を使える様になっただろ。本来魔法を使えない筈のグララが、魔法を使える様になる」

「む!」

 グララがなんか怒ってる感じだ。


「そういえばヤマトー殿!」

「なんだ?」

 ヤマトーさんが少しおどろいたみたいな顔をしてグララを見てる。


「非道いではないか!」

「いきなりなんだ、人聞きの悪い?潰すぞテメェコラ?アァ?」

 ヤマトーさんが、びっくりしたこどもみたいな顔でいった。

 ヤマトーさんのこわいところは、ヤマトーさんの力だったら、ホントになんでもない顔で潰せるところだ。

 ちょーコワイ!


「だ、だって、我はせっかく!せっかく、魔法が使える様になったのだ!なのに2人には何やら稽古をつけても、我にだけは教えてくれぬではないか!そんなの非道いのだ!」

 グララもヤマトーさんのおどしがわかったみたいだけど、それでも不満をいった。

 勇気あるなぁ。

 ヤマトーさんのこと好きなアタシでも、ヤマトーさんににらまれたらちょーコワイのに。


「あぁー、それか」

 ヤマトーさんが「わかった!」って顔で、手のひらを「ポン」ってたたく。

 いつも顔をしかめてて、コワイ顔してるんだけど、ときどきやるしぐさとか表情とかは、なんかすごくかわいい。

 こういうところが少しずつ見れるのが好きだ。


「それはグララ」

「我がなんだ?」

「君が大事だからだ」

 なんでもない顔でいうヤマトーさん!


「「………!!」」

 なにを言い出すの!信じられない!ってヤマトーさんを見るアタシとシャーシャ!

「わ、我が大事とな?」

「あぁ、グララは大事だ」

 聞き間違いとか、そういうんじゃなかったー!


「グララ、君は素晴らしい。全人類にとっての夢、宝と言って相違あるまい。それ程までに掛け値なく素晴らしい。貧弱な俺の語彙では、君を正しく称える言葉が思い浮かばない有様だ。どうかそんな俺の不甲斐なさを許して欲しいものだ。許せ。許さないと殺す」

 そしてなんでもない顔のままグララを褒め………褒め?


 ………褒めてる、コレ?

 なんか最後、すごい脅してたけど?

 グララも途中まで驚きながら喜んでたけど、最後には固まった。


「グララは大事だ。万が一があってはならない。自衛手段がないと困るのでデーデダーコは与えた。だが決して、積極的に戦う様にはなって欲しくない。基本的に自身で魔法を行使するのは、最後の手段だと思って欲しい」

「ぬー!」

 大事だっていわれてるのはうらやましいけど、なにもするなっていわれて、グララも不満そう。


「不安かもしれないが安心してほしい。俺にとって君は重要だ。全力を尽くし君を守る」

「「「………!!」」」

 な!なにそれ!

 すごいうらやましい!


 好きな人に「君が大事だ」「君を守る」っていってもらえるとか!

 2人きりのときに、ぎゅって抱きしめながら、目を合わせながらいわれたら?

 ………アタシならたぶん、腰抜けると思うし!

 あと、そのときは、髪とかなでてくれたらすごくいい!


 シャーシャが髪なでてもらってるの、すごいうらやましいんだよ!

 大事なものみたいに、すごくていねいになでてもらってるの!

 「偉いですね」「頑張ってますね」「よく出来ましたね」「宝物です」

って、すごいやさしい顔でわらってなでるの!

 アレ、すごいうらやましい!


 ………シャーシャなら、ヤマトーさんが大事にしてるシャーシャなら、まだわかった。ガマンできた。

 でも、グララ?

 よりによって、あのグララ?

 グララが大事?


 ヤマトーさんは、必要ないことはあんまりしゃべらない。

 すごくしずかで無口。

 だけど、必要なこと、大事なことはしゃべる。

 ヤマトーさんはそういう人だ。


 ………ショックだった。

 アタシ、ヤマトーさんに大事だっていってもらってない。

 なんで?


 今までヤマトーさんはグララを見てなかったのに。

 シャーシャに負けてるのはわかってたけど。

 アタシ、グララに負けたの?




「話が脇に逸れましたが元に戻しましょう。ホマレー流護身術は、非力な者の為の戦闘術でした」

 ショックを受けてるアタシに気付かないヤマトーさんはそのまましゃべる。

「しかし2人には魔法があります。町の兵士達が徒党を組んだところで、最早、脅威足り得ない事でしょう。非力な者等ではなく、強者です。もはやホマレー流護身術を卒業する時が着ました。強者の為の戦闘術が必要なのです」


「………あのね、あのね、お兄ちゃん?」

「はい、なんでしょう、シャーシャちゃん?」

「………えっとね、まほうを使いながらね、戦うんじゃなくってね、えっと………まほうで戦うようにね、するの?」

「おぉ!流石はシャーシャちゃんです!もう目的がわかってるんですね!」

 ショックなアタシをほったらかして、2人でもりあがってた。


「今までの戦闘方法というのは、魔法を魔法と、運動を運動と、別々で捉えがちでした。ですがそれは、非効率的です。魔法が使える事は、他ならぬ自分が一番わかっているのです。自分が使える魔法を見極めて、それを前提として、行動を最適化するべきなのです。魔法を取り入れた戦闘技術、魔法戦技を作り上げる事が肝要です」


「………まほう、せんぎ」

「各人に最適化された魔法戦技。そして、最適化された魔法戦技の為に新たな魔法を開発。新たな魔法を取り入れた魔法戦技の最適化。魔法戦技は個々の努力において、無限の発展性と、無敵の戦闘力を習得者にもたらします」

 ヤマトーさんが魔法のことをしゃべってる。

 でも、アタシは………。


「僕は………強くなりたいです」

 ん?

