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日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男子の始動
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シャーシャ、魔法少女への道を歩む

 わたしはシャーシャ・ホマレー、お兄ちゃんの妹。


 ミミカカさんの村は、いやなところだった。

 1人でいたら、ずっとだれかが見てた。

 でもわたしのことを見てたのに、わたしに何もしてこなかった。

 まるでわたしがいないみたいにした。

 すごくいやだった。


 とくにあの日。

 お兄ちゃんはどうしたら、わたしにともだちができるか、ちゃんと考えてくれてた。

 あたらしいあそびを考えてくれた。


 なのに。

 やっぱり村の人たちは、わたしがいないみたいにした。

 お兄ちゃんはわたしの代わりに怒ってくれた。

 でも………。


「………お兄ちゃん」

「………どうした」

「………あのね………殺さないで」

 お兄ちゃんにおねがいした。


「こいつらは何も悪くないシャーシャを、一方的に虐めておいて開き直る様な連中だ」

「悲しくないのか?」

「苦しくないのか?」

「悔しくないのか?」

 ほんとうはあたしだって、村の人たちなんてだいきらいだった。


「それでも殺すなというのか?」

 ………。

「………殺さないで、お兄ちゃん」

 だって………殺したら()()()()()()()()()


 ともだちが作れなかったら、マホショージョになれない!

 マホショージョになれなかったら………お兄ちゃんといっしょにいられない!

 それはいやだ!

 お兄ちゃんがいなくなったら、わたしのしあわせがなくなる!

 わたしはぜったいに、マホショージョにならなくちゃだめなんだ!




「マホショージョの戦いは、苛烈を極めます」

 わたしがマホショージョだってわかってから、お兄ちゃんはマホショージョのいろんな話をしてくれた。

「仰ぎ見る青い空を塗り潰す、幾万から成る攻撃軍。見渡す限りの広がる大地を揺るがす、山と見紛う様な巨体。マホショージョが戦う地獄の軍団は、1人1人が並の戦士では歯が立たない程の実力者でありながら、それでいて徒党を組んで世界を脅かします」


 空が見えなくなるぐらい、いっぱいのてき………。

 山と同じぐらい、大きなてき………。

 お兄ちゃんがいうてきがどんなのか、がんばってあたまの中でかんがえてみた。


「最強、無敵、常勝にして必勝のマホショージョ。しかし、そんなマホショージョでも、苦戦は免れません」

「………マホショージョは無敵じゃないの?負けないんじゃないの?」

「結論から言いましょう。最終的には絶対に勝ちます。しかし敗北を喫する事は稀にならあります」

「………勝つのに負けるの?」

 それはヘン。


「では、勝利………ひいては戦いの次元というものについて説明しましょう」

 お兄ちゃんが三角の絵をかいて、その中に2本の横線をひいた。

「まずはセジュッ的次元」

 1ばん下にむずかしい字をかいた。


「セジュッ的とは、1つ1つの戦いの事です」

「………1つ1つ?」

「戦いというものには、区切る単位、見方があるのです」

「………見方?」


「そう、見方です。例えばシャーシャちゃんが僕と戦うとします」

「………うん」

「この戦いにおける、シャーシャちゃんの勝利条件はなんですか?」

 勝利条件?


