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日本男子、異世界に立つ  作者: 忠柚木烈
日本男子の始動
74/154

日本男子、手の内を見せる

 俺は今、悩んでいた。


 何に?

 魔法についてだ。

 この異世界で、最も俺が関心を寄せるものであると言える。


 魔法。

 言葉にすればあまりに呆気ないが、もたらされる恩恵はあまりに大きく、容易には形容しがたいものがある。

 なにせ本人の熟練次第だが、熱力学第二法則すら乗り越えられる。

 かの有名な、マクスウェルの悪魔を実現させる事すら可能だ。


 マクスウェルの悪魔について一応説明しておこう。

 冷たい空気と熱い空気を永遠に選り分け続ける、何の対価も要求しない存在。それがマクスウェルの悪魔だ。

 ちなみに無論実在する存在ではなく、もしもそういう存在がいればどうなるか、という思考実験である。

 物理学者のマクスウェルさんが提唱した、実在しない存在だからマクスウェルの悪魔。


 ちなみにマクスウェルの悪魔が存在すると、一体どうなるのかご存知だろうか?

 そもそも冷熱の選り分けには、どんな意味があるのかについて見てみよう。

 実はエネルギーの生成を意味する。

 何故冷熱の選り分けがエネルギーの生成を意味するのか?

 原理が単純な蒸気機関の仕組みについて見る事で説明しよう。


 蒸気機関はまずボイラーの水を熱して蒸気を生む。

 水は熱して気化させる事で、その体積を約1700倍に増やす。

 さて、密閉したシリンダーの中で、この体積の爆発を起こさせるとどうなるか?

 体積の爆発の圧力で、シリンダーを押し出す事ができる。


 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 ■水|シリンダー

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 熱熱熱


 水を熱して気化させる↓


 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 ■蒸気 → → → → → → → |シリンダー

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 熱熱熱


 まぁ、こんな感じだ。

 しかしこれだけでは蒸気の逃げ場がなく、シリンダーを1回動かしただけで終わってしまう。

 そこで蒸気の逃げ場を、シリンダーが退いたところに用意してみよう。


                ↑ ↑ ↑

               ←  蒸  →

               ←  気  →

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■↑■■■■■■

 ■蒸気 → → → → → → → |シリンダー

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 熱熱熱


 穴から蒸気を逃がす↓


 ■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■

 ■                 |シリンダー

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 熱熱熱


 シリンダーを動かし、蒸気を排出する事ができた。

 では、シリンダー内に水を注入する機構があれば?

 シリンダーがバネ等で元の位置に戻る機構を備えていたら?

 もうここまでくれば説明はいらないかと思う。


 水が気化する事でシリンダーを動かし、水蒸気を排出した後元に戻る。

 つまりピストン運動を起こす様になる。

 このシリンダーのピストン運動と、何かの機構を組み合わせる事で、動力機関として利用できる様になる訳だ。

 例えば蒸気機関車というのは、このピストン運動と、車輪を連動させる事で列車として運用したものの事だ。


 もうおわかりの通り、動力を生むものの正体は温度差だ。

 水が温度変化で気化する現象を利用して動力は生まれる。

 熱し放しでは駄目で、冷たいままでも駄目。

 シリンダー内の水の温度が変化する事で動力となるのだ。


 さて、随分と丁寧に説明させてもらったが、その甲斐はあっただろうか?

 何故冷熱の選り分けが、エネルギーの生成と結びつくのか、きちんとご理解いただけただろうか?

 ここまで理解できればマクスウェルの悪魔が何を生み出すか、分かってもらえた筈だ。


 消費なしに永遠に冷熱を選り分けるマクスウェルの悪魔という存在。

 それはつまり、無限のエネルギーの生成を意味する。

 人類の夢、永久機関の完成だ。


 魔法はそれを実現し得る。

 火と氷という、分子運動を象徴する2つの精霊の存在は、マクスウェルの悪魔そのものだといえる。

 この事実1つとっても、魔法がいかに桁外れなのかわかろうというものだ。

 既存の物理法則の類を容易く塗り替える力が、精霊と、それを行使する魔法にはある。


 全く、異世界というのは度し難い!

