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日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男子の始動
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日本男子、持て余す

 俺は今、悩んでいた。


 何に?

 目の前に転がってる永久機関サマにだよ。

 突然こんなもん手にしてもなぁ………性能を持て余す。いいセンス………とは言い難い。

 まぁ気を取り直して。


 神か悪魔か!

 無限にエネルギーを生み!

 無限にエネルギーを奪う!


 これこそが第1種永久機関!

 人類の叡智が行き着く先!

 その名も「グララ」という!


 ………。

 どうだろう?

 煽るだけ煽ってみたが?

 予想外だろうか?

 予想通りだろうか?


 念の為に断言しておこう。

 同姓同名の別人でも、同音異義の別の物体でもない。

 魔法の下手糞な魔法使い。

 グララさんその人である。


 ………俺も初めて、その本質を理解した時、大層驚いたぞ?

 いつも通りのジョギングで、息も絶え絶えなグララさん。

 浜辺に打ち上げられた、マンボウの如きこの威容。

 こう見えても、人類の夢の結実と言っていい存在だ。


 


 何故グララが第1種永久機関だと認定したのか?

 一応それについて説明しておこうか。

 尤も、あまり多く語るところもないのだが。

 只その存在を適切に定義しただけだ。


 剣を振るう人間を、剣士と呼ぶ様に。

 魔法を使う人間を、魔法使いと呼ぶ様に。

 一人称が名前の女に、碌な奴がいない様に。

 いきなり「私霊感あって」とか言い出す女を、地雷と呼ぶ様に。

 ある特徴を持ったグララは、第1種永久機関と呼ばれるべきだ。


 どうでもいいが自称・霊感ある女の地雷率の高さはいっそ信用が置けると言っていい。

 これがまだ、心霊話をしてて話に乗っかたんならわかるが、大体の場合は聞いてもいないのに宣言してくる。

 しかも実体験とか伴ってないので底が浅く、話をさせても死ぬ程つまらない。

 挙句、深く突っ込むと逆ギレしたりする。

 これが自称・霊感ある女という奴だ。


 要するに、典型的な構ってちゃんだ。

 自分が注目されていなければ気が済まない為に虚言を打ち上げる。

 虚言であるために深く追求されると、追及を避ける為に逆上・被害者面する。

 注目を集める手段として、虚言を吐く事からわかる通り、真っ当な魅力を持っていない。

 どれだけ外見が好みであっても、手出しは避けた方が無難だ。


 ついでに一人称が私でない女も、基本的に手出ししない方が懸命だ。

 子供の一人称を見ればわかるが、人の一人称は自分の名前で始まる。

 親からそう呼ばれるから、自分という存在を人から呼ばれた名前で定義する。

 しかし健全に発達が進むにつれ、自我を確立し、自らを「私」であると定義できる様になる。

 つまり、私という一人称は、一人前である事を示す。


 逆に言えば、一人称が私ではないという事は未熟さを表す。

 例えば自分を名前で呼ぶ女は、自我の発達が不十分な事が予想される。

 概ね幼児性が強く、我儘で身勝手。

 自らの人生をハードモードにしたいという、非生産的な人にはお勧めのチョイスだ。


 その他、特殊な一人称の女も大体まずい。

 自分を僕とか俺と呼ぶ女は典型だ。

 そんな奴いないって?

 そう思える人生を歩んだ奴は幸せだ。

 世の中いるところには、そういう痛い奴が本当に居るのだ。


 痛い奴と言ったとおり、そういう一人称を使ってる女は、その………アーティスティックというか、エキセントリックというか、クレイジーというか………。

 まぁ大体が自分を特別視している事が見て取れる。

 というか一人称が変な女は、大体安易に何かの影響を受けている事が多い様だ。

 だからか、何か厄介なものを拗らせている事が多い。


 要するにカラフルなキノコが、毒キノコなのと同じ原理だ。

 こんな危険度ビンビンの、警戒色が塗り込められた毒に引っかからない様に。

 食べれば胸焼けでは済まないからな。


 ………ん?

 何の話をしてるんだ俺は?

 これが閑話休題というやつだな。

 気を取り直して………まず永久機関について振り返ってみよう。


 永久機関とは、まぁ概ね文字通りの存在だ。

 永久―――つまり無限に。

 エネルギーを生む機関―――仕掛け・装置の事である。

 特に第1種永久機関の場合は、無からエネルギーを生成するものの事を指す。


 一見すると、グララとは縁も所縁もなさそうに見える。

 だが、第1種永久機関特有の性質を知っていると、見え方が急激に変わってくる。


 第1種永久機関は、説明した通り無限にエネルギーを生み出す。

 しかしそれは、正常に作動させた時の効果だ。

 もし第1種永久機関を、逆の手順で作動させた場合どうなるか?