「………お兄ちゃんをやっつけること?」

「そうですね。それでお互いの攻防の中、シャーシャちゃんが僕に攻撃を当てたとします」

「………うん」

「これはセジュッ的勝利です。目標を達成する為に必要な1つ1つの過程、とでも思って下さい」


「さて、攻撃を繰り返して、遂には僕を倒したとします。これでセリャ的勝利です」

 三角形の上にむずかしい字。

「………セリャ的勝利」

 三角形のまんなかが、なんにもかいてないのを見た。


「………このまんなかは?」

「おぉ、いいところに気付きましたね。そこにはセリャ的勝利を導く為に、セジュッ次元の行動を組み合わせたものが入ります。何だかわかりますか?」

 んー、むずかしい問題が出た。


 まず、さっきのお兄ちゃんの話から、じゅんばんでかんがえてみた。

 さいしょのはたんれんの話。

 ホマレー流護身術で、お兄ちゃんとたたかった。


 だけどお兄ちゃんをやっつけるのは、すごくむずかしかった。

 めちゃくちゃ強かったから。


 人だったらだれでも、いたいのはやだとおもう。

 たたかれるのはやだ。

 いじめられるのはやだ。


 とくに、自分より強い人はこわい。

 たとえば、わたしだったら、おとなはこわい。

 ごはんをたべさせてもらえなかったし、たたかれたから。


 なんでも消しちゃうまほう。

 なんにもきかないまほう。

 すごくはやくうごけるまほう。

 だからマホショージョ、ズィーベンレーベンはこわかった。


 この人をおこらせたら、じぶんはどうなるんだろう。

 村の人の顔を見てても、みんなおびえたかおをしてた。


 でもお兄ちゃんはちがった。

 まず、ぜんぜん、マホショージョのほうを見てなかった。

 いつもよりうれしそうにわらってたぐらい。

 わたしがびっくりして見てたら、こんどはへんな顔した。

 あくびをがまんしたんだとおもう。


 お兄ちゃんは、あんなに強いマホショージョがこわくないんだ………。

 ふつう、人は自分より強い人はこわい。

 でも、ぜんぜんマホショージョの方を見てなかったってことは?

 きゅうにまほうをつかわれても、お兄ちゃんにはきかないんだ。

 お兄ちゃんは、あのマホショージョより強いからこわくないんだ。


 そんなお兄ちゃんをやっつけるには?

 お兄ちゃんはからだが大きい。

 からだが大きいお兄ちゃんには、ふつうじゃナイフがとどかない。

 こうげきがあたるようにしないといけない。


「………くふうする」

 くふうはだいじだった。


「シャーシャちゃん後ろ!」

 うしろをふりむいてもなにもなくって、そのあいだにこうげきされたり。

「!」

 きゅうにびっくりしたかおで、わたしのよこを見たから、そっちを見たらまたこうげきされたり。


 お兄ちゃんはけっこう、こういういたずらみたいなことをするのが好きだ。

 わたしがひっかかると、いつもうれしそうにしてた。

 

「正解ですシャーシャちゃん。工夫・権謀術数等、色んな言い方はありますが、この場合、最も適切なのは作戦という呼称でしょう」

 お兄ちゃんにやられたときのことを思い出してたら、三角形のまんなかにまたむずかしい字がふえた。


「セジュッ的勝利を積み重ねて、作戦を成功させ、セリャ的勝利を導く訳です。逆にセリャ的勝利をもたらす為に、作戦を立案し、セジュッ的勝利に向かって行動するともいえますね」

 できあがった三角形をゆびさしながら、お兄ちゃんが説明してくれた。

「じゃあちょっと、規模を変えてみましょう」

「………きぼ?」


「そうです。今度はシャーシャちゃんが100人の敵と戦うとします」

「………100人」

「勝利条件は100人の敵が、シャーシャちゃんと戦おうと思わなくなる事です」

 戦おうと思わなくなる………多分、ここが大事なとこだ。


「シャーシャちゃんは最早、常人如きが及ぶ領域にないので、人1人を打ち倒す事等、造作もない事です。瞬く間に1人の敵を打倒しました」

「………うん」

 お兄ちゃんがきたえてくれたから、わたしはつよかった。


「さて。僕1人を倒したら勝利条件を達成できた、先程の条件とは違います。1人倒しただけでは大勢に影響はありません」

 100人のおとなの人をやっつけるより、お兄ちゃんをやっつける方がむずかしいけどね。

「シャーシャちゃんは、倒した1人には勝ちましたね?」

「………うん」


「じゃあシャーシャちゃん。シャーシャちゃんは勝利条件を満たしましたか?」

「………んー?」

 勝利条件はなんだった?

「………みたしてない」


「なんでそう思いましたか?」

「………あのね、敵はね、まだあきらめてないってね、思ったの」

「そうですね。まだ99人敵が残ってるので、敵の戦闘意欲は萎えていません」

 お兄ちゃんが笑ってほめてくれた。

 あたまをなでてくれた。


「1人を倒してセジュッ的勝利を収めた訳ですが、セジュッ的勝利は、全体の勝利条件達成とは程遠い事なのです」

 なるほど。

「じゃあここで問題です」

「………うん」

「何人倒せば、シャーシャちゃんの勝利条件は達成できますか?」


 んー?

