ミミカカ、日本男子に突き放される
アタシはニホコクミを目指す戦士、ミミカカ!
「ホマレー流護身術を修めたシャーシャちゃんとミミカカの2人には、次のステップに進んでもらいます」
旅に出てすぐのころ、ヤマトーさんはそういった。
「次のステップ、ですか?」
「あぁ、次のステップだ」
「ホマレー流護身術は”非力な女子供でも大の男を倒せる”を標語に作られた総合格闘術です」
「ソーゴーカクトージュツ?」
アタシが聞き返したら「あー、こっちにそういう概念はないんだな」っていったあと教えてくれた。
「格闘術は文字通りの近接戦闘の方法・術だな。それを総合した訳だから、数ある格闘術の利点を兼ね備えたものだ」
数あるって、パンチのしかた、キックのしかたなんて、そんなにいっぱいあるんだなぁって思った。
「僕はシャーシャちゃんに戦う術を授ける為、心血注いでこの護身術を完成させました」
ヤマトーさんが目を閉じながら、なにかを思い出すみたいに話してた。
「可能な限り簡略化する事に腐心しました。前提条件を排除する事で、全天候に効果を発揮できる、汎用型の格闘術。それがホマレー流護身術の目標です」
かんたんにしておいたら、どんなときでも使えるみたい。
むずかしかったら、使いにくいもんね。
「単純な打撃力を増す為に、肘、膝に加えて武器の使用を前提としました。この試みは実際に、高い効果を発揮し、ホマレー流護身術を習得し、シトーを持った2人は、世界全体で見ても抜きん出た強さとなった………筈です。相対的な評価を最終的に下すのは、暫く旅した果てになるでしょうが、僕の見立ててではほぼ確実です」
「はい」
手を上げて質問するアタシ。
手を上げるのはヤマトーさんが「質問するときは挙手で」っていってたから。
「はい、ミミカカ」
こうしたらヤマトーさんが質問に答えてくれるようになる。
「シトーってなんですか?」
「あぁ、ミミカカには説明してなかったか。ミミカカに授けたそのナイフの事だ」
「このナイフですか?」
ヤマトーさんにもらった銀色できれいなナイフ。
「そのナイフはサッキというんだが、刀剣類として完成している上に、荒ぶる軍神の力が宿っている」
「このナイフに神さまが?」
たしかにいくら切っても、ずっと切れ味がするどいままだし。
「持ち主にこの世の全てを圧倒する、凄まじい力を授ける無敵の武器だ」
「ヤマトー殿!」
うわ!グララか!
急に大きな声出したからびっくりした!
「なんだ、グララ?」
「何故2人はその様な凄い物を持っておるのだ!そして何故我だけ持っておらぬのだ!我も欲しいのだ!」
「………」
ヤマトーさんがはりついたみたいな笑顔になってだまった。
イライラしてるときの顔だ。
「グララ、君はいくらなんでも欲が深すぎるぞ」
「欲深いとはなんなのだ!我だってその様に特別な物があると知れば、欲しいと思うのは当然なのだ!」
たしかにみんな持ってて自分だけっていうのはヤかも。
「俺はもうグララには、この世界に2つとない、素晴らしい魔法の道具を渡してある。なのにさらにと要求するのは過分だと思う」
「ぬ?」
ヤマトーさんがもうあげたっていってるのに、グララはなんのことだかわかってない顔してる。
「何を犬の交尾を眺める様な顔をしてるんだ」
「そんな顔はしておらんのだ!だいたい我は犬がまぐわる様など見た事がないのだ!」
「渡しただろ、デーデダーコ?」
ムキになってるグララを無視して話をすすめるヤマトーさん。
グララの扱いはすごい軽い。
「アレもシトーなのか!」
でもグララはあんまり気にしてないみたい。
ところでデーデダーコってなに?