 魔法をただ火を上げて、相手を焼き殺す為にばかり使うなんて!

 世界中の物理学者の垂涎の的とも言える、この力の価値を理解していない!

 損失・浪費・怠惰とでも呼ぶべき、恐るべき愚行とすら言える!


 魔法の力は、物理法則を塗り替えるんだぞ?

 お前達はわかっていないのか、野蛮な異世界人達?

 それはつまり、()()()()()()()()()()()()

 それも()()()()()()()()()()()


 ………まぁかく言う俺も、村で療養し、ゆっくり考えるまで、全く思い至らなかったが。

 ただ使えるからと、漠然と使っていただけだ。

 温度を制御する空調制御(エアコ)の魔法も。

 重力を制御する真・自由落下(クーチュフーユ)の魔法も。

 そこに現実としてある物理法則を自在に塗り替える超越した力だというのに。


 これは正に………世界を変える力だ!

 …………。

「ひっひひひひひ!ひはははははは!あひゃひゃひゃひゃ!」


 あぁー楽しい!

 素面で「世界を変える力だ!」とか!

 馬鹿じゃねぇの?

 しっかりしろよ二十歳の新社会人サマよぉ!


 ………あぁ、失礼。

 笑い方がフィクションの悪役みたいなのは見逃してほしい。

 笑うのが苦手で、どうしても芝居がかった笑い方になってしまうのだ。

 どうすれば普通に笑えるのかねぇ?

 笑い方のレパートリーは、残すところ高笑いぐらいしかない。


 まぁ笑い方はどうでもよろしい。

 ちなみにこの悪辣な笑い方を見咎める人間は、俺と、()()()()()()()()|以外にいない。

 俺は夢中になって考え事をしていると、独り言が漏れやすいのを自覚している。

 である以上は、声が人に届く前に無音(ローア)の魔法で、あらかじめ消してある。

 備えあれば嬉しいな、というやつだ。




 シャーシャちゃんの魔法少女覚醒計画。

 グララへの超必殺技………じゃないな、魔法伝授。

 俺が村でしていたのはそれだけではない。

 自分自身の戦力の拡張も当然行っていた。


 魔法は発想次第で、無限の可能性を生む。

 思考停止は機会損失。

 資本主義の使徒として怠惰は許されない。


 まぁ難しい理由付けは特に必要としない。

 趣味と実益を兼ねた行為だ。

 考え事をするのは楽しい。

 得意かどうかは別として、考えている時間が好きだ。

 しかも考えた事が自分の利になるというのは、いかにもやり甲斐があって大変よろしい。


 さて、俺が目指すのは何か?

 それは究極の魔法の作成だ。

 自らの知識を総動員し、研ぎ澄まされた究極の魔法へと結実させる。


 俺の魔法の命名が、今まで何故、似非外人の発する日本語の様なものだったのか?

 それはまさしく俺の使った魔法がまだまだ「似非」であるからだ。

 名前は本質を表していなければならない。

 似非とは本物と似ているが違う事。まやかしである事。

 完成形に行き着いていない、今までの魔法は所詮は似非なのだ。


 俺はこれ以上ないと思える魔法に、正しい日本語の名前をつけると決めていた。

 それが最初の切り札「波紋の型」だ。

 距離を問わず、あらゆる物を一刀両断してみせる剣戟を繰り出す魔法。

 正に究極だろう。


 魔法の原理を説明しよう。

 結構だと思われていても勝手に説明させてもらう。

 例え口下手な俺といえど、自らの功績を語る時は饒舌にならざるをえないのだ。


 まず事前に、ガチンコ漁について説明しよう。

 別名・石打漁法。

 漁と名の付く通り、漁法の1つだ。

 但し、水産資源保護法にて禁止されている。

 何故禁止されているかというと、川の魚の生態系を完全に破壊するからだ。


 漁の方法は至極簡単。

 川底目掛けて重たい石を思いっきりぶつけるだけ。石打漁法の別名通りだ。

 そうすれば川に生息していた魚が気絶・死亡し、プカプカ浮いてくるので取り放題となる。

 なんでこんな事が起こるのか?