 その場合、効果も逆となり、無限にエネルギーを奪う存在と化すのだ。


 ここでグララの特性が関わってくる。

 グララは魔法が使えない。

 かろうじてかすかな火花等を出す事は可能だが、それが精一杯。

 精霊を見る事ができるミミカカちゃん曰く、グララの周りからは精霊がいなくなるらしい。

 それはつまり―――有から無への、一方通行の変化だ。


 熱力学第2法則。

 エネルギーは消えてなくなる訳ではない。

 使用後のエネルギーは別の形に変わっただけなのだ。

 有から別の有に転じるという法則。

 グララはそれを打ち破った。


 うまく魔法を使えなかったグララは、きっとこう思ったのだろう。

()()()()()()()()()()()()()!」

と。

 グララは代々魔法使いである大きな家に生まれたらしい!

 その血筋が成した技なのか、いきなりとんでもない魔法を発現させている!

 そう!エネルギーそのものである、()()()()()()()()()()()()という魔法を!


 これができるという事は、認識が反転すればどうなる?

 無限に精霊を生む事になる。

 だから彼女を第1種永久機関と認定した訳だ。


 まぁ尤も、色々と穴のある話ではある。

 まず精霊がなんなのか、本質的なところで分かってない。

 魔法という仕事(この場合、職業という意味ではなく、物理学としての意味)に変換されるもの。

 つまりエネルギーだと俺は認識しているが、それが正しいという保証がない。


 使えばなくなるのか。

 或いは休眠期のような状態に入るのか。

 俺の目に見えない以上、その状態すら認識できない。


 それにそもそもミミカカちゃんの言葉を、全面的に信用した上での仮定だ。

 ミミカカちゃんの主観的観測結果である「グララの周りから精霊が居なくなる」。

 この観測結果を正しく完全な形で共有する方法が俺にはない。

 その為に「精霊が居なくなる」というのが移動なのか、消失なのかは判断がつかない。


 グララが第1種永久機関であるというのは、

・精霊はエネルギーである

・グララは精霊を消失させている

という前提において成り立つ仮定だ。


 仮定が成立したなら、どうするか?

 実験・実証・考察である。

 俺の旅は魔法を突き詰める為の旅でもある。




 さてさてさて。

 俺は当初、自分の科学知識を魔法として、()()(無論シャーシャちゃんとミミカカちゃん)に伝授する事を考えていた。


・光線

・水蒸気爆発

・温度制御

・重力制御

・治癒力の強化

・全力の強制開放

・集中力の極地「ゾーン」への強制到達


 即ち、

・高威力単体攻撃(長射程高速弾)

・高威力範囲攻撃

・絶対魔法防御

・飛行能力

・回復魔法

・身体能力強化

・主観的時間の引き伸ばし


 ………これだけあれば十分だと考えていた。

 だが俺は結局、()()に科学知識を全く教えてない。

 理由は科学知識に依る魔法は、即効性は高いが、将来性には限度がある為だ。

 しかしオリジナルの概念を創造する、()()には無限の可能性がある。


 依って魔法は、余計な入れ知恵をせずに、各自の自主性と積極性に任せるのが基本スタンス。

 但し、発展する方向性そのものには影響を与えている。


 例えば可愛いミミカカちゃん。

 尤も、彼女に影響を与えているのは不本意なのだが。

 彼女は精霊を見る事ができる。

 そのせいか、俺のものを模倣した魔法を作り上げている様だ。

 おそらく、劣化した俺が出来上がるだけで、あまり独自性・発展性が見られない。


 しかし本命はシャーシャちゃんだ!

 自発的に・積極的に・意図的に、奇跡を発現させる計画―――魔法少女覚醒計画の旗印!

 そんな彼女には「武器を召喚する魔法」を習得する様に指示している!

 一番簡単なのは、重力か磁力を制御して、離れたところにある武器を運ぶ方法だろう。

 しかし科学知識を持たない彼女ならどうやって実現するか?