そう思ってたらグララがなんか赤くて黒い、へんなのを目の前に出した。
あー、あのポテンポテンするやつか。いつもグララが持ってるやつだ。
右手に杖。左手にデーデダーコ。
杖を胸の前に抱いて、左手のデーデダーコをブンブン振り回しながら走る。
ポテンポテン、マヌケな音をさせながら走るグララ。
ちなみに、グララはムカつくんだけど胸が大きい。
それで、着てるのは貫頭衣。脇が縫ってない服だ。
グララは胸と手で杖をはさんで走る。
………。
胸の谷間のところを杖で抑えて。
身体をぶんぶん振りながら走る。
だから、どんどん、胸のところが、はだけてきて………。
これまでは左手があいてたからだいじょうぶだった。
けど、今はポテンポテンするやつがある。
村を出たグララは、けっこう胸を出してるときがある。
………正直。
グララの胸は女のアタシでも思わず見ちゃうぐらいキレイだった。
白くて。
大きくて。
走るとぶるんぶるんしてて。
でもダメだ!
ヤマトーさんがいるのに!
ヤマトーさんもグララの胸を見てんじゃないかって心配になる!
………でもヤマトーさんはだいじょうぶだった。
いつもはきびしい顔をしてるヤマトーさん。
グララの胸がはだけてたら、もっと厳しい顔になって、両手をピタって合わせて目を閉じる。
「オッパイイッパイムネイッパイ!」
その後なんかの呪文みたいなのを唱える。
たぶん落ち着く魔法なのかな?
「神に感謝を」
その後、なんかすごいスッキリした顔で、神さまに感謝する。
たぶんテノーヘカ様へのお祈りなんだと思う。
手を合わせるのはテノーヘカ様への感謝だっていってたし。
今度からアタシも立派な戦士になれるようにマネしよう!
オッパイイッパイムネイッパイ!
なんかお祈りのことばもおぼえやすいし!
で、デーデダーコの話だ。
「いや、デーデダーコはシトーではない。シトーではないが、特別な効果を持った魔法の道具だ」
「特別な効果だと?」
「グララが魔法を使える様になっただろ。本来魔法を使えない筈のグララが、魔法を使える様になる」
「む!」
グララがなんか怒ってる感じだ。
「そういえばヤマトー殿!」
「なんだ?」
ヤマトーさんが少しおどろいたみたいな顔をしてグララを見てる。
「非道いではないか!」
「いきなりなんだ、人聞きの悪い?潰すぞテメェコラ?アァ?」
ヤマトーさんが、びっくりしたこどもみたいな顔でいった。
ヤマトーさんのこわいところは、ヤマトーさんの力だったら、ホントになんでもない顔で潰せるところだ。
ちょーコワイ!
「だ、だって、我はせっかく!せっかく、魔法が使える様になったのだ!なのに2人には何やら稽古をつけても、我にだけは教えてくれぬではないか!そんなの非道いのだ!」
グララもヤマトーさんのおどしがわかったみたいだけど、それでも不満をいった。
勇気あるなぁ。
ヤマトーさんのこと好きなアタシでも、ヤマトーさんににらまれたらちょーコワイのに。
「あぁー、それか」
ヤマトーさんが「わかった!」って顔で、手のひらを「ポン」ってたたく。
いつも顔をしかめてて、コワイ顔してるんだけど、ときどきやるしぐさとか表情とかは、なんかすごくかわいい。
こういうところが少しずつ見れるのが好きだ。
「それはグララ」
「我がなんだ?」
「君が大事だからだ」
なんでもない顔でいうヤマトーさん!
「「………!!」」
なにを言い出すの!信じられない!ってヤマトーさんを見るアタシとシャーシャ!
「わ、我が大事とな?」
「あぁ、グララは大事だ」
聞き間違いとか、そういうんじゃなかったー!
「グララ、君は素晴らしい。全人類にとっての夢、宝と言って相違あるまい。それ程までに掛け値なく素晴らしい。貧弱な俺の語彙では、君を正しく称える言葉が思い浮かばない有様だ。どうかそんな俺の不甲斐なさを許して欲しいものだ。許せ。許さないと殺す」
そしてなんでもない顔のままグララを褒め………褒め?
