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日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男子の始動
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シャーシャ、違いを思い知る

 わたしはシャーシャ・ホマレー。お兄ちゃんの妹。


「………ニホコクミなの?」

 あの子―――ナーナちゃんはわたしたちと同じニホコクミらしい。

 ナーナちゃんのかおは、お兄ちゃんそっくりなわらいかたをしてた。

 お兄ちゃんには、いくつかのわらいかたがあった。


 1つめは、すごくやさしいわらいかた。

 お兄ちゃんがこのわらいかたをするときは、わたしがおしえてもらったことをうまくできたとき。

 いっしょにぎゅーってだきしめたり、あたまをなでてくれたりしてくれた。


 村にいたときは、くさいとか、きたないっていわれてたたかれてた。

 だけどお兄ちゃんはわたしのことをだきしめてくれた。

 あたまをやさしくなでてくれた。

 いっしょにいてもいやなかおをしなかった。


 よくできましたねっていってもらって。

 かみのけをきれいにとかしてもらって。

 やさしい顔でわらってもらって。

 わたしはお兄ちゃんのこのわらいかたが好きだった。

 でも、お兄ちゃんがやさしくわらってくれるのはこのときだけだ。


 お兄ちゃんのわらいかたは、わかりにくいのがおおかった。

 まるでバカにしたみたいに「ふん」ってわらったりするのがおおかった。

 お兄ちゃんのことがわかるようになるまで、あのわらいかたはすこしこわかった。

 けど、今はもうだいじょうぶ。

 だって、あれ………ふつうのわらいかただったから。


 お兄ちゃんはいつも、つまらなさそうな顔をしてた。

 まゆがちょっとだけギュってしてて。

 目をほそくしてて。

 口をとじてて。


 お兄ちゃんはいつも怒ってた。

 わらったときも、まるで怒ってるみたいなわらいかたをした。

 でもこれがお兄ちゃんのふつう。

 べつにいつもより怒ってたり、バカにしてたりもしなかった。ふつう。

 ただわかりにくかっただけ。


 あとお兄ちゃんはときどき、さびしそうな顔でわらってた。

 まるで今すぐになきだしそうなのに。

 でもお兄ちゃんはわらってた。

 ちょっとふしぎだったけど、やさしい顔だった。。


 すごくふしぎだったのは、お兄ちゃんのさいごのわらいかただった。


「いひははははは!えひゃひゃひゃひゃ!」

「ぎひひひひひひぃっ!ひーっはっはっはっはっはっ!」

 はじめてみたときは、すごくびっくりした。

 お兄ちゃんがいきなり、おおきなこえでわらいだしたから。

 ………なにもたのしいことなんかなかったのに。


 お兄ちゃんはときどき、こうやってすごくわらった。

 なんでわらってたのかはよくわからなかった。

 このわらいかたをするときは、だいたいなにか考えてたりするときだった。


 すごくしずかだったのに、すごくおおきなこえでわらう。

 このわらいかたをするときは、いつもわるそうなかおをしてた。

 ちょっとこわかったけど、わたしにはやさしくしてくれるから、きにしないことにした。

 ヘンなわらいかたが多いお兄ちゃん。

 でも、ほめてくれるときのわらいかたのほかにも、わかりやすいわらいかたがあった。


 とくいそうな。

 たのしそうな。

 いじがわるそうな。

 こどもっぽい、ふつうのわらいかた。


「ふふーん、ひっかりましたね、シャーシャちゃん」

 いたずらがせいこうしたら、たのしそうにわらってた。

「えぇ、僕はニホコクミですからね」

 ニホコクミのじまんをするときも、いっしょのかおだった。

 いつもつまらなさそうなお兄ちゃんが、ふつうにわらった顔。


「あぁ、そうだよ。この世で最も強く、最も尊い、選ばれた存在。シャーシャと同じニホコクミだ」

 ナーナちゃんの顔は、ニホコクミをじまんするときのお兄ちゃんそっくりだった。

「さぁ、シャーシャちゃん。友達になる前に………やらなきゃいけない事があるんだよね」

 ナーナちゃんが、わたしを見ながら足をかるくひらいて、しせいをひくくした。

 それをみたわたしは、すぐにうしろにさがって、ナイフをかまえた。


「ちゃんと友達に相応しいかどうか………試させてもらうよ」

 ナーナちゃんもこしにぶらさげてた、ピカピカの剣をぬいた。

 ナーナちゃんをやっつけなきゃ。

 マホショージョのわたしはまけないんだから。




「まずは小手調べと行こうかな」

 ナーナちゃんが剣の先をわたしにむけてきた。

「閃け、火燕」

 剣の先から火でできた、小さな鳥をとばしてきた!