 俺の予想する結果は2つ。

 まず超能力・念動力と呼ばれる類の能力の発現。

 任意に物体を操作する力を得る事。


 或いはもう1つ。

 こちらが本命と睨んでいる方法だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 シャーシャちゃんが発現させるならこちらだろう。


 何故なら、シャーシャちゃんには見せている。

 七生魔法少女ズィーベンレーベンが、何もないところから天下七杖筆頭・桜花十文字を召喚する所を。

 尤もズィーベンレーベンは、俺が作った虚像なので、桜花十文字は疎か、本人すら実体ではないのだが。

 それでも一度、見本として見せた以上………彼女はその模倣を目指す筈だ。


 そして実際に物体を召喚する、奇跡を発現させる事ができるなら?

 シャーシャちゃんは、魔法の未来を切り開く事になる。

 この成否こそが魔法全体の試金石となり、今後の位置付けを決定する訳だ。




 さてさてさてさて。

 さては南京玉すだれ。

 新魔法の着想が得られず気分転換。

 想像上の玉すだれを動かす為、手を怪しくウネウネしてみる。


 俺が確かに持っているアドバンテージ。

 それが薄氷を踏むが如し、危ういものであるという恐れがある以上。

 さらなる魔法開発は俺にとって急務。

 ここで魔法の才能が及ばない事と関連した、しかし更に切実な悩みが浮き彫りとなる。


 魔法の開発は、芳しくない結果となっている。

 思い出せる範囲で、最近の失敗例を語ろう。


 まずは電撃鞭の魔法だ。

 雷の精霊を活用する方法はないか、という点から着想した魔法だ。

 雷の使用が困難な理由は唯一つ。

 発現させた後の制御の難しさにある。

 それを解決させようとしたのが電撃鞭の魔法だ。


 俺が日本から持ってきた、ホームセンターで買ったワイヤー。

 この先端に磁力の精霊を付与。同じく目標に強制的に磁力の精霊を付与。

 こうして磁力の力で引き合わせる事で、鋼線を相手に接触させる。

 そして握ったワイヤーを通して、高圧電流を流し込む事で目標を攻撃する、という魔法だ。


 しかし、構想段階でこの魔法の開発は見送られた。

 理由は単純。ワイヤーのもう一方の先端を握り込んだ俺も、高圧電流の餌食になる為だ。

 手を離せばいいだろって?

 握り込んでるよりはマシだが、それでも安全性は確保しきれていないだろう。

 よって却下。


 続いて誘導投げナイフの魔法。

 バトルモノが好きだったら、一度は傾倒するであろう、誘導能力を持った、遠距離攻撃を実現しようとした魔法だ。

 本当はホーミングするレーザーを両手の指先から撃ち出したかったのだが、原理が一切不明で再現できない。デンドンデンドンデンドンデンドン。

 ………投げナイフで妥協だ。


 発想は単純。

 ナイフの刀身に、強力な磁力を付与。

 そして目標にも、強力な磁力を付与。

 後はナイフを投げれば、お互いに引き合って自動的に命中する、という寸法だ。


 ワクワクした俺は早速、重力制御した数本のナイフを周囲に浮かべる。

 そして目標と、全てのナイフに磁力を付与する!

 さぁ、ゆけ!

 大仰な動作で振り被った指先を、目標の木に突き刺す!

 同時にナイフは、磁性体目掛けて直進する!


 ………しかしこれも失敗だ。

 ナイフは最も近くの磁性体、つまり他のナイフと一塊になったからだ。

 しかも合体した挙句、俺が腰から下げたマチェットに吸い寄せられ吸着した。

 実になんとも間抜けな絵面だ。

 複数本射出しようとした結果がこれ。


 じゃあ1本だけ投げれば成功するのか?答えはこちらも失敗。

 何故失敗するのかと思ったのなら、適当な大きさに切ったマグネットシートを、冷蔵庫に投げつけてみるといい。

 例え縦回転させて投げようと、ビターンと冷蔵庫に引っ付くだろう。

 同じくナイフも目標に対して、刃の腹の部分で吸着する。

 攻撃能力は著しく低いという他ない。


 と、まぁ、攻撃魔法の開発はこの調子。

 じゃあそれ以外の魔法は?

 難航している、では生ぬるい。


 俺には重力制御がある。

 自由―――という程自由ではないが、ある程度は自在に空を飛べる。

 特に重力のかかるベクトルを、変換した際の加速率は凄まじい。

 10秒間の自由落下で、時速約353キロにまで到達する。

 しかし、この自由落下も、どんな時でも頼りになる訳ではない。


 何せ、1秒後の時速は、僅か35キロ。

 コンマ5秒間での移動距離は、1.2メートル。

 そう、瞬間的な回避能力・瞬発性という点では見劣りするのだ。

 構造物の倒壊に巻き込まれる等、数メートル単位の移動距離では回避仕切れない、という危惧がある。


 一応、多少なら改善可能ではあるのだ。

 自らに掛ける重力を倍化すれば、比例して移動距離も大きくなる。

 2倍で2.4メートル。

 3倍で3.6メートル。


 しかし、これ以上の強化はできない。

 もしこれ以上に、重力を掛けるとどうなるか?