………褒めてる、コレ?
なんか最後、すごい脅してたけど?
グララも途中まで驚きながら喜んでたけど、最後には固まった。
「グララは大事だ。万が一があってはならない。自衛手段がないと困るのでデーデダーコは与えた。だが決して、積極的に戦う様にはなって欲しくない。基本的に自身で魔法を行使するのは、最後の手段だと思って欲しい」
「ぬー!」
大事だっていわれてるのはうらやましいけど、なにもするなっていわれて、グララも不満そう。
「不安かもしれないが安心してほしい。俺にとって君は重要だ。全力を尽くし君を守る」
「「「………!!」」」
な!なにそれ!
すごいうらやましい!
好きな人に「君が大事だ」「君を守る」っていってもらえるとか!
2人きりのときに、ぎゅって抱きしめながら、目を合わせながらいわれたら?
………アタシならたぶん、腰抜けると思うし!
あと、そのときは、髪とかなでてくれたらすごくいい!
シャーシャが髪なでてもらってるの、すごいうらやましいんだよ!
大事なものみたいに、すごくていねいになでてもらってるの!
「偉いですね」「頑張ってますね」「よく出来ましたね」「宝物です」
って、すごいやさしい顔でわらってなでるの!
アレ、すごいうらやましい!
………シャーシャなら、ヤマトーさんが大事にしてるシャーシャなら、まだわかった。ガマンできた。
でも、グララ?
よりによって、あのグララ?
グララが大事?
ヤマトーさんは、必要ないことはあんまりしゃべらない。
すごくしずかで無口。
だけど、必要なこと、大事なことはしゃべる。
ヤマトーさんはそういう人だ。
………ショックだった。
アタシ、ヤマトーさんに大事だっていってもらってない。
なんで?
今までヤマトーさんはグララを見てなかったのに。
シャーシャに負けてるのはわかってたけど。
アタシ、グララに負けたの?
「話が脇に逸れましたが元に戻しましょう。ホマレー流護身術は、非力な者の為の戦闘術でした」
ショックを受けてるアタシに気付かないヤマトーさんはそのまましゃべる。
「しかし2人には魔法があります。町の兵士達が徒党を組んだところで、最早、脅威足り得ない事でしょう。非力な者等ではなく、強者です。もはやホマレー流護身術を卒業する時が着ました。強者の為の戦闘術が必要なのです」
「………あのね、あのね、お兄ちゃん?」
「はい、なんでしょう、シャーシャちゃん?」
「………えっとね、まほうを使いながらね、戦うんじゃなくってね、えっと………まほうで戦うようにね、するの?」
「おぉ!流石はシャーシャちゃんです!もう目的がわかってるんですね!」
ショックなアタシをほったらかして、2人でもりあがってた。
「今までの戦闘方法というのは、魔法を魔法と、運動を運動と、別々で捉えがちでした。ですがそれは、非効率的です。魔法が使える事は、他ならぬ自分が一番わかっているのです。自分が使える魔法を見極めて、それを前提として、行動を最適化するべきなのです。魔法を取り入れた戦闘技術、魔法戦技を作り上げる事が肝要です」
「………まほう、せんぎ」
「各人に最適化された魔法戦技。そして、最適化された魔法戦技の為に新たな魔法を開発。新たな魔法を取り入れた魔法戦技の最適化。魔法戦技は個々の努力において、無限の発展性と、無敵の戦闘力を習得者にもたらします」
ヤマトーさんが魔法のことをしゃべってる。
でも、アタシは………。
「僕は………強くなりたいです」
ん?
なんか、ヤマトーさんの声のトーンが変わった?