 たんじゅんにかんがえたら、100人をやっつけたらいい。

 でも、そうじゃない。

 1人をやっつけてもあきらめなかったけど、10人なら?

 20人なら?30人なら?


「正解です」

「………え?」

 なんで考えてただけで正解なのがわかったの?

 わたしがびっくりして、お兄ちゃんの顔を見たら、笑って説明してくれた。


「直ぐに100人と答えずに、悩んだ時点で問題の本質を捉えている事がわかるので正解です」

 お兄ちゃんがどういうことを聞きたいのか、わかってたらよかったみたい。

「それに最初の質問の答えで出てきたのが、諦めるかどうかという観点だった時点で、もう確認は十分でしょう」

 お兄ちゃんがまたあたまをなでてくれた。


「そう、全員を倒す必要はありません。例えば100人の内、99人が倒された状態で、残る1人が戦意を保っていられるかについては、かなり疑わしいところがあります」

「………うん」

 わたしもそう思った。「まぁ、自暴自棄になって、玉砕しようとする事ならあるかもしれませんが、それはおいておいて」っていってたけど。


「じゃあ98人が倒されて、残る2人なら変わるのでしょうか?」

 ぶんぶん。

「そうですね、大して変わりません。具体的な数を提示するのは難しいので、ここは突き詰めませんが、大勢に影響がないのがセジュッ的勝利。大勢に影響が出るのが作戦上の勝利。最終的な目標がセリャ的勝利」

 セジュッ的勝利、作戦上の勝利、セリャ的勝利………。


「さて、ここでマホショージョの話に戻りましょう。マホショージョは時として、敗北を喫する事もあります」

「………うん」

「しかし常勝にして必勝であるのがマホショージョです。………シャーシャちゃん?この事はおかしいと、矛盾があると思いますか?」

 矛盾!町に行ったときに教えてもらったやつ!


 マホショージョは負けることもある。

 でもマホショージョはぜったいに勝つ?

 んー………。


「………おかしくない」

「それは何故でしょう?」

「………マホショージョはね、セジュッ的に負けても、セリャ的にはぜったいに勝つから」

 お兄ちゃんがわらった。


「流石ですね、シャーシャちゃん。その通りです。マホショージョは最終的には絶対に勝ちます。なので常勝であっても、無敗ではありません。それに無敗である事、失敗をしない事は、実はあまり良い事ではありません」

 え?

「………しっぱいしないのが、よくないの?」


「えぇ、よくありません。1回も失敗しない人と、何回も失敗した人。シャーシャちゃんはどっちが偉いと思いますか?」

「………1回もしっぱいしない人」

 わたしはふつうにこたえたけど、お兄ちゃんはわらってた。

 まるでいたずらがせいこうしたときみたいに。


「まぁ普通はそう考えますよね。でも、なんで失敗するのか、失敗するっていうのはどういう事かを考えたら意味が変わりますよ」

「………どういうこと?」

「シャーシャちゃん、なんで人は失敗するんでしょう?」


 しっぱいしっぱい………。

 なんでしっぱいするって、それはむずかしいからだ。

 むずかしくないことだったらしっぱいしない。

 あ………。


「………むずかしいから?」

 お兄ちゃんがわらった。

「そうです。難しい事に挑戦するから失敗するんです。失敗しない人は、言い換えれば挑戦しない人です。1回も挑戦しない人と、何回も挑戦する人。どちらが大変かは自明の理でしょう。また、失敗をしない人は、簡単な事しかしない人とも言えます」


