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日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男子の始動
79/154

シャーシャ、友達を作る

 わたしはシャーシャ・ホマレー。お兄ちゃんの妹。


 ナーナちゃんの剣がクルクル回ってじめんにささった。

 ナーナちゃんはおどろいた顔でふりむいて、それを見てた。


「………まだやるの?」

 ナーナちゃんはゆっくりこっちをむいて、両手をかるくあげた。

「いや、降参だよ。流石のボクでも無手で、シトーを持ったシャーシャちゃん、君と渡り合えるとは思えない」

 そして、ちからがぬけたみたいに首をふった。


「はぁー、参った参った。完敗だ。」

 ナーナちゃんが両手を上にあげながら、ためいきをはいてじぶんの剣をひろってた。

「………そう」

 それを見てから、わたしはじぶんのナイフをしまった。


 なんでじめんの剣をひろうのに、わざわざ両手をあげたんだろ?

「お手上げと言って、為す術がない事を表す仕草なんだよ。それに、諸手を挙げて賛成するとか、手放しで喜ぶとか、両手を上げるという行為そのものが無条件である事を示してるみたいだね」

 きいてみたらナーナちゃんが教えてくれた。

 ふーん、そうなんだ。


「しかしシャーシャちゃん?」

 ナーナちゃんはふしぎな顔をしてた。

「………なに?」

 わたしは首をくにってかたむけた。


「ボクはニホコクミだ」

「………うん」

 ニホコクミ。

 お兄ちゃんは自分のことをよくニホコクミっていってた。


 ことばの意味はよくわからなかった。

 でも、お兄ちゃんがニホコクミってことばをつかうときはきまってた。

「………あのね、お兄ちゃんはね、なんでね、なんでもしってるの?」

「ヤマトーさんって、ホントに強いですよねー」

「ヤマトー殿は何故にそんなに魔法を使いこなせるのだ!」


「それは僕がニホコクミだからですよ」

「ニホコクミたるもの、この程度できて当然だ」

「ニホコクミにとっては当然の帰結だ」


 お兄ちゃんは人からすごいっていわれたら、ニホコクミだからってこたえてた。

 人がしらないことをしってて、どんなことでもできる人。

 たぶんそういう意味だってわたしは思った。


 ナーナちゃんはすこしさびしそうな顔でつづきをしゃべってた。

「当然、自分の腕前にも、ちょっとした自信があった訳だ」

「………うん」

「けど、ボクの魔法も、剣も、全部君には通じなかった」


 わたしにまけたのがくやしかったみたい。

 ナーナちゃんもニホコクミだから、じぶんにじしんがあったのかな。

 でも、お兄ちゃんがマホショージョだっていった、わたしがまけるわけがなかった。


「魔法が通じなかったのは、まぁいいさ。純粋にバリアーの強度を、ボクの魔法が破れなかっただけの事だからね」

 それでもショックだけどって、ちょっとさびしそうに笑ってた。

「問題は、剣の方だ」

「………剣?剣がね、どうかしたの?」


「うん。ボクが使ってるのは、押しも押されぬ世界最強の剣、シトーなんだ」

「………うん」

「それをあんな歯牙にもかけず、事も無げにあしらわれるなんて」

 ナーナちゃんがはぁって息をはいて、うつむいた。


「しかも、よりによって、マキャーゲで奪い取るなんて。あんなの完敗を認めるしかない」

「………どうして?」

 たしかに、わたしのマキャーゲはうまくできた。

 けど、ぶきがなくなっても、まほうがあった。

 なんであきらめちゃったんだろ?


「シャーシャちゃん………マキャーゲはね、剣の先を相手の剣に巻きつけて、そのまま跳ね上げて武器を奪い、相手を無力化する為の技だよね?」

「………うん」

「戦いはね、相手を倒してしまうよりも、生け捕りにする方が難しいんだよ」

 あー。


「つまり、武器を奪われたボクは、シャーシャちゃんにとっては、倒そうと身構える程の相手じゃないって事になるんだ」

 ナーナちゃんはやっぱりショックだったみたい。

「シトーを持ったニホコクミであるボクを相手に、よくマキャーゲなんてしようと思ったね」

 あきれたみたいな顔だった。


「………だって」

「だって?」

 ナーナちゃんが、わたしの顔をジッと見てきた。


「………お兄ちゃんがいってたし」

「シャーシャちゃんのお兄ちゃんが?」

「………わたしからしたらね、ほとんどの人はね、みんなね、格下なんだって」

 お兄ちゃんがわたしにいったことを教えてあげたら、ナーナちゃんは固まっちゃった。


「ま、まぁ………たしかにそうだね。なんて傲慢な言葉なんだって思ったけど、実際ボクだって、何をしても何も通じなかったわけだしさ。シャーシャちゃんが手加減せずに戦えるような相手、そうそういる筈がないか」