「究極の魔法戦技の開発。それが今の僕の夢です。そして、その達成は容易ならざる道。僕1人では困難なものだと思います。そこで2人には、僕を助けて欲しいんです」
「………お兄ちゃんを………たすけるの?」
「はい、シャーシャちゃん。シャーシャちゃんはマホショージョです。その類稀な力を僕に貸して下さい。これは僕にとって、大事な事なんです」
大事………。
「ヤマトーさん」
「ん、どうした、ミミカカ?」
「その魔法戦技を作ることは、ヤマトーさんにとって大事なことなんですか?」
「あぁ、そうだ。だから………」
「それを作ったら!………それを作ったら………ヤマトーさんは、アタシも………大事だって、いってくれますか?」
ヤマトーさんがなにかをいう前に、もっと聞いた。
「あ、あぁ………そうだな。俺の行く道を手助けしてくれるんだからな」
少しおどろいたみたいな顔をしたヤマトーさんが答えてくれる。
「わかりました。アタシ、魔法戦技を作ります」
ヤマトーさんに大事だっていってもらえる。
これはチャンスだ。
旅について来なくていいっていわれたり。
いつの間にか、グララにも負けてたり。
ヤマトーさんに見てもらえなくなってたアタシ。
アタシは魔法をもっとうまく使えるようになって、ヤマトーさんに大事にしてもらうんだ。
ぜったいに………ぜったいに!
よし、すごい魔法を使えるようになるぞ!
ふふーん!
実はもうすごい魔法は見つかってるし!
アタシの知ってる1番すごい魔法使い、ヤマトーさんが使える魔法だ!
空を飛ぶ魔法!
光で切る魔法!
ヤマトーさんの魔法だって、アタシならマネできる!
だって、アタシには精霊が見えるし!
空を飛ぶ魔法は、引っ張る精霊の力だ。
ふつう、この精霊は地面に向かって引っ張ってる。
でもヤマトーさんは、引っ張る方向を好きに変えて空を飛んでる。
ヤマトーさんがこういう使い方しなかったら、この精霊がいることに気づかなかったと思う。
だって、この精霊、めちゃくちゃ見つけにくいし。
ホントにヤマトーさんはなんでも知ってるなぁ。
光で切る魔法は、光の精霊を集めたらできる。
光の精霊をすごいせまいところに集めたら、そこに火の精霊が生まれる。
じゃあ最初っから火の精霊の力を借りたらいいのに。
ってやる前は思ったけど、火の精霊だけじゃ物は切れない。
ふつうに燃えちゃう。
光の精霊ですごいせまいところに、火の精霊を生むから切れるみたい。
よくこんな使い方思いつくなぁ、ヤマトーさん。
とりあえずこの2つをマネしてみたけど、やっぱりヤマトーさんがすごいのがよくわかった。
前に見た、水でなんでも切る魔法とかは、マネしてみたけど全然できなかった。
水が足りないのかと思って、いっぱい出してみたけど切れなかった。
あんないきおいよく水なんて出ないし。
姿が見えなくなる魔法は、どうなってるのかもよくわからない。
精霊の動きは変わってないのに、姿だけ見えなくなる。
なんの精霊の力を借りてるのかわかんなかったし、マネもできなかった。
うまくできないことは多かったけど、アタシは今、すごいうれしい。
だって、魔法戦技をつくるのは、アタシが1番うまくいってるし。
グララはどうでもいい。グララよりアタシのほうが魔法使うのうまいし。
問題はシャーシャのほうだ。
ヤマトーさんが大事にしてるシャーシャ。
アタシより強いシャーシャ。
精霊の力もアタシより強い。
そんなシャーシャが。
うまく空を飛べなかった。
なんとか地面の上をすべってるだけ。
アタシやヤマトーさんみたいに空を飛べてない。
村でケンカしたとき以外で、はじめてシャーシャに勝てた。
いろんなことができる、天才のシャーシャ。
でも、アタシは精霊を見れる。
だから、アタシの方が魔法をうまく使えるんだ。
これで。
これでヤマトーさんに認めてもらえる。
アタシが1番うまく魔法を使えるんだから。
アタシもヤマトーさんに大事って言ってもらうんだ。
17/3/11 投稿・誤字の修正