 なるほどなぁ。

 だからしっぱいしないのがよくなかったのか。

「シャーシャちゃん。沢山の事に挑戦して下さい。失敗を恐れないで下さい。失敗したら、何度でも再挑戦すれば良いんです。諦めない事が肝要なのです」


 お兄ちゃんがあたまをなでてくれて、わたしはわらった。

 村にいたころみたいに、たたかれたりどなられたりしない。

 お兄ちゃんはいつも、わたしがやることをおうえんしてくれた。

 わたしがうなずくのをみた、お兄ちゃんがまんぞくしたみたいにわらってた。




 お兄ちゃんがいったとおりにしたい。

 マホショージョになりたい。

 ともだちをつくりたい。


 でも、うまくいかなかった。

 村の人たちとはなかよくなれなかった。

 ともだちができないとマホショージョにはなれないって、お兄ちゃんがいってたのに。

 しっぱいするのはいいけど、しっぱいしないのはだめだ。

 お兄ちゃんがいったとおりにしないと。


 どうしたらともだちってつくれるんだろ?

 村の人たちじゃだめだ。

 わたしのともだちにはなれない。

 ぜんぜんともだちじゃないから。


 どうしたらいいかわからない。

 けど、村の中にいたくなかったから、森にいった。

 森の中なら、道から外れたら、村の人とはあんまり会わなかった。


 だれもいない森。

 ずんずんずんずんすすんでいった。ずんずん。

 村からはなれたいって思ってただけで、行きたいところがあったわけじゃない。

 ただずーっと歩いてただけ。


 だから気付いたら森のおくのほうにいってたみたい。

 人はどこにもいない。

 せのたかい木がいっぱいあってちょっとくらい。

 そんな森にあの子はいた。


「こんにちわ」

「………」

 せはわたしとおなじぐらい。

 赤くてながい、サラサラのかみ。


 あたまのうえにある、ふさふさの耳。

 おしりからにょっきりでてたしっぽ。

 はだのいろはわたしよりくろいけど、ミミカカさんよりはあかるい。

 くろいっていうか………きいろい?

 まるで、お兄ちゃんみたいなはだのいろ。


 でもはだのいろより、もっとお兄ちゃんにそっくりなところがあった。

 ふつうの人のきてる服とちがう、くろくてきれいな服。

 わたしたちがはいてるくつとはちがう、つるつるしたふしぎなくつ。

 お兄ちゃんがもってるみたいな、ピカピカのけん。


「ん?君は挨拶もできないのかな?」

 わたしがびっくりしてたら、あの子がきいてきた。

「………こんにちわ」

「大変結構。挨拶は全ての基本だからね」

 あの子はわたしとおなじぐらいの年にみえたのに、お兄ちゃんみたいなはなしかただった。


「まぁ、挨拶をしない方がよいと思う理由があるなら、しなくてもいいと思うけどね。選ぶのは君だ」

 こういう、すぐにいったことと、ぎゃくのことをいうとこもにてた。

「んー?君は泣いてるの?」

「………」

 わたしは泣いてなんかなかった。くびをふった。


「でも、寂しそうに見えるよ?」

「………」

「んー、黙りか………あ、そうだ」

 あの子がちょっと大きな声を出した。


「ねぇ、君。ボクと友達になってよ」

 わたしはびっくりした。

「………ともだち?」

「そう、友達。共に遊ぶ人間であり、理解者であり、協力者であり、頼りになる相手であり、乗り越えるべき目標であり………そんな多種多様かつ、複雑怪奇で面妖極まりない存在、友達。それになろうじゃないか、ボクと君で」


「………わたしと?」

「この場に君以外の誰が居る?………あ、サーちゃんが居たか。でもサーちゃんは目に見えないから、勘定には含めない様にしよう。だから君」

 サーちゃんがわかるんだ、あの子。


「あまり君と他人行儀に呼ぶのも味気ないな。名前は何というのだろう?是非教えて欲しいな」

 わたしにともだちができる?

 マホショージョになれる?

 お兄ちゃんにすてられない?


「………シャーシャ。シャーシャ・ホマレー」

「シャーシャ・ホマレー………ホマレーって名前って事は君、ニホコクミなのかな?」

「………!」


「そんなに驚かないで欲しい。ボクがニホコクミを知ってるのは当然なんだ」

 あの子は、いたずらがうまくいったときの、お兄ちゃんみたいな顔でわらった。

「ボクの名はナーナ。君と同じニホコクミだ」

17/02/18 投稿・誤字の修正

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