 ナーナちゃんがこまったみたいな顔をしてわらってた。


「………ううん」

「ん、何?」

 首をふったわたしを見たナーナちゃんが聞いてきた。


「………お兄ちゃんには勝てない」

「シャーシャちゃんのお兄さんはそんなに強いのかな?」

 ナーナちゃんがふしぎな顔で笑った。

「え?もしかして………」

 でも、すぐに目をまんまるにしてかたまっちゃった。


 なんだろ?

「シャーシャちゃん?」

「………ん?」

「シャーシャちゃんの名前って………ホマレーだったよね?」

「………うん」


「もしかして………シャーシャちゃんのお兄ちゃんって、ヤマトー・カミュ・ホマレー?」

「………お兄ちゃんのね、ことね、知ってるの?」

「知らない筈がないじゃないか!ヤマトー・カミュ・ホマレーと言ったら、ニホコクミの中でも1番有名な、世界最強のヒーロだよ!?」

 お兄ちゃんのことを知ってるのかきいたら、あたりまえっておこられた。


「道理でシャーシャちゃんが滅茶苦茶に強い筈だよ。ボクの魔法が効かない出力のバリアー。最上級のシトー。無敵の剣術。お兄さんがあのヤマトー・カミュ・ホマレーさんなら当然だ」

 お兄ちゃん、有名な人だったみたい。




 わたしはナーナちゃんからお兄ちゃんのことを教えてもらった。


 ヤマトー・カミュ・ホマレー。

 神国ニホで生まれたニホコクミ。

 マホショージョと並び立つ、伝説の戦士であるヒーロの中でも、特に最強と目される人物。


 神様の宿った武器であるシトーを、幾本も所持する稀有な存在。

 女子供ですら大の大人を倒せる様になる、無敵の戦闘術の創始者。

 あらゆる魔法を使いこなす、非凡な才能の持ち主。


 戦いに使える魔法といえば、普通は炎しかない。

 水や風では相手を傷つける事はできないからだ。

 岩を作り出して頭上から落とせば別だが、今度は別の問題が生じる。


 ダメージを持たせようと、落下エネルギーを加えるには、より高い所から落下させる必要がある。

 しかし、そうすれば命中させるのが難しくなる。

 距離が開き、狙ったところに落とすのが難しくなる事。

 落下に要する時間が増え、その時間の間に対象がどう移動するか予想するのが難しくなる事。

 それらが主な理由で、戦いに使える魔法は炎だけだった。


 しかしヤマトーは違う。

 光で剣を作り、全てを切り裂く。

 魔法で空を飛ぶ。

 ()()()()()()()()()バリアーが使える。


「………すべての攻撃?」

「うん、そうだよ。ヤマトーさんにはあらゆる攻撃が効かないんだ」

 お兄ちゃんのバリアーは、火がきかなくなるやつだった。

 でも、ほかの攻撃なら当たる………。


「………」

ってちょっと思ったけど、ちょっと考えてみた。

 ナーナちゃんのしゃべったのがほんとうだったら?

 なんでお兄ちゃんはそのバリアーを使わないのか?


 答えはすぐにわかった。

 なんでもふせぐバリアーがあると、いっしょに旅してたわたしたちは?