 すぐに横へとんでよけた。

 ………なのに、火の鳥はよけたわたしにまっすぐとんできた!

 よけられない!

「自動追尾性火炎弾、火燕からは逃げられないのさ!」

 お兄ちゃんのナイフで、火の鳥があたるのをふせごうとした!


「おや?」

 だけど、火の鳥はわたしにはあたらなかった。

「避けられてないのはともかく、防がれてもいないのか?」

 さっきまでわらってたナーナちゃんが、よくわからないものをみる目でみてた。


「試すか………これだけの火燕ならどうするのかな?」

 たくさんの火の鳥が、ナーナちゃんの周りを、グルグルまわりながらとんでた。

 10羽より多かった。30羽?50羽?

 わたしはそれをみて、森が火事になったらたいへんだなって思った。


「飲み込め、火燕!」

 さっきとちがって、こんどはよけることもできなかった。

 火の鳥が、いっせいにぜんぶとんできた。

 目の前がまっ赤になった。


「やったか!?」

 火のむこうから、ナーナちゃんの声がきこえた。

「………やってない」

「だよねぇ。様式美様式美」


 お兄ちゃんのまほうがあったから。

 わたしには火はきかなかった。

「あれだけの火燕を防げるなんて、随分な性能のバリアーを持ってるんだねぇ、シャーシャちゃん」

 ナーナちゃんがうれしそうにいった。

「さぁ、火は防げても、こっちはどうかな?」

 そのままこんどは剣をふりあげてはしってきた!


「………ッ!」

 すごいちからで剣をふってきたナーナちゃんを、からだごとよけた!

 からだのバランスがくずれたところをナイフで………!

 突こうとしたけどよけられた。

 バランスはくずしたんじゃなくて、わざとだった。


 たおれそうになって、片手をじめんにつけようとしてるようにみえた。

 でもそのままのいきおいで、からだを手でささえて、クルッて回った。

 お兄ちゃんが変身の魔法をつかったときにやったロッダーツだ。


「一撃じゃ測れないなら………切り結ぶ!」

 からだをこっちにむけた、ナーナちゃんがまた剣をかまえた。

 こんどは走ってくるんじゃなくて、ゆっくり歩いてきた。

 わたしとわたしのナイフの動きをじっと見てた。


 たぶん………ナーナちゃんの剣はまずい。

 お兄ちゃんが持ってるのと似たピカピカの剣。

 あれがお兄ちゃんのといっしょだったら………。


「ふーん?ボクの剣が気になるのかな?」

 近づいてくるとちゅうで、ナーナちゃんがとまった。

「ご明察。シャーシャちゃんが心配してるとおり、ボクの剣も()()()だ」

 ! やっぱり!

 お兄ちゃんがいってたシトーだ!




「いいですか、シャーシャちゃん?」

 村にいたとき、マホショージョのことといっしょに、お兄ちゃんが教えてくれた。

「シャーシャちゃんの持ってるナイフは只のナイフではありません」

「………?」


「それはシトーです」

「………シトー?」

「そうです。類稀なる武勇を誇った、軍神の功績に肖った武器で、只の刀剣類とは一線を画した存在です」

 わたしはわきからつるしてあったナイフをみた。


「僕の武器の名前はジツー。世界で最も勇敢に戦った、軍神の名を冠したシトーです」

「………ジツー?」

 お兄ちゃんのこしにつるしてあった、ピカピカのけんをみた。


「えぇ。ジツーは、邪悪なアメリカ軍から、平和を守る為に戦った、偉大な軍神の一柱です」

 アメリカ!お兄ちゃんのだいきらいなアメリカだ!

 アメリカとたたかった神さまなら、たぶんお兄ちゃんはだいすきだ。


「ジツーは大変勇敢な神様です。その身が朽ち果てる時まで、卑劣なアメリカ軍を攻撃する事をやめませんでした。その雄々しい姿は、蒙昧かつ愚鈍で傲慢なアメリカ軍といえど、恐怖を覚えた程だと伝えられています」

 きっとその神さまは、お兄ちゃんみたいにアメリカのことがだいきらいだったんだろうな。


「ジツーの凄いところは、その勇猛さだけに留まりません。決して真似出来ない、偉大な献身にもあります」

「………ケンシン?」

「献身というのは、誰かの為に自分の身を犠牲にする事です」

 むずかしいことばをおしえてもらった。


「平和を愛する正義の軍団を率いたジツーは、罪のない人々を殺し、平和を脅かす、邪悪なアメリカの大軍団から味方を守り抜いたんです。危険な戦いの最前線に立ち、味方に降り注ぐ敵の矢を、その身で受け止めてみせたんです。ジツーの身には、2600本もの矢が突き刺さったといいます」

 ………え?