 流動体は媒介となるからだ。


 媒介とは別々のもの同士に何かを伝えるもの、仲立ちの事を指す。

 川底で起こった衝撃は、水という媒介を経て、川に生息する全てに伝播するのだ。

 因みに似た漁法に爆弾漁法というものもある。

 名前の通り、水中で爆発を起こす事で発生した衝撃で、同じく水中の生物を気絶・死亡させる。

 こちらも水産資源保護法で原則禁止されている。


 何故これらの漁法は、水産資源保護法にて禁止されたのか?

 理由は単純明快。

 水産資源に与える影響が余りに深刻過ぎるからだ。


 衝撃が伝わる範囲にいた生物は、全て影響を受けるのだ。

 そしてそれは成魚に限らない。

 これから成魚となる稚魚は疎か、まだ孵化していない卵ですら影響を受ける。

 成魚ですら死亡させ得る衝撃、無防備な稚魚や卵では耐える事はできない。


 特に魚類の卵というのは岩場や、水中に生えた植物の影に隠す様に産み付けるものだ。

 ガチンコ療法は石と川底を衝突させる事で衝撃を起こす。

 水の中を泳いでいる成魚や稚魚より、卵の方に大きなダメージを与えるのだ。

 これから生まれる、正しく命の卵を全滅させる。

 川の生き物の生態系を完全に狂わせる所業だ。


 さて、ガチンコ療法の理屈と、恐ろしさを分かってもらえただろうか?

 ならばもう多くを語る必要はない。

 波紋の型も殆ど同じ理屈で実現される。

 即ち、斬撃の衝撃を、石を打ち付けて発生する衝撃波に見立て、水の代わりに空気を媒介として、目標に届ける魔法だ。

 違いとしては水中で発生した衝撃が拡散するのに比べ、波紋の型の衝撃は指向性を持っている点だろうか?


 理屈は単純だが、この魔法の恐ろしさの本質は、剣戟の届く距離が伸びる等という代物ではない!

 切断しようとした目標が、刃の立つ代物であれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()になる、その一点に尽きる!

 そもそも何故物を両断する事が難しいのか、原因について考えてみよう。

 一重に、剣戟の衝撃が途中で衰える事に原因がある。


 例え話だが………剣戟の衝撃力を数値に換算したら50になるとしよう。

 50の衝撃力は、目標とぶつかる事で緩和され、衰退する。

 例えば目標に1センチ切り込む毎に衝撃力を10ずつ奪うとしよう。


 50の衝撃力は1センチ切り込む事で、10低減して40の衝撃力に衰退する。

 40の衝撃力は1センチ切り込む事で、10低減して30の衝撃力に衰退する。

 やがて30が20に衰退し、20が10に衰退し、5センチ切り込んだ時点で衝撃力が0となる。


 では、波紋の型は何が違うのか?

 剣戟そのものは何かと激突し、抵抗を受けて威力を減退させるという事がない点だ。

 最初の剣戟の衝撃力が、一切衰える事がない。

 即ち波紋の型は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 切断する衝撃力が衰える事がない以上、剣戟の衝撃が常に最大威力で伝わる。


 50の衝撃力は1センチ切り込む事で、10低減して40の衝撃力に衰退する。

 しかし、衰退した衝撃力ではなく、再び50の衝撃力で1センチ切り込む事になる。

 どれほど切り込もうと、常に最大の衝撃力を目標に伝える事ができる。


 巨木を切り倒す木こりを想像してほしい。

 アニメやマンガの剣士の様に、一刀で木を切り倒す姿を思い浮かべたのなら、想像力が欠如していると言えよう。

 何度も同じところに振り被った斧を叩き込み、少しずつ切り倒していくものだ。

 波紋の方は巨木を切り倒す動作の内、斧を振り被るという動作を省略して、何度も最高威力の衝撃を叩き込み続ける。

 こう言えばイメージが伝わるだろうか?