 たぶんそのバリアーは使ったら、わたしたちがあぶなくなるんだ。

 わたしがいたから、お兄ちゃんは本気のバリアーを使わないんだ。

 火がきかないだけでもすごかったけど、あれでも本気じゃなかったみたい。


「シャーシャちゃんも納得してくれたみたいだし、話の続きをしようか」


 別格の強さを誇るヤマトーには様々な異名がある。


 最強の男。

 最強の戦士。

 最強のヒーロ。


「………最強ばっかり」

「とにかくでたらめに強いらしいからね、ヤマトーさんはさ」


 断罪の光。

 武器いらず。

 シトーの所有者。

 屍の山を築く者。

 無影無音の死神。

 無限の魔法使い。


「でも、他にもこんな名前で呼ばれたりもするんだよ?」

「………んー?シトーのね、所有者って、シトーをいっぱいね、持ってるからだよね?」

「うん。ニホコクミでもあんなにシトーを持ってる人はまずいないよ。シトーは持ち主を選ぶから、普通は何本も持ってても全部は使えない筈なんだけど、ヤマトーさんは何故か使えるみたい。最強たる所以………ってやつだね」


「………なんでね、シトーの所有者なのに、武器いらずなの?」

「あー、それか。ヤマトーさんは元々滅茶苦茶強いから、そんな名前がついたんだろうね。シトーなしでも強いし、シトーがあるからもっと強いって訳さ」

「………ふーん。こっちの名前は、お兄ちゃんが、なんで強いのか、わかる名前になってる」

「最強っていうのはわかりやすいけど、連呼されると味気ないもんね。ちょっと凝った名前が増えてくるよ」


 痛みを知らぬ者。

 無傷無敗の戦士。

 曲がらない膝。


「………痛みを知らぬ者?曲がらないひざ?お兄ちゃんはね、痛いの嫌いだしね、体はやわらかいよ?」

「あー、それはそのままの意味の言葉じゃないよ。無傷無敗の戦士が持ってる言葉の意味を考えるといいんだ」

「………けがしないから、痛みを知らぬ者?」

「そう。曲がらない膝も、攻撃を受けて膝をつく事がないって事だね」


「………お兄ちゃんってね、怪我した事がないの?」

「さぁ、どうだろ?でも、ヤマトーさんの強さだと、怪我する事がないってのも頷けるけどね。本気になったヤマトーさんのバリアーを、破れる攻撃なんてないだろうし」

「………シトーでも切れないの?」

「少なくとも、武器としてのシトーでは無理だと思うよ。ヤマトーさんのバリアーは、攻撃を全て防げるバリアーだしさ」


 敬虔なる信徒。

 正義の執行者。

 神々の代行者。


「………むずかしいことばが増えた」

「凝った言い回しだからお硬い言葉が多いね。ちょっと気恥ずかしくなってくるのは、ニホコクミ特有の疾患かな?」

「………しっかん?びょうきなの?」

「あぁ。ボク達ニホコクミは、麻疹みたいな病気に1度は罹患するんだ。まぁニホコクミの背負った業は置いておいて、この辺りの名前は、偉い神様に関係したものだね」


「………えらい神さまって、テノーヘカ様?」

「そう、テノーヘカ様。ニホコクミなら誰もが当然崇めている神様だ。ニホコクミを守護する神様だからね。ヤマトーさんは他にも、個人的に軍神を信奉してるみたいだ。あと………食べ物の神様も信奉してるらしい」

「………たべもの?」


「うん、食べ物。これはちょっと、シャーシャちゃんに説明するのは難しいんだけど。この神様は体が食べ物でできてるらしいんだ」

「………おいしいの?」

「おいしいのかな?神様を食べた事はないからわからないけど。とりあえずその神様は、人が悪い神様に騙されて、苦難を背負わされたりしない様にしてくれるらしいよ。知恵と冤罪回避を司る神様なんだってさ」


「………たべものなのに、すごいんだね。よくわからないけど」

「うん。ボクもシャーシャちゃんに説明できる気がしない」


 怒りの代弁者。

 真実の証明者。

 子供の守護者。


「………あぁ、お兄ちゃんのなまえだ、これ」

「うん、シャーシャちゃんも納得できる名前だったかな?ヤマトーさんは、力の弱い人が強い人に、虐げられる事を許せない人らしい。特に子供の事は自分の損得に関係なく守ろうとするんだよ」

「………あと、おかしいことは大きらいだよ」

「性格に関する事だと、ボクよりも身近にいる、シャーシャちゃんの方がよく知ってるみたいだね」


 清廉なる者。

 無欲の栄華。

 何も求めない者。


「………なにこれ?」

「さっきの名前と関係のある名前だね、これは。子供とか、立場の弱い人を助けるヤマトーさんは、見返りを求めないんだ。見返りを求めるなら大人とか、立場が強い人の方がいいに決まってるのに。でも、ヤマトーさんは子供達を助けるのさ」