「………2600本?」

「2600本です。敵は平和を乱し、罪のない人々を殺す事だけを目的とした、悪逆非道のアメリカ軍ですからね。尋常ではない量の矢を、その身に受ける事となりました。しかしジツーはその献身で、味方には1つとして傷を負わせませんでした」

 ………お兄ちゃんの国は、神さまもすごかった。

 2600本も矢がささったら、もうからだがみえないと思った。


「しかもジツーは、その状態でも敵に一矢報いんとし、7本の強力な弓矢を連続で放って反撃する事で、見事に悪魔のアメリカ軍を仕留めています。これが軍神ジツーの逸話です。」

 2600本の矢がささっても、まだ敵をたおしてたみたい。


「僕のシトーも、ジツーの名を冠する以上、只の完成された刀剣という訳ではありません。偉大な軍神の特性を引き継いでいます」

「………その剣もね、神さまといっしょなの?」

「そうです。僕のジツーは、特化した攻撃能力が特徴です。ありとあらゆる物を両断し尽くすシトーです。また、あまりの威力の強さに、敵対した存在は、ジツーから視線を切る事ができなくなります。更に僕自身にも、神がかり的な身体能力の強化が施されます」


 いってることがうそじゃないのは、わたしもみてたから知ってた。

 お兄ちゃんがこの剣をふったら、なんでもかんでも切れた。

 どんな大きなものでも。固いものでも。遠くにあるものでも。

 お兄ちゃんが切ろうと思ったのなら、本当になんでも切れた。

 きれいなピカピカの剣は、ほんとうにすごい神さまの剣だった。

 じゃあ………。


「………わたしのもね、すごいの?」

 わたしはじぶんのナイフをみた。

「えぇ、シャーシャちゃんのナイフは、神国ニホが誇る軍神の中でも、別格の活躍をした神様の力を宿しています。最強の軍神の1柱です」

 お兄ちゃんが、自信まんまんの顔でわらってた。


「………どんな神さまなの?」

 わたしのもらったナイフが、どんな神さまのナイフなのかきいてみた。

 すぐおしえてもらえるのかと思ったけど、お兄ちゃんはちょっと考えてた。


「あまり多くは語らない事にします」

「………なんで?」

「シャーシャちゃんは、既にシトーから持ち主として選ばれています。恐らくシャーシャちゃんは、一所懸命に頑張っていればそれだけで、その比類なき恩恵の全てを享受できる様になるでしょう」


「………ナイフがね、かってにね、なにかね、してくれるの?」

 ふしぎだったからきいてみた。

「えぇ、その通りです。そのナイフは、シャーシャちゃんが幸福である為のナイフです。シャーシャちゃんはそのナイフを信じてあげて下さい。そうすればそのナイフは、絶対にシャーシャちゃんに応えてくれますから」

 よくわからなかったけどこのナイフは、お兄ちゃんの剣みたいにすごいみたいだった。


「………あのね、あのね、お兄ちゃん?」

「ん?なんでしょう?」

「………このナイフはね、持ってるだけでね、守ってくれるの?」

「えぇ、そうですよ」

 お兄ちゃんはしつもんしたわたしを、ふしぎそうな顔でみてた。


「………じゃあね、このナイフね?」

「はい?」

「………わるい人………アメリカみたいなね、人にね、とられたらね………どうなるの?」


 そんなにすごい力があるナイフだったら。

 もしだれかに―――お兄ちゃんがいうアメリカみたいな―――わるものにとられたら。

 すごくたいへんだと思った。


 でも。

 お兄ちゃんがめずらしく、ふつうにわらってた。

「大丈夫ですよ、シャーシャちゃん」

 お兄ちゃんはわたしが、なにをしんぱいしてるのかわかってくれたみたいだった。


「神国ニホの軍神に、利敵行為に走る背信者は居ません。特にそのナイフの軍神には、逸話がありますから」

「………いつわ?」

「その軍神は無敵の武勇を誇りました。ですが、敵の軍門に降った後は、その武勇を発揮する事はありませんでした。誇り高い軍神は、自ずから認めた主の元でしか、その力を発揮しないんです。特に敵対者に対して力を与える事は絶対にありえません」

 お兄ちゃんがわたしの目をみていった。


「だからシャーシャちゃん。持っているだけで力を貸してくれるのは確かですが、誰にでも力が与えられる訳ではありません。世界で我々、ニホコクミだけが扱う事を許された、最強の切り札です。」

 わたしたちだけが使える、すごいナイフ!