 しかしこの魔法、それだけでは本来、全てを両断するという特性は持たない。

 とても固い物質を両断する時を想像してほしい。

 先程の例えと同じく、剣戟の衝撃力が50だった時。

 目標に傷を付けるのに、50を超える衝撃力が必要だったパターンだ。

 そうなるといくら最高の衝撃力を重ね続けても傷一つつかない。ダメージ0だ。


 しかし、術者が俺であるという点で、この心配は杞憂となる。

 日本製の刀剣―――つまり()()を所持しているからだ。

 刃物の聖地、関市で研ぎ澄まされた、諸外国のメーカーとは一線を画した切断力を誇る日本製の刀剣。

 単純な切断力が段違いであり、とにかく切れ味に信用が置ける。


 そう。

 ()()()()()()という点が大変重要だ。

 魔法のイメージをするのに、曖昧模糊なものは利用できないが、信用できるものは逆だ。

 利用できるどころか、魔法の発現に於いて、大きなプラスをもたらす。

 俺は一点の曇りもなく「神刀・()()ならば、あらゆるものを両断できる」とイメージする事ができる。


 俺の知識と、日本の刀剣技術。

 それらが合わさった事で究極の斬撃、波紋の型は生まれる。

 波紋の型と名付けたのは、水面に生じた波紋は、表面に浮かんだ物体や、他の波紋に影響されずに広がる特性を持つ事から名付けた。

 防御不能・特大の威力・無限の射程。究極の剣戟と言えよう。


 ちなみに斬撃に関する魔法は、既に光剣(サーナギオン)があるが、明確な相違点が存在する。

 まず1つは異世界の人間に一目で、脅威を示す事ができるかどうかという点だ。

 光剣(サーナギオン)は魔法の媒介にマグライトを使用する。

 恐らく、マグライトを向けられて動きを止める人間はいない。抑止力として機能しないという問題がある。


 そして2つ目が最も重要な相違点だ。

 光剣(サーナギオン)は、肝心なところで()()()()()()

 光線を伸ばして目標に接触したところを焦点とし、そこを火の精霊で焼き切るという、というプロセスを踏んで効果を発現する。

 得てして複雑なものは例外に弱く、破綻を来たしやすい。


 例えば日中の砂漠地帯等、明るい環境では光線を視認する事が困難だ。

 或いは単純に、俺の視界が妨げられている状況では、光剣(サーナギオン)は只の照明器具となる。

 まず焦点を作るというプロセスが、簡単に崩れる。

 また、俺がやっている通り、熱を制御された空間では、最終工程の「焼き切る」が出来ず、完全に無力だ。

 まぁこれらも対抗手段を講じれる範囲だったり、言っても仕方ないものレベルではあるが。


 本当に問題となる点は、直感的でない事。この点に尽きると言っていい。

 段階を踏んで魔法を発現させる以上、俺の存在に依存しすぎるのだ。

 俺が適切な段階を踏んで、適切に行使する事によって初めて効果を発揮する。


 しかし、もし一片のミスも許されない様な、緊張状態に陥れば?

 何らか精神的なショックを受けた、動揺状態に陥れば?

 ミスを起こせば一気に破綻してしまう。

 その脆弱性こそが一番の弱点だ。


 その点言って、波紋の型は難しいところがない。

 剣を振れば切れるというだけだ。

 多少の動揺を受けようが、常に十全の威力を発揮できる。

 たらればが介在する要素が極端に少なく、圧倒的に安定しているのだ。


 武器の評価というのは、ただ威力があれば良いというものではない。

 超凄い威力があったとして、10回に9回は大爆発を起こす様な兵器をどうやって運用できるものか。

 常に信頼性・安定した運用が可能かどうかが問われる。


 波紋の型は紹介したとおり、あらゆる点で高次元な究極の魔法足るのだ。




 最強の剣戟である「波紋の型」。

 これだけに飽き足らず、俺は他にも切り札足り得る魔法を持っている。

 広域を空間制圧する魔法である「北上」。

 光剣(サーナギオン)を発展させた「七色念力光線」。

 どれか1つとっても十分な威力の魔法を3つも行使できる。


 しかし俺は魔法について、悩みを抱えている。

 それも、改善の目処が立たない悩みだ。

 俺は最強の魔法使いであるという自負を持っている。

 恐らくこの異世界の人間等、1人で蹴散らして見せられる。


 ………しかし!俺は!

 ()()()()()()()()()()()()()

17/1/28 投稿

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