 なんか、ヤマトーさんの声のトーンが変わった?

 

「究極の魔法戦技の開発。それが今の僕の夢です。そして、その達成は容易ならざる道。僕1人では困難なものだと思います。そこで2人には、僕を助けて欲しいんです」

「………お兄ちゃんを………たすけるの?」

「はい、シャーシャちゃん。シャーシャちゃんはマホショージョです。その類稀な力を僕に貸して下さい。これは僕にとって、大事な事なんです」

 大事………。


「ヤマトーさん」

「ん、どうした、ミミカカ?」

「その魔法戦技を作ることは、ヤマトーさんにとって大事なことなんですか?」


「あぁ、そうだ。だから………」

「それを作ったら!………それを作ったら………ヤマトーさんは、アタシも………大事だって、いってくれますか?」

 ヤマトーさんがなにかをいう前に、もっと聞いた。


「あ、あぁ………そうだな。俺の行く道を手助けしてくれるんだからな」

 少しおどろいたみたいな顔をしたヤマトーさんが答えてくれる。

「わかりました。アタシ、魔法戦技を作ります」

 ヤマトーさんに大事だっていってもらえる。

 これはチャンスだ。


 旅について来なくていいっていわれたり。

 いつの間にか、グララにも負けてたり。

 ヤマトーさんに見てもらえなくなってたアタシ。

 アタシは魔法をもっとうまく使えるようになって、ヤマトーさんに大事にしてもらうんだ。

 ぜったいに………ぜったいに!




 よし、すごい魔法を使えるようになるぞ!

 ふふーん!

 実はもうすごい魔法は見つかってるし!

 アタシの知ってる1番すごい魔法使い、ヤマトーさんが使える魔法だ!


 空を飛ぶ魔法!

 光で切る魔法!

 ヤマトーさんの魔法だって、アタシならマネできる!

 だって、アタシには精霊が見えるし!


 空を飛ぶ魔法は、引っ張る精霊の力だ。

 ふつう、この精霊は地面に向かって引っ張ってる。

 でもヤマトーさんは、引っ張る方向を好きに変えて空を飛んでる。


 ヤマトーさんがこういう使い方しなかったら、この精霊がいることに気づかなかったと思う。

 だって、この精霊、めちゃくちゃ見つけにくいし。

 ホントにヤマトーさんはなんでも知ってるなぁ。


 光で切る魔法は、光の精霊を集めたらできる。

 光の精霊をすごいせまいところに集めたら、そこに火の精霊が生まれる。

 じゃあ最初っから火の精霊の力を借りたらいいのに。


 ってやる前は思ったけど、火の精霊だけじゃ物は切れない。

 ふつうに燃えちゃう。

 光の精霊ですごいせまいところに、火の精霊を生むから切れるみたい。

 よくこんな使い方思いつくなぁ、ヤマトーさん。


 とりあえずこの2つをマネしてみたけど、やっぱりヤマトーさんがすごいのがよくわかった。

 前に見た、水でなんでも切る魔法とかは、マネしてみたけど全然できなかった。

 水が足りないのかと思って、いっぱい出してみたけど切れなかった。

 あんないきおいよく水なんて出ないし。


 姿が見えなくなる魔法は、どうなってるのかもよくわからない。

 精霊の動きは変わってないのに、姿だけ見えなくなる。

 なんの精霊の力を借りてるのかわかんなかったし、マネもできなかった。


 うまくできないことは多かったけど、アタシは今、すごいうれしい。

 だって、魔法戦技をつくるのは、アタシが1番うまくいってるし。

 グララはどうでもいい。グララよりアタシのほうが魔法使うのうまいし。

 問題はシャーシャのほうだ。


 ヤマトーさんが大事にしてるシャーシャ。

 アタシより強いシャーシャ。

 精霊の力もアタシより強い。


 そんなシャーシャが。

 うまく空を飛べなかった。

 なんとか地面の上をすべってるだけ。

 アタシやヤマトーさんみたいに空を飛べてない。


 村でケンカしたとき以外で、はじめてシャーシャに勝てた。

 いろんなことができる、天才のシャーシャ。

 でも、アタシは精霊を見れる。

 だから、アタシの方が魔法をうまく使えるんだ。


 これで。

 これでヤマトーさんに認めてもらえる。

 アタシが1番うまく魔法を使えるんだから。

 アタシもヤマトーさんに大事って言ってもらうんだ。

17/3/11 投稿・誤字の修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