 そんなすごいナイフだったんだ、これ!

 わたしはびっくりして、お兄ちゃんからもらったナイフをみてた。




 ニホコクミだけが使えるぶき。

 シトー。

 ナーナちゃんもニホコクミだから、やっぱりシトーをもってた。


「君の持ってるシトーと比べられたら、流石に見劣りするけどね。それでもそこらの数打ちとは訳が違うんだ」

 ナーナちゃんが剣をかまえた!

「このボクとシトー!簡単に止められると思わない方がいいよ!」

 きた!


「しっ!」

「………!」

 ナーナちゃんが突いてきた!


 わたしのナイフより長い!

 しかもシトーだ!

 シトーはすごい力もあるけど、ぶきとしてもすごく強い!

 ぜったいに当たったらだめだ!


「はっ!せっ!やっ!たっ!」

 ナーナちゃんが剣をぶんぶんふってくる!

 サガケ!

 ギャッサ!

 突き!

 ハードー!


「どうしたんだ、シャーシャちゃん!防ぐので精一杯なのかな!」

「………」

 これがシトー?

 町で戦った兵士の人たちよりずっと強かった。


 でも、今までたんれんで戦ってたのが、お兄ちゃんだったからかな?

 ナーナちゃんのこうげきはすごくおそかった。

 すごく雑なこうげきだった。

 ………これなら!


 こうげきを出そうとししたナーナちゃんの剣!

 その剣がうごく前に!

「………やっ!」

「なっ!?」


 できた!

 ナーナちゃんの剣は、クルクル回りながらとんでった!

「まさか………このボクを相手にマキャーゲを使ったのか!?」

 ナーナちゃんも知ってたみたいだった。

 お兄ちゃんが教えてくれた技だ。


「シャーシャちゃん、いいですか?今から教える技はマキャーゲといいます」

「………マキャーゲ?」

 お兄ちゃんはむずかしいことばをよく使った。

 マキャーゲってなんだろ?


「そう、マキャーゲ。シャーシャちゃん、普段の鍛錬みたいに、ナイフを軽く握って構えて下さい」

「………ん」

「ありがとうございます。じゃあ、マキャーゲを見せますね」


 そういったら、お兄ちゃんがすごい速さで、わたしのナイフをたたきおとした。

「………あ」

「これがマキャーゲです。………シャーシャちゃんのナイフの握り方は逆手なので、どちらかというとマッサーゲとでもいうべきものになりましたが。まぁ、やる事は単純で、相手が軽く握ってる武器を、素早く叩き落とす技です」


「………かるく?」

「そう、軽くです。もちろん、しっかり握られた武器を落とすのは容易ではありませんからね。落とせるのは軽く握られた武器だけです。やろうと思ったら、全力で振り被って、思いっ切りふっ飛ばしてやったら落とせるとは思いますが………それはもうマキャーゲではありません。ただのフルスイングです」


 へんな技だなって思った。

 かるくにぎった武器しか落とせないなんて。

 そんなのほんとうにたたかいで使えるのかな?

「今、本当に使えるのかな、と思いませんでしたか?」

 お兄ちゃんがわたしの考えたことを当ててびっくりした。


「シャーシャちゃん、僕がマキャーゲを狙ってると思って、ナイフをしっかり握ってみて下さい」

「………ん」

 ぎゅっ。


「じゃあシャーシャちゃん、その力の入れ方で、僕に攻撃を当てられますか?」

「………え?」

 こんなに力を入れたまま?

 ぶんぶん。

 わたしは首をふった。


「そうです。武器というのは相手に当てる瞬間以外は、軽く握るのが正しい持ち方です。マキャーゲは、相手が戦い慣れていれば慣れている程、狙える場面が増える技です。逆に相手が慣れてない場合、武器をしっかり握っている事が考えられますので狙いにくいです。何にせよ相手をよく見て使いましょう」

 わたしはちゃんと、ナーナちゃんを見てマキャーゲを成功させた。

17/2/25 投稿・誤字の修正

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