 急激なG負荷によって、回避行動を取った俺が、途端に失神しかねない。

 この効果を攻撃として転用したのが、ミミカカちゃんを失神に追い込んだ虚血循環停止ウツォメグータマキターレだからなぁ。


 高い瞬発力を持った移動魔法。

 それを実現するには、物理的な問題がつきまとう。

 いくら速度を強化する方法があっても、生身で耐える方法はないのだ。

 この為に回避能力は、既に頭打ちの状態だ。


 そして防御魔法。

 こちらにも問題が残る。


 周囲の気温を強制的に調整し、冷熱による攻撃を封じ。

 耳に入る音波を強制的に調整し、鼓膜を保護し。

 目に届く光量を強制的に調整し、網膜を保護し。

 一定速度で飛来した物体を強制的に燃焼、重力ベクトルを反転制御する。

 無害化(サニタイジング)を更に発展させた防御魔法。


 ………ぶっちゃけ、穴がある。

 飛来物に対する防御能力だ。

 木の矢が飛んできた場合は、一瞬で燃焼させ、燃えカスを重力が吹き飛ばす。

 しかし、石が投擲された場合、防御能力はほぼ皆無である。

 普通の熱で消失させる事はできないし、余程の強い重力をかけなければ、運動エネルギーがほぼ低減しないのだ。


 それにもう1つ問題がある。

 対象の選別だ。

 何を以ってして、危険な飛来物と認定するのか、設定するのが難しい。


 今のところ、

・一定以上の距離から

・直撃コースをとる

・高速で迫る

ものは、全て撃墜対象となっている。


 この設定をしくじるとどうなるか?

 俺の側で動こうとした奴。

 町中で、俺の脇をすれ違おうとした誰か。

 そいつらはいきなり火達磨になって死ぬ。


 特に一定以上の距離から、と限定した理由。

 旅の同行者を撃墜対象としない為だ。

 彼女達の安全確保は必須。

 そしてそれ故に、万全の防御態勢は望めなくなる訳だ。


 あちらが立てばこちらが立たず。

 ちなみにこの諺、まだ続きがあるのをご存知だろうか?

 双方立てれば身が立たず、と続く。

 どこかシニカルな印象がして好きだ。

 それはそれとして。


 皮膚の硬度を上げる等、直接防御力を上げる方法は思い浮かばない。

 間接的な防御能力を上げる、劇的な方法も思い浮かばない。

 よくある障壁の様な、斥力を発生させるのも、フィクションの様にはうまくいかない。


 防御魔法唯一の成果は、霊探の開発ぐらいだ。

 電波探信儀―――つまりレーダーを、魔法で実現しようとしたのが精霊探信儀、略して霊探だ。

 これで周囲の変化をいち早く察知する。

 特に就寝中の警戒能力を向上させる事を期待した。


 尚、レーダーを元としたが、ソナーや電波の様に、反響を受け取る訳ではない。。

 風の精霊から直接、大気の流れの変化を受け取り、周囲の動体を検知する。

 そしてその結果を視界とリンクさせたり、網膜上に擬似的に俯瞰視点で表示したり、警告音を発生させたり。

 

 最初は感知の精度が高すぎて、周囲で草花が風にそよいだだけでも反応した。

 結果、視界が動体反応で埋まり、警告音が鳴りっぱなし。

 まぁ~、眩しいわ、うるさいわ。

 すぐさま魔法を解除して、再設定に苦心する嵌めになった。


 しかしお陰で実用的な魔法となった。

 風以外に、秒速1メートル以上で動くものを検知対象に指定。

 特にその進路が自分に向かうものを、警告音の対象としている。

 そして、自分の周囲を検知範囲から外す事。

 そうしないと、歩く自分や、元から周囲に居た人間を検知する為だ。




 遅々として進まない魔法開発。

 防御能力と回復能力の発展は、ひとまず停滞している。

 しかし………こうやって見てみるとアレだな。

 随分と、索敵・攻撃能力に特化しているな、俺。

17/2/11 投稿・文章の修正

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