「………あー、そっか」

「何かわかったのかい、シャーシャちゃん?」

「………お兄ちゃんは、なんでも持ってる。だからなにもいらないんだ」

「おぉ、急に哲学な事を言うんだね、………人生は谷があるから山があるって事か。全てが同じ高さだったら、起伏のない平地だから、悲しい事も嬉しい事もなくつまらない。………シャーシャちゃんは随分達観した価値観を持ってるんだね。ヤマトーさんの妹っぽいな、そういうところ。ヤマトーさんも考えるのが好きらしいし」




「ボクがヤマトーさんについて知ってるのは、まぁこんなところだね」

 わたしはそのあと、ナーナちゃんとふつうにあそんだ。


 きれいな色をしてて、まんまるで、かわいいカミフーセ。

 今まで1人でしかあそべなくてつまらなかった。

 1人でカミフーセをとばしても、どこにとんでいって、どこに落ちるのかわかったから。

 せっかくお兄ちゃんがくれたのに。


 でも今はナーナちゃんがいた。

 ナーナちゃんはカミフーセをどこにとばすのかわからなかった。

 わたしは逆に、ナーナちゃんがとりにくいばしょをかんがえてとばした。

 お兄ちゃんからもらったカミフーセは、すごくおもしろかった。


 つぎの日もまた会って、こんどはアートリした。

 今まで1人でヨダーバーシゴを作ってたりしてただけだったけど。

 アートリは2人でもできた。

 ナーナちゃんにアートリのしかたをいっぱい教えてもらった。


 ………ともだちができてよかった。

 お兄ちゃんにいわれたことができた。

 マホショージョにちゃんとなれる。

 それに………わたしも楽しかった。


 だから毎日いっしょにあそんでたあの日。

「じゃあ、シャーシャちゃん。暫くお別れだ」

 ナーナちゃんにそういわれたとき。


「………なんで?」

 わたしはいやだった。

 せっかくともだちになったのに。


「そんな悲しい顔をしないでほしいな。友達の悲しい顔は見たくないものさ。それに暫くって言ったじゃないか。ずっとお別れな訳じゃないよ」

「………なんで、おわかれなの?わたしのこときらいなの?」

 わたしはナーナちゃんがしんじられなかった。

 あんなに楽しくあそんでたのに。


「シャーシャちゃんの事は大好きだよ。友達だからね」

 ナーナちゃんもわたしのことを好きなのに。

「………なら!」

「でも、お別れさ」

 なのにお別れしなくちゃいけないの?


「ニホコクミであるボクが、あんなあしらわれ方をしたからね。シャーシャちゃんを見返す為にも、ちょっと修行をしなきゃいけなくなったんだ。ボクがシャーシャちゃんに追いついたと思ったら、また会いに来るよ」

「………強くなりたいの?強くなりたいなら!」

 お兄ちゃんにきたえてもらったら!

 わたしが言う前に、ナーナちゃんが首をふった。


「それは駄目だよ、シャーシャちゃん。シャーシャちゃんと一緒に、シャーシャちゃんと修行したらどうなる?ボクが強くなった分だけ、シャーシャちゃんも強くなってしまって、ずっと追いつけないからね。ボクはボクで修行するよ」

「………どうしてもダメなの?」


「ダメなの。ボクはシャーシャちゃんの友達であると同時に、導き手であり、1番のライバルでありたいと思う。だから少し待っててほしい。………なに、ボクだってニホコクミだ。直ぐに強くなって会いに行くよ。約束だ。ボクが約束を守れなかったら、針を千本飲まされても構わないよ」

「………ぜったい会いにきてくれる?」

「うん、絶対。っていうかシャーシャちゃん」

「………なに?」

「ボクと再会するのはともかく、その時にシャーシャちゃんがボクより弱かったら失望するよ?ボクはこれから猛特訓するんだから。ボクのことばっかり考えてないで、ちゃんと修行をしてね。立派なマホショージョになれるように」


「………わかった。約束する」

 わたしがそういったらナーナちゃんはわらって、森の奥の方へ歩いていった。

17/3/4 投稿・誤字の修正

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